《転移能力》
迫る銃弾に対し、俺は何もできなかった。
その俺の視界に入ったのは、彼女の姿だった。
「マスター。捕まっていてください!」
そう言うなり彼女は俺を抱きしめ、そして俺たちは光に包まれた。
そして、そこには《機人》の男が一人、取り残された。
「ち……! さすがに使うか」
あの能力――我らが授けたはずの力である、《転移能力》。
本来は味方を戦地に送り込んだり、修復のために強制帰還するのに使うはずのものだった。
それが今や、やつらの――我らが憎むべきやつらが生み出した、《刻者》の王をマスターと呼んでいる。
堕落だ。
魔法などという仮初の力を誇る蛮人どもの下に下るなどとは。
失敗作だ。
本国に戻り、すぐに《ラファエル》の新型を用意せねば。
そして男はスラスターを吹かし、空へと飛んで行った。
――光が収まると、俺は知らないところに来ていた。そこは草原だった。
「起きましたか?」
「ああ。ありがとな」
「当然のことをしたまでです。――そんなことより、大変なことになりましたねえ」
随分と軽く言いやがる。てか、こいつ元々敵だろ。
「だな。正直俺も元の国には戻れねえだろうな」
少なくとも、俺たちを生み出した奴らからは嫌われるだろう。
仲間は認めてくれるかもしれないが、正直俺みたいなイレギュラーは認めない奴もいるだろうしな。
とはいえ、《機人》の国に行けるわけでもない。
……。認めたくはないが、俺たちは、何の後ろ盾もない第三勢力になったってわけか。
そう思い、彼女に視線を移すと。
「――げほっ……!」
端麗な顔を歪め、口から血を流している。
「お、おい!? 大丈夫か!」
「――、これは、いつも通りのことです。あの力を使った後は、いつも――」
そう言ったが最後、彼女は意識を失った。
「どうしちまったんだ……?」
一つ思い当たるものとしては、力の使い過ぎ、だろうか。
俺でも強力すぎる魔法を放った後は体を動かしているシステムが壊れてしまうこともある。
とりあえず今は、安全なところを探さないといけない。
「刻印解放、歪曲迷彩」
魔法による光学迷彩で俺たちを覆い、草原を歩き始めた。