出会い
■
街に入る人々を観察して、数時間が経過した。
綾一は町の入口からほど近くにある大きな岩の影から、街の動きを観察していた。
当初、街の入口の近くから、特に周りも警戒せずに観察をしていたが、事態を冷静に受け止められるようになった途端、自分の服装が寝巻きだったことを思い出し、慌てて隠れて観察できる場所を探し、今の場所に行き着いた。
綾一は、あらためて状況の整理を始めた。
少なくとも、この場所は日本ではない、ということは感じていた。
あたりにビルやマンションの影はなく、あるのは草原と砂利道、そして時折通る馬車と、見慣れない格好をした人々。
その風景はまさにドラマの撮影風景のようで、夢の中の出来事のようだった。
しかし、目の前の光景は現実なのである。
岩陰に隠れて観察をしていた時、側を通った馬車から跳ね上げられた小石が右頬を直撃したことがあったが、その時も強烈な痛みを感じた。
やはり、これは現実なのだ。
綾一は目の前の光景を受け入れ、元の場所――自分の家――に帰る方法を探すことへ気持ちを切り替えた。
馬車に轢かれかけた場所に戻ることも考えたが、あの場所にいたところでただ時間を浪費するだけだと考えたからである。
時間を浪費するくらいなら、情報を得ることを最優先にし、出来る限り早く家に帰ることを目指とうと心に決め、情報収集に勤しんでいる。
■
気がつくと、あたりが暗くなり始めていた。
遥か彼方に見える山々の背後に、今まさに太陽が沈もうとしている。
それから数十分もすると、完全に太陽は沈み、すぐに寒さが増してきた。
この寒さは予定外だった。日中、観察を続けている間は寝間着だけでも十分暖かいくらいの気候だったが、太陽が沈んだ途端、一気に気温が下がったようだ。
「寒い……これはヤバイぞ」
恨みにも似た独り言を呟いてはみるものの、気温の低下は時を追うごとに増している。
このままだと最悪凍死してしまうのではないか、という不安が頭をよぎる。
どうしたらいいのか……と途方に暮れかけたその時、背後から突然声が聞こえた。
「君、なにしてるの?」
予想外の方向から声が聞こえ、綾一は振り返りながら、驚きと警戒から奇妙な声で答える。
「はへっ!?」
「あはは、驚きすぎでしょー」
驚くのも無理はない。振り返った先にいた女の子は、明らかに普段見かける女性とは異なる容姿をしていたからだ。
具体的に言うのであれば、頭のてっぺんに、可愛らしい猫耳が2つ、生えていたのである。