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第2話




「どこ…行ってたの?」


帰るなり、そんな言葉が母親から問われた。

まさか放心状態だったはずの母からそんな言葉を…というか声をかけられるとは思っていなかった俺は、少し戸惑いながらも小さな声で散歩とだけ答えた。それに対して母は、そう…、とまた俯いただけ。どうやら心配したとかそういう類のものではなかったらしく、ただ単に決まり文句のようなものだったらしい。本人に直接そう聞いたわけではないけれど、きっとそうだ。じゃなきゃ、あんなにも嘘丸見えな答えを受け流すわけがない。数ヶ月前までの母ならば、どこまで聞くつもりだとうんざりするほど質問攻めをしてきたはずだった。

別にそうしてほしいわけではないけれど、今の母さんを見てるとなぜかイライラした。反抗期の時のようなイライラではなく、なんとも言えない苛立ちが俺を追いつめる。

だから…すぐに居間を出た。

ばあちゃんはまだ畑で、今家にはふたりきり。

今の母さんと話す事なんてなにもない。そう、なにも…。


「…っ、くそ!!」


苛立ちが増す。

母さんの事が嫌いなわけではない。でも今の母さんは嫌いだ。どんな理由で父さんと離婚したのかは知らないけれど、でも母さんは父さんとちゃんと話して、自らの決断で今こんなところにいるはずのに、それを後悔しているのかまるで魂が抜けてしまったかのようにぼうっとしているばかりで。

あんな母さん見たくない。

後悔先に立たずとはよく言うものだけれど、それでも自分が被害者かのように、あんな風に自らの殻の中に閉じこもってしまうのは卑怯だ。巻き込まれたのは俺だ。理由も聞かされず、あれよあれよと父さんと引き離されてしまったのは息子の俺だ。母さんはまだいいだろう。別れた理由を知っているのだから。だが俺は知らない。わけもわからず、何不自由のなかった地元からこんな田舎まで連れてこられた。

光が見えたはずの田舎暮らし。そんな前向きな思いさえ、母さんは踏みにじろうというのか。離婚に反対はなかった。夫婦というのは互いの信頼親愛あってこそのものだから、なにかしらのすれ違いがあってその結論に至ったのならば俺に口出す権利などない。例え俺がふたりの実の息子であっても。むしろ俺を気遣ってぎこちない夫婦ごっこを続けられるよりは幾分かこちらの方がマシだった。


「………」


割り当てられてた自室は静寂に溢れていて、隙間風が入っているのかどこからか空気の流れを感じた。あるのは一組の布団と小さなテーブルと、持ってきていたリュックだけだ。殺風景なその部屋は余計に憂鬱さを増加させる。リュックの小さなポケットに突っ込んでおいた携帯を取り出し、時間を確認してみればいつの間にやら午後7時を回っていた。テレビはあるが、元があまりテレビを見ない性質でいくらやることがないからと言ってそれに縋るにはどうも気が乗らない。携帯でインターネットでもしようかとも思ったが、さすがド田舎。電波は一本とも立っておらず、忌々しい圏外という文字が表示されているからそれも叶わない。さてどうやって時間を潰そうかと考えていると、居間のほうからばあちゃんの声が聞こえた。いつの間にか帰ってきていたらしく、夕飯が出来たと叫んでいた。


「どうしよ…」


再び何も見えない闇に放り出された気分。

なにもすることがなくて、このまま夏休み期間中の間に体が腐っていきそうだ。

とにかくばあちゃんお手製の料理を平らげてしまおうと俺はおろしていた腰を上げ、部屋を出ると再び気まずい空気の中へと飛び込んで行った。




「トモくんはにんじんが食べられなかったのにねぇ。見ない内に大きくなっていつの間に食べられるようになったんだい?」

「ばあちゃん…。俺だってもう子供じゃないんだから…」


いつまでも小さな子供扱いが抜けないばあちゃんに苦笑いで答えながらも、食卓に並べられた色鮮やかな料理に手をつけていく。焼いた魚に肉野菜炒めにみそ汁。昔ながらのばあちゃんお手製の煮物に、白いご飯。そしてばあちゃんが栽培した野菜で作ったであろうサラダ。どれもこれも懐かしい味ばかりで、少し苦手なにんじんでさえも普通に美味しく食べる事ができた。相変わらず母さんは無言のままで、その料理を食べている。そんな母さんを気にする事もなく、普通に話を進めていくばあちゃんは結構すごい人なんだと思えた。

食後に出されたのはうさぎの形をしたりんごで。そういえばずいぶんと昔に母さんもこんなものを作ってたなと思い出にふける。

畳ではなくフローリングだった我が家。テーブルに並べられた料理を囲む母さんと父さんと俺。楽しかった思い出がまざまざと頭の中にエンドレス。

なんだこれは。思い出に感慨深くなるなんて俺らしくもない…。


「ばあちゃん、電話借りるね」

「あぁ、そこにあるからね」

「ありがと」


色鮮やかに食卓を飾っていた料理もほとんど食べ尽くし、ごちそうさまと席を立った俺はいそいそと子機を片手に自室へと戻る。居間を出る直前、テレビを無心に眺めている母さんが少し心配だったが、俺が気にしてもしょうがないだろうと思いなんの声もかけることなく襖を閉めた。

自室に戻り、畳に投げてあった携帯を取るとリダイヤルから目当ての番号を探し当てる。その番号に子機をつかってかけようという寸法。クラスメートには何も言えなかったが、一応ひとりだけ…属にいう親友と言えるアイツにだけ田舎に行く事を伝えていた。そのことを伝えた時に、絶対に電話しろよという半強制的な約束をさせられてしまった為、ばあちゃんに電話を借りてでも連絡を入れなくてはならなかった。

俺の親友は魔王だ悪魔だ天使の面した堕天使だ。

連絡をいれろと言われたならば、連絡をいれなければならない。さもなくば奴はこちらまで押しかけてくる。冗談とか脅しとかそういうものでなく、本気で。そして俺を殴る。一発どころか気を失うまでなんの言葉を発する事もなく無言で無表情で。謝る余地も言い訳する余地も与えることなく。そして目が覚めた俺に言うんだ。

『電話しろって言っただろ?』

きっとそうだ。

謝るなんてアイツの辞書に載っていない。いや載っていたとしても油性マジックで黒く塗りつぶされている事だろう。アイツが俺に謝ったことなんてかつて一度もない。と言っても、大抵悪いのは俺なのだからアイツが謝るわけもないのだが。


「………」


出ないで欲しい出ないで欲しい。

そう切に祈りながら、プルル…と鳴り始めた子機に耳を当てる。そんな俺の願いも虚しく、あろうことか奴はわずか3コール目で取りやがった。


『…おっせぇよ、ばかトモ。ぶっ殺すぞ』

「ごめんなさい!!」


何を隠そう奴は【響】という不良チームに属している。言葉遣いが悪いのはそれのせい。俺の親友もとい工藤彼方。開口一番の言葉は殺傷能力抜群のひっくい声。なにも悪い事はしていないはずなのに、相手に悪い事をしたと思わせるのはカナタの特技だとも言える。


「カナター、寂しいよー。初日にして挫けそうだよー」

『バカじゃねぇの』

「友達がいのない奴め…」

『あ?今更かよ』

「そうでしたね」

『あぁ!?』

「自分で言ったんじゃん!!」


理不尽な理由で不機嫌な声になるカナタに俺はもう謝る気にもなれなかった。でもやっぱり親友とだけあって、不思議と心が休まる。

カナタは友達だ。いくら性格が悪かろうが、魔王で悪魔で堕天使だろうが、昔から唯一俺を甘えさせてくれる友達だ。他の上辺だけのダチとは違う、本当の意味での友達。地元を離れたくなかったのは、カナタと離れてしまうことも理由にあった。田舎に行く事を伝えた時に思わず泣いてしまったのは俺だ。かつて一度としてなかったカナタと違う場所、学校。人見知りは激しい方ではないのだが、カナタがいたから今まで新しい中学でも上手くいっていたと自信を持って言える。


『俺が恋しいなら帰ってこい。てめぇひとりぐらい俺が養ってやるよ』

「…カナタあいしてる」

『ばっか、きめぇよ』


なんだかんだとこうやって優しい言葉をくれるカナタが好きだ。今目の前にいたならば、真っ先に抱きついて親愛のキスを頬にしていたことだろう。…俺が女の子だったならば、絶対にカナタを好きになっていたな…なんてあり得ないことを考えてみれば、なぜだか吐き気を覚えた。


「カナター。会いに来てー」

『お前が来い』

「車も運転出来ない俺にどうやって行けと」

『だったら俺も同じ条件じゃねぇか』

「…そうですね」


あぁでもカナタはバイクを持っていた。不良グループでたまに走り回っていたのを見た事がある。さすがに嫉妬なんてもんはしないが、自由奔放なカナタを羨ましく思ったのは俺だけの秘密だ。

せっかく長い夏休みなのに、カナタとも会えず遊びに行く事も出来ず。なんだこの拷問状態な俺は、いつもよりも少し涙脆くなっているらしい。滲んできた涙を袖で拭い、なんの声も聞こえてこない電話がまどろっこしく感じる。カナタはあまりしゃべらない。俺もカナタといる時はあまりしゃべらない。電話なんて指折りで数えられるくらいしかしていない。ただ同じ空間にいて、それぞれが違う事をしている。それだけで良かったのだ。それがなぜか楽しかった。


『…夏休み中には会いに行ってやるよ』

「………」

『それまでに泣いてみろ。ただじゃおかねぇ』

「カナタ…」

『お前が泣いていいのは俺の前だけだ』

「好きになっていいですか」

『今更だろ?』

「自過剰―」

『そんな自過剰男に愛してるだの好きだの言ってるのはどこのどいつだ。まったく趣味が悪い。俺は嫌いだけどな』

「俺は大好きだよ」

『いっとけ』


カナタが笑った。俺も笑えた。

やっぱりカナタはすごい。なんで俺が泣きそうなのが分かるんだ。電話越しなのに。俺は全然カナタが今どんな顔しているかなんて分からないのに。カナタはすごい。さすが俺が惚れただけある。そういう意味じゃないけど、大好きだ。

その後適当に今日あったことを話した。

殴られた、と言った時のカナタは俺を小馬鹿にするような言葉を吐いていたが、その時の声は怖かった。怒りのオーラがこちらまで伝わってきた。弁解するようにわけを話せば、納得したのか今度は本気でバカにされた。そっち行った時鍛え直してやるよ、なんて恐ろしい言葉まで聞こえてきた。あれは空耳であったと信じたい。

名残惜しくも通話を切り、敷かれた布団に横になる。

カナタが会いに来てくれる。

それだけで、機嫌がよくなるなんてどれだけ単純なんだと、自分を笑った。

窓の外にぽっかりと浮かんだ月。夜空に散らばる星光。

ふと頭に浮かんだ天体観測という文字。

それは、唯一の俺の趣味でもあった。


「…カナタを見習い、不良街道まっしぐら」


そんな意味不明な言葉を吐き、俺はさっそく立ち上がると誰に告げる事もなく家を飛び出した。

虫が鳴く。吹き荒れる風に木々がざわめく。外灯すらない田舎道は月明かりだけをたよりにするしか歩く術はない。ポケットに手を突っ込んで、月明かりに照らされた路を歩く。一本道だから迷う心配なんてない。ここには不良達も変質者たちも、というか人っ子ひとりいない。誰も知らない俺が今この場所を歩いているという事。なんだかいけないことをしているみたいでドキドキしたが、好奇心旺盛な心はワクワクしていた。

天体観測。

望遠鏡もなにもないけれど、そんなごちゃごちゃしたものはいらない。眺めるだけでいい。夜空に浮かぶ…正しくは宇宙に漂う星たちを眺める事に楽しみを感じるのだと。俺に天体観測という楽しさを教えてくれた人はそう言っていた。現に彼は望遠鏡も持たずただビルの屋上に座って星を眺めては笑みを浮かべて俺に星の名前を教えてくれていた。あれがデネブだの、アルタイルだの、幼い頃の俺にはちんぷんかんぷんで。それでも少しずつ少しずつ星の名前を覚えては、たまにふらりと家を抜け出して星を見ていた。

懐かしい思い出。

俺に星の名前を教えてくれた人はもういないけれど、思い出はちゃんと胸の奥に、決して消えてしまわぬようしっかりと刻んでいる。


「イチ…」


そういえば、最後に彼と一緒に星を見たのはいつのことだっただろう…。





開けた道を抜けて、昼間ハジメという少年を突き落とした川。そこには岩場と岩場をつなぐように古びた橋がかかっていた。滝が大きな音を立てて、闇の静寂をかき消す。橋の真ん中に、足を投げ出して寝転がってみれば見事に夜空一面の星を堪能する事ができた。


「絶景」


木々が回りを囲むように連なっているが、決して視界を遮るなんて事はない。絶景。こんな穴場があったとは知らなかった。幼い頃にこれを見逃していたのかと思えば非常に悔やまれる。小さい頃の俺は、夏の星座がなにより好きだったのに。


「なっ…」

「ん?」

「なんでお前がここにいるんだよっ!!」

「いちゃ悪いか」


橋が揺れたと思ったら、どうやら人が近づいてきていたらしい。人の気配も読めなくなったなんてカナタに知られたらどうなることやら。きっと拷問という名のおしおきかな。


「悪いに決まってるだろ!!」

「それはそれは…。どうもすいませんね」

「謝る気ねぇだろ!!」


うるさいよ、ハジメ少年。

俺は静かに星を観察していたいのに、それを邪魔するというのか。橋からたたき落とすぞ。

せっかくの絶景ポイントでの天体観測を邪魔されたからか、非常に今気分が悪い。なぜこんな時間にハジメがこんな場所にいるのか。人のこと言えないから聞く事はできなかった。もしかしたらこのハジメの年頃の奴は不良とか夜遊びに興味の出始める時期かも知れないし、もしかしたらハジメもこの絶景ポイントを狙って天体観測をしにきたのかもしれないし。どうでもいいが。とにかく、邪魔だけはしないでもらいたい。


「そこは俺の場所なんだよっ!」

「名前なんて書いてなかったぞ」

「書くか!!くっそ、秘密の絶景ポイントだったのに…。つかなんでお前こんな時間にこんなところにいるんだよ」

「………」


絶景ポイント?まじで後者の方だったのか…。

顔にはひどく似合うが、性格には非常に似合わない。見るからに天体観測なんかよりもバイクとかそういう類に興味を持ちそうな…言うなればカナタと同じ様な性格をしている。いやいや、あんな魔王様と同じ性格がそこら辺にぽいぽいいてたまるか。


「たぶんお前と同じ理由」

「あ?家出か?」

「お前家出かよ!!違う…天体観測」

「………まじで?」


呆然としたような声が気になり、ハジメを見ているとその顔はすばらしくキラキラと輝いていた。いや目の錯覚か?月明かりマジックか?そうだ人間の顔が輝くわけがない。目がキラキラしているような気もしたが、あまり深くはつっこまないようにした。


「え、え?まじ?お前星好きなの?」

「あー…まぁ、うん」


あ、だめだこれ。

あれだ。同族を見つけた時のような顔をしている。つまり妙に表情が活き活きとしている。関わっちゃいけないような気がする。でももう遅い気がしなくもない。


「やった!!まじで!?初めて見た俺と同じ趣味持ってるやつ!!だよなっ、星っていいよな!!アイツらは全然興味なくてさ、だから俺ひとりで…ってあー…」

「あー?」

「昼間は悪かったな。確かに女に見間違えたお前が悪いけど、いつもならあんなすぐ手は出さないんだ。昼間はちょっとむしゃくしゃして…。頬、大丈夫か?」

「………」


まさか向こうから謝ってくるとは思っていなくて、度肝を抜かれた。呆然としている俺を気にもとめず、ハジメは勝手に頬を撫で、腫れてはいないななどと診察をしている。しばらくしてハッとした俺は勢いよく後退ると思わず身構えた。

なぜだかこう、素直に謝られるとなにか罠でもあるんじゃないかと疑ってしまう癖がカナタのせいで身に付いてしまった。今更だが俺はなぜカナタの親友をしているのだろう…。


「だ、大丈夫大丈夫!!慣れてるからさっ、あははー…」

「そうか?ならいいんだけど…。あ、俺はハジメ。よろしくな、趣味友達」

「趣味友達って…まぁいいけど。俺はトモヤ、よろしく」


昼間とはえらい待遇の違いだった。

でもこれで、暇な時にはここに来てハジメを話し相手に暇を潰す事ができるかもなどと考えていると、目の前に手が差し出される。最初は何を意味するか分からなかったが、どうやら握手を求めているらしく俺を素直にそれに従った。がっしりと繋がれた手。一回り小さく感じるその手のひらはあたたかくて、嫌な気はしなかった。

こうして俺は、カナタとは違う意味のトモダチがまたできたのだった。











猛暑。

ここまでくると、本気で地球温暖化が心配になってくる。

人間は非情な生き物だ。どんなに回りに被害が及んだということを知っていても、実際自分たちに被害がなければ必死にならない。解決策なんてもんはいくらでもあるのに、それをしないのは人間という生き物が非情で、貪欲なものだから。そしてそんな自分たちのそんな性質に気づいていながらも、それをなおそうとしないのは目の前にある幸せにしか興味がないから。

人間は非情な生き物だ。


「なんでハジメとそいつが一緒にいるんだよ!!」


そう叫んだのは、たしか昨日ハジメのながされてしまったズボンを取りに行った少年だ。納得がいかないと言った感じに声を張り上げ、地団駄を踏んでいるその姿は年相応。その横にはにこにこと笑みを浮かべてこちらを観察しているカヨの姿。


「ハジメちゃんと仲良くなったのね。よかった」

「昨日は迷惑かけてごめんな」

「いいのよ。そのかわり、私とも仲良くしてくれるわよね?」

「もちろん。よろしくな、カヨ。俺はトモヤ」

「トモくんね」


かわいらしいその呼び方に、苦笑いを浮かべた。

トモくん、なんてばあちゃんぐらいしか呼ばない。慣れないその呼び方に恥ずかしさを覚えつつも、カヨの頭を優しく撫でた。小首を傾げてにこりと笑うと、少し高めで結われたツインテールが揺れる。しっかりものでかわいくて、妹にしたい感じ。そういえば、ハジメとカヨは兄妹なのだろうか。


「俺を無視するなーっ!!」

「うっせぇぞマサキ!!お前も下の奴らと遊んでこればいいだろ!!」

「ハジメも!!なにそいつの膝なんかで寝てんだよ!!」

「寝心地がいいから」

「ハジメー…」


騒いでるこの少年の名前はマサキというらしい。

情けなく眉を下げ、未だにハジメに縋ろうとしてる様子を見ている限りそうとうな執着心を抱いているらしい。

確かに俺もこの体制には疑問を抱かざるを得ない。なんで俺はハジメに膝枕なんかしているんだろう。


「俺の親友も言ってたな、それ。意味わかんねぇけど…別に寝心地よくはないだろ?女みたいにプニプニしてるわけでもないし」

「わかんねぇけど、なんか安心する。固いし、触り心地がいいわけじゃないけど…なんでだろうな」

「………」


聞いてんのはこっちだっつーの。

起きる気配を見せないハジメに半分呆れつつも、正直もう諦めていた。膝枕はカナタで慣れている。別に苦でもないし、恥ずかしいのは俺じゃないし、どうでもいい。


「マッキーも。いつまでも意地張ってないでトモくんと仲良くすればいいじゃない。ハジメちゃんが認めたのよ?悪い人なわけないわ」

「カヨちゃんまで…。あーもーっ!分かったよ!!認めればいいんだろ認めれば」


深くため息をつくマサキはようやく決心したのか、カヨと同じく右手を差し出してきた。その手をじっと見ていると、じれったいのか俺の手を取って無理矢理握手をさせられる。


「…マサキだ」

「トモヤだ、よろしくなマサキ」

「よ…ろ、しく…」


そう小さく呟いたマサキの顔は真っ赤。つい先ほどまで突っ張っていたからその言葉が恥ずかしくてたまらないのだろう。笑みを浮かべてその手をほどけば、すねたように橋から飛び降りた。今流行のツンデレというやつか、反応が新鮮でなぜか顔がにやにやしてしまう。


「…きもい」

「うっさい。つか、ハジメとカヨは兄妹なのか?」


先ほど疑問に思った事を尋ねてみれば、心なしかハジメの顔色が変わったような気がした。


「兄妹じゃないよ」


そう俺の問いに答えたのはカヨで。


「私とハジメちゃんは兄妹じゃないけど、ハジメちゃんには…」

「カヨ、言わなくていい。別に知らなくてもいつか会うだろ」

「…そうだね」

「………」


どうやら、ハジメとカヨは兄妹ではなくただ兄妹のように仲がいいだけで、ハジメには他に兄弟がいるらしい。それが兄か弟か、妹か姉かは知らないけれど。…ハジメはあまり知られたくないといった風に見える。


「気にすんな」

「…あぁ」


俺とハジメの間に引かれた薄い線。

飛び越えることはあまり難しくないだろうが…なぜか勇気を出せない自分がいた。



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