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三上さんはメモをとる  作者: 歩く魚
第一章 三上さんとメモ帳

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29/70

ショッピングモールに行きませんか?

前後編です


「ショッピングモール?」

「はい。ショッピングモールです」


 講義が終わりかけ、騒がしくなりつつある教場で、三上はそんなことを言い出した。


「全然いいけど、行きたいところでもあるのか?」

「あ、絶対に行きたいってほどじゃないんですけど、そろそろ夏服とか買いに行きたいなーって思って。それと、もし良かったら黒木くんに選ぶの手伝って欲しいんです」

「選ぶのを!?」


 三上の着る服を俺が選ぶなんて、そんな光栄なことがあって良いのだろうか。

 服を選ぶセンスの圧倒的欠如という致命的すぎる点に目を瞑れば、答えは両手を上げてのOKだ。

 しかし、油断は禁物。

 傍から見たら完全にデートだとか思って心の中でガッツポーズをしていると、痛い目を見るに違いない。


『え……黒木くんに手伝ってとは言いましたけど、そこまでセンス皆無だとは思いませんでした。私の感覚も吸い取られそうなんで、2メートル以上離れてもらっていいですか? あ、それだと1メートル83センチです』


 ……起こるかもしれない未来がありありと目に浮かぶ。

 後でトイレに行くふりをして、今季のトレンドとか調べておこう。


「……嫌です?」


 俺が声を荒げて反応してしまったせいで、三上は嫌がられたのかと思っているようだ。


「全然嫌じゃないよ。ただ、三上の求めてるセンスに俺が答えられる気がしなくてな」

「えぇ、黒木くんだって、いつもすっごくお洒落じやないですか」

「……そ、そうか?」


 やばい。社交辞令だと分かっていても、口の端が吊り上がってしまう。

 そりゃあもちろん、三上と普段一緒にいる分、彼女の評判が落ちないようまともな服装を心がけてはいる。

 しかし、本人から褒められるのがこれほど嬉しいとは思わなかった。この言葉だけで一週間は有頂天で過ごせる。


「ま、まぁそう言ってくれるなら安心かな。5店舗に一回くらいの割合で意見を言うよ」

「……少なくないです?」

「そうか?」

「少ないです。私が色々聞くから、黒木くんがどう感じるか教えてくださいね?」

「……頑張ります」


 そんな言い方をされたら、頑張らないわけにはいかない。

 ただ、どれを持ってこられても「可愛い」しか出てこないんだろうな、多分。

 幼稚園のスモックとかでも着こなせるんじゃないか?

 

「それじゃあ……三上も今日はもう、授業終わりだよな?」

「はい。黒木くんもでしたよね」

「そうだよ。なら行こうか」

「行きましょう〜」


 少し暑くなりだした昼過ぎ、俺たちはショッピングモールに向かうべく、大学を後にした。


 

 電車に揺られること三十分。

 特に何事もなく、俺たちは目的のショッピングモールの最寄駅に到着した。

 平日の昼過ぎということもあって、駅構内にも、外にも人は多くない。

 改札を出たところから道なりに5分ほど歩くと、ここで楽しめと言わんばかりの、巨大な建造物が視界に現れる。

 

「ここに来るの久しぶりだよな」

「前に一緒に来たのは、確か半年くらい前ですもんね」

「そうだな。前回は……何で来たんだったか」

「あれですよ、美奈ちゃんが雑誌に載るっていうので……」

「あぁ! そういえばそうだった!」


 彼女の言葉で思い出したが、俺たちがここに来るのは今日が3回目だ。

 1回目は……まぁいいとして、前回は、渋谷が有名なファッション誌に掲載されるというので、せっかくだから確実に在庫があると思われる大きな書店に行こうという話になり、二人で訪れたのだ。


「見つかったけど、次の日大学のコンビニに寄った時、普通にあったんだよな」

「あれはびっくりしましたね。でも、ちゃんとした本屋さんで見るからこその感動もありましたよね」

「確かにな。結局二人で雑誌買って、そのあと公園でもう一回見たもんな」


 そんな話をしながら、俺たちはショッピングモールの入り口にたどり着く。

 ここは六階建ての大型施設であり、飲食店の他にファッションやインテリア系の店、映画館まで併設されている。

 そのためカップルや家族に人気があるところで、暇を持て余した大学生が、しょっちゅう遊びに来る場所ではない。


「新しいお店とか出来てるかもな」

「わぁ〜。楽しみですね」

 

 自動ドアが開くと、この季節にはまだ少し寒い冷房の風が身体を通り抜ける。

 駅と同様に、館内の人も、数組のカップルや親子をちらほら見かけるくらいで、のんびり過ごすことができそうだ。


「そうだなぁ……人も少ないし、一階から回っていかないか?」

「いいですね。あ、そろそろ新しいメモ帳も買いたいと思ってたんです。文房具屋さんも寄っていいですか?」

「もちろん。いくらでも寄ってくれ」

「じゃあ、5軒くらい梯子しちゃおうかなぁ」

「5軒!? そんなにレアなメモ帳なのか!?」

「ふふっ……冗談です」


 雑談を交わしながら、というより翻弄されながらフロアを歩いていく。

 一階には、アイスクリームショップや海外の雑貨売り場が並んでいる。しかし、中にはパワーストーンを販売している珍しい店もあるようだ。


「パワーストーンだってさ。こういうちょっと怪しい物って、小さい頃めちゃくちゃ欲しくならなかった?」

「あーわかります。お父さんが一時期ハマってました」

「お父さんが? 結構お茶目なんだな」

「そんなことないですよ。最終的にはすごく大きいクラスター?っていうのを買ってきて、置き場に困ってたんですから」

「く、クラスター……」


 クラスターとは、水晶の結晶が群生したもの……だったはずだ。

 前に小さいアメジストのクラスターを見たことがあるが、紫色の水晶に光が反射して、いつまでも見ていたくなるような美しさだった。 

 本当に大きいものは、俺や三上くらいの背丈を持っているらしい。

 まぁ、当然そこまでのサイズになれば値段もトンデモないことになるだろうが、彼女の家はすごい大金持ちなのだ。

 そして、一人娘である三上はそれはもう大切にされている。

 彼女によると、大学に入ったときに、父親にバイトを始めたいと許可を求めたらしいのだが、却下されてしまったらしい。

 もう義務教育を卒業したのだし、バイトくらい子供の勝手にさせてほしいものだが……確かにこんなに可愛い娘がいたら、働かなくて良い様に甘やかしてしまうだろう。

 彼女に狼藉を働こうとする、悪い輩がいないとも限らない。

 だが、何故だか門限は設定されていないみたいだし、父親はどういう基準で考えているんだろう。

 過去に間接的に関わったことがあるが、母親の方もまた、三上に対して並々ならぬ愛情を注いでいた。

 ……話が逸れてしまったな。三上のバイトの話を聞いていたので、さぞ厳格な父親なのだろうと思っていたのだが、パワーストーンにハマる可愛い面もあるんだなと、それだけのことだ。

 今は楽しい話をしているのだし、脳内ももっと明るくしよう。



需要あるよ、これからも読んでやってもいいよと思ってくださる優しい方がいたら、

ブックマークや、ページを下の方に動かしていって、☆5をつけて応援していただけると泣いて喜びます。

執筆スピードも上がります。

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