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白金記 - Unify the World  作者: 富士見永人
第一章「日本編」
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第二十七話「告発」

 善は急げ。宮美(みやび)の協力をとりつけたぼくたちは、すぐさま鷹条(たかじょう)総理の罪を告発するビデオレターを制作するため、宮美に出演を頼んだ。

「まず初めに、私は先日の白金タワーテロ事件の犠牲者と遺族に、心の底から、深くお詫びしなければなりません。どんな罰を受けたところで、鷹条家の罪が償い切れるとは思っていません。本当に、ごめんなさい」

 ぼくの構えたカメラの前で、宮美は深々と(こうべ)を垂れた。

 この《鷹条宮美のビデオレター》に含まれるのは、彼女自身による鷹条家の人間としての国民への謝罪(彼女はあくまで鷹条家の人間として、父の犯した罪を謝罪し、償いたいと言っていた)、それから雲母(きらら)とティキが持ち帰った鷹条総理と国際テロ組織エルカイダの司令官ウサム・ビンラディンとの密会映像。なお、表向きこの密会映像の提供者は、国際ジャーナリストにして白金機関の《協力者》である渡辺陽二(わたなべようじ)氏、ということになっている。彼は危険を(いと)わず大衆に真実を伝える戦場カメラマンとしても有名で、父の恐ろしい企みを知った宮美が彼に真実を確かめてほしいと涙ながらに懇願し、正義のカメラマン渡辺はそれを快諾した、という、いかにも大衆受けしそうな設定である。

 さて、こうして作られた《鷹条宮美のビデオレター》を、まず宮美が自分の公式アカウントを用いて動画投稿サービス・アイチューブ、フェイスムックやツイスターなどのSNSを使って、全世界へと公開。さらにすぐさま白金機関のサイバー戦略部隊が英語や各国語の字幕付き動画を制作し、ありとあらゆる方法で拡散していく。動画の再生回数はたちまち全世界で二億回を突破し、各国のメディアはこぞってこれを取りあげ、「鷹条総理はテロ支援者である」と痛烈に批判。全世界で同時多発的に報道されたため、秘密結社ヘリオスの力をもってしても鎮圧することは不可能だったらしい。インターネットは偉大なり。

 さらに日本のメディアも予め白金グループが大金をばらまいて買収済であり、常日頃から愛国党政権による情報統制圧力を受け続けていたメディアは、これを機に世論を味方につけつつある労働党(つまり《白金党》)へ寝返ってしまおう、と、そのほとんどがこちらの《協力者》と化した。件の《鷹条宮美のビデオレター》は日本でもすでに三千万回以上再生されており、大衆の多くに知れ渡ってしまった。にもかかわらず、各メディアがこれを取りあげなければ、彼らの存在意義を疑われてしまうことにもなりかねず、彼らが買収に応じない理由はなかった。

 日本の各主要メディアもこぞって宮美のビデオレターについて取りあげると、世論は完全に鷹条政権を見放し、政権支持率はあっという間に急落、三パーセントを割りこみ、史上最低の支持率を記録してしまった。白金グループは、鷹条総理率いる愛国党政権およびその裏に潜む秘密結社ヘリオスに、情報戦で完全に勝利したのだ。

 その後、国会前では我々が煽動(せんどう)した鷹条政権糾弾デモが連日のように行われ、その数は日に日に増し、一週間後には百万人規模にまで膨れあがり、首都機能を一部麻痺させるにまで至った。人数がここまで膨れあがってしまえば、警官がどんなに出張ろうと多勢に無勢だった。

 この事態を受けて愛国党内では、鷹条総理を愛国党総裁の座から引きずりおろそうという動きが顕在化してきた。愛国党の議員たちも、完全に鷹条総理および秘密結社ヘリオスの兵隊、というわけではない。野党はこの機に必ず内閣不信任案を提出する。総裁が交代しなければ次の選挙は愛国党が大敗するのは火を見るより明らかで、そうすれば愛国党の議員のほとんどは落選し、政治生命すら脅かされるからだ。幸い罪を告発されたのは鷹条総理ひとりだけだったので、彼を総裁の座から引きずりおろせば、他の愛国党議員の首はつながるかもしれなかった。一方で愛国党を離れ、労働党や他の野党に合流しようという議員も現れ始めた。

 我々白金グループとしては、愛国党を政権与党の座から引きずりおろし、傀儡(かいらい)政党である労働党を政権与党にすること、そしてヒヅル姉さんの忠臣であり、労働党の重鎮(じゅうちん)でもある大嶽克典(おおたけかつのり)衆議院議員を次の総理大臣にすることができれば、日本の事実上の支配者はヘリオスではなく、姉さんということになる。日本国営放送(NKH)が行った世論調査によれば、現在の労働党の支持率は四十二パーセントで、二位の友愛党(ゆうあいとう)に実に四倍以上の差をつけて独走状態である。愛国党の支持率は現在二・七パーセントで、三位の社会党、四位の光明(こうみょう)党に次いで五位にまで転落している。たとえ総裁が交代したところで、この圧倒的な支持率の差を埋めることは不可能だろう。選挙で不正でも行われない限り、もはやヒヅル姉さんが日本の指導者として君臨するのも時間の問題であった。

 だが、事態は予想外の方向へと動いた。


 国会の前で続いていた大規模デモの中に、一発のロケット弾が、撃ちこまれたのだ。

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