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【まとめ版】タイミング良く精神が入れ替わる私と俺  作者: 氷見
第二章 紅蓮の魔女は木魔法が使いたい
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第十八話㋓ アリアに気を付けて

 うん、知ってたきっとまた替わるって知ってた……そう思いながら起き上がる。

 いや自分の体に帰ってきたのは嬉しいのだが、やはりこう異性に囲まれてちやほやされてるとなんとも言えない幸福感に包まれるのだ。

 だが、そんな現実逃避しても仕方が無いと、最近はいつも入ってた寝袋から出ると簡易机に紙がたたんで置いてある。

 スカーレット嬢からのメッセージなのだろうかと手に取り開いてみると、アリアに気を付けて、とだけ書いてある。

 どういう事なのだろうと、悩むがこれだけの情報では意味が分からない、いったいどう気を付ければいいのだろう。

 いい加減悩むのを止めるかと、外に出て魔法を使い顔を洗っていると、なにやら気配がする、顔を向けると遠くの木の影からアリアが隠れてこちらを伺っている。

 何故俺を隠れて見ているのだろう……と思っているとジェレミーが来る。


「よっ、今日のおまえはおまえか?」


  ああ、スカーレット嬢かどうかって事か、と判断して答える。


「ああ、今日は俺だ」


 そう言葉に出した自分に軽く心にダメージを食らいながらジェレミーに挨拶をする。


「そうか、お前は昨日アリアと朝に模擬戦してたぞ」


「なるほど、そう言う事か」


 それでアリアがこちらを隠れて見ているのだろうか……。

 模擬戦で何かに気付いたか、それとも違うなにかがあるのだろうか。


「あとは普通にお前の代わりしてただけだ、しかし替わってる間の記憶が無いってのは地味に不便だな」


「まあ正直言うと無くてありがたいぞ、相手がどう動いたのかとか思い浮かべるだけで悶えるし、実際に分かったらへこむだろ」


「でも相手の記憶思い出せるんなら同じだろ」


「そこは見ないようにしている、さすがに女性のあれやこれやを見るのはな」


「神経太そうなスカーレットで良かったな、普通の女性なら男に見られているとか考えちゃうと発狂してるぞ」


「たしかに」


 二人で笑いながら話している間に遠くでこちらを見ていたアリアがどこかにいったようだ。

 やはり俺を見ているのだろうが、なんなのだろうか。


「アリアはどうかしたのか?」


「あーそれな、なんか昨日からお前を見てるんだよ、くっそなんでおまえなんだ」


 ジェレミーが本気で悔しがってるが、理由なぞわからない、そもそも昨日いなかったしな。

 もしかしてスカーレットが原因じゃなかろうかと思案する。


「昨日、なにか俺と変わった事はなかったのか?」


「いや、模擬戦だけだったと思うが……後は一緒に賊退治したスカーレットしかわからないな」


「そうか……考えても仕方が無い。そういえばスカーレットは誰か燃やしたりはしてなかったか?」


「ん~いや普通な感じだったはずだが……」


 ジェレミーが思い出しながら答える。

 何も無ければ良いんだ。

 そもそも俺に好意的な騎士団員しか来てないのだ、ある意味第二王子のギデオンに感謝してもいい。

 これが俺の事を嫌いな団員が一緒に来ていて、替わってる時に嫌味でも言ったり、手を出されたりしたら……考えるだけで怖い。


「ならいいんだが、替わっている間の事を考えると気が気で無いからな、前はほぼ隔離されてたから問題なかったが……」


「なんでだ? 話した感じだと結構フランクで喋りやすかったが」


「そりゃな、その感じで騙されて逆鱗に少しでも触れちまうと、それはそれはひどい事になるだろう……」


 いくつかのスカーレットの悪評になった原因の事件を思い出す。

 悪魔の所業の様な、湖を干からびさせ、地形を変え、森を焼く、まさに二つ名通り魔女だ。

 ここら一体が炎に包まれるなど、大事件になり大騒ぎになりかねない。


「そっか、やっぱ紅蓮の魔女と言われるだけの理由はあるんだな……」


 なにやらジェレミーが遠い目をして空を見ているが、顔には薄っすらと笑みを浮かべている。

 結構スカーレットの事を気に入ってるのだろうか、なんて思いながら支度をする。


 今日は国境らへんの巡回をして、近隣にある村で話を聞きキャンプ地を移動させる。

 ここがモデスティア王国との国境の南端と言ってもいい。終われば王都に帰る事になる。

 それまでにどうにかナタリー達に会えないかなと考えるが、ちょっと無茶とも言える。


 そんな事を考えながら、次の村へと馬を駆り移動する。

 先遣隊として数人の騎士とある程度離れながら街道を走る。

 するとアリアが近づいてくる。


「エカルラトゥ様、昨日お聞きした事にお約束通り答えてもらいたいのですが?」


 昨日聞かれた事とは何だろう、しかも約束て……。スカーレット嬢が聞かれて答えなかったのだろうか。

 何やら聞き返すのが怖いが、聞かざるを得ない。恐る恐るアリアに聞き返す。


「き……聞きたいことって?」


 こちらの返答を聞いたアリアは一瞬驚くと、段々と目が座っていく。

 どういう反応なのこれ、いったいどういう事なんだ、教えてくれスカーレット嬢。


「なぜとぼけるのですか! 昨日に、明日答えると言ったではないですか!」


 ええー! まさかこっちに振ったのかよ、どんな処理の仕方だよスカーレット。

 絶対どうせ明日になったら入れ替わるだろう、で臭い物に蓋をしたな。

 それでアリアには気を付けろかよ、もっとちゃんと書けよ、絶対めんどくさがっただろ。

 そう心の中でスカーレットに悪態を浴びせていると、アリアが我慢できなくなったのか理由を言ってくれる。


「エカルラトゥ様の魔力操作の方法をお教えください!」


 そう言われてもな……まだあまり魔法が使えない俺に聞かれても困る。

 たしかに魔力操作の鍛錬はしているが、スカーレットの足元にも及ばない。

 俺が困惑していると、アリアが言葉を付け足してくる。


「魔法が使えないように装っているのは分かっています、きっと色々と事情があるのでしょう……誰にも言いませんからお教えください」


 アリアが馬上で頭を下げてくる。

 そうは言っても、魔法については俺より上であるアリアに教えられる事などひとかけらもない。

 俺の出生の事などを考えると、隠し事があると考えてもおかしくはない。

 どうすれば良いのだと頭を抱えていると、前にいた騎士が何かを見つけ叫ぶ。


「先の方で大きな煙が見えます!」


 騎士が指を差している方向を見ると、たしかに煙が空に向かって立ち昇っている。

 どう見ても規模がでかいのが、煙の量でわかる。

 この先には村があるが、その手前にある森が燃えているようだ。

 そして今ここにいる上官は俺になっている。


「一人は村へ連絡へ、もう一人は副団長に報告、魔法が使える者は直接消火を! 他の者は火が燃え広がらないように立ちまわってくれ!」


 俺は指揮すると直ぐに燃えている森へと向かう。

 水魔法が使える俺も消火に回る。

 一番練習しているのが水魔法だ、こんな時に魔法を使えるように鍛錬していてよかったと思える。

 アリアは当然水魔法も使える、騎士団内では魔法に精通している一人なのだ。

 

 燃えている森に近づくと生木がこんなに燃える物だろうか、と思うほどに燃えていた。

 自然に燃えるには不自然すぎるが、今は消火するのが先だろう。

 

 水魔法で水の玉を火に向かって打ち込み、火を消していくのだが、近くにいるアリアがこちらを、ちらちらと伺いながら水魔法で消火している。

 その視線にさらされる度に、ああ、疑っているのだろうな、なぜ今は下手な魔力操作なんだろう、とか思っているんだろうな、と勝手に頭が思考する。

 消火後に何を言われるのだろうかと考えると、消火どころではない。

 しかしこの火が村へと到達すれば、色々な人が被害を受けると自身を奮い立たせどうにか消火作業に従事する。


 しばらく消火をしながら、森を移動していると黒ずくめ人物が木と木を渡り移動している姿を見つける。


「不審人物を見つけた! 俺は追う、後に来る副団長に伝えてくれ」


 比較的近くにいるアリアにそう言うと、アリアが返事をする。

 この状況でも近くにいるアリアに軽くびびるが、今はそれどころではない。

 馬を駆け黒ずくめの人物が消えた方向に走る。

 気配を探りながら向かっていると、魔力が発動している感覚を捕らえる。

 その場所へと向かうと、黒ずくめの人物が火の魔法を使い木を燃やしていた。

 馬の走る音に気付いたのか、魔法を止めると一目散に逆側に逃げる。


 まるで猿の様に木の上から木の上へと滑空しているかの様に移動する。

 こちらは馬だが、木々が邪魔をして、そこまで早さが出ないが、なんとか追う事は出来ている。

 そのまま木の上を飛び回っている黒ずくめを追っていると、森が切れる。

 この先は草原と川があり、その向こうには国境がある。

 草原まで行けばこちらが追いつく。


 もうすぐ草原だ、という所で黒ずくめの人物が止まり魔力を練る。

 魔法を使うのか、と馬から飛び降り身構える。

 その瞬間、黒ずくめの人物の手元から閃光が放たれる。

 周囲が光に包まれ、とっさとはいえ目を手で隠したが魔法の効果なのか目が眩み膝をつく。

 だが黒ずくめの人物が逃げる音は聞こえる。


 逃がすわけにはいかないと、闘気の炎を揺らめかせて音がする方向に突進する。


「ぐぅ!」


 腕にかすかに当たった感触がする。

 良い所に当たったのか男のくぐもった声が聞こえる、なんとか当たったようだ。

 だが黒ずくめの男は風の魔法を使ったのか、周囲が風の音に包まれる。

 まだ目が眩んだ状態で、風で音も封じられ、相手がどこにいるかわからない。

 なんとか気配だけでもと、風が吹き荒れる中、静かに相手がいる場所を伺うがすでに遠くに逃げていたようだ。


 目が少しだけ見えてくると、黒ずくめの男が逃げた方向を見るが、既に目につく所にはいない。

 本気で走り追いかけていくと、遠くに黒い人物がいるのが分かるが、これ以上行くとモデスティア王国側の関所に近い。

 そんな場所で戦闘行為など、いらない警戒をさせてしまうし、モデスティア王国側も不信に思うだろう。


「……諦めるしかないか」


 そう呟き馬の元へと向かい、黒ずくめの男が火を放った場所を消火していく。

 ある程度消火が終わり、燃え広がっていた外縁部をたどりながら戻ると、既に空は黄昏ていた。

 急ぎキャンプへと移動していると、途中でジェレミーに出会う。

 ジェレミーも、火が残っていないかを確認して回っているのだろう。 


「大丈夫だったか?」


「ああ、なんとか消火できているみたいだ、取りあえずはなんとかなったと思う」


 燃えて崩れた木々を見ながら言う。


「アリアに報告をと言っておいたが聞いたか」


「ああ、不審人物だろう? 捕らえられなかったのか?」


 俺の周囲を観察しながらジェレミーが訪ねてくる。


「すまん、手傷は負わせたが逃げられた、かなり魔法に長けた奴で閃光のめくらましと風の魔法を使って逃げられた」


 ジェレミーは頭を掻きながら唸る。


「う~ん、お前が逃がすとか、かなりだな……」


「あとはモデスティア王国側に逃げられてな、あまり追えなかった」


「それは良判断だ、さすがにまだモデスティア王国側に偵察部隊がいるだろうし……今までの行動のつけだな」


 肩を落としながら言う。


「あと気になったのは、瞬間ブーストを使っていた……」


 木々を渡るときに、使っていた気がする。

 結構な時間動いても魔力切れを起こさず、違う魔法も使っているし当たりだと思う。


「ほんとか? でもスカーレットの魔法だ、モデスティア王国側だって知っている可能性の方が高い」


 そう言われると、スカーレットは結構有用な魔法や研究結果を、王や父親に献上している。

 あくまでも研究欲や、知識欲で動いているのだろう、そこから出る結果には無頓着に思える。


「そうなんだが、またきな臭くなってきたな……」


「おまえらの入れ替えが起こるから、きな臭くなるのか、はたまたその逆なのか……」

 

「勘弁してくれ……」


 そんな事があるのだろうか、と思うが精神が入れ替わっている時点でもうなんでもありな気もする。

 それよりこの放火事件をどうするか考えた方がいいだろう。


「それより、今日はどうする、放火があったって事は今日の夜にもあるかもしれないぞ」


 ジェレミーに聞いてみるが、浮かない顔をしている。


「夜回りしたいのもやまやまなのだが、そもそも俺達十五人しかいないだろ? 放火を止める事は出来ない、まあ夜だと火の手が上がればすぐ分かるが全部後手にしかならん」


「それでもやるしかないだろうが……じゃあ全員でやらずに交代で見回るか?」


「……そうだな、それで行くか、だが魔法を使って疲れた奴もいるだろうから、夜半までは休憩にして動くか」


 実際魔力を使いすぎている、多少寝ないと魔力切れになってしまう。

 あ、あとアリアの問題があった。


「あと、アリアなんだが……」


「あ、アリアがどうかしたのか? まさか……」


 アリアが俺に告白してきたと想像したのか、ジェレミーの顔が青くなる。


「いや、違う違う、どうもスカーレットの魔法を見たらしくて、魔力操作を教えろと俺に言って来るんだ」


「ああ~なるほどそれでか……ここ最近お前を見ているのは確認のためだったのか。あ~よかった」


 まあ俺に言い寄って無くても、お前に靡く事はないかもしれないが、声には出さないでおこう。


「どうもスカーレットが後回しにしていたらしくて……どう解決したほうが良いと思う?」


 俺は純粋にジェレミーに聞く。

 これ、解決策あんの? 俺魔力操作下手だぞ、てへ、でどうにかならないだろうか。


「スカーレットらしいっちゃらしいが、勘弁してほしいな、全部話す……はないよなぁ」


 ジェレミーも深いため息を吐きながら悩み、閃いたかのように言う。

 

「もうスカーレットに回したら?」


 なんかジェレミーってスカーレットに似てるな、なんて事が頭によぎる。


「入れ替わるタイミングは分からないし、これっきりかもしれない、回したくても回せない」


「そうだよな……もう白を切るでいいんじゃないか?」


「……それしかないよな」


 色々と突っ込まれそうだが、もう分からないし教えるにしても俺のせい一杯を教えて終わればいいんじゃなかろうか。

 クローディアみたいに教えるの下手なんだよ。だからこれ以上追求するな、でいこう。


「なんでこんな事で悩んでるんだろう……」


 そう呟きながら、火元が残ってないか焼けた森を見ながらキャンプ地へと戻る。

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