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地獄の沙汰も洗濯機次第

作者: 桐之霧ノ助

ここは生前悪いことをした人間が死後、その行為を悔い改める場所である。

人はそれを地獄と呼んだ。


「俺、配属先ここであってたよな......?」


俺は入獄式を終え、一人前の鬼として部署に配属される手筈であった。リクルートスーツに角隠し帽を被った姿はわりと人間の青年によく似ている。違う所と言えば罪を犯したかどうか、だろう。

俺は気を引き締めながら、『血の池地獄』と書かれた札のかかっているドアをノックした。


「すいませーん。今日から配属になった鬼塚ですけど......」

「遅い!!」

「ごめんなさいっ!」

「許す!!」

「許すのか......」


そこに居たのは小さい女の子だった。怒っているのかプクーと頬を膨らませている。可愛い。

鬼は見かけによらないというけれど、ここまで小さいと上司と言った感じがしない。


「全く最近の若いモンは困ったもんだな。」

「でも俺、遅刻はしていないですよね?」

「後輩は先輩より先に来るものだと学校で習わなかったのか?これだからゆとりは。」

「先輩、いつからここに居たんですか。」

「ずっとだぞ。」

「えぇ?」

「地獄って言うのは毎日たくさんの人が来る場所なんだぞ!休んでいられるか!」

「俺はどうすれば先輩より先に来られたんだ......?」

「ほら、さっさと行くぞ!!」


俺は先輩に手を引かれるようにして着いて行く。こうしてみると子供がお菓子売り場に親を引っ張っていくのに似ているが、それを言うとクビが飛びそうなので言わないでおこう。


--------------------


「ここが鬼塚の担当の配置場所だ。」

「何ですか、これ。」

「血の池地獄だぞ。鬼塚も知っててここに来たんだろうが。」


俺が想像していた風景は、炭の汚れがべっとりとこびりついた鉄釜の中に人々が阿鼻叫喚しながら沈められているものだった。

しかし現実は違った。

そこにはどでかい洗濯機が何個も鎮座していたのだった。


「これ、どう見ても洗濯機ですよね。」

「お前の家の洗濯機はこんなに大きいのか。」

「そんなわけないじゃないですか!俺はてっきり絵本に出てくるような洗濯機を想像していたんです!!」

「そんな昔の物、今も使っているわけないだろう。本当に馬鹿だな。」

「そういうもんなんですかね、地獄って......?」

「だってアレ、燃費悪かったし、人件費も結構かかってたから。」

「地獄もそういうの気にするんだ......」


地獄の番人はお役所仕事で、機密情報をしっかり守っていることに定評がある。時々、個人情報が洩れて下界まで伝わってくることがあるがそれはある程度仕方のない事のようにも思う。

そんなわけで、俺には絵本程度の伝承の知識しかなかった。


「これになってからはボタン操作一つで仕事も出来るようになったし、人材もいらなくなったし、おかげで血の池地獄は私一人になって......暇も増えたし......」


そう言って回想する先輩の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。


「大丈夫です。これからは俺がヒマつぶしの相手になりますよ。」

「鬼塚......お前......!」

「先輩......!」

「馴れ馴れしいぞ。今日会ったばっかりだろうが。」

「薄々、そんなことを言われる気はしていた。」


涙はとっくに引っ込んでいるようだった。日常茶飯事なのかもしれない。


「これになってから顧客満足度が30%もアップしたんだからな!」

「どうしよう。それが上がっていいものなのかどうなのかが全く分からない。」


果たして地獄の顧客が地獄を受けた後、満足して良いのだろうかという疑問が頭に浮かび上がる。細かいことは突っ込むべきではないのかもしれない。

早く慣れよう。

俺はそう心に決めた。


そして一通り説明を受けた後、先輩は仕事があるからと行ってしまった。暇を持て余しているのならもっと新人研修に力を入れれば良いのに。

俺は配置につくとそこら辺に散らばってオドオドしている罪人たちを無造作に洗濯機に放り込む。

免罪符ならぬ洗剤符と書かれた札型の洗剤を放り込み、タッチパネルで洗濯機を操作した。

洗濯機の中からは罪人たちの阿鼻叫喚の声が漏れ聞こえてくる。形は違えど流石は地獄。人々を改心させるツボを分かっている。もうこれに懲りたら来世では二度と悪事は働かないだろう。

先輩が慌てて駆け寄ってくるのを視界の端でとらえた。


「バカ!鬼塚!ちゃんと洗濯表示を見ろ!!」

「そんなものあるんですか?」

「あるに決まってるだろ!罪状によって分けないと予想以上に苦しんでしまうだろうが!」

「地獄なのに意外と良心的だ。」

「あと、色物はわけるんだぞ!」

「それも何か理由があるんですか?」

「いや、単にこれは私の性格の問題だ。服に色移りすると面倒だろ?」

「そうだけどそうじゃない感が強すぎる。」


まぁ、回し始めたものは仕方ない、と言いながらそのまま洗濯機を回し続ける。

それで良いのか。


数十分経つと洗濯機からウワーウワーという洗濯が終了した合図が聞こえた。そこはこだわりの地獄仕様なのだろう。

ともあれ気の抜けたような罪人たちをどうしようかと考えていた。

そこらへんに放り出すわけにもいかないし、そこら辺の説明を聞くのを忘れていた。


「ちゃんと脱水もするんだぞ。」

「うぉ、びっくりした。」


気が付くと隣に先輩がいた。小さくて気づかなかったとは言えない。

意外に先輩は面倒見が良いのかもしれない。


「脱水って、天日干しでもするんですか?」

「ホラあそこにあるだろ。脱水機。」

「何ですかアレ。」

「もしかしてアレを見たことがないのか!?若僧め。」


そこにはどでかいローラーらしきものがあった。大きさゆえにまさか脱水機だとは思わなかった。

にしてもアレはどうやって使うのだろうか。


「こうやって使うんだ。」


ローラーの間に罪人を放り投げリモコンをピッと押す。

ローラーは回転して罪人を取り込んだ。ギャァァァァァ、という叫び声が聞こえているのだが、それは地獄だから仕方がないのかもしれない。

そして出てきた罪人はさっぱりした顔をしていた。

毒素が抜け落ちたというべきか、しっかりと洗濯されたようである。


「変なところだけアナログですよね。もう少しやり方があったでしょうに。」

「多分そこだけ予算が下りなかったんだろうな。地獄の財政もわりとカツカツだから。」

「カツカツなんだ。」

「まぁこの方法の方が罪人には効き目があるし、一石二鳥だろう。」

「罪人、大丈夫なんですかね。」

「お前、地獄なんだからいくら痛くても死ぬわけないだろ。」

「あ、そっか。」

「私達も死なないから24時間体制で働かされてるけどな。」

「ブラック中のブラックじゃん、流石地獄。」


最早、それ以上の言葉が浮かばなかった。24時間のうちのほとんどは洗濯機の仕上がり待ちなのでやることがないと言ってしまえばそうではあるのだが。

求人広告にはアットホームな職場と書いてあったのだが、本当にホームになるとは思っていなかった。


「まぁ、これからもよろしくな。鬼塚。」

「はい。先輩の姿見てるとツッコミする気力が失せました。」


俺は先輩と握手しながら、転職先はどこにしようかと考えていたのだった。

今回はフリーダムノベルズ主催の洗濯板という企画で出させてもらいました。

最初はアクションで行こうかと思っていたのですが、エンタメ重視ということだったのでギャグで書かせてもらいました。

イカれた設定にイカれた設定をぶつけて何とか体裁を保ったような短編です。

感想、評価などいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 淡々としたストーリー展開ですが、最後まで楽しく読めました。良くまとまっている感がありますように。
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