12.5
13話を書いていたはずが・・・なぜか13話のプロローグ的な話になってしまっていました。
いや、なんでこうなったんでしょうね?
波が微風にあてられ、揺れる。
「よっと」
そこに隣の少年が、釣り針を投げ入れた。
だが、糸を垂らした場所は魚たちがいる場所には程遠い場所で、餌を水に溶かすだけで終わってしまう。
その様子があまりにも初心者らしかったので私は思わず声をかけてしまった。
「あの辺に糸を垂らすと釣れますよ」
一瞬、こちらを驚いた様子で見た少年だったがすぐに糸をまきあげ、私の言った場所に投げ入れた。
ちゃぷん、と音がしてウキが水面を漂い始める。
だが、すぐにウキに変化があった。
「うわっ!」
少年は慌てて釣り糸を巻き上げようとした。
だめだ。それでは釣り糸が切れてしまう。
乱暴な巻き上げ方を見ていられなくなった私は急いで少年の横につくと竿に手を添えた。
「待て待て。気持ちを落ち着けなさい。そんなことでは釣り糸が切れてしまうよ?」
「あ、はい・・・」
少年は釣り糸を巻き上げるのをやめ、力を抜いた。
釣り糸はどんどん海の方へと引っ張られていく。
だが、魚の猛進撃もここで終わりだ。
垂らした糸を慎重にかつ大胆に巻き上げていく。
大物なのかものすごい勢いで抵抗してくる魚に悪戦苦闘しながら格闘していると・・・・・
ピシャッ!
いきなり海面がはじけた。
降りかかる水に顔をしかめたが、すぐに向き直る。もう近い。
「うぉおおおお!!」
気合の言葉と共に最後の力を振り絞って釣り糸を巻き上げた。
「いや~釣竿をいつの間にか奪っていて申し訳ない」
私は頭を掻きながら目の前で困ったように笑う少年に謝った。
「いえいえ、全然大丈夫ですよ。私もつい先日始めたばかりな初心者でして・・・熟練の方の釣り方は見ていて勉強になりました」
そんな事を言う少年が持っているバケツのなかで先程まで格闘していた魚がピチピチと跳ねる。さすがに大物なので跳ねるごとに少年の体はぐらんぐらんと揺れる。
最後は私の独壇場だったが、少年が言う程、熟練の釣り方はしていない。最後はほとんど力任せで引っこ抜いていたような釣り方をしていた。
少年には力を込めすぎるなといっていた自分だが、少年にそのような事を言っていた過去の自分が恥ずかしい。けっきょく自分も出来ていないのだから、完全に矛盾している。
「ほんとはもっと釣っていたいんですが、あいにく時間が・・・・」
少年は自身の右腕に視線を落とした。その手につけられている奇妙な機械細工が時間を知らせてくれる道具か何かなのだろうか。
その時、遠くの方から、カーンカーン、という鐘の音が聞こえてきた。昼を知らせる鐘だ。
早く帰らないとあの子に怒られてしまうな。
「私もどうやらそろそろ時間のようだ・・・釣り初心者と言ったね君?」
「あ、はい」
「ここに来ればいつでも私が教えてあげよう。拙い釣り方だが・・・・」
またまた声をかけた時と同じように驚いた少年だったが、すぐに驚愕は微笑みの中に隠された。
「はい、よろしくお願いします」
遠くで鳴る鐘の合間をぬって「艦長ー!」「お父さん!」二つの女性の声が聞こえた。
一つは耳になじむような女性の声、もう一つは・・・少年の関係者だろうか?
「「はいはい、今行くよ!」」
少年はそのまま背を向けて声のした方向に歩き出す。私もまた愛しい愛娘が呼ぶ方向へと歩み出した。
だが、一つ聞き忘れていたことを思いだして歩みを止め、振り向いた。
「おーい君の名前は?」
少年が振り向く。
右手を額にあてるという奇妙な行動をとりながら。
「白井!白井純一と言います」
それだけ言うと少年は再び走り去ってしまった。
「シライ・・・シライか・・・不思議な名前だな」
「お父さん!!」
娘の声が怒気を帯び始めた。まずいまずい。
「はーい行くよ!」
彼が少年の名前を別のところで知るのは、ほんのちょっとだけ先の話である。
◇
「艦隊司令・・・分かっていますよね?」
「はい・・・」
俺は今、舗装されていない道だと言うのに正座させられていた。
もちろん、目の前には怖い怖い真奈美が鬼の形相で俺を見下ろしていた。
手にはM9。え、なに?反乱?
「大丈夫ですよ艦隊司令。これは反乱などではありません。私が司令を裏切るわけないじゃないですか・・・あ、これですか?大丈夫です。致死量にはしてないですから」
え?なに致死量って?そんなあぶないもの向けてるの?
「こ、こら真奈美!じゅ、銃は弾入ってなくても向けちゃいけないんだぞ!!」
「・・・・」
精一杯の反論をしてみたが・・・・真奈美の闇の力を増幅させてしまっただけのようだ。まずいこのままでは暗黒面に・・・・
「艦隊司令。身を滅ぼさないための罰と思って堪忍してください」
「え?ちょ。おまっ!」
真奈美の指がトリガーにかかりそして、それがゆっくりと引かれはじめて―――――
「なーんてびっくりしました?」
幸いにもM9のトリガーは引かれることなく安全装置をかけられ、腰のホルスターにおさめられた。
おどけた表情で、真奈美は正座した俺に手を差し伸べてくる。
「さ、行きましょう艦隊司令。昼食をとったらこれ以上に疲れることが待ってるんですから」
「へーい」
その手をとり、俺は起き上がると俺は続く道を歩き始めた。
「真奈美・・・それには何が入ってるんだ?」
「ああ、ただの麻酔弾ですよ。今度、司令が勝手に釣りに出かけた用に用意してたんですよ。それと艦隊司令、さっきから気になってたんですけどそのバケツに入っている魚はお一人で?」
「いや、なんか釣り場所にたまたまいたおじさんが助けてくれたんだ」
「(う、撃ち殺さなくて正解だったぁ・・・・)」
「ん?何か言ったか?」
「いえいえ、なんでもありません」
こっそりM82を持ち出して、艦隊司令を監視していただなんて言えるはずもなく。しかも、いきなり近づいた初老の男性を撃ち殺す寸前までいっていたなんてことは口が裂けても言えない。
「さぁて、こいつ一匹で刺身どれくらい出来るかな?」
「このサイズだとかなりできそうですよね。私は、焼いたり、煮つけにしたりした方が好みですが・・・」
「煮つけにしたら調味料どんだけいるんだよ・・・・」
そんなツッコミをたがいに入れながら俺達は道を歩き続けた。
――これから起こる厄介事など知らずに