03
「こちら、゛シードラゴン゛グリッドレイ聞こえるか?」
「感度良好、よく聞こえます艦長」
「なんだ、真奈美か」
「はい、私がオペレーターを務めさせていただきます」
「そうか。それで本題だけどそちらで何か探知したか?」
「いえ、レーダーには島も大陸らしき影も映っていません」
「ok。シードラゴンアウト」
すでに飛び立って30分は経つが何一つ見えてこない。
「パイロット、あとどのくらい飛び続けることができる?」
「2時間は飛び続けることができます」
まったくよくも広大な海原に放りだしてくれたな。
その時、「艦長!」と呼ぶ声がした。
その方向を見れば一人の女性隊員が窓の外を指さしている。言われた通り窓を見るとカモメのような鳥がヘリの周りを飛んでいた。
ん?鳥?
確か鳥がいるということは・・・・・
「パイロット、バードストライクに注意しながらあの鳥を追え!」
エンジンは唸りを上げ、鳥の追跡に入った。
◇
「今日もすまないね~お嬢ちゃん」
「いえいえ、日課みたいなものですから」
今年でもう78歳になるおじいさんは、ひまわりのような笑顔を振りまく少女にそう感謝の言葉を述べた。
「あらもうこんな時間、おじいさんお体を大切に」
「おう!心配されんでもピンピンしとるわ。こんな年寄りにかまっとらんで早くお母さんのところに行ってあげなさい」
バスケットを手に取り、手を振りながら少女は駆け出した。
帰りにお母さんの好きなユニの花でも摘んで帰ろう。
母の喜ぶ姿が目に浮かぶと自然と笑みがこぼれ、駆ける足は速くなっていった。
「お嬢ちゃん、ここから先は危ないよ」
そういって彼女を止めたのは、新品のようにピカピカに磨かれた鎧を着こみ腰に剣をさげた゛騎士゛だった。
「なにかあったんですか?」
「いやね、魔物がこの先をうろついてるんだ・・・・・・ったく対帝国戦の準備でいそ――いや、なんでもないよ。さぁ行って」
促されるままに町の方向へと歩むしかなかった。
歩きながら彼女は考えた。
彼のマントに書かれた竜と交差させた二本の剣。それは、この国では誰もが知っている聖竜騎士団の紋章だった。描かれている竜は太古にこの国を守護したと言い伝えられている聖竜をモチーフにされている。心体が真に強いものしか入団することが許されず。たとえ素質を認められて入団試験を受けても命を落とす者が少なくないという。
そんな者たちが遠く離れた城塞都市、メイアからわざわざ出向いてくるぐらい対処しなければならない魔物とはなんなのだろう?
「うーんどうしよう?ユニの花は森で取ろうと思ってたのに・・・・あっ!」
・・・・そういえば、海近くの花畑でも取れるって聞いたわね。
バスケットを持ち直し、彼女は海へと続く道を歩き出した。
◇
「よかった!陸地だ!!」
鳥を追跡していった結果、10分くらいで陸地を発見することができた。
しかも、着陸地点にできそうな広い空間もある。
パイロットに着陸するように命じると、ヘリの操縦のレベルが分からない俺でも思わず「おお!」と唸ってしまうようなナイスランディングを見せてくれた。
「全員、周辺警戒!よく見張ってくれよ!」
降りた隊員達はすぐさま飛び降りるとM4カービンを周りに向け、害意のある者がいないか確認していく。
「こちらシードラゴン、グリッドレイ応答せよ」
「こちらグリッドレイ、どうしました?」
「陸地を発見した。方位は――」
方位を確認し、グリッドレイに伝えた。
「了解しました。これから向かいます」
「どれくらいで着く?」
「かなり離れてますからね。現速度で向かえば・・・2時間ってとこです」
「了解した。到着を待ってるよ」
無線機を置き、周囲を改めて見ようとしたところで―――
パキッ!
枝の折れる音が確かに耳に響いた。
音の響いた方向を見ると、林からちょうど少女が出てくるところだった。
しかも、俺のいるところに向かってくる!
「きゃあ!」
「ぐふっ!」
あまりにいきなりだったため受け身をとることもできず、少女と少年はその場に倒れこんだ。
ただ、起き上がった俺が一番気にしたのは少女の正体よりも、倒れこんだ拍子にめくれ上がったスカートから覗く白い物体――
パシン!
頬思いっきりひっぱたく音が周囲に響き渡った。
「な、なな、なななな!何見てんのよ!!」
羞恥に頬を染めながら少女は叫ぶ。
「い、いやいや!不可抗力だろ!」
「うそよ!あなた思いっきりッッッ!見てたでしょ!」
「突っ込んできたのはそっちだろ!」
「艦長、周りをよく見てください」
いつのまにか歩み寄っていた隊員に言われ周囲を見回す。
「なんだよあれ・・・」
昼間なのに森は薄暗い。
木々の隙間からは赤い目がいくつも浮かびこちらを凝視していた。
その数、十はくだらない。
「どうやらそちらの御嬢さんが引き連れてきてしまったようですね」
「どうやらそのようだ・・・・戦闘用意」
ヘリにM4を置いてきてしまったのでレッグホルスターからM92を抜き、森に向ける。
これが、実戦かと思うと銃の重みはより生々しく感じられた。
「ひっ!」
小さく少女が悲鳴を上げる。
上げたいのはこっちの方だ。
森から姿を現したのはオオカミだ。だが、元の世界のオオカミは目の赤くないし、あんなだらしなく涎を垂れまくったりしない。
さすが、ファンタジー世界。最初に出してほしいモンスターをよく分かってるじゃないか。
「お嬢さん、あれは襲ってくるのか?」
「なに当たり前のこと聞いてるの!ダイアーウルフ、低級の魔物じゃない」
「魔物ねぇ・・・・お嬢さんは戦えるの?」
「あら心外ね。こんなか弱い乙女が武器を持ってると思う?」
一言一言が妙にムカつく。
ガルッ!
無視されたことが嫌なのかダイアーウルフは威嚇の鳴き声を上げる。
「分かったよ・・・・そんなに相手してほしいなら!総員、撃て!!」
゛まだ゛平和なはずの国で発砲音がこだました。