第6話
俺たちにとってはこれが普通で、これが日常で。
こんな日常がなくなるなんて思えない。思いたくもない。
幸せは、なくしてから気づくものだと、どこかの誰かが言っていたけれど俺はちゃんと分かっているから。これが、これ以上にない幸せだって。決してなくしてはいけないものだって。
以前何気なくそんな話をした時、カナタは照れくさそうに、でも嬉しそうに笑って俺の頭を小突いた。
「トモさーん!!今日は参加しないんですかー?」
「ん、ごめんな」
橋の下、川で遊んでいたヤツらが俺を当然のように誘ってきたが、あいにく今日は参加する気はない。疲れているわけでも、遊びたくない気分というわけでもないけれど、今日は初めてこの場所に顔を出したカナタの隣にいなくてはいけないような気がしたんだ。
性格から言って、初めて来る場所でも初めて会う面子の中でも、カナタは飄々としている。というか、堂々としている。まるでそこは自分が前からいた席だとでも主張するかのように。そんな偉そうな態度は決して相手を気遣わず自己中心的に考えているわけではない。それがカナタなりの気遣いだった。俺だって、初めて会うヤツに恐縮されていてもこちらまで気を遣ってしまうだけで、あまりその遠慮の仕方は好ましく思わない。
まぁ、逆にこちらが恐縮してしまうくらいに堂々しすぎるのもどうかと思うけれど。
「トモくん」
「んー?」
名前を呼ばれて振り返ってみれば、思った通りそこにはツインテールを揺らしたカヨの姿があって、俺はにっこり笑顔で対応する。テレビで見る下手な子役よりも可愛い容姿を持った彼女は、この子供たちのリーダー的存在であるハジメを唯一なだめる事ができる強者だ。そんな彼女は、先ほどからチラチラと俺の隣にいるカナタの存在を気にしている。やはり新入りは気になってしまう者なんだろう。俺の時とは違ってカナタの場合、自らここに来たわけではなく俺が連れてきてしまったようなものだから話しかけにくいのかもしれない。
俯いてチラチラとカナタを覗き見るそのおどおどとした態度は、非常にかわいらしい。こんなことを思うのもおかしいのかもしれないけれど、カヨもやはり俺たちと同じ子供だということだ。
「あのね…」
「なに?」
「えっと…」
なにかを言いたいらしいカヨは、どうにか頭の中にある言葉を要約しようと悪戦苦闘しているらしい。そしてそんな状態にある女の子を放っておくほどカナタもモテないやつじゃないのだ。案の定、俺の隣に寝転がっていたカナタはよいしょと体を起こし、俺を挟んでカヨに目を向けた。その表情は久々に見る、女たらし並の笑顔。
「名前は?」
「え?」
「名前」
「え、あ…えっと…」
突然話しかけられ戸惑うその姿は非常に愛らしく、そう思っているのは俺だけじゃなかったようで、そんなカヨのあたふたする姿にカナタはおかしそうに喉をクックッと鳴らした。不本意だと言わんばかりに真っ赤になって唇を尖らせるカヨの頭を撫でると、そのすねてしまった女の子の変わりに俺は名前を名乗った。俺はカヨのフルネームを知らないけれど、みんなに呼ばれている愛称でいいだろう。
カヨだよ、と教えるとカナタは笑うのを止めると俺に習うようにカヨの頭を撫でる。
「よろしくな、カヨ。俺はカナタ。トモヤの友達」
「カナタ…カナ、ちゃん?」
「ぶふっ!!」
カヨ流の、かわいらしいあだ名。それを聞いた瞬間、思わず吹き出してしまったのは俺だった。突然カナちゃんとかわいく呼ばれたカナタはというと、非常に複雑そうに苦笑いを浮かべている。そして笑っていた俺に制裁とばかりにエルボーを放ってきた。
なるほどトモくんというあだ名が全然まともに聞こえる。カヨ自身にとってはそれが普通なんだろうが、俺たち男にとってちゃん付けはかなり恥ずかしいものだ。
「ふっ…く、よ、よかったなハジメ。お前と同類ができたぞ」
「あ?同類?」
「ハジメちゃんにカナちゃん。どっちもちゃん付けだ」
「………」
クックッと笑う俺に複雑そうな視線を向けてくるハジメは甚だ不本意だと言わんばかりにふんっと鼻をならした。
只今、俺の右隣にはハジメ、左隣にはカナタ、そしてその向かいにはカヨが座っている。どうしてもハジメはカナタと仲良くなるつもりは毛頭ないらしくずっと仏頂面で頬杖をついていた。そんな話しかけんなオーラを放っているハジメに、カナタから話しかける雰囲気は一切ない。サバサバした性格のカナタは懐いてくる猫は素直に頭を撫でるけれども、懐かない猫には視線すら向けないような性格をしているから。まさに来る者拒まず、去る者追わずだ。たまに良からぬ計画を抱いてカナタに近づいてくる輩も以前はちらほらと見かけたけれども、人間観察を趣味とするカナタは見極める力が長けているため、そういうやつらに限っては懐いてきても無視を決め込む。
ハジメは後者ではなく前者だ。懐かない猫。
俺の時は天体観測が共通の趣味を持っていたとは言え、ここまで態度もひどくなかったように思えるが…なんだろう。根本的に性格が合わないのだろうか。カナタには何を言ってもそちらから握手を求めて交流を深めるなんて事は絶対にないだろう。大体、カナタは俺ごときの言葉で己のあり方を変えてしまうような簡単な性格はしていない。となれば、どうしてもこの二人に仲良くなってもらいたいのであれば、説得するべきなのはきっとツンケンしているハジメだ。
「なぁ、ハジメ」
「なんだよ」
「カナタのこと、嫌いなのか?」
「…別に。嫌いじゃねぇけどなんか気にくわねぇ」
「なんで?新入りだから?」
「そんな理由じゃねぇよ。大体、新入りだったら数日前のお前と変わりねぇじゃねぇか。むしろ一人で乗り込んできたお前の方が状況的に無理だって」
「じゃあなんでだよ」
「そんなのお前が…っ」
そこまで言って、ハジメは言葉を止め、唇をぐっと噛みしめて黙り込んでしまった。
カナタを気にくわないと言ったハジメ。俺が…?俺が、なんだ。ハジメがカナタと仲良くならない原因は俺にあるのか?
理解しようにも情報が足りなさすぎる今の現状で、俺がどうこう動いても無駄なように感じてしまう。ハジメがカナタを毛嫌いする原因が分からなければ、改善しようにも分からないからできないのだ。
一応、今の俺の友人であるハジメと親友であるカナタと互いが仲良くならないのは困る。何が困るって、そんなの間に挟まれた俺の肩身が狭くなってしまうから。親友だからといってカナタを優先してしまえば、ハジメはいじけてしまうだろう。だからといってハジメを優先してしまえば長年積み上げてきたこの関係にヒビが入ってしまいそうで恐い。そんなことでカナタの態度が変わる事はないだろうが、これまで何よりもカナタとの時間を大切にしてきた俺にしては、難しい事だ。
思わずううん、と唸り考え込んでしまう。そんな俺に気づいたカヨがまた何かを言いたそうにしているが、今回ばかりはカヨに頼るわけにはいかない。きっと、カヨでもこれは無理だ。
「トモ」
「うわっ!?」
「なーに考え込んでるんだよ」
突然、肩を組まれてぐいっとカナタの方に引き寄せられる。バランスを崩してしまえばドタッと倒れてしまうものの、頭は丁度カナタの膝の上で衝撃はなかった。見上げた先にあった爽やかな笑顔。その表情に嫌悪を抱く者はないだろうと思ってしまうくらいに、今のカナタは機嫌が良い。例えカヨにちゃん付けで呼ばれてしまったとしても、子供だから仕方ないかと流せるくらいに。
機嫌の悪いカナタが嫌いなわけではないけれど、機嫌の良いカナタは好きだ。父親みたいにその優しげな眼差しを向けられると安心する。
機嫌が良いのは俺に会えたからか。そんな自意識過剰なことを考えてしまうくらいに俺も今は機嫌が良い。そんな気分も、カナタが帰ってしまう時の事を考えてしまえば一気に急降下してしまうのだが。
でももしかしたら、機嫌が良いらしい今のカナタなら、ハジメと仲良くしてくれるんじゃないかと思った。
「なぁ、カナタ」
「ん?」
見上げて、その頬に、髪の毛に手を伸ばしてくるくると指先で遊んでみる。
よし、怒らない。
「ハジメと仲良くなる気はないの?」
その言葉を放った途端、くるくると髪を弄んでいた俺の指がぴたりと止まる。
失敗したと思った。
それは朗らかだったその表情から笑顔が消えたから。一瞬にしてそれは無表情に変わったから。でも怒っている様子はない。ただ、その顔から表情が消えただけ。
感情の見えないその表情で、その口で、カナタは小さく呟く。
「……分かってんだろ?」
「なにを」
「仲良くする気がないのはアイツだけ。俺がどんな性格か、分かってて聞いてるのか?」
「…分かってるけど…」
無表情で見下ろされる。感情のない視線が向けられる。
恐くはない。恐くはないけれど、思わずその視線から目を背けたくなるのはなぜだ。後ろめたい事があるわけでもないのに、そう思ってしまうのはなぜだ。それは長年、考えても考えても答えが出ない延々の自問だった。
「………」
仲良くする気がないのはアイツだけ。
そう言うカナタだけれど、カナタにもそういう気持ちがないように感じているのは俺だけなんだろうか。ハジメだけでなく、カナタもハジメを拒絶するような動向がちらほら見え隠れしているような気がするのはただの勘違いなんだろうか。今までにそんなことなかったから、本当にハジメを拒絶しているのかどうかは分からないけど、あまり友好的ではない。カヨには普通だったのに、なんで…?
膝を抱えて、俯く。
幼なじみなのに、親友なのに、俺はカナタのことが全然分からない。誰よりも一緒にいると自信持って言えるのに、誰よりもカナタのことを知っているかと問われると言葉に詰まってしまう。親友の俺でも思うくらい、カナタは難しい性格をしている。たまに素直に甘えてくる事もあれば、本当に同い年かと疑ってしまうくらい頼りになる事もある。ドロドロに溶けてしまいそうなくらい優しい時もあれば、身震いしてしまうほど恐いと感じる事もある。俺はカナタを親友だと言う。カナタも俺を親友だと言う。カナタは俺の事ならなんでも分かると豪語するくらい俺の事を俺以上に理解している。俺はカナタの事が未だに分からずにいる。
一体この差はなんだ。
幼なじみで親友なのに、この差はなんなんだ。
今更だけど…非常に今更だけど、なんか悔しい。
「…分かったよ」
「は?なにが?」
「仲良くすればいいんだろ、仲良くすれば。だからそんな顔すんな」
ガシガシと髪の毛を乱されて、困ったようにため息をつかれた。
そんな顔って…俺は今どんな顔をしていたんだ。
気になる所だが、あえて何も聞かないでおく。なんか都合良く勘違いしてくれたみたいだし、せっかく仲良くしてくれると言ってくれているカナタを止める必要なんてない。むしろ止めないべきだ。
どうするのかとカナタを見上げてみれば、面倒くさそうにのそのそと立ち上がり、その足でハジメの前に立った。ハジメはシカトしようとばかりに顔をそむけてはカナタと目を合わせようともしない。そんなハジメの態度に一瞬眉間に皺を寄せたカナタだったが、次の瞬間には滅多にお目にかかれない愛想笑いを浮かべ座るハジメと目線を合わせるようにしてしゃがみ込む。
さすがにじっと見られてしまえば気になってしまうのか、ちらりとハジメがカナタに目を向けたその時、カナタが言葉を発した。
「いつまでも嫉妬してんじゃねぇよガキが。好きな奴のダチにすら嫉妬するガキかてめぇは」
「………」
「………は?」
そんなカナタのとても友好的とは思えない言葉に声を上げたのは俺だった。突然吐かれた声はとんでもない暴言を発し、あろうことかその指はハジメの頬をつまんでいる。ぐいーんと伸ばされた頬はすごく柔らかそうで触り心地が良さそう…ってそうじゃなくて。いやいやいやカナタくんあんた何言っちゃってんの?仲良くなるんじゃなかったの?仲良くなるって俺に宣言した途端なんでそんな喧嘩腰になっちゃってんのよ。
これはもう駄目だ、こんなんじゃカナタがどんなに友好的に接した所でハジメが心を開くわけがないと俺が諦め始めた時、ようやく我に返ったハジメは声を荒げた。
「っ!!ば、バカ言ってんじゃねぇよ!!誰が嫉妬なんかっ」
「あぁ?んだよ、自分でも気づいてなかったのかよ。ダチに嫉妬するガキプラス鈍感ぼーやかてめぇは」
こうして口論は始まった。
ぎゃーぎゃーとカナタとハジメの間には罵声やら怒声やら、とにかくもう子供に優しくない言葉ばかりが飛び交っていて、これはいけないといち早く気づいた俺はカヨを連れてふたりから少し距離を取る。しばらく終わりそうにないその口論。仲良くして欲しいという俺の願いはカナタの一言によって一気に崩されてしまっていた。
そして、わけのわからない喧嘩をし始めた二人のほかに、わけのわからない子がひとり、俺の隣でくすくす笑っている。
どうしたのかと尋ねてみれば、ものすごい楽しそうな声が返ってきた。
「カナちゃんはすごいなーって思って」
まるで今にも歌でも歌い出してしまいそうなほど機嫌はよかった。
「ハジメちゃんって単純でおバカさんだけど、あんな短時間で理解出来るような性格してないのよ。しかも一言も言葉交わしてないのに、見ただけでなんでハジメちゃんの機嫌が悪かったのか分かっちゃうなんて」
どうやらコレは楽しそうではなく嬉しそうな声だったらしい。くすくすと笑うその表情は少し悪戯っ気があって、それでもすごい嬉しそうだ。俺は俺でわけのわからないまま首を傾げる。一体今の光景を見て何が嬉しかったのか。俺にはどーもカナタが喧嘩を売ってそれをハジメがかったようにしか見えなかったのだが。そういえば嫉妬がどうとか言っていたような気がする。ますます分からない。
「ふふっ、ハジメちゃんはねー」
「カヨ!!余計なこと言うなよ!!?」
「…だって。ごめんね、トモくん」
ハジメに口止めされてしまえばカヨもそう簡単に口を割る事は出来ないらしく、あまり悪いとは思っていないような表情で謝り、止めてきたハジメを見ては笑っていた。ちらりとハジメの方を見てみると、偶然にもばちりと目が合ってバッと目をそらされる。
そこまで分かりやすいと逆に傷つくんだが…。
確かに、カナタは凄いのかもしれない。俺でさえ、未だハジメの性格をつかめずにいるのだから、こんな短時間でハジメの性格…いや、性質と言った方が正しいのだろうか。それをよく理解している感じがする。仲が良さそうには決して見えないはずなのに、口喧嘩をしている二人を見ているとなんだか胸のあたりがもやもやとしてしまう俺は変なのだろうか。やきもち焼くなんて珍しい。ハジメに?カナタに?どちらにしても、自分で仲良くして欲しいと言ったくせにいざ仲良くなると嫉妬するなんて都合良すぎるだろ、俺。
そろそろそんな自分に嫌気がさしてきて、自然と口からはため息が漏れてしまう。頬杖をついて、なんだか疲れてしまった目を閉じてみると不意に掌が温かい何かに包まれた。その感触の元を確かめるべく、そっと目を開けてみるとそこにあったのは俺よりも小さなカヨの手だ。日に焼けてもおかしくないくらいに外で遊んでいるはずなのに、元の色素が薄いからなのか白魚のようにその手は白い。大人のようなすらりと細い指がついているわけでもなく、まだそれには幼さが残っていてぷくぷくとなんとも触り心地がいい。特にその手を払うことも握り返す事もせずに放って置いていると、心配そうなカヨの表情が視界いっぱいに映り込んだ。
「大丈夫?トモくん」
「あ、あぁ。大丈夫」
どうやら俺は直接カヨの顔を確認したわけでなく、その小さな手だけでカヨだと決めつけてしまっていたようだ。手の主がカヨだということは当たっていたが、そりゃ手を置いてみたのに顔も上げず何も反応がなかったら心配くらいするよなぁ、なんてまるで他人事かのように考えてみる。ぼぅっとした目でカヨを見つめているとその表情はだんだんと心配の色を増してゆくだけで、なんでもないよと言わんばかりに俺はうっすら微笑んで見せた。ついでに頭を撫で、心配するなという意思を伝える。それでも、カヨのそれが笑顔に変わる事はない。どうすればいいのかと少し困っていたところに、後ろから首にカナタの腕が回ってきた。
どうしたのかと、話しはすんだのかとカナタに目を向けてみるとその表情も少し心配の色に染まっていた。
「帰るぞ」
「え、でも…」
「ハジメちゃんは俺と仲良くしたくないんだってさ。だから俺はここにいる意味はなくなったわけ」
「そっか…」
残念だな、と思ったのも事実。さっきは嫉妬してしまったけど、仲良くして欲しいと願っていた気持ちも本物だから。でもどこかほっとしている自分もどこか心の奥底に潜んでいるような気がした。きっと、ハジメとカナタは友達になったら仲良くなると思うから。そうなってしまえば、もしかしたら俺以上に、なんて不安も抱かざるおえないわけで。
最低だな、俺。なんか恋人の浮気を心配してる女みてぇだ。女々しくて目も当てらんない。
「じゃ、帰ろっか…」
「ちょっ!!なんでだよっ、帰るならそいつだけ帰ればいいだろ!!」
「ハジメ…」
「馬鹿か。トモは帰って俺の相手しなきゃなんねぇんだよ。お前と遊ぶほど暇じゃねぇよ」
「ふざけんなよ、てめぇ…。んなのてめぇが一人でなんとかすればいいことだろ!!トモヤを巻き込むなよっ」
「巻き込んでねぇよ。こいつが望む事だ」
「はぁ!?」
カナタ…そんな言い方したらハジメじゃなくても誰でも怒るって…。
相変わらずな口調に呆れつつも、少し笑みを浮かべてしまう。カナタは昔から変わっていない。俺様だし、俺の事なんでもかんでも勝手に決めるし。そりゃ数日離れたくらいじゃ変わるわけないって分かっているけど、一日たりとも離れた事のなかった俺たちにしてみれば、その数日間でさえひどく長く感じてしまうものだ。昨夜は感極まって涙まで出る始末だし。
「な?トモ」
「へ?あ…あぁ、うん。え?」
つい咄嗟に頷いてしまったが、なにがと尋ねる前にカナタは俺の腕を掴みさっさと引っ張っていってしまう。困惑したまま引きずられながらもハジメを見てみると、俺以上に困惑した様子で呆然とハジメはそこに立っていた。
何がそこまでハジメを困惑させたのか。どうして傷ついたような顔をしてそこに立っているのか。
その時の俺は、ハジメの事も自分の事も、何も分かっていなかったんだ。