【15】 魔術習得 〜テオの世界〜
ルナは僕を地べたに寝かせた。何かを唱えながら、僕の顔に手を、そして顔を近づける。僕の目は閉じられる。やわらかい髪の毛が顔に触れるのを感じる。鼓動の早さを感じる。金縛りのようで、動けない。魔法にかけられているようだ。手が頭の後ろに回る。彼女の息遣いを感じる。
その直後、僕は意識を失った。
「大丈夫?」
ルナの声で、僕の意識は戻された。
「すごく、辛そうだった。息、切れてる。大丈夫?」
さっきの展開を思い出して、冷や汗が出る。
「ぼ、僕は大丈夫なんだけど、ごめん・・・」
「??? よくわからないけど、よかった」
心底安心した様子のルナ。あたりは、もう夜のようだ。
「ごめんね、少し時間かかっちゃった。家、帰れる?」
家には帰れる。でも、ここにきた目的。
「魔法が、わからない」
「それなら、大丈夫」
ルナが得意そうに胸を張る。
「ほら、あれを燃やしてみて」
ルナが指さすのは、近くの木。
「燃えているところをイメージする、それで、バン!」
随分と感覚派なもんだ。この寝てた時間で、1体何が変わったっていうんだろう。
そう思いながらも、やらない理由はないので、念じてみる
「燃えてる木、燃えてる木・・・」
そのとき、今までとは違う「何が」が、僕の体の中を駆け巡った。それは、頭の上から足の先っぽの毛細血管まで、身体中のすべてから胸のあたりに集まり、手を伝って外に出ていった。そして、その木は一瞬にして燃え上がり、ケイたちのいる闇をてらした。
「これは、なんだ・・」
「捕まえた時、寝ている間に、ケイの体の魔力回路、見せてもらった。魔法を使ったことないって、はっきりわかった。だから、さっき、整備した、それだけ。」
「じゃあ、さっき記憶を見たって言うのは」
「うそ。ごめん、ね」
これでまた一つ謎が解決された。それに、魔法が使えるってことは、元いた世界に、帰れるってことだ!あ、あと、出来ることなら、イケメンになって、スポーツ万能で・・・
「心の声は、聞こえてる。ほかの世界から、転生してきたの、知ってる。魔法使えないなんて、まずらしい。でも、言いたいなら、声に出して」
心なしか、すこしごきげんななめのルナ。
「あ、ごめん、ルナちゃん・・。」
「一つ、ちゅうこく。あなた、まだ、難しい魔法、使えない。転生、難しい。魔力も、すくない。」
ええ!そんな!
つい、心の声で叫んでしまった。また怒られ・・、ってか、聞こえるんならわざわざ声に出さなくても?
「静かに、きいて。魔法が、うまくなるには、この世界で、生活すればいい。そのうち、なれて、魔法、使える。」
つまり、あとは自分次第ってことか。それ、魔導学校の学長としては、どうなの?って言うのは、心の中にしまっておいた。まあ、聞かれてるんですけど。
「学園としては、申し訳ない。でも、魔法使えない、なんて、レアケース、初めて。学長としては、手伝えないけど、友達としてなら、手伝える」
つまりそれは、改めてのおともだち宣言。僕も、お友達でいたいと思ってるよ!
でも、さっきのキスは・・・
「キス? 何の話」
やばい、聞かれてた。
「なにが、やばいの」
ルナが怒ったように考え込む。
「さっき、キスしてくれたけど、あれって、魔力と関係・・・」
言い終わる前に、僕は彼女から1m飛ばされ、彼女の周りに高さ1mほどの石の壁ができた。
「え、ええ・・・」
僕が呆然としていると、少しずつ、壁が透き通り、中の怒ったルナがみえてくる。
「キスなんかしてない! あれば、施術中だったの! ケイの変態! バカ! もう、知らない!」
そして僕は、強制的にヘレンの前に送還され、ヘレンを驚かすことになるのだった。