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2か月待たせてしまって本当に申し訳ありません!!しかもこのような話しかあげられなくて本当に申し訳ありません!
『森林地帯での訓練ですか?』
「ああ、幸いにも東に同規模の未開拓の森があったからそこで訓練させてくれ。許可はとってあるから」
『了解しました。訓練部隊の選別は・・・・・』
「事前に選抜してあった即応部隊を訓練してもらえない?「ワスプ」に積んである装甲部隊じゃ森では機動力に劣るし、協同でことにあたる冒険者が怖がる。それにオークが俺の記憶通りの存在なら重装甲のLAVなんか出しても弾の無駄遣い」
『はっ!明朝から訓練にあたらせていただきます!』
「よろしく・・・通信終了」
俺は通信機を懐にしまうと、手すりによりかかった。
今日は、当主様が娘を助けてくれた礼とオーク退治の前払いとして屋敷に泊まっていけと言われたので、ご厚意に甘え、こうしている。
前の世界であれば、どれだけ働いても奇跡が起きない限り泊まるどころかテレビ以外でお目にかかることすらできない城に俺は感嘆していた。
なるほど。これは万人が憧れるわけだ。
日常の雑務はすべてメイドに任せ、高級品に囲まれる生活は一度体験すればやめられないこと間違いなしだ。そのうえ、自身は部屋の中で行政に必要な指示を最低限飛ばすだけ。
甘美かつ最善。
屋敷から一望できる港町の夜景はまさに鏡花水月の一言に尽きる。
ゆらゆらと揺れる町の街灯一つ一つが夜闇に浮かぶダイアモンドのよう。そのやわらかな光の下には生命がいると、おぼろげな光は悠然と物語っていた。
そして、今は漆黒の闇に染まった海の上にその巨大な輪郭を持って佇む艦隊は、かなり離れたこのテラスからでもはっきりと分かる。
やっぱり物珍しいのだろう。艦隊が停泊している港には篝火が点々と焚かれ物好きどもがこんな時間だというのにいまだにたむろしていた。
「・・・・大人が子供の手本にならなきゃダメだろ?」
俺は静かに呟く。
まあ、気持ちは分からなくもない。
俺がこの世界に生まれて、あんな最新鋭の電子機器やら武装やらが詰まった巨艦を見れば絶対に見に行っただろう。実際、元の世界でも自衛隊の駐屯地でイベントがあれば電車を乗り継いででも行っていた。
・・・・・なんてことを考えてながら黄昏ていると――――
「あ、変態さん」
俺のちょうど真後ろからなんとも不名誉な呼ばれ方で、しかも不機嫌そうに声色を隠そうともしない声がかけられた。
十中八九誰かは予想がついていた。
「悪いけど、俺は変態じゃなくて白井純一。分かってる?゛アリスお嬢様゛」
辟易しながら振り返る。
やはり、というかその少女は立っていた。
肩までかかる金髪はテラスに吹く風を受け、たなびく。彼女が着ている青を基調とした優雅なドレスは7歳の少女の魅力を存分に引き出し、その身に余る色気を醸し出していた。
さっき偶然が重なった結果でいろいろめんどくさい関係になってしまっている当主の娘、アリス本人が声色通りの不機嫌な顔でこちらを睨みつけている。
「けど、あたしのお尻を揉んだのはあなたですよね?事実は覆りませんので以後、変態さんと呼ばせて頂きますわ」
やけに大人びた返答だ。
そこらへんの小学生の手本にさせてやりたい。
しかし、このまま黙認してしまえばやっかいなことになるのは確実なので負けじと言い返す。
「あれは君が悪いと思うんだけどな~そもそも、なんで飛び出して・・・・・」
「揉みましたよね?」
「・・・・・いや、だから―――」
「揉・み・まし・た・よ・ね?」
有無を言わせぬ少女の謎の威圧感に俺は押し黙るしかない。
だが、同時に一つの違和感を覚えた。
(なんだ?本人と話しているようで話していないような・・・・・まるでそのネットのチャット相手が別人に変わったかのような言い表せない違和感はなんだ?)
違和感を必死に探り出そうとする俺を尻目に少女は無言で歩き出すと、俺の隣にその華奢な体を預ける。そして見上げるような形で見つめてきた。
「・・・・・あなた方は三日後、オーク退治に出向かれるのですよね?」
「そうだ」
「一つお伺いしたいのですが、なぜ依頼を受けていただけたのでしょう?あなた方にはせいぜい我々の信頼を勝ち取るぐらいにしかメリットがないはずなのですが・・・・・それに命を落とすやもしれないのですよ?」
少女のこれまた大人びた質問に俺は一瞬、動きが止まった。
理由と問われれば、もちろんついでとしか言いようがない。だが、他にも理由はあるにはある。
森林という視界も悪く、どこから敵が飛び出してくるかも分からない場所での実戦は部隊の実戦経験蓄積のいい糧となってくれるし、なによりそこで勝利をおさめることができれば部隊の士気も上がり、隊員たちに自信もつく。
゛訓練゛にこれほどいい場所を提供してくれたのは僥倖だ。
もう一つある。
ある意味、軍隊という゛異物゛にとってもっとも勝ち取るべき代物。
「昔話をしよう」
そう言って切り出した俺の言葉を訝しむアリスだったが、疑問を口には出さず黙って聞いてくれていた。
「あるところに一つの国がありました。その国は植民地だったのですが、とある一つの大国同士の争いに巻き込まれたことによって、支配を脱却し独立することができたのです」
静かに紡ぐ。
「しかしある時を境に平和は失われてしまうことになりました。そう、大戦によって退いていた国がその国を取り戻しに来てしまったのです―――彼の国は必死に抵抗し、多くの市民と兵士と財産を犠牲にしながらもなんとか独立を守ることができました。ですが、国は真っ二つになってしまい、しかも独立を守るために頼った国が新たな戦火への火種となることになるとは、この時誰も思うことはなかった」
自分でも間違っていると思う。
7歳くらいの少女にこんな話は理解できないし、するべきでもない。
でも、目の前の少女には知ってほしかった。
「彼の国が頼った東方の大国は、もう一つの国が頼った西方の大国とイデオロギーが食い違っていました。結局、彼の国は真っ二つになった国を統一するため、もう一つの国へと攻撃を仕掛けたのです」
「戦争・・・・ですか?」
「そう、その通り。西の大国は、東の大国の思想が広がることを恐れ、やられっぱなしのもう一つの国を支援するために多くの人員と兵器をもう一つの国へと送りました―――兵士の質、武器の質、そして戦術的にも彼の国は西の大国に到底及ばないはずでした。しかし、結果は・・・・・・」
そこで、一旦言葉を切った俺は夜空に広がる満天の星々を見つめた。
「西の大国の大敗だった」
「ど、どうしてですか!?兵器の質も、人員の質も、戦術の質も大きく上回っていたのでしょう!負ける要素など見当たりません」
信じられないとばかりにかぶりを振るアリス。
そうだろう、昔話の登場人物たちも絶対にそう思ったはずだ。だが、戦場には常に不確定な要素が付きまとう。
どれだけ策を巡らしても、どれだけ人員を増やしても、どれだけ兵や武器の質を上げようとも、そこに不確定な要素が生まれるのは避けられない。
「戦術が一部上回っていた、西の大国は政治的な理由で行動に制限がかけられていた・・・・などなど、様々な理由が言われているけど、俺はこう思うな―――――信頼が足りていなかった」
「え?」
唐突な精神論にアリスは小さく疑問符を漏らす。
「もう一つの国の指導者は、国民による支持を受けられていなかったんだ。国民に支持されていない政府は脆く儚い、市民が味方についてしまえば敵が隠れていようとも見つけられないだろう?って言っても君には少し難しかったかな」
「いえ、そんなことないです。話を続けてくださいまし」
俺は満天の星空から視点を彼女へと戻す。
そこにはさっきまで浮かんでいた訝しむ表情は浮かんでいない。あるのは、納得したとでもいうべき満足げな笑顔だ。
「だから俺にとって゛信頼゛は我々の血肉を賭けても勝ち取るべき重要な代物なんだ。゛理解゛と゛信頼゛。君たちは俺たちを゛理解゛してくればいいし、今回のオーク退治で俺たちは君たちの゛信頼゛を獲得できれば成功といえる―――俺たちが命を賭ける理由だよ」
言い切った俺は荒くなった息を整えるために再び町の夜景に見入る。
数瞬の間を置いてからアリスは言った。
「・・・・・なるほど、一見非合理的な行動の裏にもちゃんと合理的な理論に基づいたわけがあったわけですね。私は、あなたを誤解していたようです。一つ助言を差し上げましょう」
風の音にもかき消されそうな消え入るような声でアリスは呟いた。
「゛あなたは、今回の件で見つけることができましょう、自分がなぜここにいるのかを゛――――それでは、異世界の使者」
「ッ!?」
俺が振り向いた時には、漆黒の闇が広がるのみであった。
そして冒頭に戻る。
俺たちは今、オーク討伐の会議へと歩みを進めていた。
白井が話した゛昔話゛冷戦下に起き、超大国を揺るがせた出来事は何か?考えてみるとある意味、納得されるやもしれません(間違っていたらすいません)