第二十四話㋓ 親善交流への参加命令
「エカルラトゥ……お前に命令書が王家から来ている、それに伴って頼みたいこともある」
近衛騎士団長リウトガルド・フランドルが俺に告げる。
「王家の派閥がザインに提案していた件が通ったようでな、モデスティア王国との親善交流が行われる事になったんだが、お前に参加して欲しいそうだ」
「王家が俺に命令とは何かあるのでしょうか?」
団長はいったん喋るのを止めて、考え込む。
しばらく思案している団長を眺めていると違う場所から声がかかる。
「あの~団長……何故私がこの場にいるんでしょうか?」
恐る恐るな感じでアリアが団長に疑問を聞く。
団長が瞑っていた目をカッと見開きアリアに説明する。
「今回の件は、深く突き詰めると両国を巻き込んだお見合いなのだよ。それを考え親善交流のメンバーを決めているのだが、魔法に関して詳しい貴族があまりいなくてな……だがモデスティア王国は魔法に関しては我々の国を超えているのは事実だ、情報は欲しい」
「あ~はい……そうですね、私も一度モデスティア王国の魔法学院に行ってみたいと思う程度には興味はありますが……」
「うむ、だがアリアをメンバーに入れると、当然モデスティア王国の貴族の毒牙にかかってしまう。それは避けなければならない!」
団長が拳を握りしめ力強く語るが、アリアは呆れているのか気のない返事を返す。
「はぁ……」
団長がアリアの事を気に入っているのは知っていたが、その事実を眼前に突きつけられると、俺の中にある尊敬していた団長像が崩れていく気がする。
親子ほどの年齢の違いがあり、それが問題に拍車をかけているのかもしれない、きっと娘を取られるような心境になるのだろう。
副団長のフィルとの縁談は話だけで終わったのだが、もしかしたら団長が横槍をいれて潰した可能性すら今の状況を見ると邪推してしまう。
「それでな、アリアには悪いんだがエカルラトゥの侍女として参加してほしいのだ、今のエカルラトゥは魔法に関しても大分知識を付けているのは知っている、一緒に行動してモデスティア王国の魔法知識を出来るだけ取得してきてほしい」
「え、ええ~……あっ、でもスカーレット様に会えるなら良いのかな」
小声でアリアがそんな事を言っているのを横で静かに聞き流す。
「エカルラトゥ……くれぐれも悪い虫がつかない様に動いてくれ、頼むぞ」
団長が俺に話しかけながら立ち上がり俺に近づく。
「お前が悪い虫にならないように……な」
アリアに聞こえない様に耳打ちしてくる。
どんだけアリアに入れあげているのだろうか、ちょっと前までここまで酷くなかったと思うのだが……。
アリアの方を見ると、スカーレットの事で頭が一杯なのか上の空だ。
「わかりました、その親善交流とやらに行き、出来る限り魔法知識を吸収すればいい訳ですね」
「そうだ、本来なら魔法院の連中を行かせたいが、基本おっさんしかいない……ザインが関わっているのだ、おっさんを投入して喧嘩を売るわけにもいかんだろう」
アロガンシア王国は剣の国と言っていいほど肉体派の国だ。
俺自身も昔は、魔法とか当たらなければ良いと思っていたくらいだ。魔法に関してはあまり重要視されていない。
おかげで、魔法院に入るのは変わった奴としか思われないので、あまり好んで入ろうとする者はいない。
王家も重要視していなかったが、紅蓮の魔女の話がこちらに流れてくるにつれ、魔法に関して重んじるようになったが、ほんと最近の事なのだ。
団長の部屋からアリアと共に退出して自室へと向かう。
アリアはご機嫌なのか、軽くスキップしながら何処かへ消えていく。
俺は自室に戻ると、改めて親善交流の話を思い出す。
これはナタリーに会うチャンスでもある。
精神が入れ替わりスカーレットの体で数度一緒に過ごしたのだ。
奥手の俺でも嫌でも意識してしまう。
スカーレットにも会えるだろうが、不安の方が明らかにでかい。
あの女が、色々見て知ってしまった俺に対して、何も報復をしないなんてありえない。
ナタリーとの会話を鑑みると、殺意までは無いと思うが何かしらされるだろう。
会ってみたいが、会うのが怖い、どうにかナタリーだけ会えないかと考えるが、まあ無理だ。
スカーレットの記憶を見る限りでは、離れる時は長い間離れているが、一緒にいる時は常に一緒にいるという感じだった。
確実に二人一緒に会う事になるだろう。
その時はナタリーの優しさに縋るしかない、きっと無体をするスカーレットを止めてくれるはずだ。
溜息を吐き、ボーっとしているとノックの音が聞こえると同時に扉が開かれる。
「おい、親善交流の話を聞いたか?」
ジェレミーが開口一番、先ほど聞いた話を振ってくる。
「ああ、さっき団長から聞いた」
「そうか、スカーレットがこの国に来るらしいから、会えるのが楽しみだな」
「……え?」
「あ?」
「いや、スカーレットがこの国に来るのか?」
「そうだが、違うのか? 今その噂で騎士団内は持ちきりだぞ」
「マジでか……じゃあ俺は会えないんだな」
「え? なんで会えないんだ?」
「俺は親善交流のメンバーでモデスティア王国に行くことになった」
「あ~それは残念だな、会いたかっただろう? ナタリーちゃんとスカーレットちゃんに」
にやにやしながらジェレミーがそんな事を言う。
スカーレットちゃんなんて呼び方が、本人の前で出た場合を考えると身が震える。
「ジェレミー、スカーレットにちゃんづけで呼んだら間違いなく燃やされるぞ」
「そんな分けないだろう……ないよな? まさか……過去に燃やした事実があるのか?」
ジェレミーが最初は軽口をたたいていたが、真顔の俺をみて察したのか事実確認をしてくる。
「ただ、顔が悪かったというのも加味されたのかもしれないけどな」
事実を確認してしまったジェレミーの顔から血の気が引いていくのが分かる。
「ほんとかよ……そんだけで燃やされるとか大丈夫なのか、王宮に呼び込んで」
「さすがに他国で同じことはしないだろうが、上は結構甘く見てる可能性あるんじゃないか? 俺達は入れ替わりのお陰でスカーレットの怖さを知っているが、上の方の貴族は噂でしか知らないからな」
「上が軽んじてない事を祈るしかないか……」
「ただ、ジェレミーの話を聞く限りじゃ、スカーレットはジェレミーの事を気に入っていると思う。だからスカーレットが暴れない様に気を付けてやってくれ」
「俺もスカーレットとは気が合うとは思っているが、どうにか出来るものなのか?」
確かに気を付けるだけで暴れないなら、それが一番だがそんな事はモデスティア王国でも同じ対応をしているだろう。
だがナタリーがいるし、気に入っているであろうジェレミーがいるなら抑えられるんじゃないだろうか。
「ナタリーとそれとなく連携すればいけると思うぞ、ナタリーの言う事は基本聞いているからな」
「そうか、ならナタリーちゃんと一緒にスカーレットを抑えればいいのか……って俺達は何の話をしてるんだ、もうやめやめ」
親善交流という議題を元に、どうやってスカーレットに問題を起こさせないかの話になる俺達はもう駄目なのかもしれない。
なぜ他国の心配をしているんだと、おかしくなってくる。まあ平和の為なんだが何か釈然としない。
「確かに何でおれたちが気を揉んでたんだろうな」
そう言いながらジェレミーと苦笑いをしていると、扉が突然開かれる。
「エカルラトゥ様! わたし、モデスティア王国にいきませんからね!」
アリアが開口一番、先ほどの件を否定してくるが、俺にそんな権限はない。
というか何故俺の周りにはちゃんとノックして、了承を得てから扉を開ける奴がいないのだろうか。
「スカーレットがこっちに来るって聞いたのか、だが俺にアリアが行かない事を了承する権限は持ってないぞ」
「う~……わかっています! 団長にも今から言ってきます!」
そう宣言すると、扉を乱暴に占めて廊下を走っていく。
一連の行動を眺めていたジェレミーが聞いてくる。
「アリアも親善交流のメンバーなのか?」
「ああ、ただメンバーだとモデスティア王国の貴族に掻っ攫われる可能性があるから、俺の侍女として行く事になっている」
「そうだったのか……じゃあその件を告げられた時は喜んでたんだろうな、あの件からスカーレット好きになっちゃったもんなアリアちゃん……」
「浮かれながら帰っていったんだが、途中で噂を聞いたんだろうな……さすがに一度了承した件を拒否できないだろうな」
「わからんぞ、今の団長はアリアちゃんに甘いからな」
ジェレミーはアリアの事は吹っ切ったらしく、アリアに対して態度が普通に戻った。
アリアもジェレミーを嫌悪する原因が無くなったので、ジェレミーに対して普通に接するようになった。
その代わりに団長がアリアに入れ込み始めたが、隠れた部分で優遇してるだけなのでジェレミーの様に表立って態度に出る事はないようだ。
「さすがに団長もそこまでじゃないだろ、後の対応が大変すぎる」
しばらくジェレミーと会話していると、団長に呼び出され三人掛かりでアリアを説得させられた。
長い一日だったと思う。特にアリアの説得が大変だった。
まずは宗教国家ザインにて親善交流メンバーとの顔合わせをしてから相手の国に行く予定になっている。
ザインまでは各貴族が集合日時に現地集合になっているので、アリアと共に馬車で向かう。
なんとか説得したが、アリアは当然むくれているし機嫌もあまり良くない。
侍女だけど侍女じゃないアリアに、他の貴族につけば問題になる可能性もある。
同じ近衛騎士で血筋は半分だけ良い俺に宛がうのは、当然といえば当然なのかもしれない。
「いい加減機嫌を直さないか?」
「私はスカーレット様に会いたいだけなんです、お約束もありますし」
そういえばそんな約束したって聞いたが、スカーレットが安請け合いしたせいともいえる。
仕方が無かったとはいえ、直ぐに出来もしない約束はするわ、雑な対処するスカーレットに軽く怒りを感じるが、スカーレットのお陰でこの平和があるのも事実だ。
ほとんどの人は知らないが、戦争を食い止めたのはスカーレットなのだ。
かたくなにモデスティア王国に攻め入ろうとしていた俺たちの国は、親善交流なんて事を提案したのだ。
何か別の思惑が動いている可能性もあるし、目的が領土から情報に切り替えたのかもしれない。
「もしかしたら、今回の件で入れ替わりがあるかもしれないだろう?」
そんな都合の良いタイミングで起こるとは思っていないが、アリアの機嫌を緩和させられるなら言うだけならタダだ。
「ん~それでも生スカーレット様に会いたいです!」
力強くそう宣言するアリアに何も言えなくなる。
アリアはなんでこんなにスカーレットの事が好きになっちゃったんだろう。
取りあえず機嫌が直るのを待つしかない、顔合わせの時にスカーレットに会えるだろうし、その時に機嫌は良くなるだろう。
ザインに着き、街を通って神殿前にある建物に入る。
神殿へと続く道を挟んで建物が立っている。
二カ所ほど渡り廊下で建物が繋がっているようだ、左の建物は白く、右の建物はかなり薄っすらと青い。
外で待っていた神官に右の建物に案内され、今日泊る部屋へと向かう。
部屋の中に入ると、淡い青色で統一された部屋の内装は神秘的に見える。
角部屋で神殿側にバルコニーがあり、神殿が一望でき良い部屋だと思う。
アリアと共に部屋に入るが、少しだけ緊張する。
一緒に遠征に行く事もあるので、慣れているといえば慣れているのだが、やはりしっかりとした部屋に二人きりだといつもと違う。
こっちは若干緊張しているが、アリアは全然気にせずソファーに座り備え付けられている水をコップに注ぐ。
「エカルラトゥ様も飲みますよね?」
「ああ、ありがとう」
内装を見ながら対面に座り、入れてくれた水を飲み心を落ち着かせる。
部屋の横に従者用の部屋もあるようで、一緒の部屋で寝るのは回避できそうだ。
嫌じゃないんだが、どうも照れがあるというか……これが終わったらジェレミーとお姉さんがいる店にでも行って慣れよう。
しばらくスカーレットの話題で時間を潰す、お機嫌取りみたいなものだ。
顔合わせの時間になったのか、今回のまとめ役である副団長フィル・ロベールの従者が報告に来る。
礼装に着替えて、侍女の恰好をしたアリアと共に顔合わせの会場へと向かう。
まずはアロガンシア王国側の貴族との顔合わせをした後に、モデスティア王国側と顔合わせをする予定だ。
部屋に入ると、見知ったフィル・ロベールがいる。案内役の神官と話をしているようだ。
待っているとぞくぞくと部屋に入ってくる。従者を除けば総勢十人のようだ。
全員集まったのを確認したフィルが皆に声を掛ける。
「ここにいる十人が今回の親善交流のメンバーだ、この交流は実質お見合いみたいなものだが、それ以上に国益になる情報を得る為の戦いと言っていい。女を落とすのは構わないがアロガンシア王国の貴族として行動してもらいたい」
やはり親善以外にも目的はあったのだ、令嬢を落としそこからモデスティア王国に食い込むのが目的なのだろう。
参加している貴族はまだ当主ではないが、次期当主になる予定の貴族ばかりだ。
繋がりを作り、のちのちこちらの令嬢を嫁がせ、血がつながった当主を立てる計画なのだろう。
気が長すぎて呆れる気持ちもあるが、貴族の世界で百年計画なぞまだ優しい部類だろう。
ある程度貴族同士で雑談をして情報交換をするとフィルが会話を止める。
「これからモデスティア王国側の親善交流メンバーと会うが、紹介しあうだけなのだが問題が一つある、それは相手に紅蓮の魔女がいる事だ……相手は王であろうが、上役だろうが気にせず燃やすという噂は皆知っているだろう。
さすがにこんな場で無体な事はしないとは思うが、こちらが要請して親善交流メンバーに入れてもらったのだ、嫌々参加している可能性がありその点が不安要素なのだが、ここで揉めたら今回の話は無かったことになるだろう」
複数人が息を呑む音が聞こえる。
事実を知っている俺は、これが脅しじゃないと嫌でも知っているが、数人だけ気にしてない貴族もいる。
しかし思った以上にスカーレットに用心しているようで少しだけほっとする。
「極力、紅蓮の魔女と目を合わせないようお願いする」
フィルが酷い事を言っていると思う。後ろに控えているアリアから負の感情を感じる。
ほとんど猛獣扱いだが、きっとここにいる全員で飛び掛かっても、いなされて燃やされるのだろう、そんな結論に行きつくのだ猛獣扱いもあながち間違いではないかもしれない。
変な空気のまま、モデスティア王国との顔合わせの会場に入る。
神官が座る場所を指示してくるので、そこに座る。どうやら長机の逆側にモデスティア王国の親善交流メンバーが座るようだ。
アリアは後ろに控えた状態で立っている。本来なら座る立場でもおかしくないが、今回は任務でもあるのだ我慢してもらおう。
他の貴族が着席するのを待っていると、アリアが小声で話しかけてくる。
「スカーレット様が来ましたよ」
そう言われて目を向けると、名前の通り赤い色のドレスを着こみ、普段は髪を降ろしているが今日は上で纏めてあり、普段の雰囲気とは少し違う。
というか、鏡でしか見た事が無かったからなのか、自分自身の目で見るスカーレットは妖艶な雰囲気をかもしだしている、嫌でも目が惹かれる。
ナタリーが後ろについているが、本当の俺と会った事も無いのだ気付く訳が無い。少しだけ悲しく感じる。
スカーレットも気づかないのは、こちらの貴族に興味がないだけだろう。
両国の貴族全員が着席すると、上座にいる白い髪の女性が全員にむけて声をかける。
「わたくしはフレイヤ・ルターです、今回は親善交流のためにザインへお越しくださりありがとうございます。では交互に自己紹介をお願いします、まずは提案されたアロガンシア王国側からどうぞ」
聖女であるフレイヤ・ルターだ。まだ十代半ばくらいにしか見えないが、その堂々とした佇まいはさすが聖女と言えるだろう。
フィル・ロベールが立ち上がり自己紹介を始めていく。
しばらく両国が交互に紹介していると、スカーレットが立ち上がる。
「スカーレット・ヴァーミリオンです」
シンプルにそれだけ言うと、着席する。
待っている間、紅一点であるスカーレットを視認はしていたが、フィルが言った通り皆あまり見ないようにしていたようたが、紹介時はさすがに見たのか息を呑む声とその美しさゆえなのか溜息をする者もいた。
まあ溜息をした一人は後ろにいるアリアなのだが、スカーレットを見て感動しているのだろう。
周囲を観察していると、自分の番になり立ち上がる。
「エカルラトゥ・ルージュだ」
正直、貴族としては俺が一番格下だろう。名前だけ言い直ぐに座るが、スカーレットからの圧が凄い。
あまり目を向けたくないが、ナタリーを見たいので目を向ける。
ナタリーと目が合うと、こちらに気が付いてにっこり微笑んでくれる。
ここ最近で一番幸せな瞬間だろう。
でも今日だけしか会えないのだ、アリアと同様に親善交流は辞退したかったが、俺の周囲の環境を考えると断れない。
アリアも同じことを考えていたのか、溜息が聞こえる。
全員の紹介が終わると、聖女フレイヤが立ち上がる。
「では明日に両国へと移動となります、この親善交流がより長く両国が平和になる礎となるよう願っております」
聖女フレイヤが祈るように宣言する。
これで顔合わせは終わりだ。ナタリーとの出会いの終わりでもある。
アリアと二人で暗い顔をしながら、自分たちに宛がわれた部屋に帰る。
部屋に戻ると堅苦しい服を脱ぎ、ラフな格好に着替える。
アリアはソファーに座ってぼーっとしている。
自分自身も何も考えたくないなと思いながらバルコニーで夜風に当たる。
目の前に広がる神殿はシンメトリーになっている、ここからみると鳥が羽を広げているように見える。
眺めていると、ふと逆側の白い建物にも同じようにバルコニーがあるのが見え、そこにスカーレット座っているのを見つける。
傍にはナタリーがいて、こちらに気付き顔を向けてくるので、嬉しくなり思わず手を振る。
手を振る俺に気付いたのかスカーレットがこちら側の柵に手を置き、おもいっきり見てくる。
「アリア、スカーレットがいるぞ」
俺の言葉を聞くと、ぼーっとしていたアリアが急に動き出しバルコニーに突っ走ってくる。
スカーレットをすぐさま認識したアリアは両手を使い自分をアピールしている。
さすがに大声で叫ぶ事はしなかった。
ナタリーを見ていると、スカーレットがなにか魔法を放ってくる。
火で出来た布のような感じで、こちらにゆっくりと風で飛ばされているように向かってくる。
「綺麗ですね」
アリアがそんな感想を言う。確かに綺麗だ、魅せる魔法の一種なのだろうか。
眺めていると明らかに俺に近づいてくるので、思わず手が出てしまう。
俺の手がスカーレットの魔法と接触した瞬間、全身が炎に包まれる。
少し熱いだけで、火傷をしてる感じはしないが明らかに俺自身が燃えている。
痛くはないが燃えているのだ、若干慌てながら火を払おうとするが、まとわりついて払えない。
水魔法で水をかけても消えない、見た目は火だが、火ではないのかもしれない。
火に包まれた俺を見て、繊細な魔力だと喜んでいたアリアだったが、髪が焼ける臭いが漂ってきた所で慌てだした。
当然俺も髪が焼けるのは勘弁してくれと、バタバタしはじめると魔法が解けたのか火が消える。
「アリア、俺の髪どうなってる?」
恐る恐る聞きながら、自分の頭に手を当てる、髪の感触がする。
「少しだけですが燃えていますね……多少なら回復魔法で直せますから……」
ばつが悪そうにアリアが答える。こんなところで噂通りの事をするスカーレットは、やはり怖い存在だと思ったのかもしれない、というか俺は思った。
しかし多少か……鏡を見るのが怖いが触った感じではそこまで燃えて無いと思う。
きっと大丈夫だと思いながら、アリアからの回復魔法を受ける。
ちょっとだけスカーレットと会わない状況になって良かった、なんて考えが浮かぶ。




