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【まとめ版】タイミング良く精神が入れ替わる私と俺  作者: 氷見
第一章 始めての入れ替わり
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第三話㋓ タイミングが悪い

 意識が戻ってくると、額に軽い痛みと机の感触がする、どうやら倒れてしまったようだ。

 早く起きねば、と素早く体を起こし眼前に広がるであろう桃源郷にわくわくしながら目に力をいれる。


 そんな期待とは裏腹に、目の前には凄い形相の自国の貴族どもがこちらを伺っている。

 想像していた光景とのギャップに、体をわなわなと震わせながら叫ぶ。


「なんでこのタイミングなんだ!」


 そんな魂の叫びをしながら、貴族が着いている広い机に渾身の力で拳を叩きつける。

 本気で殴った為に、炎の闘気が腕に宿り、周囲の空気の温度が上がる。


 轟音が部屋に広がり、机が粉砕し床にくぼみが出来る。

 机に置いてあった燃えやすい資料や物に火がついて燃え出す。


「お、おい、おまえなにやってるんだ!」


 唯一の親友のジェレミーが俺の後ろに回り、脇に手を回して羽交い絞めをして動きを止めようとする。

 しばしハァハァと息を荒げていたが、段々と心を落ちついてくる。


 どうやら元の体に戻ってきたようだ。

 あとちょっとだった、スカーレット嬢の体も見たかったが、それよりも少し離れたところで服を脱いでいたナタリーがブラジャーを外そうとホックを外した瞬間に意識が遠のいた。

 意識しないように、チラッチラッっと様子を伺っていたのだ、本当にあとちょっとだった、あとちょっとだったのだ。

 あまりにも悔しかったため、苦渋の顔をしてしまう。

 それを見て何を勘違いしたのか、ジェレミーが羽交い絞めするのを止め、こちらを伺いながら少しづつ離れていく。


「すみません、失礼します」


 茫然としていたり、憤怒の顔をしている貴族と上司達に頭を下げて部屋を出る。

 誰も何も咎めないので、そのまま部屋を出て自分の部屋へと戻る。


 とりあえず心を落ち着かせようと、母の形見である鏡台がある場所を見ると、そこには鏡台が無かった。


「……え?」


 と、茫然としていると部屋の隅に鏡台の残骸が置かれている。

 中に入っていたどうでも良い物が焼けただれ、残骸と共にまとめてある。


 鏡台の残骸を見つめながら近づき、前まで来ると膝をつき鏡台に手を伸ばす。

 自然と涙が零れ落ちる。しばらくの間そのままの体勢で泣いていると、ノックもせずにジェレミーが入ってくる。

 ジェレミーへと顔を向けると、驚いた顔をしながら話しかけてくる。


「おまえどうしたんだ……今日は朝からおかしいぞ、鏡台はお前が壊したんだろ? てっきり自立の為に壊したとおもっていたのだが……」


 涙を流しているのを思い出し、急いで涙を袖で拭く。

 鏡台は俺が壊したのか……覚えが無い、やはりこの体はスカーレットが入っていたのだろうか。


「……戦争に反対なのか?」


 その質問は散々会議で話し合い、結果戦争をすると結論がされ、それを傍観していた俺に改めて話す事では無い。

 が、自分は腐っても王家の血筋だ、王の考えを否定する事はゆるされない。

 ただでさえ、死してなお売女と罵られ、下賎の血だと母に対して陰口を言われてきた。

 そんな俺の出来る事は、母が罵られないようにと、国に従い頑張る事だけだった。


 だからこそ、戦争に対してやりたくないと思っていても反対する事は出来なかった、いやしなかったと言うべきか。

 だが、今、ナタリーを知ってしまった俺は、絶対に戦争に加担したくない、いや加担しない、と宣言出来る。


 母に少しだけ罪悪感があるが、だがナタリーを殺すなんて事を母が望んでる訳がないし、俺はもっと望んでない。

 どうでもいい貴族共に何を言われようが、信念を貫き通す方が大事だ。

 スカーレット嬢の時に感じたモデスティア王国を思い出す。


「……そうだ、母を悪く言われない様にと、長いものに巻かれ生きてきたが、今となっては絶対に戦争は起こさせない」


 近衛騎士団副団長ジェレミー・ゴットバルトの瞳をしっかりと見ながら言い切った。

 今までは何処か他人事だったが、もうそんな風には思わない。

 明確な意思を持って戦争せずに済むよう動こうと決意する。


「お前がそう言うなら応援したいとは思うのだが……王に睨まれるぞ」


 父である、ヴァロア・オルレアン王。

 正直に言うと、嫌いな人物だ。パレード中に見目の良かった平民の母を強引に奪い妾にした奴だ。

 母は平民ゆえ王宮の片隅で暮らしていたが、周りからの陰口や陰険な虐めが原因なのか早死にした。

 元々病弱だったらしいが、俺の前では常に笑顔でいた……。

 そんな母を助ける為に、子供の頃は自己研鑽を重ねてきたが、それも母にすれば精神をすり減らす要因の一つだったのかもしれない。


「睨まれようが、今回は引くことはしない」


 ジェレミーはふっと微笑しながら言う。


「そこまでの決意を見せられた俺からは何も言えないな……もしかして惚れた女でもできたのか?」


 そう言われると、ナタリーの顔が頭に浮かんでくる。

 惚れているかは分からないが、惹かれているのは確かだ、ナタリーを守れるなら国を相手取る気力がむくむく沸いてくる。

 そうあの白いブラジャーに包まれた〇っぱいが、ぼよんぼよんしながらホックを外そうとする映像が頭によぎる。

 ほんとあと少しだったな、と拳を握りナタリーの事を思い描いていると、何を勘違いしたのかジェレミーがうんうんと頷きながら言う。


「良し! とりあえずは団長に謝ってこい」


 そう言えば、今日の昼後は戦争に対しての会議だった事を思い出す。

 それをぶち壊しとなれば、俺の立ち位置は戦争反対派に周った事を宣言したようなものだ。

 

「わかりました、謝罪してきます!」


 きりっと敬礼をすると、部屋を出て団長の部屋へと向かう。

 近衛団団長リウトガルド・フランドル、まだ三十代だが剣技のみなら王国一だ。

 俺でも剣技のみなら負けてしまうほどの腕前だ。

 だが闘気込みなら俺の方がはるかに強いだろう。


 団長の部屋の扉をノックすると、中から返事がする。

 部屋の中に入ると、若干口元が引きつっている。


「先ほどの会議はすみませんでした」


 頭を九十度下げ、謝罪する。

 団長は溜息をしながら、聞いてくる。


「お前は戦争反対派になるのか?」


「はい!」


 いつもは意見を言わないように生きていた。

 だからだろう、明確な意思を示す事に団長は驚いていた。


「そこまではっきり言うとは思っていなかったぞ」


「団長は反対派でしたよね?」


「そうだな、やりたいとは思わないが、国益が阻害されると言うなら正面きって意見は出来ないな、と悩んでいたがな」


「さきほどの会議の結果はどうなったのですか?」


 団長は腕を組むと、唸りながら答える。


「ん~、攻める日時の意見を纏めている時に、お前が否定してくるから戦争賛成派がびびってな……」


 そう言えば闘気が洩れて、周囲に熱をまき散らしたなと思い出す。


「お前が本気になれば、仲間すら近寄れないという事実を再認識したのだろう、結局日時は決まらずにお開きになった」


 とりあえず開戦日時は先延ばされたようで、ほっとする。


「だが、お前は一週間の謹慎処分だ、王城にある軟禁部屋で反省しろとの事だ」


 まあ仕方が無いだろう、机と床をぶっ壊し会議をストップさせた奴など除隊と言われても仕方が無いだろう。

 だが、自由になれば何するかわかないという凄みを、今回の件で周知したようなものなのだろう。


「了解しました、直ぐに向かいます」

 

 敬礼をすると、団長が頷く。

 団長の部屋を出て、自分の部屋へと戻る。


 部屋の中にはいり、残骸となった鏡台が目に入り改めて凹む、取りあえず鏡台の中身の残骸だけ捨てる。

 鏡台の残骸はさすがに捨てる事が出来ずに綺麗に並べて置いておく、いつか直そう。

 元の体に戻ってから、怒涛の様に色々な事が起きた為、スカーレット嬢の事を考えるのを忘れていた事を思い出す。


「あれはもしかして夢だったのか……」


 そう呟いてしまうが、知らない間に鏡台が壊れている。

 しかも鏡台の残骸には焦げた跡があり、中に入っていた物の燃えカスもある。

 ほぼ確実にスカーレット嬢が燃やしたのだろうと想像がつく。

 記憶は呼び出せないのかと、スカーレット嬢が乗り移っていた間の記憶を思い出そうとするが、何故か記憶にはない。


 しかし何故鏡台を壊したのだろうか? なにか俺に含むところがあるのだろうか?

 考えても仕方が無い、もう終わった事だ……あれ……じゃあナタリーにはもう会えないのか……。

 でも、国交が再開すれば会いに行けるだろう、会えるかどうかは分からないが可能性はある。


 新たに決意すると、王宮にある軟禁部屋に行く準備をして向かう。

 軟禁部屋とは懐かしいな、と思い出しながら向かう。

 貴族を取り締まる場合、檻にいれるわけにもいかない為に軟禁する部屋なのだが、小さい頃に良く母と入れられた。

 中からは出られない構造になっていて、食事も専用の扉がありそこに置かれる。

 一人で入れられると退屈すぎて辛いが、内装は最低限の家具はあるし広さもある。


 王宮へと入ると法官が待っていた。


「今回の件について処罰は、一週間の軟禁と軽い、ご自身の身の上を考えて行動するよう、反省なさいとの事です」


 そう言われ、軟禁部屋へと入れられる。

 部屋の中を見ると、昔と変わらない内装だ。

 考えても仕方が無い、と思いベッドへと向かい倒れこむ。

 しばしの休暇だと考えればこれも悪くは無いのかもしれない。

 そう思いながら目を瞑っていると、扉が配慮なしに開く。


 寝たまま目線を向けると、見たくも無い人物がこちらをニヤニヤしながら見ている。

 わからないように溜息をしながら、ベッドから立ち上がり、その人物の所へと向かう。


 護衛騎士が四人その人物の周りで守っている。

 まあそれもそのはず、第三王子のトラビスだ。

 出来る限り配慮してこのトラビスを紹介するなら、真正の屑だ。

 だが、こいつのお陰で子供の頃から闘気が使えるようになったとも言える。


 こいつは子供の頃に俺を虐めていた、歳が離れているのもあり青年が子供を虐める様なものだった。

 その程度なら我慢が出来たが、この屑が色ごとに関心を示すようになると見目の良い母に欲情しだした。

 王の手前、一線を超える様な事は無かったが、事あるごとに触ろうとしていた。

 それを止めさせようと、本気で挑んだ末、闘気を使えるようになり、トラビスを叩きのめした。

 まあそれが原因で結構な時間、この軟禁部屋で親子二人で暮らすことになったが、逆に穏やかに過ごせたと思う。


「ふん、貴様の管理は俺が勤める事になった、精々土下座の仕方の練習でもするんだな」


「……」


 近寄ってみたが、憎たらしい顔を見ると喋りたくも無くなる。

 無言で明後日の方向を見ていると、その態度に苛ついたのか、小者のような捨て台詞を吐いて部屋を出ていく。


「俺の胸三寸でいくらでも延長するからな、それを良く覚えていろ!」


 トラビスは踵を返し部屋を出ていく。

 屑を見送り部屋には静寂が訪れる。

 今日は本当に疲れた、もう寝ようとベッドに入り目を瞑ると直ぐに意識が遠のき眠りに落ちていく。

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