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白金記 - Unify the World  作者: 富士見永人
第三章「アメリカ編」
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第九十二話「暴露」

 サリーとともにヒヅルに降伏した満身創痍のぼくは、白金機関の医療部隊によって一命をとりとめた。

 両腕切断に加え、足や腹に大口径の銃弾を受け、常人なら死んでないのが不思議なほどの重傷だったが、そこはぼくが〈人工全能〉だからか、白金機関の医療部隊が優秀だったからか、メンゲレ博士の改造手術の賜物か、あるいはそのすべてなのか、とにかく助かった。

 ぼくたちは今、白金機関のステルスヘリでどこかへ護送されている最中である。

 ぼくのスーパーパンチで内臓を潰されたはずのヒヅルは今やピンピンしており、傍にいた中東系の女ティキと何やら話していた。白金ヒヅルもぼくと同じ〈人工全能〉であり、内臓を潰された程度では死なないのか、それともあの時血反吐を吐いたのはぼくを油断させるための巧妙な演技だったのかは作者のみぞ知る。

「さて」

 ヒヅルがサリーを威圧的に見おろした。サリーは特に手足を拘束されることなく、ただ無表情でぼくの隣で可愛らしく体育座りをしていた。童顔なせいもあってか、大嫌いな水泳の授業をズル休みして見学する中学生女子のように見えなくもない。

「降伏を選択したあなたの判断は正しい。思ったより利口ですね、サリー・ブラックメロン。まず手始めに、ヒデルの洗脳を解いていただきましょうか」

 ヒヅルが懐から菊が描かれた扇子を開き、サリーに命令する。葬式では定番である色とりどりの菊が、「逆らったら殺す」と暗に告げているようだった。

「それはできないわ」

 サリーが即答すると、ヒヅルの意向を忖度(そんたく)した(なつめ)自動拳銃(ベレッタ)を取り出し、サリーの胸元へと向けた。

「なぜです」ヒヅルがサリーに問う。

「彼の洗脳は〈ミラクル・オラクル〉本部にある装置で継続的に情報を与え続けることで成り立ってる。だから、洗脳を解くにはそこで正しい情報を刷りこむ必要があるの」

 サリーは死が怖くないのか、無表情でぺらぺらと語り続けた。

「ほゝゝ。なるほど。それはまた、厄介なことをしてくれましたね。サリー・ブラックメロン。しかし、こちらもはいそうですかとミラクル・オラクルの本部まで出向くわけにはいきません。我々も敵の捕虜を洗脳して利用する手法については研究を重ねている。ヒデルが元の記憶を取り戻せないのであれば、それはそれで構いません。我々の手で新たな記憶を刷りこむまで。あなたには我が機関直轄の収容所へ行っていただきましょう。無論、ヘリオスやブラックメロン家についての情報も洗いざらい話していただきます。我が機関にはその道四十年の専門家がいます故、お楽しみに。ほゝ、おほゝゝゝ」


 ぼくがサリーに、洗脳されていた?


 鷹条宮美(あのオンナ)もそんなことをほざいていたが、根も葉もないデマのはずだ。

「サリー」もはや(すが)りつくようにぼくはサリーに訊ねる。ぼくの根底にあった何かが、今にも音を立てて崩れ落ちそうだった。「嘘だよね。サリー。ぼくを見てくれ。君はぼくを騙すような、そんなタチの悪い女じゃないよね」

「本当よ」

 サリーはあっさり自白した。

「ヒヅルの言った通りよ。パエトン……いや、白金ヒデル。私は宮美を餌にあなたを捕らえ、偽りの記憶を埋めこんで駒として利用し、プラトン大統領を殺した〈白金機関の殺し屋〉として歴史に汚名を刻ませ、白金機関はアメリカ大統領を殺した敵として、日本ごと世界地図上から消し去る予定だった。でも、途中で気が変わったわ。リリカル・マジカル・キャッスルが爆破された時、あなたが命がけで私を助けにきてくれたと知って、嬉しかった。強くて誠実なあなたなら、マイクのように死なずに、他の連中のように裏切らずに、私を守ってくれると思っていた。でもどうやら、それはただの勘違いだったみたいね」

 もはやぼくへの興味などすっかり失せてしまったと言わんばかりに、サリーはそっけなく語り続けた。

「ねえ。ヒヅル。そんなことより、これから一生牢屋暮らしは(いや)。設備と人材を貸してくれれば、あなたの洗脳工作を手伝うわ。捕まえたヘリオスや他国の工作員を洗脳して、二重スパイとして活用するの。いいアイデアでしょ。ヒデルの記憶も元通りになるわ。どう? ただ私を収容所で飼い殺すよりも、お得だと思わない? あなたの〈完全世界〉の実現に、協力するわ。もともと私はお父様の〈終末計画〉には反対だった。世界を牛耳るのがお父様でもあなたでも、どちらでもいいわ。私はただ、残りの人生を面白おかしく生きられれば、それでいい。あなたは私の能力を利用すればいい。Win・Win(ウィン・ウィン)でしょ」

「貴様、自分の立場が」

 サリーの額にベレッタの銃口を押しつけ吼える棗を、ヒヅルが手で制した。

「ほゝゝ。さすがはブラックメロン家の四女。なかなか肝が据わっている。私には大抵の人間の〈嘘〉が見えますが、あなたが何を考えているのか、よくわかりませんね。いや、何も考えていないのか。いいでしょう。あなたの処分を、ひとまず保留にします。〈完全世界〉構築のために、身を粉にして働くのです」

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