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【まとめ版】タイミング良く精神が入れ替わる私と俺  作者: 氷見
第一章 始めての入れ替わり
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第五話㋜ 毒を盛られたエカルラトゥ

 目が覚めると、見慣れぬ天井が見えてくる。

 そういえば、コリデ砦の近くにあるリャヌラの街の宿に泊まっていたんだと、身を起こそうとすると、体の節々が痛い。


 寝る前に筋トレしていたからだろうかと、自分の体を触るとなにやらごつごつしている。

 あれ? 私の柔肌は何処にいったの、と体を見ると、筋肉質な体が見える。


「え? 夢じゃなかったの? なんで……なんでまた変わってんのよ!」


 むなしく低い声が部屋の中を木霊する。

 どれくらいかわからないが放心ていた、それも仕方が無い、もう終わったと思っていたのだし。

 エカルラトゥの体に精神が入れ替わるのは偶然で、何か悪い夢のような事だと思い込んでいた。


 いつまでも放心しているのも駄目だと段々と落ち着いてくると、今いる部屋が気になり周囲を見渡す。

 前回居た時の部屋じゃない事に気づき、この部屋の記憶を浮かべる。


 どうやら軟禁されているようだ。

 会議中での失態と、王の決定をまっこうから否定した為、こんな事になったのだろう。

 すでに五日もこの部屋で、筋トレしかしていないようだ。


 しかし体の節々の痛み、頭痛、嘔吐感が込み上げてくる。

 なんなのだろう、と部屋に設置してある鏡で、エカルラトゥの体を写し見る。


 目の下には隈ができ、顔色は悪く、控えめに言って死にそうな感じだ。

 そういえば、エカルラトゥの体でも魔法使えたよね、と自分自身に回復魔法を使ってみる。

 が、症状は軽く収まったが、目の下の隈は消えないし、青い顔も戻らないし、まだ嘔吐感もある。

 鏡で自分自身を観察していると、扉の外でガチャガチャと鍵を開ける音がし、扉が開かれる。


 そこにはジェレミーがいた。


「よ! 元気になったか……って元気じゃなさそうだな」


 ジェレミーの事を思い出すと、ちょくちょく顔を出してくれているようだ。

 情報などをエカルラトゥに話してくれている。

 なんて良い人なのだろう。


「……ああ」


 生返事をしながら、ソファーに座る。


「昨日持ってきた酒は効果は無かったようだな、やっぱ精神的なものじゃないんじゃないか?」


 どうやら色々と鬱屈している為、睡眠不足や精神が削られて体調が優れないのかもしれないと推測したのだろう。 

 ジェレミーはこちらに近づき、顔を覗き込む。


 近い! と思うがさすがに今回は力が入らないし、頭も痛い、払いのける気力が無く身を任せる。

 ジェレミーの顔が目の前に迫りこちらを観察してくる。


 まじまじと見つめあっていると、あれ、良く見ると結構良い男だよね、と思い直す。

 金髪に碧眼で、じゃっかんカールのはいった髪は、純白のきらびやかな服を着れば、それはもう王子様のようだ。

 いや、モデスティア王国の王子は、まあ見た目は悪くは無いのだが、こちらを見ると怯え近づくとそそくさと逃げだす気弱な王子だ、もしかしたら昔なにかしたのかもしれないが記憶にない。


 昔見た絵本にある白馬の王子と言えば、ジェレミーみたいな容姿で剣と魔法も兼ね備えている者を想像するだろう。

 それにエカルラトゥを励ましたりと、色々と世話を焼いてくれる本当に友人思いの良い奴なのだ。

 アリアちゃんには避けられているけどね。

 なぜかジェレミーが近づくと顔を顰め離れていくのだ、なぜなのだろうか、悪くは無いと思うのだけどね、と変なことを考えていると、ジェレミーが立ち上がる。


「もしかしたら毒物なのか……しかしエカルラトゥを毒殺して何の意味が……」


 本来なら聞こえないであろうくらいの呟きを、ジェレミーが漏らしてしまう。

 なるほど、これは毒物の症状なのか、と納得する。

 

 体内から毒物の排出などをする為に解毒魔法は毒の数だけ存在する。

 毒が特定できなければ、使う魔法が分からず手当たり次第になる。

 全ての解毒魔法を知っている者など、そうそう居ない。

 良く使われる毒物については有名なので、それさえ知っていれば事足りるのも事実だ。


 ジェレミーは呟くと用事があると言って部屋の外へと出ていく。

 扉の外で再びガチャガチャと鍵を閉める音が部屋に響く。


 誰もいなくなると、頭の中にある知っているだけの解毒魔法を自分に掛けていく。

 十回くらい色々な解毒魔法をかけると、体が緑の粒子に包まれ、解毒が成功する。


 その毒物は竜種が持っていると言われている劇薬だった。

 一滴で街を滅ぼせると言われている毒物だが、入手する機会など今は無い。

 伝説の毒物と言ってもいいだろう、そもそもこんな解毒魔法は古文書くらいにしか書いてない。

 現物が無いから、私が開発できるという代物でもない。

 ぶっちゃけこれは無いわ、でも一応使ってみよう、で解毒できた私が驚きを感じている。


 そんな毒物をエカルラトゥは少しづつ盛られていたのだろう。

 一滴すら手に入らない極めて貴重な毒を、めっちゃ薄めて使っていたのか、エカルラトゥの体が凄いのか良くわからない。

 もしかしたらゆっくりと体を蝕む毒なのかもしれない。

 まあ私の書庫にある古今東西から集めた古書の中にあったのは、神の采配だろう。

 すごいな私、褒め称えろエカルラトゥ、と思いながら改めて顔を鏡で写し見る。


 目の下の隈は薄くなり、顔色も先ほどより良い、どうやら大丈夫のようだ。

 だが問題が一つある、食事が出来なくなるという事実だ。


 そこが問題だなとベッドに横になり、どうするか考えていると、また部屋の鍵が開く音が聞こえる。

 ジェレミーが鞄を持って部屋に入って来た。


「当分はこれで凌げよ」


 鞄の中身を見ると、携帯食や水筒が入っているようだ。

 なんて、なんて良い人なんだと感動してジェレミーを見ていると目が合う。


「あれ? お前目の下の隈が消えて、顔色も良くなってね?」


「ああ、なんか大丈夫になった」


 いい訳がめんどくさかったから、またふわっとしたいい訳をする。

 訝しむ目を向けられ見つめてくる、その目線にさらされると少しだけ悲しくなる。


「じゃあこれはいらないな」


 そう言いながら鞄を持っていこうとする。


「いや、いや違うのよ、たまたま知ってた解毒魔法使ったら直ったのよ」


 ジェレミーの服を掴みながら止めようとすると、いつもの私の素の言葉がでる。


「なんか時々変な口調になるなおまえ……しかしお前が魔法とか無いわ……まあお前は規格外だからなんか良くわからん力でどうかなったのかもな」


 呆れながらこちらを一瞥すると、鞄を机に置き直し部屋を出ていく。


「また来るから生きてろよ」


 そう言いながら背を向け、手を振りながらジェレミーは部屋を出ていく。

 ジェレミーの男前さに感動しながら鞄の中身を改めて見ると、騎士団で使ってる携帯食なのかあまり美味しそうでは無かった。

 せめて茶菓子くらい用意しなさいよ、と理不尽な思いが浮かぶ。


「まあ、しょうがないわよね」


 そんな呟きが部屋の中に響く。

 しばらくすると食事用の扉に夕食が置かれる。

 そのまま残しておくとそれはそれで面倒になりそうなので、チリも残さず燃やしつくす。


 食器だけ見ると、舐めたかのように綺麗に見えるが、まあどうでもいいだろう。

 ジェレミーが持ってきた、水と携帯食をもそもそと食べる。

 味はあれだが、なんとなく胸がいっぱいにならなくもない。


 食事が終わると、日課になっていた素振りなどをして、ベッドへと倒れこむ。

 軽く運動するのは快眠の秘訣だと知った私は、ナタリーに言われなくても運動するようになってしまった。

 そんな変わった自分を悪くないと笑いながら、段々と意識が遠のき眠りへと入っていく。

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