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ウェステリアの旅1

ウェステリア・マムと言う芸術の才能を持つ貴族の娘の話です。

1から始めるダンジョンマスターにいつかは出てきますが、先に外伝として出しました。


王都ホーリィセントラルの王城では宴が行われていた。

主催者はもちろん王であるエドワード・ヴァイス・ホーリィである。

しかし、それを取りまとめているのはマム家と言う貴族だった。


この国で貴族と言うと、アイス,アース,ウィンド,ファイアの4つの主流上級貴族とその支流の貴族、そして血脈が薄くなったがその血を薄く受け継ぐ少しの貴族の3種類がほとんどだったが、マム家だけはこれに当たらない。

上記4つの貴族の血を引いた者は、その属性に合った強力な魔法を才能として得ているわけだが、マム家にも魔法に勝るとも劣らない特別な才能があった。芸術である。


マム家に生まれた者は芸術の才能を強くひき、そして血が主流から外れるにつれて薄くなっていく。

芸術とは貴族にとって切り離すことが出来ないものであり、それが理由でマム家の者は各貴族との繋がりが深い。

そして今回の宴を取り仕切っている者は、マム家で最も才能溢れた成人の女性だった。


「やはりマム家の者が取り仕切ると宴の良さが

 格段に上がりますね。楽団の質が全然違う。

 この間金を渋ってマム家を無視した貴族の

 宴に行きましたが、それはひどいものでしたよ。」


そんな声が後ろから聞こえる。

誉め言葉に当たるのだろうが、マム家以外の取り仕切った宴と比べられても全く嬉しくはなかった。

それより、この宴を終わらせる義務があった。

目の前で楽団による最後の曲が終わり、貴族たちが踊りを止める。

踊っていた貴族たちが、元いたテーブルへ戻っていくと、エドワード王が壇上に上がる。

各貴族がそれに対しざわめきを始めたのを手のひらを向けて左手を前に出し、静める。


「今年も無事、貴族祭を終えることができた!

 皆、ご苦労だった。

 毎年のことだが、今年の宴の取り仕切りも

 マム家の者にやってもらっている。

 盛大な拍手を!」


毎回のことだが、王はマム家の者への感謝を忘れないようにこうして貴族に拍手をさせることを行う。

今まで一度としてこのようなことは行われておらず、今の王は器が広い。と噂にもなったものだ。

ウェステリア・マムはマム家の代表として壇上の王の隣へ進み、深く頭を下げた。

淡い緑色のドレスについたリボンが垂れる。

今この拍手は自身に送られているのだ。そのことを理解する。


宴も無事終わり片付けが始まっている時だった。


「ウェステリア。ちょっといいか。」


今日の手伝いをしてくれたマム家の若者たちに労いの言葉をかけていると、後ろから声をかけられた。

振り向くと、宴が終わったため軽装に着替え直したエドワード王の姿があった。


「これは閣下。

 お呼びつけ頂けましたら、お伺いしましたものを。」


エドワード王に対し深く頭を下げるウェステリア。

よい。と頭を下げるのをやめさせると、エドワードはこの場に来た理由を述べる。


「ウェステリア。明日、王都を発つと聞いたぞ。」


ウェステリアが王都に来て1年経つ。

その前は、ウィンドの領都にいた。宴の取り仕切りの良さを評価され、マム家代表として王家の宴を取り仕切ることになったのだった。

だが、そんなことも今日でおしまいである。


「閣下。まことに申し訳ありません。

 しかし、マム家に生まれたからには芸術に対する

 探求心を抑えることができません。

 ご容赦ください。

 私の跡に着任する者は、マム家でも随一と呼ばれる

 者です。きっと今以上に素晴らしい宴が開かれる

 ものと思います。」


謝罪の気持ちを精一杯言葉にしてエドワード王に伝える。


「そうか。寂しくなるな。」


それだけ言うとエドワード王はマントを翻らせて帰って行ってしまった。

ウェステリアはその姿が見えなくなるまで頭を上げなかった。


翌日、ウェステリアはリュートと最小限の荷物を持って馬車に乗るために待合をしていた。

恰好はウェステリアの好きな淡い緑色の布でこしらえたスカートの軽装に、紫色と白色が散りばめられたのストールを首に巻いていた。

ウェステリアの最もお気に入りの姿である。そしてこれらは魔法が使えないウェステリアのためにマム家が作った魔法アイテムなのだった。

生活魔法であるクリエイトウィンドが掛けられるようになっている。

そんなウェステリアが待っている馬車は民間用であり多少場違い感があったが、自身のわがままで王都を離れるためマム家からも支援はなく無駄な出費をすることができなかった。


馬車が到着したので乗り込むと、隣の席に着いたのは10歳に満たない幼い女の子だった。

女の子はウェステリアの目をじっと見たまま逸らさない。

流石に気になり、声をかける。


「私、どうかしたかな?」


そう声を掛けると、女の子の隣にいた母親がそれに気づいたようで、申し訳ありません。と慌てて謝罪をしてくる。

起きになさらず。と強めに言うと、母親はそれ以上何も言えず自身の子が何かしでかさないかドキドキしながらこちらを見ていた。


「お姉ちゃん、とてもキレイなの。」


女の子はそう言った。


「ほんと?ありがと。

 そんなこと初めて言われたわ。」


満面の絵顔で返すと、女の子はきゃっきゃっと喜ぶ。

そして、


「でもね。とても悩んでいるの。

 迷っているの。

 大丈夫?」


喜んでいた顔が真面目になり、改めてウェステリアの顔をじっと見つめて来た。

言われたウェステリアは驚いてしまう。

女の子の目は汚れが少しもなく澄んでいる。その目を見返していると、吸い込まれるような気持ちになる。

ふっと我に返り女の子に、そう?と尋ねると、うん。と返される。

この子は本気でそう思っているのだ。

その子にそうかもしれないわね。あなた、いい瞳を持っているわね。将来素敵な女性になれるわよ。と伝えると、再度女の子は喜ぶ。

その姿を見ながらウェステリアは表情を崩さなかったが、驚いた気持ちだけは止められなかった。心臓の鼓動が少しだけ早い。


この子はきっと魔眼を持っているのだと思った。見られていると、心の奥底に潜んだ不安を浮上させる魔眼だ。

吟遊詩人になるべく旅立つ決意の揺らぎを見透かされたのだ。

今までそんな指摘をした人は一人もいなかった。実績を作ったことを惜しむ家の者がいたくらいだ。

なので、まだ残っていた揺らぎを教えてくれた女の子に感謝する。そして、1000年前の戦争の歌を歌う。


いきなり歌いだしたウェステリアの声に皆驚いたが、すぐに黙って静かに聞き始める。

御者も心なしか耳がウェステリアに向いてる気さえするほどだ。

ウェステリアの声は高く、そして馬車の移動する音では掻き消えない強さを持って皆の耳に届く。

無事謡い終えると、少し経ってから皆の拍手が聞こえる。

ウェステリアにとって、昨日の王城の拍手よりこちらのほうがとても心地よかった。

吟遊詩人としての腕前を評価してもらっているからだ。

そして思うのだ。この1000年前の歌を歌った吟遊詩人を超えるような歌を作るのだ。と。


ウェステリアの旅はまだ1日目を迎えたばかりだった。


きっと悩んでいる、迷っているのではないかと思われる人に贈る話です。

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