【5】 魔道学校 ~テオの世界~
「ここが、魔道学校さ」
目の前にあったのは、高い高い石積みの壁。半円形に空いた穴の向こうが見えないことからも、この壁の厚さがうかがい知れる。鳥肌が立つのは、壁の影で寒いからだと信じたい。
「中に入ったら、学長を呼ぶんだ、出てくるころには、家までの転移魔法くらいは使えるだろうさ」
「学長?」
「ああ、少し癖はあるけど、いい人さ。うわさだと、この世界に七千年生きているとか。」
ああ、そうだ。この世界では、前の世界の常識は通用しない。改めて驚いたけど、この感覚にもそろそろ慣れないとな。
「じゃあ、帰るからな!家で待ってるぞー」
可愛い少女の口から、思いがけない言葉が飛んでくる。
「え、ええ?」
次の瞬間、そこにあったのは高い太陽と、小さな花だけだった。
「いや、ここでおいて行かれるのは想定外なんだけど・・・」
前の世界の常識は通用しない、通用しない。いや、あの人が特殊なだけか・・・うん、きっとそうだ、きっと。
綿雲が高く空に浮いている。ああ、落ち着く。目線をずらすと、石の壁が。落ち着け、ケイ。頑張れ、ケイ・・
えっと、中に入ったら、学長、さんを呼ぶんだよね。
暗いトンネルを見る。さっきの街並みとは打って変わって、ここには人がいない。ここ、本当に入っていいのかな。一歩ずつ足を前に出す。自分のとは思えないほど、足取りが重い。てか、これ、僕のじゃないや。
体感一分、実際は二十秒くらい歩いたところで、中の景色が見えた。
そこは、普通の、草原だった。
「常識が、通じた。」
思わずため息が漏れる。精神的な解放感が半端じゃない。この世界に来て、一番リラックスした瞬間。視覚、聴覚、嗅覚と触覚。すべての感覚が安全を伝えている。
「ふぁーあ」
草原に倒れこむようにして横になると、疲れに任せて目を閉じた。
「寝たか?」
「寝た!」
「よし、運べ!」