嘘つきな彼と転入生な彼女
甘々ではありませんが、楽しんでもらえれば幸いです。
窓の外から聞こえる鳥の泣き声と共に俺こと『海道 真司』は目を覚ました。時計を見ると時刻は7時を指していた。
「もう朝か。」
俺は洗面台で顔を洗い、部屋の壁にかかっている制服に着替えて1階のリビングに向かった。
リビングは閑散としていた。ふと、机を見ると置手紙が置いてあった。
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真司くんへ
今日は仕事があるので早めに家を出るから遅刻をしちゃ駄目だよ?
あと、朗報です!今日は私のクラスに転入生が来るそうです。
とても、かわいい子だから真司くんも気に入ると思うよ!
気をつけて学校に来てね。じゃあ、また学校で!
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置手紙を呼んでいる間に俺は朝ごはんを食べ終えた。時刻はすでに8時になろうとしていた。
「行って来ます。」
俺は玄関で靴を履き、誰もいない家に向かって一言いってから家を出た。
15分程歩くと、大きな校舎が見えてきた。
あれこそが俺の通っている高校『市ヶ谷高校』だ。偏差値は国内でも上位に入っており、部活動も盛んという文武両道をモットーとしているバリバリの進学校だ。
俺は、昇降口をくぐり2年1組の教室に向かった。
教室に入ると、クラスメイトたちから挨拶の嵐が来た。
「おはよう、真司くん!」
「うん、おはよう寺川さん。」
「海道君、おはよう!」
「うん、渡辺さんもおはよう。」
これを繰り返すこと10分、俺はようやく自分の席に辿り着くことができた。自分の席に着くと前に座っていた『大沢 悠斗』がニヤニヤしながら話しかけてきた。
「おうおう、人気者は大変だな。」
悠斗の冗談めかした言葉に少し腹が立った俺は仕返しをした。
「そうか、じゃあそんなことをいう奴には勉強を教える必要はないな。」
「そっ、それは!真司!頼む、見捨てないでくれぇー!」
俺の返しが予想外のものだったのか悠斗は慌てて謝罪をし始めた。
「はいはい。あっ、そういえば。」
「なんだ、どうかしたのか?」
俺が何かをふと思い出したのを察したのか悠斗は鸚鵡返しに聞き返してきた。
「あぁ、今日からうちのクラスに転入生が来るらしい。とびっきりかわいいらしいぞ真由美さんによると。」
俺は置手紙の中に書いてあったことを話した。
「まじかよっ!よっしゃーーー!楽しみだぜ!」
「その話、本当?」
悠斗が目の前で叫んでいるのを見ていたらちょうど登校してきたのか『時坂 ひより』がバックを持ったまんま聞いてきた。
「多分ね、真由美さんもうれしそうだったから本当なんじゃないかな?」
そんな会話をしていると教室のドアが開き、若々しい声が教室内に響いた。
「はーーい、席についてーー。HR始めるよーー。」
そう声を上げたのは『天崎 真由美』両親がいなくなった俺を引き取ってくれたいとこであり、2年1組の担任だった。
「早速だけど、今日は皆さんに朗報があります!なんと、このクラスに女の子の転入生が来ました!」
男子は「「「うおぉぉぉっっっ!!!」」」と声を上げ、女子はひそひそと小さな声で話をし始めた。
「じゃあ、星野さん。入ってっ!」
俺は、真由美さんの言葉に心の中で突っ込んでいた。
(そんなに盛り上がられたら余計、入り辛くなるだろうに・・・っ!)
俺は、真由美さんの呼んだ名前に微かな違和感を抱きつつ躊躇なくドアを開けた顔も知らない転入生に驚いた。そして、その顔を見て思わず絶句した。
「嘘、だろ?」
俺は、目の前で起きている出来事を心底、嘘であることを望んだが現実は無常だった。
「初めまして!親の都合でこちらに転勤することとなりました、星野 芹菜です。こちらに来るのは初めてなのでいろいろ教えてくれるとうれしいです。よろしくお願いします!」
元気そうに挨拶をするのは昔は同じ地区に住んでおり、小学校から中学校2年まで一生の学校に通っており、もう再会することもないだろうと思っていた・・・
・・・俺の最初で最後の初恋の女の子がいた。
「「「うおぉぉぉっっっ!!!」」」「「「きゃぁぁぁっっっ!!!」」」
俺のそんな考えは教室中に響いた男子と女子の叫び声で遮られた。
パンッパンッ
「はいはーい、うれしいのは分かるけど。静かにしてねーー。」
先生が手を叩き、注意を何度かすることで叫び声はようやく収まった。
「うん、じゃあ質問タイムだよ質問がある人は手を挙げて言ってねー。」
先生の言葉と共にクラス中の生徒が一斉に手を挙げた。
「真司。星野さん超かわいくないか!?」
前に座っている悠斗が少し興奮気味で話しかけてきた。
「・・・あぁ、そうだな。」
俺は、質問攻めにあっている星野を気付かれないように横目で見ながらボソッと答えた。
正直言って、星野はとてもかわいい。
肩甲骨まで一直線に伸びた茶髪は一本一本が決め細やかでより綺麗に見える。
目の色も淡い茶色で比較的白い肌ととてもマッチしている。
しかし、一番はなんと言っても本人のスタイルだろう。
顔は小さく、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。足もかなり細くどこかの女優さんじゃないかと疑うほどにかわいい。
「どうかしたのか、真司?ノリが悪いぞ?」
「あ、あぁ、なんでもないよ。」
悠斗の言葉で俺は正気に帰り、笑みを貼り付けた。悠斗はそんな様子に気付いたそぶりはなく、質問攻めに加わっていた。
すると、今度は隣に座っているひよりが話しかけてきた。
「真くん、少し顔色が悪そうだけど大丈夫?」
ひよりは心配そうな表情で指摘した。
「今日は、少し寝不足気味でな。顔色が悪いのはそのせいだろ。」
俺は内心、冷や汗をかきながら咄嗟に思いついた言い訳で対応した。
「そうなの?あんまり無理はしないでね?」
「あぁ、心配してくれてありがとう。気をつけるよ。」
俺はひよりに気付かれないように小さく溜息をついた。
俺の過去についてはあまり知られたくないことなので俺は、同じ中学校の人が来ないであろう都心のトップ校に来た。だからこそ、星野が来たのは衝撃的で尚且つ心配だった。
星野は学年の中心にいて、生徒会やら委員長やらを率先してやっていた。
対して中学校での俺は、目立たずがモットーだったので名前はあまり知られていないはず。
(ともかく、何とかして星野に気付かれないようにしないとな。)
密かに覚悟を決め、上を向くと運が悪いことにちょうど星野と目があった。
「(ぺこり)」
俺は内心、ひやひやしながら爽やかな笑顔を貼り付け小さくお辞儀をした。
「(ぺこり)」
星野も不思議そうな顔をしながらお辞儀を仕返してくれた。
そうして、何事もなく時は過ぎていった。
時は進み現在は昼休みだ。
俺はいつも通り悠斗・ひよりと一緒にいた。
「二人とも先生に呼ばれた?」
「あぁ。」「はい。」
俺の問いに二人は淡々と答えた。
「そっか、じゃあ昼飯は先に食べてる。いつもの場所にいるから。」
俺は二人と一時的に別れ、一人屋上に向かった。
屋上のドアを開くと心地良い春風が吹いてきた。屋上には誰もいなかった。ここで俺たち3人はいつもご飯を食べている。あまり知られていないのか屋上を使うのは俺たちだけなので実質、独占だった。
「ふぅ・・・。」
俺は、フェンスに寄りかかるように座って空を眺めた。
空は雲ひとつない青空で見ているだけで心が晴れていく感じがした。
俺が空を見上げていると屋上のドアがゆっくり開けられた。そちらへ視線を向けて俺は体を固めた。
俺の視線の先には先ほど教室で質問攻めにあっていた星野 芹菜がいた。
「どうかしたのかな、星野さん。」
俺は、何とか笑顔の仮面を貼り付けいつもの調子で話しかけた。
「・・・。」
対する星野は無言だった。じっと俺のことを見つめてくるだけだ。
「えーと、誰か探してるのかな?ここには俺しかいないよ?」
声が震えているが気付かれた様子はない。
「問題ないよ、探してるのはあなただから。」
ここでようやく星野さんは声を発した。その声は中学校のときとは違い少し大人びたように感じたのは俺の気のせいではないだろう。
「俺に何か用かな?学校のことで困ったことがあるのなら遠坂さんに聞いたほうがいいと思うよ。」
俺は何とか話を終わらせようと話題をそらそうとした。
「そんな他人行儀な話し方はやめて。私のこと覚えているんでしょう、海道 真司くん?」
名前を呼ばれた瞬間、覚えていてくれたという事実がちょっとうれしかった。
「何のことかな。俺は、星野さんとは今日が初対面だと思うけど?」
「そう、あくまで他人って言うのね・・・。」
「あくまでって言われても俺は星野さんのことを知らないんだから仕方ないじゃないか。」
「・・・私が中学校2年生の頃にある一人の生徒が周りの人たちに何も告げずにいなくなったの。その生徒の名前が『海道 真司』。」
星野は唐突に昔話を始めた。
「・・・。」
俺は、変に情報を与えないように口を噤んだ。
「その生徒がいなくなる1ヶ月前に私の住んでいた町である事件が起きたの。一軒家に強盗が侵入して当時家にいた大人二人を殺した後、その子供に殺されたんだって。その海道君は正当防衛が成立して何の罪にも問われなかったんだけどその後、学校で海道君はこう呼ばれていた。『人殺し』って。」
その話しを聞いた瞬間、俺の頭の中からあらゆる考えが抜け落ちた。
「・・・それが俺だってことかな?残念だけど、違うよ。同姓同名だから疑っちゃうのは無理ないかもしれないね。」
俺は肩をすくめて言葉を続けた。
「それにだ、確かにひどい話だと思うけどそれが星野さんにどういう関係があるのかな。話しだけを聞いていると何も関係ないように聞こえるんだけど?」
俺は、星野の真意を知りたいがために自分から質問をした。
「私は、当時その学年のリーダー的存在だったの。なのに私は海道君を助けることができなかった。私なら何とかできたかもしれないのに。何か言ったら次は私がいじめの対称になるんじゃないかって不安になって結局、自分の保身のために海道君を『黙れよ。』・・・えっ?」
星野は淡々と語っていたが途中で俺に遮られた。その一方で俺は肩を震わせ怒りをあらわにしていた。今となっては俺の過去がばれる事なんてどうでも良かった。
「私なら助けられた?不安で助けられなかった?自惚れるなよ、阿呆が。そもそも彼はお前に『助けて欲しい』と頼んだのか?」
俺が、怒っているのを感じ取ったのか星野は少しおびえ気味に答えた。
「う、ううん。彼から『助けて』って言われたことはなかった。」
「ならそれが答えなんだろう。彼とやらとどんな関係だったかは知らないが助けを求められていないのならば別に無理に助ける必要はない。自分のみを犠牲にしてまで他者を助けようとする奴はある意味で狂ってんだろうと、俺は思うが?」
「で、でも私はっ!『おーーすっ、真司はいんのか?』」
星野が言葉を続けようとしたところでドアの置くから呑気な声が聞こえた。
「あぁ、ここにいるよ。」
俺は、怒りの形相からすぐさま笑顔の仮面を貼り付け爽やかな声で答えた。
「おおー、遅くなって悪かったなって、なんで星野さんがいるんだ?」
屋上に入ってきたところで悠斗は至極当然な疑問を聞いてきた。ひよりも同じように驚いていた。
「俺が星野さんの故郷の話を聞きたいって頼んだんだよ。」
俺は、あらかじめ用意していた言い訳を使った。
「そっか、まぁべつにいいか。そんなことより早く飯を食べようぜ。」
悠斗はニカッと笑いながら言った。こういう時、悠斗の能天気さは役に立つ。
「うん、そうだね。時間もないし早く食べようか。・・・星野さんも一緒にどうかな?」
ひよりはおどおどとした様子で星野をご飯に誘った。
「うん、ありがとう。お言葉に甘えさせてもらおうかな。」
星野はうれしそうに答えた。
それ以降、俺たちは4人でいることが多くなった。
一緒にご飯を食べたり、帰りに4人でファミレスに行ったり、近くの俺の家に来て夜ご飯を一緒に食べたり今、思えばとても長い時間一緒にいたような感じがする。
星野もこの日以降、俺のことを調べようとよく聞いてきた。
適当にはぐらかしていたのでどう思ったかは分からないが、その疑問は今日、解消されるのだろう。
今日は、2年生が終わる終業式の日だった。
終業式が終わった後、俺はLIN〇で星野に呼び出されていた。向かった先は始めて会話をした屋上だった。
「待ってたよ。」
星野は笑みを浮かべながら声を掛けてきた。
「こんな場所に呼び出して何のようかな?もしかして、告白かな?」
彼女も彼女なりにいろいろと俺の事を嗅ぎ回っていたようなのでもう誤魔化しは通用しないだろう。
「こっちで初めて話したあの日の話し、覚えてるよね?」
「もちろん、忘れられないさ。」
俺が、自嘲気味に言うと星野は小さく「やっぱりね。」と呟いた。
「同一人物だったんだね、海道 真司君。」
「そうだね、星野 芹菜。本当に久しぶりだ。この学校に来たときを抜けば約3年ぶりかな?」
「誤魔化さないんだね。」
「この場所に呼び出したということは、どうせ決定的な証拠でも持っているんだろう?」
「えぇ、あなたがまたはぐらかしたら出して驚かせてやろうと思ったのに残念だな。」
そこで話が終わってしまった。俺たちの間に重い沈黙が流れる中、星野は次の瞬間、衝撃的なことを言った。
「そういえば、あなた。私のことが好きだったんでしょ?」
「はっ?」
俺は突如、頭を鈍器で殴られたような気分になった。
(ばれている筈がない、彼女と話したのは一度きりなはずだ。)
そう、俺が星野と話したのは高校を除けば一度きりだった。そして、その日から俺の初恋は始まった。
「・・・どうしてそう思ったのかな?」
「その反応から見て、本当なんだね。」
「・・・。」
「なんで分かったか教えてあげましょうか?」
俺が呆然としているところに彼女は自慢げに説明を始めた。
「中学校のときから私に好意を向けてくる人はたくさん居たんだけどそのせいかな。そういう感情に敏感になっちゃってね。あっちいた頃何度か目があったでしょ。でも、この学校で再会してもあなたからはまったくといっていいほど何も感じなかったから今までは半信半疑だったんだけどね。」
「じゃあ、なんで確信したんだ?」
「私がこの話をした時に君が理由を最初に聞いてきたから。君が否定をするときはきっぱり言うし、なにより今までも何度かその反応を見たことがあって、その時は大抵、図星の時だったからかな?」
「・・・よく見てるんだな。」
「そりゃあ、伊達に一年観察してたからね。それでどうなの?今更逃げれると思わないでね。」
星野は気分がいいのか一気に距離を縮めて俺の目の前に来た。近づいて来た時、とても良い匂いがして俺は思わず顔を赤くした。
「はぁ、降参だよ、降参。星野さんの勝ちだ。・・・でも、今は別に君のことを好きなわけではないからそこは勘違いしないでくれ。」
俺は、後頭部を掻いた後大人しく認めた。しかし、素直に認めるのも恥ずかしいので嘘も言ってしまった。
「うん、それは分かってるよ。だからさ・・・、覚悟してね?」
「覚悟って何のことだよ。」
俺が聞き返すと、星野は待ってましたと言わんばかりに元気よく俺に指を差しこう宣言した。
「絶対に、もう一度あなたを私に惚れさせて見せるから。覚悟してね?」
魅力的な笑顔と共にそんな爆弾を残して星野は足早に屋上から去っていった。
「・・・とっくに俺の負けだよ。」
俺は、先ほど嘘をついた。
・・・俺の初恋はまだ終わっていないのだから・・・。
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