NTR絶対許さないマン 第一話『恐怖! 体育教師の○教育指導!!』
OPテーマ『寝取られ本を焼き捨てて』
私立順藍学園。
この学校の校則の頂点に輝く校則こそ、学生の恋愛禁止である。
しかし、思春期の生徒たちにとって恋慕の情を抱いてしまうのは必然! よって日夜、少年少女たちは教師に見つからないように知恵を絞って影での交遊を行なっているのである!
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ゴールデンウィーク、私は彼氏の康平くんと一緒に遊園地にやってきていた。
もちろん、教師にバレないように学校とは違う県の遊園地。彼とは乗るバスもズラして現地合流という徹底振りだ。
「綾奈さん、今日は楽しかった?」
「ええ、最高の1日だった!」
夕暮れの観覧車から降りて康平くんと向き合う。
彼はパッと見ではこれといって特徴はない。黒髪にそこそこの背、太ってもいないし痩せてもいない。悪い言い方をすれば、すぐ忘れてしまいそうな見た目。
でも私にとっては最高の彼氏。
グラビアアイドルにスカウトされたこともある私とは天と地ほどの差があるって、康平くんは卑下することもあるけど、私はそうは思わない。
なんと言っても彼は優しい、私の意図を理解して口に出す前に先回りしてくれることもしばしばだ。
私の大きな胸にもあんまり変な視線を向けてこないし、スカートの中が見えそうになったら顔を背けて注意してくれる。なにかと男の人からそういう目で見られがちな私にとって、彼はとても魅力的に映った。
それと頭が良い、私たちの学校は地域の中では上の方だがその中でも彼は学年トップ5に入るほどの実力なのだ。康平くんは教えるのも上手で、付き合ってから私の学力はメキメキ上がっている。
ちなみに最近の私は150人中10位くらいだ。康平くんはもう大学は推薦で決めていて、彼と一緒の大学に行くために一生懸命勉強してる。
「良かった。ちょっと心配だったんだ……」
「ばーか、何言ってんの?」
「え?」
「康平くんと一緒ならどこに行ったって楽しいに決まってんじゃん!」
そう言いながら私は彼に思いっきり抱きついた。
自分を卑下しがちな彼にはこれっくらい思いっきりやってあげないとダメだってことは、これまでで痛いくらい理解した。
それにこんな遠くの街なら誰に見られても構わないし、べったりくっついてもいいよね?
「あ、ありがとう……」
「むっ、何その反応、ノリ悪いじゃん! ギュッって抱きしめ返してよ!」
「そ、それは……」
康平くんは、私の言うことを聞こうかどうか混乱しているようで、手をワタワタ宙で動かした。
意気地が無いんだから、もうっ!
私はそんな彼へ顔を近づける。
チュッ……。
柔らかな感触。軽く触れる程度のキス。
「えっ!?」
「ふふっ、レモン味って聞いてたけど全然そんな味しないんだね」
「そんな、いきなり……」
「女の子がこんなに勇気を出したんだよ? お・か・え・し・ちょーうだい!」
「あ、綾奈さん!」
私は首を少し上に上げる。
康平くんはそんな私の首の後ろに腕を回して、再び私たちは口づけを交わした。
さっきより長い長いキス。まるで時間が止まったんじゃないかって感じるくらい。
彼の純朴な瞳が、まっすぐこちらを見つめている。頬が熱くなっているのを感じる。キスが長引けば長引くほど、自分がやっていることに思考が追いついて、回路がショートしそう。
永遠とも思える時間が過ぎて、私たちの距離は離れた。
頭がポーッとしていて、あんまり頭が回らない。康平くんの顔も夕日で赤く染まっていて、なんとなくむず痒くなって、私たちは2人して顔を逸らしてしまった。
「あ、あげちゃった、私のファーストキス」
「も、もらっちゃった」
「大切にしてね、ずっと……」
「もちろん!」
普段は大人しくて控えめな康平くんだけど、その言葉は堂々としていた。私は彼のこういうところが好き。私のことを大切にしてくれるところが。
康平くんが手を差し出してくる。
私はそれを掴んだ。
帰りのバスも別々のもので帰る。街に帰れば簡単に手は繋げない。だからせめてエントランスまでは、彼と離れたくなかった。
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ゴールデンウィークが空けて最初の登校日の昼休み。
私は友達の遊びの誘いを断って、生徒指導室にやってきていた。
そんなに悪い素行はした覚えがないのだが、いったいどうしてだろう?
そう疑問に思っていた私の目の前に1人の男が姿を現した。
身長は190近くありそうで、女の子の腰くらいはありそうなほど腕は太い。褐色肌をしたスポーツ刈りの男だった。
体育教師の郷裏川だ。
私は心の中でチッと舌打ちをした。
この男、この学校の女子生徒から蛇蠍のように嫌われる変態教師だ。体育の授業中に下品な視線を送ってくるだけでなく、妙にボディタッチが多かったり、気安く下の名前で呼んできたりするのだ。
もちろん私も嫌いだが、教師に対して唾を吐くようなことはできない。
私は努めて明るい表情と声で聞いた。
「ゴリ川先生! どうかしたんですか?」
すると、ゴリ川はニヤニヤと気色の悪い笑顔を浮かべながら口を開く。
「指導室に呼び出してやることなんて決まってんだろ? お説教だよ、お説教」
「説教されるようなことをした覚えはないんですけど?」
「本当にそうかな? ほれ」
そう言って彼が出してきたスマホの画面を見て、私は目を見開いた。
それは夕方の遊園地の写真。そしてそこにはキスをしている私と康平くんの姿が……。
見られていた? それもこの男に!?
突然のことに混乱する私をよそに、ゴリ川は話し続ける。
「いやまさかあの綾奈が男と付き合っていたとはなぁ」
「そ、その写真、どうして!?」
「なーに俺も同じ日に遊園地に行ってただけだ」
ゴリ川は写真へと目を向けた。
「こいつ、2組の康平だな? 頭が良いから覚えてるぜ? 成績優秀なあいつがねぇ、こりゃ推薦は取り消しかねぇ」
「な、あっ……」
推薦、取り消し……? 康平くんの?
思い浮かぶのは推薦を取れたと伝えてくれたときの彼の顔と声。喜びに震えていた彼の……。
私は痛いほど歯を食いしばっていた口を開ける。
「どう、すればいいですか?」
「んー?」
「どうすればそれを秘密にしてくれますか!?」
そう私が震えた声で言うと、ゴリ川はほくそ笑む。
「放課後空いてるか?」
「!? ……は、はい」
「ホテルへ行くぞ。親御さんに連絡しな、今日は友達の家に泊まるから帰れないって」
どういう意味なのかはすぐわかった。こんなことを言う奴が教師にいることは信じたくなかった。これが同じ人間だと思いたくなかった。
私はクソ野郎を睨みつけるが、相手はニヤついたままだ。
勝ちを確信した顔。その通りだ。私には選択肢なんてないのだから……。
「彼氏のことを守りたいんだろう?」
康平くん、ごめん……。でも君のためだから……。
目が熱くなる。喉がカラカラだ。手に爪が食い込んで痛い。
それでも、康平くんのことを思えば……。
私の重たい口が持ち上がる。
「……わ」
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「ちょっと待ったぁぁぁああああああ!!!!」
その瞬間、指導室のドアがバンッと破裂したような音とともに開かれた。
私もゴリ川もそちらの方を見る。
そこには1人の男の子が立っていた。中肉中背、黒髪のどこにでもいる普通の男子。でも、私には一番大切な人。
「愚か者にはわからんだろう、他者がため、限界を超えて輝く力! それこそが人を癒すこの世で最も美しき心!! 人……それを『愛情』と呼ぶ!!」
「何者だ!?」
「あんたに名乗る名前など、無い!!」
「康平くん!?」
「綾奈さん、僕の後ろに!!」
私は彼の言う通り、彼の背中に隠れる。
ゴリ川はその様子を見て不快そうに顔を歪めた。
「おうおう、ずいぶんとカッコいい登場じゃねぇか彼氏さんよぉ」
「郷裏川先生……」
「それで? どうするんだ? 推薦取り消しにしちまうぞ?」
その言葉に対して、康平くんは吐き捨てるように言う。
「構いやしないさ、そんなもの! 受験なんざ自力でどうにかなる!」
「へぇ、言うねぇ」
「というか、あんたこそそんなに余裕かましてていいのかよ?」
「あん?」
康平くんは右手を振った。そこには黒いスマホが。
そして、彼が画面をタップすると、そこから音声が流れ始めた。
『放課後空いてるか?』
『!? ……は、はい』
『ホテルへ行くぞ。親御さんに連絡しな、今日は友達の家に泊まるから帰れないって』
それはさっきの私とゴリ川の会話だった。
それを聞いたゴリ川の顔からサッと血の気が引いた。
「脅迫罪? 青少年保護条例? どっちも微妙なところかもしれないけど、あんたの末路は決まりだな」
「テメぇ……」
「僕はあんたのように回りくどいことはしない! 僕の推薦とあんたの人生、交換だ! 持ってけよ!!」
「そ、そいつをよこせぇぇぇえええ!!」
ゴリ川が突進してくる。巨体から放たれるそれは、まるでダンプカー。
康平くんにはひとたまりもないだろう。
私は思わず康平くんの制服をギュッと掴んだ。けれど彼は私の手をそっと外して、スマホを渡した。
「それを職員室へ持って行って! まだ他の先生がいるはず!」
「でも康平くんが!」
「僕は大丈夫! はやく!!」
初めて聞く彼の怒声に、気づけば私の足は駆け出していた。後ろで暴力的な音が響き渡る。
振り返りたくなる気持ちを抑えて、私は職員室の扉を開いた。
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そこから先のことははっきりとは覚えていない。
担任の先生に聞けば、職員室に入った私は泣き叫んですぐ近くにいた担任に助けを求めたらしい。
異常事態だと察した数名の先生と一緒に指導室に戻ると、そこにはどうにかゴリ川の攻撃を凌いでいる康平くんの姿があった。
すぐに先生たちがゴリ川を押さえつけて事件は終わった。
先生たちの中では一番大柄なゴリ川だったが、多勢に無勢で、すぐに大人しくなった。
あの音声と康平くんに怪我をさせたことはすぐにニュースになった。
ゴリ川は暴行罪で捕まり、今は留置所にいるらしい。
そんなことを、私はベッドに横たわる康平にリンゴを剥きながら聞かせてあげた。
彼はリンゴを食べながら笑った。
「でも良かった……綾奈さんがなんともなくて」
「良くないよ! 康平くんがこんな怪我して!」
「でもこれは名誉の負傷だから……」
「……えいっ」
「ギャン!!」
「カッコつけないでよ、もう……」
私は氷を彼の患部に当てる。
彼がいなければ私はどうなっていただろう、あのとき彼が扉を開けていなければ、私は……。
やっぱり彼は私の運命の人なんだ!
「でも、ウチに来て良かったの?」
「え?」
「だって恋愛禁止の校則に引っかかっちゃうんじゃ……」
ああ、私ったら今朝担任に教えてもらったことを伝えるのを忘れてた。
「あの校則ね、なくなるんだって。ゴリ川みたいに脅迫してくる奴がでないように」
「そっか、そっか……」
彼は満足そうに頷いた。
私もウズウズしてきちゃった!
「だからこれからはいっーぱいイチャイチャしようね!! 愛してるのギュー!!」
「ギャぁぁぁ痛ってぇぇぇえええ!!」
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こうしてNTR絶対許さないマンの戦いは幕を閉じた。
悪しき体育教師は学校を去り、愛する彼女を守りきった。
だが、彼の戦いに終わりはない。街中を走るハイエース、違法な金貸し業者、性根の腐った友人、この世界には様々な悪意が蔓延っている。
戦え、NTR絶対許さないマン!
負けるな、NTR絶対許さないマン!
NTRがこの世から駆逐するその日まで!!
EDテーマ『純愛至上宣言』
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続かない