出会い
ヒロインは相変わらず変わってないのに、主人公が変わっているのはどういうことか?
と思ったかもしれません。
それは読み進めばわかるはずです(こっちもあっちも)。
ですので、見守ってあげてください(なんでだ)。
割と軽めに書くつもりですが、たまに真面目に書き始めたりするので気を付けないと……(主に戦闘シーン)。
そいでわ、どうぞ。
「刻印解放」
俺がそういうだけで、魔法が発動する。虚空から氷が生み出され、同時に爆砕。
「ぐ……! まだまだ……!」
右腕に斧を装備し、豪華な鎧を身につけたこの男は隊長なのだろうか?
まあ、そんなことはどうでもいい。
「貴様はすでに終わりだ」
一度解放された術式をその後詠唱無しで発動できる。
これが俺の刻印特性。
俺は爆砕魔法を発動しようと左腕を振るう。
奴の顔が恐怖に歪む。
その瞬間だった。
「機甲展開。《アクセルモード》、《ディフェンサーモード》へ!」
爆砕魔法が発動するその少しだけ前に、少女が飛び込んできた。
一瞬、魔法を発動するのを迷った。
戦場に、女だと!?
それは俺からするとありえないことだった。
いや、最も忌み嫌うことだった。
俺は絶対に女子供を戦場には出さない。そう決めている。
彼らが戦うくらいなら、俺は敗北を受け入れる。
彼らは未来ある存在だ。
未来を創る存在だ。
その手を血で汚させるわけにはいかない。
そう思っていたから戸惑った。
必中のはずの魔法が、外れた。
少女をかすめもしなかった。
「隙です!」
一瞬空耳で「好き」と聞こえた俺は驚いた。いや、戦場で、しかも敵国の王にそんなことを言うやつがいるか。
聞いたところによると《機人》の兵士たちは、ある種の洗脳を受けているらしい。
だから、そんなことはないのだ。断じて。
とりあえず彼女の刃を受け止め、
「今なんて言った!?」
「あなたには、隙があると言いました! それは、戦闘技術ではなく――あなた自身の心にあります! 《ハイ・スピ―ドモード》!」
抱きつかれ、そして俺は後ろに加速した。
「くっ――!?」
なかなかやる。
だけど俺は彼女に抵抗できなかった。
単純に、そうできなかった。こんなことは初めてだ。敵に情けをかけたことはあった。少年に近しい兵士や一般人には手を出さなかったりもした。
無論、殺そうと思えばできたのだろう。
でも、なぜかこの少女を殺す気にはなれなかったし、なにより魔法が発動できる自信もない。
「あなたは、どうして私に手を出さないんですか? 私はあなたの『敵』ですよ?」
俺を地面に投げ捨てた少女がそういう。
そんなことを言われても、できないものは、できない。
「敵とかそういう前に、何も思わないのか? 子供や、女性を兵器として戦場に出すお前らの指揮官に対して!」
「私は、疑問に思うことはあります。でも、私以外に、誰も疑問はもっていません。――あなたが単純に命令に従うように」
確かに、そうだ。俺は「王」ではあるが、あくまでも戦場に出れば一人の兵士。
いいや、違う。
俺は、「操られている王」だ。
俺たち《刻者》は、魔法を使える進化した人類に生み出された改造人間の集団だ。
元はと言えば、彼らの奴隷のようなものだ。
俺が奴らの命令に従う限り、ある程度の自由を認める。
そういう条約を結んだから今がある。
最も奴らからしても、俺の存在は驚異らしいからな。
「だが、そうしなければ、あいつらは!」
「ええ、そうです。確かにその通りです。――でもあなたも、少しは疑問を抱いていませんか?」
「なんで、それを……!」
俺は、最終的に奴ら――自らを「超人」と呼ぶあいつらを殲滅しようと考えている。
だがそれは仲間にも明かしたことはないし、奴らにもばれてはいないだろう。
「なのに、どうして知っているのか? って思いましたか?」
「――ッ!?」
「私は、『周囲の人間の感情や思念を受け取り強化される兵器』。神や宗教が人々の想いで成り立っているように、天使――《ラファエル》の名を持つ私もそれに似せられて作られました」
さらに彼女は言う。
「最も、そのおかげで私はあなたという協力者を得ることができましたが」
意味が分からない。俺が、協力者? バカいえ、こいつは女とは言え敵だ。
協力するわけはないだろう。
「いいえ、あなたは私に協力します。なぜならもう私を作ったあいつらは、私が今考えていることをたった今知ったからです」
手をこちらに差し出して。
「さあ、選んでください。あなたは、私のマスターになりますか?」
「マスター?」
「私が受け取る感情は普段、周囲すべてに向いています。ただ、マスターを決めることで、その人物だけの想いを受け取ることができます」
なるほどな。とはいえ、
「お前は何ができる?」
「それは、あなた次第です。――さあ急いで、あと一分もありません」
こいつらを作ったってことはきっとこいつよりも強いのだろう。
それに、もしこいつのマスターがそいつらになれば、俺に勝ち目はないだろう。
なら――
「わかった。やってやるよ、お前のマスター」
「それでは、手をこちらに」
手を重ねる。とても機械と融合した人類とは思えない、人間らしいぬくもりがそこにはあった。
彼女の左手から心臓へ、蒼いラインが光る。
「マスター名、レオス。登録完了しました」
蒼い光が収まると、上空には、翼をもった機械がいた。
「マスター、戦闘準備を」
表情を見る限りでは、楽に倒せる相手ではないようだ。
俺は刻印を解放した。
「《ラファエル》、貴様何をしたか! よもやその男と――」
「問題はないでしょう? 私はこういう存在なんだから」
「貴様……この裏切り者めが!」
その機械は、まるで人間のようにしゃべっている。ちゃんと感情もあるところ辺り、こいつらを作ったやつらか。なるほどそりゃ、楽な相手じゃねえな。
単純な上位互換なんだから。
「刻印解放、炎陣乱舞」
「《アサルトモード》、火力にすべてを」
俺が炎の壁を造り、彼女が虚空から展開されたマシンガンを撃ちまくる。
それがすべて命中するが、ダメージが入った気配はない。
「この程度、効くはずもあるまい。――《モード・ルイン》」
奴の装甲から紫色の光が漏れ出し、そして奴の周囲には大量の兵器が浮かんでいる。
「さて、幕を引くとしよう」
奴が指を弾き、弾丸が一斉に俺たちに向かって発射された。