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06

それから数十分後、糧食が出来上がったので袋から取り出す。ご飯の上にカレーをかけて完全に出来上がった。

うん、甘口のルーにウィンナーがマッチして絶妙な味を醸し出している。やっぱりおいしい。

メリーも一口口にした途端目を丸くしている。


「な、なにこれ!?おいしい・・・・」

「だろ?口にあったようで良かったよ」


食べながら俺らは互いに情報を交換したりしていた。もちろん、すべて明かしたわけではない。

特に俺が異世界から来たことは。


「自分たちもどこから来たか分からない?それどういうこと?」

「さぁ、俺にもさっぱりだ。一向に思い出せないんだよ」


と、こんな感じに誤魔化しておいた。隊員を最低限の人員しかここに残らせてないので誰かがボロを出すこともない。


逆に俺のほうからも質問させてもらった。


「お前がいた村ってここからどのくらいの位置にあるんだ?」


「すぐそこよ。この森を抜けて、丘を一下りすれば到着」


「へぇー意外と近いな。ところでその村はどういう感じで治められてるんだ?」


この質問で彼女は小首をかしげた。まるで「なんでそんな常識的なことも分からないの?」といった感じで。

ま、まあ、予想はしてたよ?けど、そんな目で見なくてもいいじゃないか!!


俺は絶対に引き攣っている笑みを浮かべた。


「それぞれの村に村長がいるの。どんな辺鄙な場所で生まれてきたの?」


「い、いや知ってたぞ・・・ほら!確認だよ。か、く、に、ん」

「分かったからっ!顔近づけてこないで!!」


その時、ピーピーと腕時計から電子的な音が流れる。

メリーは不意打ちの音にかなりびっくりして「な、なに!ま、ま、魔物!?」かなり動揺していた。


「落ち着けって。メリーさっきいたテントは覚えてるな?」


彼女が首を縦に振るのを待ってから話を続ける。


「あそこに帰って休んでてくれ。何かあったらうちの隊員を探して相談するか、無線を借りて俺に連絡してくれ」



彼女が立ち去るのを待ってからそばに立てかけておいたM4を手に取り、槓桿を引いた。

そのまま俺の足は野営地を守る防衛線へと向かう。


といっても、防衛線と呼べるほど立派なものはない。テントの設営、メリーの運搬、そして即席であろうとも森に対しての陣地を土嚢などを使って組み上げていくとどうしても時間が足りなくなってしまう。

欲を出すならば有刺鉄線やヘスコ防壁などを設置したかったが、ないものは仕方がない。


即席陣地に入ってみるとそこにいる全員が暗視装置をつけて目前の暗がりを睨んでいた。


「部隊長、状況はどう?」


例に漏れず彼も真剣に見ていたが俺が来ると180度綺麗に回転し敬礼する。


「はっ!見られた方が早いかと」


そう言って AN/PVS-14を渡される。

これはスコープとしても使用可能なものでこういう感じに覗き込むことが出来る。ただし、双眼鏡の様に倍率を上げることは出来ないので目を凝らして前方を見ると黒い影がいくつも見えた。


「うわー来てるなー」


数は5、6匹程度だが、ダイアーウルフが来ている。メリーが言うには一匹あったら10匹いるとは思えだそうだ。いや、どこのGだよ。

しかし、一向にこっちにくる気配がない。様子を伺うかのごとく遠巻きにこちらを見ているだけだ。


「かれこれ一時間は同じ場所にいます。どうしたんでしょうね?」

「俺らが隙をみせるのを待っているか・・・・あるいはさっきの一件で学習したかのどちらがだろうな」


後者ならありがたいが、なにせ相手は魔物と言う未知数の相手。油断は禁物だ。


「陣地構築の進捗状況もどう?」


「簡素ではありますが、一応野営地を防護するための4つの陣地は形にはなっています。ただ、完璧に仕上げるにはまだ時間がかかるかと・・・・」


「いや、大丈夫だ。ゆっくりやるように伝えてくれ。焦る必要性は今のところないし」


急にいろいろな事を進めてもいいことが何一つない。


それから、朝まで監視したがやつらが動くことはなかった。




  ◇


俺たちはまだ薄暗い時間に野営地を出た。

てっきり襲ってくると思っていたダイアーウルフたちは姿すら現していない。

森は奇妙な静寂に包まれていた。


「なんか不気味だな・・・・」


この静けさに包まれるような雰囲気はマジでやめてほしい。まるでホラー映画に出てくる主人公が幽霊に脅かされる前触れのような―――


「わっ!」


突如、メリーが俺の背中に抱き着いてきた。

もちろん抱き着かれた俺は心臓が飛び出そうな思いをした。


「ぎゃああ!お、お、脅かさないでくれよ!!」


わりと本気で抗議したのだが、彼女はどこ吹く風で。


「あなた、顔がお通夜みたいになってて見てるだけで気が滅入ってくるのよ。ほら清々しい朝なんだから!」


そういって彼女は大仰に両手を広げる。

あいにく俺はちっとも清々しさを感じない。


「それにしても静かね・・・・もうすぐ森を抜けるわよ」


彼女に言われて前方を見ると木々の間から朝日が差し込んでいた。


「あの丘を登れば村が見えて・・・・・・」

「おい!」


黒々とした煙が進路方向から立ち上っていた。

彼女も遅れながらに異常に気が付いたようだ。

愕然とした様子でそれを見つめている。


「野焼きの時期には早いのに・・・・・」

「あれが野焼きに見えるのか!?いいから伏せろ」


彼女を強引に伏せさせる。

2人を彼女の護衛につけると残りをつれて一気に丘を駆け上がった。

頂上に着くと再び伏せ、双眼鏡を取り出し煙が出ている地点を確認する。


「・・・・・・・・・・うっ」


俺は思わず顔を背けた。

双眼鏡のレンズから視界に入ってくる村はもはや地獄だった。

家々は焼かれ、ドス黒い黒煙を吐き出し続けている。路上には何人かの死体が転がっていた。死体の惨状は・・・・・ここからでは見えないことが幸いだろう。


「なんて惨い事を・・・・・」


ようやく出た声は掠れていた。

双眼鏡を手にしている者は一様に青ざめている。


『艦長!艦長!』


呆然自失となっていた白井の耳に無線機から声が届いた。真奈美だ。


「・・・・どうした?」

『しっかりしてください!今はすぐ生存者の救助をしましょう!!』


その助言にハッとなる。

自分は何を呆けていたのか。


「全隊員!これより村に突入し生存者を救助をする!真奈美!ヘリをこの村に回せるか!?」

『そう言われると信じてすでに向かわせてますよ』


まったく手際の良い。

俺は一分一秒でも早く着こうと駈け出した。




   ◇


うぇーん!うぇーん!


赤ん坊の泣き声がする。

いや、赤ん坊だけでは無い。そこらじゅうからすすり泣く声が聞こえてくる。


「おらっ!さっさと歩かんか!この雌どもが!!」


でっぷりと太った小柄な男が鞭を持ち、進む女性達を嬲っている。

その顔に張り付けた歪んだ笑顔と物言いは、赤ん坊でも嫌悪感を抱くだろう。


そう、彼女達は奴隷商人に村を襲撃されたのだ。

歩かされているのは先も見えない真っ暗な道。普通なら魔物に出くわすのが普通だが、おそらく奴隷商人達は魔物が出ないルートを知り尽くしているのだろう。


「うぐっ!」


また一人こけた。

すぐに鞭を持った奴隷商人がやってくる。


「誰が!休んでっ!いいっ!と言ったぁ!!」


倒れた女性の細い体に容赦なく鞭が打ちこまれていく。

打たれるたびに女性の口からはくぐもった悲鳴が漏れる。


それ以上見ていることが出来なくなった私は顔を背け奴隷商人に言われるがまま道を急いだ。


「(村に帰ってこなかったメリーならきっと聖竜騎士団を呼んできてくれるっ!だから待たないと)」


淡い希望だと自分でもわかっている。道しるべも何もない。


彼女は無き祖父のロザリオを胸の中で抱きしめる。

信頼できる友に居場所が少しでも届くように。


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