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白金記 - Unify the World  作者: 富士見永人
第三章「アメリカ編」
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第九十七話「零」

 ぼくが任務中に戦死した、と知らされた星子(せいこ)はずっと落ちこみ、部屋に閉じこもってしまったらしい。

 友人であり、かつてぼくの家事を担当していた美煐(ミヨン)が世話役を買って出、星子のことは美煐に任せていると姉さんから聞いた。美煐はしっかり者なので星子の生活自体は大丈夫だろうが、最近は恋人の宗一郎とも会っていないそう。

 星子の精神状態が気がかりだ。

 できることなら、今すぐにでも「お前の兄貴はこの通り生きてるぞ!」と知らせてやりたい!

 しかし、今のぼくにそれは許されてはいない。

 ぼくはサリーに洗脳され、白金機関の同胞をたくさん殺してしまった。

 死んでいった彼らの身内や、兄弟のように仲のよかった友人たちの中には、ぼくを恨んでいる者もいるだろう。ぼくが姉さんの身内だからといって依怙贔屓(えこひいき)してしまっては、彼らに対する示しがつかない。〈偉大なる太陽〉への忠誠も揺らいでしまいかねない。そんなことは絶対にあってはならない。

 白金機関のエージェントならまだしも、星子のような素人に重要機密情報の隠匿は難しい。彼女にその気がなくともうっかりぼくの生存が洩れてしまう可能性はあるし、何よりぼくが死んだのなら今まで溺愛していた妹が平然と振る舞っている方が不自然だ。同様に他の機関職員やこれまで交流のあった人々、たとえば宮美(みやび)(なつめ)、アルマですら白金ヒデルは死んだということにされており、彼らの受けた精神的ダメージも心配である。ぼくの人生は(リセット)されたのだ。


 白金月人(しろがねつきひと)。それがぼくの新しい名だ。


 姉さんと同じ〈人工全能〉の最後の生き残り――そういうことになっている。が、それを知っているのもごくわずかな人間だけで、ほとんどの機関職員には最近入った優秀なエージェントということ以外知られていない。

 宮美は一度の気の迷いとはいえサリーに協力し、間接的に白金機関のエージェントを死に追いやってしまったことから大嶽(おおたけ)総理の補佐官を解任され、政治家への道を断たれた。白金大学も退学となり、国家機密漏洩等の罪によりどこかの収容所で禁固刑となっているらしい。かつての父鷹条林太郎(たかじょうりんたろう)元総理から日本を奪取するために協力してもらったこと、最後にサリーからぼくを奪還するために協力したことを鑑みて姉さんの恩赦が下った、という見方が正しいだろう。でなければ白金機関に仇なした敵国のスパイとして処刑されていたはずだ。姉さんは味方にこそ寛大であるが、裏切り者への制裁は徹底している。

 それは、このぼくとて例外ではない。

 ぼくがこうして顔を変え、名前を変えて生き延びているのは、ぼくが弟だからではなく、〈人工全能〉であるぼくの能力が姉さんの世界征服戦略に必要不可欠であり、また今までの機関への貢献、ぼくの伝えたヘリオスの最新の内部情報の価値を考えてのことだろう。

 棗とは機関に入ってから何かと交流があったが、彼はぼくの友人である以上に姉さんの熱烈な信奉者で、彼の中の理想の姉さんは裏切り者のぼくを弟であろうと関係なく公平に罰するだろう。ただ都内某所にあるぼくの墓標に時々花を添えに行っているらしい。

 アルマのことは詳しくは聞いてないが、姉さん曰く今まで以上に研究に没頭しているようだ。兵器開発局の他の人間との会話もほとんどなくなり、時々ぼそぼそと独り言を呟いているとか。

 おそらく現時点でぼくの生存を知っているのは姉さんと〈副総帥〉のみだろう。副総帥とは二、三度ほどしか会ったことはないが、実務部隊を取り仕切っているのは彼で、姉さんが全幅の信頼を寄せている。

 それと、サリーか。

 彼女がぼくの正体に気づいたのは正直意外だった。今やぼくは白金機関の優秀な美容整形外科医が施した完璧な手術によって完全に別人の顔となっている。女装の似合う優男の顔はもはや見る影もなく、どちらかといえば精悍で男性的な顔立ちとなっていた。姉さんと瓜二つだった甘いマスクは気に入っていたのだが、そこは致し方ない。ぼくはそれだけのことをしてしまったのだから。サリーがなぜぼくの正体に気づいたのかは定かではないが、完璧な整形だけでは隠し覆せぬ何かがあるのかもしれない。だから姉さんはぼくにかつての友人知人、殊に星子に会うことを禁じたのだろう。

 サリーといえば、不可解なことがひとつ。彼女があっさり白金機関への協力を申し出た時の、姉さんの反応。ぼくはサリーが保身のために苦しまぎれに思いつきで心にもないことを言ったとばかり思っていたが、ヘリオス時代に〈人間嘘発見器〉とまで呼ばれていた姉さんですら、サリーの考えていることがよくわからないと言った。


 そうだ、サリーは洗脳のスペシャリストじゃないか!

 ならば、自分自身を洗脳して一時的に白金機関の協力者としてこちら側に潜伏することだって、できるはずだ。


 こうしちゃいられない!

 やはりあの魔女は生かしておくには危険すぎる。

 いてもたってもいられなかったぼくは、サリー処刑の許可をもらうべく姉さんのもと、新宿に新しく建造された新白金タワー(正式名称第二百十二白金タワー、現時点で世界最高のビルディング。二百階建て、高さ九百六十八メートル、建造費三千億円)まで馳せ参じた。

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