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「金堂金物店」試作  作者: はちのす
4/6

第三幕 知らずの間に



―――日曜、午後1時―――



「事件発生の分布図、今回の事件の情報、並べてみてはいるけど…うーん…」




「おい、八戸。何か分かったか?」



「全然ですよ。俺の家の近所ってことくらい。あー無理無理、俺今日冴えてない!」



「今日とかそういう問題だったか?」



「うっ」



八戸はわざとらしく顔を顰め、肩を揺らしてみせた。




そんな八戸を目の端に留めながら、私はちらと時計を盗み見た。


開店から3時間ほど、私と八戸は暇な店内で店番をしながら今回の事件について考察を行っていた。



私が考えるに、一連の事件はあまりにも不審な点が多い。




同一犯による犯行だと思われる事件は今回の『一條通』を合わせて5件。


1ヶ月ほどで5件、あまりにも犯行の間隔がなさ過ぎる。


何かに、焦りを感じているのか、矢継ぎ早に事件を起こすことで何かを伝えようとしているのか。




被害者の身元は5件とも明らかになっておらず、遺体が発見されたのは一様に未明の時間帯。



そして前4件の死体発見場所は直径1km圏内で2件ずつ。それもニ條城を挟み北と南の比較的近い距離で起きている。



それぞれ二條城を起点として、


1件目は南西に徒歩5分ほどの場所。

2件目は北西に徒歩5分ほど。

3件目は南東に徒歩5分ほど。

4件目は北東に徒歩5分ほど。



しかし、今回はどうだろうか。

4件目の発生地点である北の事件からさらにおよそ1km離れたここで起きた。



―――何か意図があるのか―――



ふと、印の付けられた地図に視線を落とした。



私は前4件の死体発見現場を北の事件、南の事件それぞれを一本の線で結ぶことが出来ることに気が付いた。


そして今回は一條通、二條城を起点に北西に進んだ先にある。



「これは…橋?」



「おおっ、何か見つけました?」



「いや、大した事ではないのだが」



そう言いながらも八戸に線を引いた地図を渡した。



「なるほど、直線で結べるんですね!ということは…これきっと次は一條戻橋ですよ!」



「戻橋か…」



そこに、店先から愛嬌ある声が響いた。



「もし、金堂さん。逢坂です。」



ひょっこりと顔を覗かせている彼女は、「金堂金物店」の真向かいにある「逢坂果物屋」の女店主、逢坂ゆめの(オウサカユメノ)である。



そのあどけない可愛さから、一條通のアイドルとも言われる彼女は、手に色とりどりの果物が入った籠を持ちこちらを伺っていた。




「おや、逢坂さん。こんな店に、どうなさいました。」



心なしか金堂の態度も軟化している。



「俺もいますよ〜!」



「あら、保さんもいらしてたのね。なんという間合いの良さでしょうか!

実は、明け方に私の園から新しい果物が届きましたの。新種ですのよ、是非試食して頂ければと思いましたの!」



毎日の様に訪ねてくる八戸は既に逢坂とも馴染みつつあった。



青果店が多いこのご時世に果物だけを取り扱う店を切り盛りしているのは、逢坂さんの店だけではあるまいか。



そんな果物屋の果実は実に多種多様の取り揃えがあり、この通りでも人気店となっている。



金堂はこの目利き女主人に、新種の取り扱いを始める度に試食を頼まれていたのだ。



「もうそんな時期でしたか。いやはや、逢坂さんの目利きは素晴らしいですから、いつも美味しい果実を頂けて感謝してます。」




「嬉しいことをおっしゃって下さいますのね…あら?これは…あの事件かしら?」




逢坂の目線は事件が記された地図と資料に向いていた。



「ああ、これは御見苦しいところを。実は、我々も微力ながら犯人像を割り出そうと苦心しておるのですよ。」



「そうなんです〜。それで、次はもしかしたら戻橋かも、と言うことになっていたんですよ。」



「コラ八戸!」



「えっ、戻橋ですか?」



キョトン、とこちらを見つめる視線に負け、事の顛末を説明した。



___________________



「となりますと、犯人が急にこちらに足を伸ばし始めたことに意味がある、ということでしょうか。」




「ええ、それで私は次に発生する事件が最後ではないかと考えているんです。」




「えっ、金堂さんそんなこと言ってなかったじゃないですかー!なんでです?」




「八戸、さっきお前が言っていたろう。何か伝えたがってる、と。」




「えっ、いや、まあ、そうは言いましたけども。だからといってなんで最後と言い切れるんです?」




「戻橋の伝説を知らんのか?蘇生のさ。」




「棺に入れられ橋を渡っていた父が蘇生するあの伝説ですか?」




「私も存じておりますわ。」




「そう。それだ。」


父の危篤に間に合わなかった青年が、棺に縋り泣いたら息を吹き返したという。


「恐らくこの犯人、何かの因縁があり、蘇生の時期を見ているんだろう。そして、長くは時間がない。犯行に焦りが感じられる。そんな犯人が悠長にメッセージを表像させるとは思わん。


だから、『一條戻橋』次で最後だ。」




「金堂さん、それが分かったなら、警察にでも通報しましょうか?早く手は打ったほうがいいですよね。」




「いや、八戸。その必要はない。」




「え?どういう…」




「この犯人、私に任せてくれないだろうか。恐らく、そういう事なのだろう。」



「・・・・」



「ど、どういうことですの?全く意味が…」




「兎に角、昼飯にしよう。もう12時を少し過ぎた。腹が減っては戦は出来ぬ、だろう?」






・条→條に変更。い、一応なんだからね!

・各話少々修正しました。お時間あれば開幕からご覧ください。


三話完結しませんでした。予想してたけど!

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