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【まとめ版】タイミング良く精神が入れ替わる私と俺  作者: 氷見
第三章 親善交流ですれ違いの入れ替わり
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第三十八話㋓ 立食パーティー(六日目後編)

「昨日の仮面舞踏会の事を考えると目立つことはやめようと思う。本来はアロガンシア王国の商人達に大大的に取引になる商品を披露しようと考えていたけど、個別に静かにやろうと思う。あまりギデオンを刺激するのは得策じゃないからね」


 リオンが立食パーティー前に親善交流メンバーを集めて皆に言う。

 賢明な判断だと思う。実際モデスティア王国にいる親善交流メンバーは、魔法技術などを見て軽く萎縮していた。

 もしギデオンがモデスティア王国に行き、魔法技術力や懐の深さを味わったら、自尊心を傷つけられたと憤慨しかねない。


「それに今日が親善交流最後の夜だ。出来る限り平穏に過ごして、国に帰ろうじゃないか」


 皆が頷き、立食パーティーへと向かう。

 今回のパーティーはあまり力が入って無いのか、演出を何もしないようだ。

 それに人も多くない、やはりアロガンシア王国ではモデスティア王国との商取引に魅力を感じていないみたいだ。だが魅力を感じている商人がこれだけいるならまだ良い方かもしれない。

 親善交流メンバーが会場に入ると、人は少ないながらも拍手で迎えられた。

 すぐさま、国境に隣接している領の息子であるリオンへと人が群がる。


「リオン様、少々お話をよろしいですか?」


「どうぞ」


「キャンベル領で製造されている紙についてなのですが……」


 リオンは商人達に捕まってしまった。他のメンバーにも人が集まり、商人達の戦いが始まる。

 スカーレットの領にも紅茶などがあるが、紅蓮の魔女と恐れられているので、誰も近寄ってこない。少し悲しい。


 立食パーティーなので軽食や軽いお酒が準備されているが、毒が入っていると聞いた手前、手に取る勇気は無い。

 参加しているのに、何も手を取らないというのも目立つ気がするが、仕方が無い。


「スカーレット様」


「あれ、フローラ……じゃないフレイヤは参加しないんじゃなかったか?」


「その予定でしたが、あちらからこれを託されましたので……」


 フローラに紙を渡される。手に取り内容を見ると、竜種の劇毒の解毒魔法陣だった。

 しかも範囲内の毒素を浄化できるという、解毒魔法よりも高度な魔法になっている。


「これは……なんでもありだな……」


「お一人で作ったわけではないらしいのですが、凄い方ですね」


「たしかに……これで会場丸ごと浄化出来るけど、絶対目立つな。使うにしてもどうするか考えないと……」


 フローラとこそこそ会話していると、会場中に鐘の音が響く。


「ギデオン様とブリジット様、入られます」


 そう高らかに宣言され、まずはブリジットが入場して、その後ギデオンが入場してくる。

 ギデオンは何故かフードを被っている。下々の居る場所では顔を隠したいとか考えているのかもしれない。


 ブリジットはリオンの方を見て、溜息を吐いた後にこちらに向かって来る。

 

「スカーレット様、先ほどぶりですわ」


「ブリジット様はリオン様に会いに来たのですか?」


「そうなのですが……あれでは近寄れませんわ……」


 顔を赤くしながら答えてくれるが、残念そうだ。

 

「きっとチャンスはあると思いますよ」


「そうですわね、簡単に諦めてはだめですわ」


 力強く拳を握りながら答えてくれるが、王女としてその振る舞いは大丈夫なのだろうか。

 だが、もしこの婚姻が成立すれば、かなりの影響を与えるだろう。

  

「紅蓮の魔女、ギデオン様がお呼びだ、来てもらおうか」


 ブリジットとの会話を裂いて、近衛騎士団団長代理をしているトリスタンが声を掛けてくる。

 しかも名前じゃなく二つ名で呼ぶし、かなり不遜な言葉使いだ。

 本人が対応したら即燃やされてもおかしくない、中身が俺で幸運だったなと思いながらトリスタンについていく。

 ブリジットは何かを言いたそうだったが、何も言えずに俯いてしまった。


 会場の端に連れてこられ、そこにはギデオンがテーブルに着いている。

 ギデオンはそのまま席に座ったまま言う。


「ふふふ……スカーレット、貴女に話があるんだが……座りたまえ」


「……」


 返事はせずに席に着く。

 トリスタンは丁度ギデオンと俺の中間あたりに陣取り、なにかあれば動けるように構えているようだ。

 軽くこちらに殺気を向けているのが分かる。

 ナタリーはいつも通り俺の後ろに待機している。


 ギデオンの従者がギデオンと俺の前にあるグラスに蒸留酒を注ぐ。


「まずは一杯どうだね」


「……いただきます」                       


 断れないと思い蒸留酒を一口飲むと、ギデオンの口角が少し上がるのが見えた。

 やはり毒が入っているのかと溜息を吐く。


「昨日の件だが……無礼講とは言ったが、さすがに私の頭を瓶で殴るのは、当然了承できない」


 やはりそこを突いてくるか……実際に殴ったのはスカーレットだが、公的にはナタリーが殴った事になっている。

 ナタリーに罰をと言われては、スカーレット本人も納得できないだろうし、入れ代わっていた事を話して、俺が罰を受ける方がまだ収まるかもしれない。

 しかしそれでは国家間の問題になり大事にもなる、状況を見極めてから考えよう。


「王族に手を出したとあれば、即死罪だが……私の行いも加味して減刑してあげようじゃないか」


「……ありがとうございます」


 どうだ、寛大だろ? という心の声が聞えてきたので、一応お礼を言う。


「ふふふ、ではその従者をこちらに引き渡してもらおうか」


「え……」


 お礼を言った事を後悔するような事をギデオンが言い出した。

 確かにありえない話じゃない。貴族を害せないから従者を害して面子を保つなんて貴族の世界じゃよくある話だ。

 だがこんな事は了承出来ない、それだったら大事にした方がマシだ。


「この程度で貴女の責任を、無かったことにしてあげようというのだ……」


 ギデオンが喋っているが、それを遮って答える。


「了承しかねます、それに殴ったのは私です」


「お嬢様!」


 ナタリーが非難の声を上げるが手で止める、このままではナタリーを引き渡して手打ちにしろという話が残ってしまう。

 ここは事実を話し、国を介して話をするべきだ。


「私がナタリーに不埒な事をしている白い獣を瓶で殴ったのです。もし異論がおありでしたら、親善交流が終わり次第、国を介して非難してください。それ相応の対応をいたします」


 俺は立ち上がりギデオンに頭を下げる。

 紅蓮の魔女が頭を下げたのが、よほどびっくりしたのか、ギデオンとトリスタンは目を見開いている。

 そのまま立ち上がった状態で、ギデオンとトリスタンに圧をかける。ここだけは絶対に引けない。


「くっ! トリスタン!」


「……」


「どうしたトリスタン! お前なら抑えられるんじゃなかったのか!」


「今の紅蓮の魔女に隙はありません……私の見込み違いです」


 トリスタンが強行してくる手はずだったのかもしれないが、こちらの圧に気圧されて動けないでいる。

 もしかしたら解毒剤を盾に脅してくるかもしれないが、ここまで来たら最後まで付き合おう。


 そのままトリスタンは動かず、こちらの姿勢も変わらないと理解したのか、ギデオンがでかい声で言う。


「……後悔するなよ! 行くぞトリスタン!」


「はっ!」


 二人はそのまま足早に会場を後にした。

 この場でもう少しあるかと思ったが、引き下がってくれたようだ。

 いつの間にかリオンが近くに居たようで話しかけてくる。


「貴女にしては良い対応だったと思うよ」


 凄い上から目線だが、スカーレットが対応したらきっと彼らは燃えていた。

 いや、多少は自重するだろうけど、対応は正面切って断っただろう。


「そうですか? 国の事を考えればナタリーを渡すのが一番だと思いますが」


「だが絶対にそんな事はしないだろう? なら国を動かした方が円満とは言わなくても解決はするだろうし……まあギデオンに遺恨は残ってしまうだろうけどね」


「申し訳ございません……」


 ナタリーが謝ってくる。

 もしかしたら隙をつかれた自分のせいだと思っているのかもしれない。 


「ナタリーのせいではないよ、これはスカーレット……私の責任だ」


 俺の国の、しいては血のつながった兄が原因だ、まったく責任が無いわけではない。

 ナタリーを納得させて、会場を見るとギデオンを怒らせたという事実が会場に広がっているのか雰囲気が悪い。

 こちらを見ながらこそこそと話をしている。

 もしかしたら毒の効果もあって、気分が悪いのかもしれない。

 このまま立食パーティーが終わってしまいかねないが、まだ解毒魔法を皆にかけていない。


 どうしたものかと考えていると、近くに居たフローラが近寄ってきて小声で言う。


「スカーレット様、私が祝福魔法をかけるので、その気に乗じて魔法陣を発動させてください」


「なるほど……それならいけそうだ、ありがとう」


「……私が元凶ですから」


「いや、大本はアロガンシア王家だ」

 

 フローラは苦笑いをしながら、壇上へと向かい皆に宣言する。


「皆さま、両国の関係がよりよくなる為に祈らせてください」


 聖女の声を聞き、皆がフローラを見る。

 一部のニクス教徒が膝を折りフローラに祈りを捧げている。


「両国の未来に祝福を!」


 フローラが祈ると、会場中に青い光のカーテンが広がり、その光に触れた人の周囲が、青色の光の粒子に包まれる。

 皆が上に気を取られている隙に、床に魔法陣を炎を使い形成していく。

 空中には青い光、床には魔法陣の発動する緑の光がかさなり、水色の光が会場を包む。


 幻想的な光に包まれた事に、商人と穏健派の貴族たちが声をあげる。


「ニクス教の祝福魔法は幾度も見たが、これほどのものは見た事が無い……さすが聖女フレイヤの祝福だ」


「先ほどから体が怠かったが、体が浄化されたかのように清々しい気分だ」


 フローラの祝福魔法のお陰で会場の雰囲気は持ち直し、そのまま親善交流のメンバーと商人、貴族達の情報交換は続けられるようだ。

 ブリジットは商人達の隙を狙ってリオンに話しかけている。頑張っているようだ。

 

 解毒魔法陣のお陰で、料理など入っているだろう毒も浄化されている。

 ここに紅蓮の魔女が居座っても空気を悪くするだけだ。


「フローラありがとう、今日はこの辺で失礼するよ」


「こちらこそありがとうございました」


 フローラに別れを告げてナタリーと共に部屋に戻る。

 ソファーに座っていると、いつも通りナタリーが紅茶をいれてくれる。


「ナタリー……もしかしたら入れ替わりはこれで最後かもしれない」


「そうですね、明日にはここを離れますから……」


「色々と……その、迷惑をかけたと思っている」


「私は楽しかったですよ」


 そう言いながら笑顔を俺に向けてくれる。

 こんな笑顔を向けられたら、そりゃ惚れてしまっても仕方が無い。


「俺も楽しかったよ、また会える日を楽しみにしている」


「はい、また会いましょう」


 ここで抱擁でもしたい気分だが、夫がいると知った今じゃやる勇気が無い。

 なので握手だけをする。

 こんな事して、明後日にまた入れ替わったらまともに顔合わせられないかもしれない。


 ナタリーとの別れを惜しみながらもベッドに入る。

 明日はきっとギデオンが絡んでくるだろうが、そこはスカーレットに任せよう。

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