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【まとめ版】タイミング良く精神が入れ替わる私と俺  作者: 氷見
第一章 始めての入れ替わり
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第六話㋓ ナタリーとのデート

 目が覚めると知らない天井が広がっている。

 意識がゆっくりと覚醒してくると、あきらかに違う天井に驚き、がばっと起き上がる。


「お嬢様、急に起き上がるのはおやめください、びっくりします」


 声が聞こえた場所に目を向けると、ナタリーが紅茶の準備をしている。

 久しぶりに見たナタリーに見とれて、しばらくガン見していると、不思議に思ったのか聞いてくる。


「私の顔に何かありますか?」


「いや、何も無い……よ」


 ふぅと溜息を吐く、ナタリーに不審がられるのは出来る限り避けなければ……。

 まずは状況の確認だな、と今どこにいるのかを考えると、コリデ砦の近くにあるリャヌラの街だった。

 どうやらスカーレット嬢は、アロガンシア王国が第一目標にしているコリデ砦を見に来ているようだ。

 いざとなれば撃退する気なのだろう、あれから数日立っているがジェレミーが言うにはまだ奇襲する日は決めかねているらしい。


 軟禁部屋に五日ほど過ごしていたが、ジェレミーが何らかの理由をつけて会いに来て色々と教えてくれる、情報は確かだろう。

 だが、一人で軟禁されていたからなのか、日ごとに体がだるくなり、動くのも億劫になっていた。

 目の下に隈ができ、ジェレミーから心配され、良く眠れるようにとお酒を持ってきてくれたが、あまり意味は無かった。


 スカーレット嬢の体を動かしてみると、軽快に動く。

 やはり気分の問題なのか? と思いながらナタリーが入れてくれた紅茶のある机へと向かい席につく。

 紅茶を飲みながらまったりしていると、ナタリーが聞いてくる。


「今日からどうなさいますか? 街で情報収集か、コリデ砦周辺を調べるか悩んでらっしゃいましたが……」


 その事を考えると、昨日この街に着き話し合った記憶を思い出す。


「さすがにコリデ砦周辺を、紅蓮の魔女がうろつくのはまずいな」


 きっとアロガンシア王国の密偵やらが周辺状況を見回っている可能性が高い。

 そんな場にモデスティア王国の有名人が歩き回ると、逆に刺激しそうだ。


「紅蓮の魔女?」


 ナタリーが首を傾げ、スカーレットの二つ名を言葉にする。

 そう言えばスカーレット嬢の二つ名は、俺たちの国で言ってるだけの二つ名だったな、と思い出す。


「気にしなくてもいいよ、アロガンシア王国ではそう呼ばれてるみたいでね」


 口調がおかしくなるが、それ以外はスカーレットだ。

 頑張っても、女性言葉を発せる勇気が出ない、だが頑張りたい、頑張るしかない。

 いつかナタリーに不審に思われないくらい擬態できるようになれば、スキンシップも夢ではないだろう。

 その時の事を思い描くとわくわくする。


「そうですか、では街で情報収集ですか?」


「そう……ね、それで違和感が見つかれば軍も動けるで……でしょうし」


 うん、頑張ったぎこちないがいずれ慣れてくればスムーズに言葉がでるだろう。

 寝間着から外出用の目立たないが、しっかりとした服へと着替える。

 当然ナタリーが超速で着せ替えてくる。

 

 そういえば筋トレはどうなったのだろう、思い描くと、夕方にまとめてやっているようだ。

 記憶を見るだけで、五日前より体力がついているのが分かる。

 きっとナタリーが食事や、休憩など訓練以外にも気を使って対処しているのだろう。

 相変わらずの高性能ぶりのナタリーに驚きを隠せない。


 ナタリーの事を考えていると、侍女服から町娘のような服に着替え終わっていた。

 下着姿をみるチャンスだったのに……と気落ちしていると、ナタリーは顔にそばかすを書き、いもっぽくした見た目に化粧をしている。

 まあ当然の処置だろう、ナタリーほどの美人が市井に下りれば、もっさい男どもが寄ってくるだろう、寄らせないがな。


「まずは商店に向かい、その後酒場などで聞いてみましょう」


 ナタリーのやる気が凄い、俺もしっかりせねばと決意を新たにして街へと繰り出す。

 適当にぶらぶらしながら、街をナタリーと一緒に歩いていると何か込み上げてくるものがある。


 デートみたいだな、と思うと胸が高鳴る。

 よく考えると、女性に対して免疫が無い事に愕然とする。

 俺の人生はなんだったのだろう……と隣を歩くナタリーを見る。

 逆化粧をしているが、かわいさはにじみ出ている。まあなんであれ今は幸せだから良いかと思う。


 お昼まで色々な人に聞いて回った。

 当然ナタリーや俺に声が掛けられた事もあったがナタリーの静かな目線に恐れをなして離れてくれた。

 アロガンシア王国の事は直球には聞けないため、それとなく遠回しに聞いた。

 最近変わったことは無いか、知らない人、怪しい人、不審な武装した人物、夜に外に出歩いて集まっている集団などを聞きまわった。


 ナタリーと昼食を取り、情報を精査する。


「最近、知らない人が多く入って来ているのは確か見たい……ね」


「そうですね、夜に集団で動く物音を聞いたという話もありましたね」


「まあ、確証を得るほどの情報は無い……わね」


「お嬢様、なぜ最後に言いよどむのですか?」


 さすがに違和感が働きすぎたのか、ナタリーが聞いてくる。

 

「ちょっと思考に没頭してるだけよ」


「……そうですか」


 納得してくれたようだ、スカーレット嬢になりきるんだ。と、頭の中で反芻する。

 あまり聞きまわっても決定打は出ないようだ、まあそうだよな……。

 しょうがない、コリデ砦周辺でアロガンシア王国の密偵でも捕まえるかな、と考えるがそれは明日にしよう。


「今日はもう少し街を見て周ってから帰りましょう」


「わかりました」


 もう今日のお仕事は止めて、街中をナタリーと歩こう、デートの様に。

 しばらく間、街を歩いていると露天商がアクセサリーを売っている。


「お嬢さん、お嬢さん、ちょっと見ていかない?」


 そう話しかけてくる男は、なかなかのイケメンだった。

 だが、スカーレット嬢の中身は俺である男だ、甘いマスクだろうが、良い声だろうが引っかからない。

 ちらっとアクセサリーを見ると、ナタリーに合いそうなネックレスが見える。

 ナタリーの為なら買いたいな、と考え直し露天商の男の元へと近づく。


 ナタリーは隣の露店の男と話をして情報収集をしているようだ。

 見て無いうちに買って、後で渡して驚かそうと目当てのネックレスを取ろうと手を伸ばすと、露天商の男の手が俺の手を軽く掴む。


「こちらの指輪などお似合いですよ」


 そう言いながら、マダムならいちころだろう笑顔を見せつつ、指輪を嵌めてくる。

 げんなりしながら見ていると、男の手に力が入る。


 何だと、思い露天商の男をみると、ニヤリと口元を歪める。

 跳ね除けようとするが、スカーレット嬢のまだ鍛えかけの細腕では跳ね除けられない。

 体が覚えているのか、瞬時に魔法を叩きこもうと、魔力を練るが、魔力が集まらない。


「ふふ、魔法が使えないだろう、貴様が作った物で貴様が死ぬとか笑えるな、まさに飛んで火にいる夏の虫」


 先ほどまでニコニコしていた青年が、醜悪な顔でこちらを煽ってくる。

 いらっとして、掴まれていない左手で顔面に拳を叩き込む、左拳が痛い。


 まさか殴られるとは思っていなかったのか、青年は後ろに転ぶ。


 と同時に近くにいた男が剣を抜き襲い掛かってくる。

 指輪を外したいが、まずはこの男を倒そうと、身構える。


 相手は魔法が使えない事を知っているのか、魔法を無警戒に口元を歪めながら斬りかかってくるが、空気投げの要領で地面に叩きつける。

 すぐさま指輪を外そうと手に力を込めるが、指輪が外れない。


「短時間だがその指輪は外れない」


 気づくと四人の男に囲まれていた。

 ナタリーはどうなったのかと見ると、ナタリーにも四人の男が囲んでいるのが見える。

 なんなのこの用意周到さは、女二人に十二人も用意しているのかよ。

 しかもなんか魔法封じる指輪とか使って来るし、と思うがそんな事よりもまずはナタリーだ。


 助けねばと、地面に這いつくばっている男が落とした剣を拾う。

 周囲を囲んでいる男達は、こちらを侮っているのか、慎重なのか拾っている間に襲ってはこなかった。


「ふふふふ」


 俺は笑いが抑えられなかった、確かにスカーレット嬢の魔法は封じられたが、俺は剣の男だ。

 まずはナタリーをと思い目を向けると、ナタリーがこちらは大丈夫と目で語ってくる。

 長年一緒に暮らしたゆえにわかる意思の疎通があるのだろう、何故か俺にもわかる。

 そんなナタリーの事を考えると、ふつふつと闘志がわいてくる。


「では……いくか」


 赤い炎のような揺らめきが、スカーレット嬢の体を包む。

 身体能力が上がり、一瞬のうちに周りにいた四人の男が倒れていく、斬らずに剣の腹で気絶させた。


 さてナタリーはと思い目をむけると、ナタリーも制圧し終わっていた。

 マジでか……凄い侍女だとは思っていたが、ここまでとは……。


 ナタリーがこちらに近づいてくる。

 先ほどまで命を狙われていたのに、平然な顔で疑問に思った事を聞いてくる。


「お嬢様、その体に纏ってらっしゃる炎みたいなのは何なのですか?」


 そう言いながら、俺の体に揺らめいている炎に触れようとする。


「あっ! 駄目だ!」


 止めようとしたが遅すぎて、ナタリーの手がスカーレット嬢の肩に触れる。

 が、ナタリーは熱がらない。

 おかしいな、と思いながら接触部分を見ると、手は焼けてなく肩に置かれたままだ。


「あれ……熱くない?」


「はい、そもそも熱いのですか? お召し物が燃えていないので熱くないだろうと思ってしまったのですが……」


 なるほどそれで気にせず触ったのか、ナタリーが火傷しなくて良かった。


 自分でもコントロール出来ない力だ、感情が高ぶると体に闘気の炎が纏わりつき、悪意ある付近にいる奴を燃やす。

 悪意が無くても味方すら軽く燃やすために、ついた二つ名が暴虐の赤、戦いの場では単独行動するしかなかった力だ。

 燃やすと言っても完全に燃やすわけではない、近くにいる者が低温火傷のように火膨れるだけだ。まあ直接触れば燃えるけど。


 理由は分からないが、スカーレット嬢の体だと、コントロールできるみたいだ。

 魔力操作が原因なのかもしれない、そうなるとこれは魔力なのか、と思うが魔力を封じる指輪を見ると、そこにある、しばらく指輪を見ていると限界が来たのか音を立てて崩れ去る。


 落ち着くと闘気の炎は消える。

 ナタリーと二人で今回襲ってきた奴らを縛る、自殺しないようにさるぐつわもしとく。

 見物していた街の人に衛兵を呼んでもらう。

 あとは、領主である貴族に話をして、こいつらが何をしようとしたかを白状させて、王都へと知らせる様にと要請する。

 領主に会ったのだが、めっちゃスカーレット嬢を見て怯えていた。

 記憶を思い浮かべると、セクハラされた腹いせに髪を燃やしたようだ、かわいそうに毛根まで焼けたのかつるつるだった。


 宿に帰ってくると既に夕方を超えていた。

 さすがに今日は訓練を免除してもらった、疲れてベッドに腰掛けているとナタリーが話しかけてくる。


「今日の魔法は見たことが無かったのですが、何だったのですか? それにあの動き」


 しばらく考える、あまり下手な事を答えると不審がられると思い、多少の真実を混ぜて答える。


「ある男が自然に行っている魔法のような物を出来ないかと試行錯誤していたのがあの現象なの、それは身体能力も底上げするし悪意ある者を燃やす、触れば火の様に燃える、もしかしたら魔法とは違う技術かもしれない」


 闘気だとは思っていたのだが、今となってはそれも違う気がする。


「たしかに闘気とは少し違いましたしね」


 お昼に起きたことを思い出しているのか納得してくれたようだ。


「そう言えばナタリーに渡すものが」


 買おうと思っていたネックレスを渡す。

 どさくさ紛れに持ってきたのだが、命を狙われたのだ許されるだろう。


「よろしいのですか?」


「ああ、色々と手伝ってくれたお礼」


 受け取ったネックレスを見ながら嬉しそうに微笑むナタリー。

 渡してよかった、そういえば母以外の女性に贈り物なんて初めてだなとか考えていた。

 

「今日は疲れたからもう寝ようか」


「そうですね」


 明かりを消して、ベッドへと横になると、隣にナタリーが来る。

 ベッドは並んでいたなと、思いながらナタリーがいる方へと体の体勢を整え顔を向ける。

 目を瞑るナタリーを見ながら意識は消え眠りへと落ちていく。

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