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Beyond the world,  作者: Mr.deception
4/5

救済


綾一は言葉が出てこなかった。

突然背後から話しかけられたから、だけではない。

普段見かける「女の子」とは明らかに違う風貌をしてる目の前の存在に、警戒を解くことができなかったからだ。


「おーい、大丈夫?」


女の子は手を綾一の眼前で左右に振りながら語りかけてくる。

見た目は中学生くらいだが、声と動作で更に幼いように感じる。


「へっ? あ、あぁ、大丈夫」

「よかったー。君、珍しい服着てるね、どこから来たの?」


綾一は女の子からの質問に答えなかった。

正直に家のトイレから来た、なんて言おうものなら頭がおかしい人扱いは避けられない。

それに、そもそも今いる場所がどこなのかわからない以上、家の話はするだけ無駄だ。


綾一が黙っていると、女の子は質問を変えた。

「…言えない事情がある、とか?」

「あ、あぁ。まぁそんなところかな」

「ふーん、訳あり、ってやつか」

女の子はうんうんと肯きながら、こちらの状況を理解したような顔をしている。

そんな大それた理由はないが、都合がいいので黙っておくことにする。


「そうだ、ちょっと聞きたいんだけど」

「ん? 何?」

「実は、理由あってあの街のことを調べてるんだけど、このあたりのこと全然知らないんだ。君ってあの街の人?」

「そうだよ。街の中の診療所で先生の手伝いしてるんだ」


そう言う彼女の表情は地震に満ち溢れているように見えた。

医者の手伝い、いわゆる看護師というところだろう。

猫耳の看護師とはまたマニアックな、と思った。


「ちょうどよかった。あの街のこと、少し教えてくれる?」

「うーん、いいけど」


女の子は腕組みをし、首を傾けながら答える。

何か不都合があるかのようだ。


「けど?」

「ここで話するより、実際に来てもらったほうが早いよ」


それが出来ないから言っているのだが。


「それができれば苦労しないんだけどな」

「これも訳あり?」

「この格好じゃ警戒されるからね」


綾一はそう言うと、門の前に立つ2人の兵士を指さした。


「なるほど、そういうことね」


そう言うと、女の子は自分が乗ってきたであろう馬車を指さした。


「じゃあ、これに乗せてあげよう」

「馬車? これ君の?」

「そ、うちの診療所で使ってるやつ。これに乗れば街に入れるよ」

「本当? でも、馬車の中にいても兵士には見られるんじゃ?」

「大丈夫。診療所の馬車は中を見られないんだー」

「そうなの?」

「そうなのです! あと偉い人の馬車とかもそうだよ」


偉い人、という言葉は引っかかるが、何らかの特権を持っているのだろう、と綾一は理解した。

ただ一方、ある疑問が浮かび、女の子に訪ねた。


「俺はすごく嬉しいんだけど、なんでそこまでしてくれるの?」


当然の疑問だった。

出会ったばかりの男――しかも風貌が怪しく、身元不明――にここまでしてくれる理由はなにか?


「困っている人がいたら助けなさい、って先生の口癖でさ。あなた、すっごく困った顔してたから放っておけなくて」


女の子はそう言って笑った。

混じりけのない、純粋な笑い声だった。

綾一はその姿と声を聞いて、女の子を疑ったことを心の中で詫びた。


「わかった。じゃあ乗せてもらえるかな?」

「オッケー!」


そう言うと、女の子は馬車に向かって勢いよく走り出した。

降って湧いた幸運に助けられ、街に入ることが出来るようになった。


「とりあえず第一関門クリア、かな」


綾一はそう呟きながら、走っていく彼女を追いかけていった。

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