【8】 もう一人の転生者 ~ケイの世界~
高校、の授業は、全く意味が分からなかった。特に、「数学」や「物理」。あれらは私の知らない概念を多く含んでいたし、第一、学ぶ意味を感じない。
先ほど、ヘレナに、放課後、屋上に来るよう伝えられた。私の調べたところでは、放課後は、家に帰る時間だ、と。どちらを優先すべきか悩んだ。相手がもしヘレンだったら、と考えると、無下にできないのは、最初から分かっていたけれども。
屋上、朝の雷雨を忘れたかのような太陽が、こちらを睨みつける。
「やっときたわね」
逆光でよく見えないが、あれは多分ヘレナだろう。
「何の用だ」
「あそこまでの大騒動起こしといて、よくもまあそんなことがいえたもんね」
「何の話だ」
「もう、こうすればわかる?」
「うっ!」
急に出現した魔力の感覚に、戸惑うテオ。ヘレナの周囲から、黒い影のようなものが渦巻き、周囲を暗く染めていく。
「なるほど、お前も魔術を使える、ということか。」
「そういうこと。あなたも気づいているでしょうけど、ここの人間は、魔術を使えない。」
「ああ、ちょうど今、気づいた。」
「私は、彼らを征服するためにここに来た、ってわけ。」
なるほど。言いたいことはわかった。次の展開も、読めた。
「自己紹介のために呼んだのか。」
つまり、征服のためには私は邪魔者、ここで倒そうというのだろう。
「単刀直入に言うわ。私の部下になりなさい!」
次の瞬間、テオの手から黒い「うで」が伸び、ヘレナをつかんだ。腕に掴まれたヘレナの周りから、暗い影が消えていく。
へたへたと座り込むヘレナ
「悪いな。魔力を吸い取らせてもらった。」
数秒のフリーズ時間のあと、飛び上がるように立ち上がったヘレナ
「ねえ! あんた! 卑怯よ、卑怯。私が一体何をしたっていうの?」
両腕を振り回して、屋上を走り回る。
「仲間になれって言っただけじゃない! 私は危害を加えるつもりなんて! 危害を加えるつもりなんて・・・」
「なかった、とでも言いたいのか?」
「・・・。あったけど。」
やはりそうだ。こいつは9割ヘレンだ。信用ならん。
「もういいわ! こうなったら、もう一度転生して・・・。」
「なあ、ヘレナ。魔力がなかったら・・・」
「ああ~!」
膝から崩れ落ちるヘレナ。
「おわりよ、オワリ・・・」
さすがにかわいそうになってきた。
「わかった、魔力を補充できるところに行こう、聖なる泉とか、あるんだろ?」
「あったらこの世界の人間みんな魔法使ってるわよ! ハハ、ハハハハハハ」
そうか、魔力の回収方法がないというのは気になる。早めに転生をし直すべきだろうか。しかし、日記のこともあるし・・・
ヘレネは壊れたように笑い続けている。まあ、これがヘレンなら5分も待てば冷静に戻るし、放っておくのが一番だろう。
そうだ、ヘレン。あいつはどうしているのだろうか。おれの亡骸はちゃんと保存してくれているだろうな・・・。