04
パン!パン!パン!
パパパパパパパパパ!
目の前で行われていることが信じられなかった。
武器らしい武器も持たず、防具のようなものを身に着けていない。
全員が、青い服に身を包み、ダイアーウルフに杖のようなものを向けている。
一見すれば狂ったとしか言いようのない光景だった。
この世界でたとえ低級の魔物であったとしても武器を持たず立ち向かうのは、自殺願望者かよほどの馬鹿かどちらかだろう。
しかし、彼らは違う。
彼らが持つ゛杖゛から一回轟音が撒き散らされれば一匹のダイアーウルフが地に伏せることになる。
「・・・・・・・」
必死に体を動かそうとするが体が地面と同化してしまったかのように動かない。せめて、耳が痛くなるほどの轟音をシャットアウトしようと両手で耳を塞ぎうずくまる事しかできなかった。
パン!
轟音が鳴りやみ、誰かがこちらを振り向く気配。
見上げると先程の少年がこちらに手を差し伸べていた。
彼女にとってさっきまで強気に話しかけていた少年も今はただただ、恐怖を抱く対象に過ぎなかった。
◇
「ふぅ・・・・」
最後のダイアーウルフに銃弾を叩き込むと、俺は深くため息をついた。
手が震えていた。
元の世界ではガスガンしか撃ったことがない。実銃ともなれば反動なども当然違ってくる。
・・・・練習が必要だな。
銃に安全装置をかけ、ホルスターに銃を戻してから耳を塞ぎうずくまっている少女のもとに駆け寄る。
「大丈夫?」
声をかけてみたが反応が薄い。目の前の事が信じられなくて仰天しているのか。
頬を叩いてみたり、目の前で手を振ったりするが反応がない。
いよいよヤバい気がしてきて衛生兵を呼ぼうとしたとき――
「きゃあああああああああ!!」
「ぎゃあああああああああ!!」
遅れに遅れた悲鳴が鼓膜にダイレクトに入ってきて俺は耳を押さえのた打ち回る。
「耳がぁ!耳がぁ!!」
○スカ大佐のような悲鳴を上げながら、少女に視線をを向けた。
そこで俺は信じられないものを見た。
少女が手短にあった木の棒を手に取りこちらに突進してきていたからだ。
「きゃあああああ!」
少女が絶叫しながら行う一撃を転んで回避する。
意外と少女が持っている枝は棒は太く、当たればただではすまないかもしれない。
とりあえず説得を行うことにした。
「お、落ちつけ。俺らは君に危害は加えない――!?」
言葉を言い終わる前に次の一撃が飛んできた。
ダメだ。話をまるで聞いていない。
説得は無理だと判断した俺は実力行使に出た。
「仕方ない・・・・取り押さえてくれ!」
一声かけると待ってましたとばかりに兵士達が進み出る。
あっという間に少女は棒を奪われ、地面に組み伏せられる。
しばらく少女はもがいていたが、いきなりすっと全身から力が抜け一切動かなくなった。
ピクリとも動かないので心配になって近づく。
「ありゃりゃ、気絶しちゃってるよ」
少女の体をあらためて見てみると(けしてやましい気持ちは無い)着ていた服は木々にでもひっかけたのだろうか。ところどこ破けており、その隙間から白い肌を惜しげもなく晒している。スカートは飛び散った泥でかなり汚れていた。
あの魔物から相当逃げてきたんだという事がありありと伝わってくる。
しかし、このまま放っておくわけにもいかない。
1、この子が起きるまで待ち、帰らせる。
2、この子を艦まで連れて帰り医務室に留め置く。
3、周辺を捜索しこの子が来た場所を突き止め、送り届ける。
これが今の所とれる選択肢だ。
しばらく悩んでみたが決めることが出来ないので隊員に意見を聞いてみることにした。
「3がいいです!異世界の子とキャッキャもふふしたい――ゲフッ!」
「えー自分は1ですね。情報を引き出せそうですし」
「なにを!お前は異世界を分かってねぇ!」
「来たばかりのお前が何を偉そうに!」
「なんだと!?」
聞いてみたが、隊員の中で意見がかなり分かれてしまい中には喧嘩するものまで出てくる始末。
埒が明かないので部隊を統括する部隊長に意見を求めることにした。
「そうですね・・・どれも現実的な案ですが、ここは一つ3と1を纏めてみてはどうでしょう?」
「纏める・・・・具体的にどんな?」
「はっ、この子が起きるまで見守り近くの村まで案内してもらうのです。そうすれば我々は彼女以外の現地人と接触して情報を得ることができます」
さすが、部隊をまとめる指揮官だ。
出てくる意見が違う。
俺はパチンと一回手を鳴らし、いまだに乱闘を続けている隊員を鎮める。
先程、隊長と話し合った内容を彼らに伝え、野営の準備をすることにした。
「この中から4人、監視のために付近を哨戒しろ。残りはテント設営だ。急げ、日が暮れるまで時間が無いぞ」
いつの間にか日は傾き始めていた。
魔物が夜に強くなるのは、ファンタジー世界の設定ではよくあることだ。早めに監視網を形成し、危機を素早く察知できるようになっておいたほうがいいだろう。
「っていうかテント持ってきてよかったぁ~」
念のためと思って野営道具を積ませた過去の自分に今は感謝したい。