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白金記 - Unify the World  作者: 富士見永人
第三章「アメリカ編」
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第七十一話「黒幕」

 早速ぼくは会長室を後にし、宮美(みやび)の捜索を開始した。姉さんの言う通り宮美がヘリオスの者と接触し、保護されているのなら、おそらくもう日本にはいないだろう。なぜなら日本はすでに二千万を超える顔認識監視カメラと人工知能IRIS(イリス)による二十四時間監視システム・全能眼(パーフェクトアイズ)によってありとあらゆる場所が監視されており、たとえ山奥の小屋に幽閉していても公安警察の追跡を逃れることはできない。

 ぼくは姉さんの許可を得てIRISのビッグデータにアクセスし、国内の全監視カメラに記録された全人物のデータを漁った。特に空港のカメラを重点的にあたったのだが、宮美がヘリオスの工作員と接触して《監視対象(イエロー)リスト》に登録されて以降に限れば、国際線に乗って出国した履歴はおろか、空港を利用した痕跡すら見つからなかった。まあ彼女が問題行動を起こすようになってからは、国際線の利用は制限されているし、空港ほど監視の厳しい場所はないのはヘリオスの連中も重々承知しているだろう。次に海路。国内に存在する(すべ)ての港、およびその周辺に仕掛けられた監視カメラの情報を漁る。無論ひとつひとつ録画をチェックするわけではなく、顔認識カメラからの情報を元に作成されたリストを検索しているため作業は一瞬である。しかしこれも外れ。宮美が最後に全能眼(パーフェクトアイズ)に捉えられたのは、白金大学の最寄駅である目白のタクシー乗り場である。そのタクシーを、白金機関の職員が乗った二台のベンツが尾行しており、それらに搭載されていた発信機のGPS情報がIRISのサーバーに残されていた。この二台のベンツは奥多摩の山林まで進んだ後に位置情報が途絶えており、機関の職員二名はここで何者か(おそらくはヘリオスの兵士)に銃撃されて死亡した。

 だが、全能眼(パーフェクトアイズ)も本当の意味で全能ではない。顔認識カメラはマスクをする程度で回避できるし、ぼくの完璧な変装技術をもってすれば、たとえばヒヅル姉さんに変装して行動し、IRISを欺くこともできるのだ(もっともマスクをして映った人物のデータもIRISは収集している)。それは当然、秘密結社ヘリオスも同じと見るべきで、ヘリオスの工作員が変装して国内に潜伏したり、あるいは宮美を変装させて別人として国外に逃亡させることもできると考えるべきであろう。全能眼(パーフェクトアイズ)にはまだまだ改良の余地がある。

 結局こういう時に役立つのは、自らの足を使った地道な調査なのである。ぼくはまず宮美の通っていた白金大学目白キャンパス擁する第百三十三白金タワーへと(おもむ)き、聞き取り調査を行った。白金大学政治学部に首席で合格し、以降も常にトップクラスの成績を維持しながら大嶽(おおたけ)総理の側近として働く宮美は、キャンパス内ではその名を知らぬ者はいないほどの有名人であった。男子学生たちが結成した非公式のファンクラブまであり、聞き取り調査は順調に進んだ。宮美ファンクラブ会長の言によると、宮美は一年ほど前からボランティア活動にも精を出しており、特に国際慈善団体HALO(Humanity And Life Organization、直訳すると「人道と命の団体」)の活動に積極的に参加していたという。この団体は日本にも認定NPO法人として支部を持っており、ホームレス支援や子供食堂、孤児院の運営や環境保護活動、災害時のボランティア活動、企業犯罪の摘発(違法長時間労働や立場を利用した人権蹂躙(じゅうりん)、有給や育休の取得妨害など)といった様々な人権擁護活動を行なっている。国外では、国家による弾圧や虐殺の摘発、児童労働や人身売買、少女買春の撲滅、難民支援、地雷除去活動などさらに多岐にわたる。宮美の海外への渡航歴を調べたところ、過去二年でミャンマーやスーダンといった途上国に三回出国している。ぼくの知らない宮美の一面を垣間見た気がした。

 国際慈善団体HALOについてさらに詳しく調べていくと、ある財団から多額の資金援助を受けていることが判明した。

 その名も、《ミラクル・オラクル財団》。

 このふざけた名前の財団のトップが誰なのかを、ぼくは知っている。

 

 サリー・ブラックメロン。

 

 秘密結社ヘリオスの元締め、ブラックメロン家当主ハロルド・ブラックメロンの四女である。

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