【14】 泉 ~ケイの世界~
スッっと空間が動き、泉の前についた。
「おい、ヘレナ。お前の記憶を見るに、ここがその泉のようだが」
「そう、きっとそうよ」
そういうと、ヘレナは自分の鼻を触り、得意げに話し始める
「むかしね、きこりが、この泉に鉄の斧を落としたの。そうしたら、中から女神が出てきて、いろいろあって、いい感じになったのよ!」
なるほどわからん。
「とにかく、この泉に、魔力があるってことだな」
さっそく、魔力を解析してみる。うん、確かにわずかに感じる。
「しかし、この魔力では、女神を召喚することなど、不可能なのではないか? まして、私が飲んだところで、回復するようには見えんぞ」
「うーん、しょうがないわね」
そういうと、ヘレナは、その金髪を揺らしながら、私に抱き着いてきた。
「ちょっと魔力借りるわよ」
そういうが早いか、ヘレナは詠唱を始めた。魔力の高まりに呼応するように彼女の赤いひらひらのスカートが揺れる。久しぶりの人の温かさに、何か地面に足のついていないような感覚になる。
「はぁ!」
ヘレナが両手を前に持ちあげる。泉の水が、円柱型のゼリーのように、持ち上がっていく。
「えい、や、はぁ!」
目は水の柱ただ一点を見つめ、口元は引き締まり、真面目、そのものだ。
ヘレナも、やるときはやるのか。
至近距離で見るヘレナ。小さくてかわいい鼻、大きくて丸っこい目。私服のあちこちに付いた赤いリボンが似合うのは、ヘレンとは違った魅力だろう。
何かを叫びつつ、10秒くらいたったころ、ヘレナが持っていたのは、瓶入りで透明な、紺青色の液体だった。
「泉の水を全部濃縮してあげたわ!これでお互い転生一回分くらいはできそうね」
いつも通りのドヤ顔に戻ったヘレナを見て、安心する。
「ありがとう。それにしても、どうしてこんなに薄かったのだろうか」
「この世界は、もともと魔力が少ないのよ。私が前来た時は、もう少し濃かったんだけどね」
「それですらあの魔力か」
同じ魔力を持っていても、扱いのうまさで、何十倍、何百倍と、効果の差は出る。
ヘレナの転生一回分、私なら5回は転生できるな。安心して、この世界を楽しむことができそうだ。
それより、もう魔力はいらないはずだが、ヘレナは私から離れない。はて、これはどう指摘したものか。
午後6時ごろ、家に帰った私を待っていたのは、妹の「静かな」怒鳴り声だった。
「なんで、学校、行かなかったの!」
言葉のすべてにh音が入ったような発音で問い詰められる。
親に伝えてないことを考慮してくれるのは大変うれしいが、学校などのことを心配されるのは大きな迷惑だ。
そのうち、妹にも魔法を教えないといけないらしいな。