前章1-6 1+1
「どうすればいいの?」
「おや、意外じゃ。お主の息の根を止めるなど容易いというのに。なぜわしに賭ける?」
狐の爪先が透けてきている。疑ってはいないが持たんとする時が近いのかもしれない。
「そんなの分かんないよ…でもあなたは私を助けてくれたし、それだけで信じてみようって思っちゃったらダメなのかな…」
「これ、話しておる合間に…無礼なやつじゃのう…」と残り少ない力を使い、炎球を口から撃ち出す。爆発音と煙がたちこめ、静かになった。狐も虎と同種のはず。それなのに、何故かこの狐に対する安心感がある。危ない所を助けてくれただけで信頼の全てを向けるのは安直だし、アホなのは当人が十分理解している事。長い物には巻かれろというかハロー効果というか。「こう言ってるんだからそうなのかも」という感じの核がない気持ちで。
「…時はそれほど残されておらぬ。お主のその答えにわしも賭けてみるとするかのう…。」
え!?
明滅する光が見える。光と音でそれがパトカーだとハッとする。狐はこれを予見していたのだろうか。相応の台数が来ているようだ。
「…厄介じゃのう。どちらにも引けぬではないか…。」
一拍あけてから。
「もうよいか…。生子よ、いまから手短に説明するから心を落ち着けよく聞くのじゃ。」
「う、うん…。」
「正座をし、心を開くのじゃ。決して流れ込むモノに抗ってはならぬ。分かったかえ?」
「はぁ~…」と汚い床に正座をする。色白の肌に瓦礫のクズが食い込む。色々と思う物がこみ上げてくるものの、上からプレスするように心を落ち着かせてみる。周りの雑音が遠くに聞こえ、体の芯から熱を帯びてくる。ただ視界は暗く明確に「これでOK」というラインも視えない。この間に何かあれば丸腰の私は為す術もない。雑念ばかりがぐるぐるしていると眉間をピリッとした感覚が襲った。
(ふむ、少々荒れてはおるがよいか。生子よ。これよりお主の体に憑くからのう…。)
沁みるような声色と共に、膨満感が生子の体を襲う。内側から破裂しそうだ。治まったかと思えば全身が千切れるほどの激痛が。「抗うな。」と言われても。五感がオーバーロードして生子の意識は1分くらいで無くなってしまった。
(おお、生子よ。意識を無くすとは…情けないのう…)
(あれ…目は開けられそう、だな。)
変わったことと言えば。1、炎球を受けた虎が復活している。2、狐の姿がどこにもない。
(何を呆けておるのじゃ。わしはここじゃ。)
声が聞こえる。副鼻腔ら辺で反響して聞こえている。
ということは。
「私と一緒になっちゃったってこと!?」
髪は白くなり、頭頂部には一対の耳。薄暗い店内で黄金色に光る眼。誰もがコスプレと思う外見となってしまった。
作者の性癖がバレてしまった。