05
「・・・・・ん」
なんだろう。とても気持ちい。
今まで味わったことのない温かさだ。まるで上質な毛布に包まれているかのような・・・・
「ハッ!」
彼女は飛び起きるのと同時に自分が毛布をかけられて寝かされていたことに驚きを覚えた。
寝かされていた部屋のような場所には自分が寝かされていた簡易ベッドしかない。外からはバチバチと木でも燃えるような音がする。
「私・・・どっかの冒険者に拾われたのかな」
冒険者や商人が野営することも珍しくないと母から聞いた覚えがある。そして極まれにだが、今の私のような行き倒れの人を保護することもあるらしい。
助けてもらったのなら何かしらのお礼をしなければならない。
そう思いベッドを立って、出口に向かおうとしたが――
ドン
「うわっ!」
丁度入ってくるところだった人とぶつかってしまった。
慌てて頭を下げて謝る。
「すいませんすみません!!お怪我は・・・・・・」
相手の顔を見た途端。
ぴくっと自分でも分かるくらいに体が固まった。
そう、彼女の目の前にいたのは自分のスカートを覗いた変態であり、見たことも無いような魔導武器でダイアーウルフを薙ぎ払ったあの少年だったからだ。
こちらが不自然に固まっていると特に気にした様子も無い少年が話しかけてきた。
「こんばんは。よく眠れたかな?」
「え、ええ。よく眠れたわ」
反射的にそう答えてしまったが、心の混乱は続いていた。
「どれくらい寝てたの?」
「ええっと・・・・・だいたい、4時間くらい寝てたかな?」
「そんなに・・・・」
かなりの時間が経過している事に言葉を失くしていると、目の前の少年が少し顔を険しくしながら言った。
「衛生兵が言ってたぞ。通常、気を失うだけなら少しの時間で起き上がるのが普通だけど君の場合は相当、疲労が溜まっていたとな。本当に休息とってる?」
「・・・・・」
言い返す言葉も無い。
「・・・・・・・あなたは何者?」
反論のかわりに口から出たのはそんな言葉だった。
その言葉を聞いた彼は意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「話せば長くなるし・・・・・その前に食事をとらないとな」
ぐぅー
可愛らしい音がテント内を満たす。
◇
俺は彼女を連れて仮設の医療テントを出た。
念のためいたるところで火を焚いている。
動物は本能的に火を恐れるらしい。魔物に通じるかどうかは疑わしいが。
医療テントのすぐ近くにあった焚火のそばに彼女を座らせると、俺は一人で別のテントに入っていく。
中には、ヘリに積んでおいた物が所狭しと置いてありもはや足の踏み場もない。その中を器用に俺は飛び跳ね目的の物の前に着地する。
「えっと・・・口に合いそうなものは・・・・よし、これとこれにしよう」
ボックスから2食分を取り出す。
ただ、心配なのは自分のチョイスが彼女の口に合うかどうかだ。もし合わなかったら・・・・・まあ、いいや無理やり口に押し込んでもらおう。
人がその考えを読めたなら間違いなく引かれる思考をしながら彼女の前に戻る。
帰ってくる自分を見て思いっきり怪訝そうな顔を浮かべる。
どっかりと彼女の前に座ると手に持っていた物をおろす。
「・・・なにこれ?」
物珍しいのか彼女はそれ――戦闘糧食Ⅱ型をつついている。
ちなみにそれぞれの内容は、俺がウィンナーカレー、彼女がチキントマト煮だ。
「まあ、見てなって」
Ⅱ型の封を開け、内容品を取り出す。
続いて加熱袋の底に加熱剤を敷き、その上からレトルトパウチの戦闘糧食を投下。
後は規定量の水を入れ、袋の端を折り十数分待てば完成だ。
彼女にもやってもらったが、
「熱ッ!」
火傷しそうになっていた。
あっという間に袋はパンパンになり隙間からもうもうと湯気が立ち込める。
「ねぇ、これで何ができるの?」
「料理だよ」
「え?」
信じられないといった様子で彼女は呟いた。それは、そうだろう。もし俺がこの世界に生まれてこんなものを目にしたら、必ず彼女と同じ反応になる。
「味は保障するけど、お前の口に合うかは知らないぞ」
まあ、確実に米軍のMREよりはマシだろう。
Mr.E (ミステリー)
Meals, Rarely Edible (とても食べられたものじゃない食物)
Meals Rejected by the Enemy (敵から拒否された食べ物)
Meals Rejected by Everyone (誰もが拒否した食べ物)
Materials Resembling Edibles (食べ物に似た何か)
Meals Rejected by Ethiopians (エチオピア人すら拒否した食べ物)
ところ言われていたぐらいの不味さだ。しかもこの蔑称のほんの一部分でしかない。
食べてみたい気持ちはあるけれども、なかなかに手を出しづらい。
「あーそういえば、お互い名乗ってなかったわね」
言われてみれば確かにそうだ。戦闘などがあって完璧に頭の中から抜けていた。
少し気恥ずかしそうに彼女は名乗る。
「メリーよ。よろしく」
「白井だ。こちらこそよろしく」
「シライ・・・・変わった名前ね」
「そうか?」
そう言いながら彼女は微笑んだ。初めて見せる笑みにつられて俺まで笑ってしまった。
微笑みながら彼女は手を差し出してくる。握手か?
・・・・ああ
そういえば握手があいさつの国も海外ではあるらしいし、こちらの世界でも挨拶としての意味合いがあるのだろう。
俺はそんないらない考えをしながら彼女の手を握り返した。
◇
「はー」
高雄真奈美はアメリカ海軍艦艇であるミサイル駆逐艦「グリッドレイ」の薄暗いCICでため息をついた。
現在、グリッドレイは発見した大陸からおよそ100キロ離れた地点で待機していた。
「どうしました?副長」
「いえ、なんでもありません。それより、モニターに集中していなさい」
「手厳しいな~」まだ若い乗務員は呟いた。
実際の所、大丈夫ではない。
艦長が゛魔物゛とかいう連中に襲撃を受けたと聞いた時は心臓が止まりそうになった。
だからこんなところでじっとしているより本当はあの人の傍に居たいのだ。
・・・・・・・・いや、いっそのこと軟禁―――
ダークな思考に陥りかけたその時、レーダーに何かが映ったような気がした。
モニターに目を向けてみるがそこには光点の一つも浮かんでいなかった。
本当に気が動転しているのかもしれない。一度、自室に戻って仮眠をとろう。
「・・・すいません少し仮眠をとってきます。艦長からの連絡があった場合はすぐに呼んでください」
「了解しました」
早足にCICから出る。
さて、仮眠を一時間とったら艦長に連絡しよう。
彼の声を聴けると思うと彼女の足は自然と早くなっていった。
一度、ヤンデレぽい感じのキャラを書きたかった・・・・・