これからのこと
草原を歩き続け、そして考えたくはなかった結論に至る。
世界を完全に二分している人類の両陣営と敵対した者に味方するのは誰もいない。
と。わかってはいた。わかってはいたが、それでも少しは期待していたのかもしれない。
だがまあ、今はそんなこと関係ないだろう。
――世界を、壊す。
そのために俺はここにいる。従いたくもねえ奴らの命令を聞いてきたのもそうするしかなかったからだ。
とはいえ、この《ラファエル》とやらは何を思っているのだろうか。
本人曰く、「感情を受け取り強化される兵器」とか言っていて、さらにはその受け取る先を今は俺に限定しているらしい。
まあつまり、今は俺の感情を受け取っているのだろう。
それは怒りであり、憎しみであり、そしてまた失望でもあった。
俺は、俺をこんな風にした奴ら全員を殺したかった。だが、どんなに努力しても仲間に迷惑をかけずにそうすることのできない自分に対して怒っていた。
腕の中でまだ意識が回復していない彼女の幸せそうな寝顔を見て、こう思った。
――こいつにだけは、そんな感情を抱いてはほしくない。
と。どうしてかは分からない。これが恋だとか愛だとかいうのなら、信じがたいことだ。
まあ、単純に今までそういう感情を抱いてこなかったというだけかもしれないが。
「んん……? ――すぅ……」
どこまでも幸せそうな表情だ。思わず笑みがこぼれた。
まったく、こいつといると少し狂う。このままでいいんじゃないかとも思えてしまう。
いや、本当にいいのかもしれない。
この、誰かに制御された安定した世界で死にたいのなら。
この世界は、一言で言ってしまえば、おかしいのだ。
大体、二つの勢力が争っているというのに、なぜどちらも勢力が動かないのか。
俺は確信している。
――この世界を創った奴は、この世界を壊そうとする奴を待っている。
と。
だから俺はまず初めに、《刻者》を作った《魔人》と《機人》を作った《甲機》に対し、攻撃を開始するつもりだった。
だが、協力者は《ラファエル》だけ、しかも敵は全人類だとすると、それはきっと修羅の道、なんて言葉じゃすまされないだろう。
本当なら、俺一人でやるつもりだった。
そうすればだれにも迷惑はかけないはずだった。なのにこいつは、あろうことか俺について来ようとしている。いや、どんなに離れようとしても無駄だろう。
彼女も、全世界を敵に回した裏切り者なんだから。それにどうせ、あのふざけた《転移能力》で俺のところに来るだろう。
何より、俺も彼女から離れるつもりはなかった。
彼女の能力もそうだが、それ以前に、彼女といると本来の自分を見失わないで済む気がした。
だからまあ、俺は結局――
――彼女に迷惑をかけないようにできるかぎり世界を壊す。
ということにした。
「にしてもこいつ、よく寝るな……」
俺は一人で苦笑いし、休憩することにした。
ようやく太陽が地平線から出てきた。
そうか、もう朝か。
とりあえず俺は迷彩を展開し、寝ることにした。