2限:クラスメイト
「じゃぁ、“にゃあ”から。にゃあは禰祜宮小猫だニィ~。一年で狙撃手だけど普段は選抜射手やってるニィ」
「――にゃあ?」
「よろしくニィ~」
「――宜しく」
四人の中では最も小柄な少女。そして、四人の中で一番、制服の着こなしが自由。甘いイメージのアクセサリや猫の図柄を配った缶バッジを思い思い着け、学年カラーの赤ではあるものの、タイではなくリボンをセーラー襟から垂らす。セーラー服そのものがサイズが大きいのか、ズレて鎖骨と肩口が覗く。右足にはボーダーのオーバーニーソを、左足には短いソックスと互い違い。
左右の瞳の色が違うのは生来なのか、人工的なものか迄は分からない。
猫耳を模したリボンで括ったツインテール、いや、ツーサイドアップというヤツか、の髪型に猫を象ったピン留めも相俟って、実に子供っぽい。尤も、人懐っこさがそうさせていはいるのだが。
美容生體工學によるカラーチェンジでド派手なピンクの髪色。狙撃手を自称はしてはいるが、そんな色合いでは敵に見つかってしまうぞ!
それにしてもだ。一年生って。
複式学級だったのか、このZ組というクラスは。頂點、とは一体、何なのだろうか。
聞いていた話とは大分ニュアンスが違う。
「それじゃ~、次はー……」
「はい、それでは――わたしは番匠咲希っていいます。二年生になりました。所属は需品科ですけれども、専攻は情報と電算処理、隱祕學他になります。
これから仲良くして下さいね」
「――こちらこそ」
制服はスカート丈が短いものの、ほぼ指定通り、着崩しもない。精々、タイを学年カラーの黄色いスカーフに変えているくらい。併し、レザーのビスチェをノースリーブジャケットの上から着けている。元々、ジャケットそのものがウエストラインを絞ってみせるデザイン故、シルエットが美しくバストも豊満に見える。否、抑々巨乳なのか。
明るい髪色だがセミロングに切り揃え、三つ編みでハーフアップにまとめている姿は生真面目過ぎない清潔感のある印象。
違和感を感じるのはアクセサリの類を多く付けている事。指輪にブレスレット、ネックレス、イヤリング他、比較的ゴテゴテした武骨な代物。
「じゃあ、英さん、どうぞ」
「ダー。ぼくは英エカテリーナ、二年生。只の白露西亞忍者だし。蘇維埃出身なのに“英”っておかしい、とか云わないで欲しいし。後、気軽にカーチャって呼んでもいいし」
「――カーチャさん、でありますか」
「さん、はいらないし」
禰祜宮という子程ではないにしろ、この女子生徒も小柄。新年度早々というのにも関わらず、夏服なのか半袖。代わりに日本古来の籠手を着けている。タイは細身に変え、蝶結びにして垂らし、小型の胸当てをノースリーブジャケットの上に着けている。
一見、プラチナブロンドのボリューミーなボブに見えるがその実、襟足が極端に長いダブルウルフ。手裏剣状の髪飾りが奇妙。大きな目だが半眼、所謂、ジト目というヤツだろうか。何となく気怠げな印象。
「最後に、羽衣石さん」
「あたしは羽衣石楓子……三年」
「――」
同じ学年、という訳か。
四人の中では一番真面だろうか。番匠という子同様、スカート丈は短いが指定通りの制服、学年カラーの青いボウタイをぱりっと締めている。取り立てて変わったところは見当たらず、単に黒いサイハイソックスを履いているくらい。比較的背が高く、スレンダーな為、モデルの様な印象。
ストレートの黒髪は木目細かく清楚なイメージだが、切れ長で僅かな釣り目の影響か、或いは細面で整った顔付の影響からかクールで強気に見える。単に彼女が不機嫌なだけかも知れないが。
「えーと……もしかして、羽衣石さん……終わりですか?」
「……はい」
取っ付きにくい女子だな、こいつは。
機嫌が悪いんじゃなく、警戒しているんだろう。女ばかりのクラスに男子が入ってきたら、そりゃ身構えもするだろう。或いは単純に男嫌いなのかもな。
それにしても、視線から感じる敵意が凄い。
相当、嫌われているな。
女装してきたのが拙かったかもな。変態、だと思われているかも知れない。
他の三人は兎も角、この女だけは気を付けよう。
「……それじゃあ、先生も自己紹介しておきますね。
先生の名前は、流川乃希亜っていいます。この春からZ組の副担任をさせて貰ってます。担当は一般教養です。どうぞ、よろしくお願いしますね」
「はい、勉強させて戴くものであります」
成る程、一般教養の教師か。
どうりで、緊張気味な訳だ。
生徒とはいえ、専門家共を前にして怖じ気づいている、といったところか。
「それから、Z組の生徒さんはもう一人います。訳あって夜学の生徒さんなのでなかなか出会す機会はないとは思いますけど、もし会えたらご挨拶してくださいね」
夜間課程があるのか?
と云う事は成人で兼業者がいるのか?
考え難いな。蓋然性が低い。
「あっ、もう時間ですね!それでは朝のホームルームはここ迄にしておきましょう。
本来でしたら今日から通常授業が始まる予定でしたけど、百鬼さんの転入初日という事ですから、恐らく特別授業になるかと思います。
詳しくは、担任の南條先生の指示に従ってくださいね」
特別授業――ね。
一体、なにをするんだ?
こんな事を思っている場合ではないのは百も承知だが――
迂闊にも、
――楽しみ、だ。