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三上さんはメモをとる  作者: 歩く魚
第一章 三上さんとメモ帳

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24/70

ドラマ、観ない?


『今日は講義受けるよ〜。なんならもう着いてる!』


 例の公園で昼食と読書を楽しんでいると、渋谷からグループチャットへ連絡があった。

 今日はたまたまオフの日だったんだろう。

 普段から頑張っているのだし、こんな日くらいは大学を休んでしまってもバチは当たらないと思うのだが、彼女は根が真面目なのだ。

 それとも、あまり味わえない学生生活を満喫したいのだろうか。

 なんとなく手伝ってやりたい気分ではあったのだが、こちらもちょうど物語が佳境に入ったところだった。

 一匹の蟻が自我を持ち、世界を救うために宇宙を旅する長編小説。その中でも、ついに全ての元凶であるスペース・アリクインベーダーとの戦いが始まったのだ。


『了解。小説がひと段落したら早めに戻るよ』


 渋谷には悪いが、宇宙の平和のためにもう少し待っていてもらうことにしよう。

 そうして再び読書へ戻ろうとしたのだが、スマホがまたしても音を鳴らしたため、目線を下に向ける。


『わかった〜。とりあえず澪とドラマ観て待ってるね〜』


 ――パタン。無意識的に身体が本を閉じていた。

 すぐさまそれをカバンにしまい、ベンチから立ち上がる。

 まぁ、本なんていつでも読めるからな。だが、渋谷や三上と過ごす時間は今だけの特別なものだ。

 蟻への優しさと敬意を心の中にしまっておけば、小説の著者も本望だろう。


「……忘れ物、なし」

 

 よし、指差し確認も済んだし、俺も今すぐ教場へ向かうとしよう。

 別に三上がいるからじゃないぞ?

 いつも活字ばかり目にしているし、たまにはドラマも観てみようと思っただけだぞ?

 誰に言い訳しているかわからないが、ともかく俺は、春の陽気など忘れて、少々早めに足を動かしていた。ちょっぴりダッシュしていた。


 教場へ着くと、二人の姿を探して辺りを見回す。

 しかし、彼女たちの姿を見つけるよりも早く、その位置を特定することができた。

 それは何故かというと――。


「おい、やっぱり渋谷さんってめちゃくちゃスタイル良いよな」

「三上さんもな……合コン誘ったら来てくれねぇかなぁ」

「馬鹿お前、あんな美人たちに彼氏がいないわけなくね?」

「その通りだったわぁ〜」

 

 一人でも発するオーラというか、雰囲気が違うのに、二人揃っていれば周囲の目を引く事が確定的だからだ。

 付き合いの長い自分でさえ、声をかけるのに若干躊躇してしまう。

 だが、昼休みは有限。有意義な時間を過ごすためにも気合を入れねば。


「なんのドラマ観てるんだ?」


 問いかけに応じるように二人が振り返る。


「こんにちは。早かったですね」


 青いデニムのスキニーパンツに白いグラフィックTシャツと、普段よりもややクールな服装の三上。

 ……うん。いつもと系統が違くても似合ってるな。


「なおちゃん待ってたよ〜。今ちょうどいいところなんだよね」


 対する渋谷は、緑色のストレートのカーゴパンツに、同じく緑色の曼荼羅のような柄のショートシャツを身に付けていた。

 着こなし難易度が振り切れたシャツをここまで自然に着れるあたり、やはりモデルである。

 一見正反対に見える二人だが、とんでもない美貌を持ち合わせているという点では共通している。

 俺が名付けた「二年生の双天使」の名は伊達じゃないな。

 そして、二人の手で挟まれている羨ましいスマホを覗くと、そこには――。


「これ、今流行ってるドラマなんだよね。家政婦さんがお手伝いに行った家の問題を解決していくっていう物語なの」


 見ると、優しそうな家政婦さんが、最近流行りの俳優と向き合っている。

 家政婦さんが主人公なら、この俳優の方はゲスト出演とかだろうか。

 傲慢な性格の男に、家政婦さんが人に対する優しさを教える心温まるストーリーだと予想した。

 

「ちょうどクライマックスで、家政婦さんが国家転覆を目論む派遣先の息子さんと戦うところです」

「そんな規模なんだ……」


 なんか、親子間の亀裂を修復するとか、そういうほのぼのした物語なのかと思ってたな。

 国家転覆って、仮にやるとしても劇場版レベルの重みだろ。

 しかし、無知故のツッコミで邪魔するのも悪いので、そのまま二人の後ろの席に座って、10分ほどドラマを観続けていた。


『お、俺の何がいけないってんだよ!』


 俺とそう変わらない年齢だというのに、見事な演技力。


『あなたに罪はありません。悪いのは……この消しゴムです!』


 いきなり出てきた消しゴムはよくわからないが。


「あぁ……そういう……」

「ここがこう繋がってたんだぁ。深いかも……」


 二人の反応を見るに、数々の伏線が回収された上での展開のようだ。

 そして――。


『……俺の負けだ。悪かったな家政婦さん、こんなことに巻き込んで』

『いえ、私は家政婦です。あなたに真っ当な道を歩んでいただくのも、家事のうちですから』


 母親のような温かみのある表情で諭す家政婦さんに対して、「降参だ」とでも言うように両手を広げる息子。

 そして徐々にカメラが引いていき、スタッフロールに入る。

 こうして、推定国家転覆の野望は崩れ去り、人々の生活が救われたのだ――。

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