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「てぇーーー!」


イザベルが号令をかけると同時に40門の大砲が一斉に火を噴いた。

狙いは先頭を突っ走っていた海賊船に向けられ、そのほとんどが命中した。4斉射目でだいぶ目安はついている。

着弾した個所から2度、3度と爆発が起きた。おそらく、火薬に引火したのだろう。船体は真っ二つに裂け急速に沈んでいった。


同情は浮かばない。


「ッ!?右舷3隻の海賊船発砲!!」

「おもーかーじ!!」


慌てて舵を切ると船の100メートル手前付近で多くの水柱が上がる。これほどの近距離だが、相手の技量などたかが知れている。しかも相手が使っているのは武器商人を襲撃し奪った大砲だ。数は少ないしまともな整備をされていない。今ので何台かは使用不能になってくれてるとありがたい。


しかし、そこは敵も考えているようだ。斉射した敵船3隻は後方へと下がり、その穴を埋めるべく新たに二隻が入ってくる。

再び敵船が発砲し、水面から水柱が上がる。今度はかなり近かった。


同時にイザベルの船の大砲の装填も終わり斉射。

だが、命中弾はなかった。

続いて左舷側も斉射させると敵船のマストを破壊することに成功した。


ドンッ!


衝撃とともに不吉な破砕音が船中に響く。

聞きなれたその音にイザベルは戦慄した。


「っ!?被害状況は?」

「右舷に命中し、浸水中!現在、浸水を止めていますっ!」


そう叫ぶ乗組員も浸水をとめるための板や金槌を持って船底へと向かっていく。


その報告を聞きながら、一人イザベルは思考する。


馬鹿な。こちらの最新式の砲でやっと敵船に当たるかどうかという距離なのに・・・・なぜ、なぜ?あいつらは何か魔法のようなものでも使っているのか―――いや、違う。


また近距離に水柱が上がる。着弾地点の風圧に煽られ彼女の髪がたなびいた。


「やつらは仲間の着弾地点を見て砲を調整しているのかっ!」


この短時間の砲撃でここまでの命中精度を発揮できている理由を説明するにはこれしかない。海賊たちが船の上で何やらピカピカさせていたのは、もしかしたら通信手段かなにかかもしれない。


だがもしイザベルの仮説が正しかったとするとすでに逃げるための貴重な時間はすでに失われていることになってしまう。


「・・・・船団の退避状況は?」

「すでに全船あいつ等の手の届かない場所に行っていると思われます。船団長の指揮のおかげです」

「そう・・・・」


海賊どもに沈められるのは癪だが・・・・華々しく散れるのならば本望だ。


「これより本艦は突撃に移行する!一分待つ。降りたい者はここで降りてくれ!」


一分待っても、甲板にいる者。船底にいた者。マストで見張りをしている者。誰一人として動かなかった。



彼らはもう家族の元に帰れないことを悟っている。降りても待つのは死だけだ。運よく海賊たちの追撃をかわせても、魔物たちに食い殺される。

早いか遅いか、それだけの違い。


「(お父様・・・・お母様・・・帰れそうにありません・・・・・どうか、お許しを)」


絶望感に打ちのめされながらも彼女は最後の命令を下すべく声を張り上げようとした。


――その時だった。


ブゥウウウウウ!!


思わず耳をふさぎたくなるような゛咆哮゛が辺りにこだました。


その声を聞いた時、不覚にもイザベルは腰を抜かしてしまった。


「お、おい・・・なんだあれ!」


マストで見張りをしていた乗組員が悲鳴のような声をあげた。

彼が指さす方向を甲板に上がっていた者達は一斉に振り向いた。


゛それ゛は島影からゆっくりと姿を現した。




  ◇


レーダースクリーンを眺めていた俺は、すぐにアルファとブラボーが戦闘状態になったことを悟った。

すぐさま、速力を上げ戦闘が行われている海域に急ぐ。


「警笛を鳴らせ!」


すさまじい音が艦橋に伝わってきた。

効果はすぐに表れた。戦闘音が一斉に鳴りやみレーダーでいうブラボーの目標たちが一斉にこちらに向けて転進しだす。


「警笛効果なーし!」


まぁ、相手がほぼいじめに近いような形で一隻と戦闘していたのだから俺自身、最初っからあいつらが素直に交戦をやめてくれるとは思っていない。


「敵船から発砲!」


やはり発砲してきた。

だが、やはり距離が届かないのだろう。無様にも艦のはるか前方に水柱が立つ。


でも、あいつらに感謝したいな。


「TAO、敵船からの発砲を確認した。主砲を用いて敵船に反撃しろ」


オペレーターが楽しそうに無線の向こうで「了解」と言った。


「さて、俺は目を閉じておくかな」


これから起こる惨劇をあまり見たくない白井であった。




CIC



主砲の発射を担当する隊員は薄ら笑いを浮かべ、トリガーを握っていた。


「そ、そんなに僕たちの・・力が見たいのか・・・・」


「お、お前大丈夫か?」


心配したら隣のオペレーターが声をかける。初めての実戦で緊張しているのか。

けど、主砲担当の隊員はまったく意に反さず言葉を続けた。


「攻撃してくる・・・・お前らが悪いんだぞ・・・・」


いっそう不敵な笑いを浮かべ、彼はトリガーを引いた。


「やられる前にッ!!」


バンッ!


一つ光点が消える。


バンッ!


また一つ消える。



「ふはははははははっ!」


高笑いを上げながらトリガーを引きづづける隊員を見て周りの隊員は引き攣った笑みを浮かべるしかなかった。


「CIC・・・もう分かってるが報告を頼む」


「はい、主砲担当のヒューマンエラーです・・・すいません」


バン・・バン・・・バン・・・バン


「はぁ・・・・」


等間隔に響く砲声を聞きながら戦術行動士官はため息をついた。




  ◇



彼女人身、あまり神と言う存在を信じてはいない。

よく領地近くの農民の子供が村唯一の教会に駆けていくのは見たことあるのだが、あんなことをして何が変わるというのだろう。

すぐに豊作や飢餓を乗り越えさせてくれるわけではない。彼女は今までそう思っていた。


「あれは・・・何?」


島影から現れた灰色の巨大な船。いや、あれを船と形容していいのかすら分からない。

゛アレ゛の前部についていた筒のような物体がひとりでに動いたかと思うと閃光が迸った。

それが砲撃時に発生する砲炎だと気付くのにそんなに時間はかからなかった。


すぐ真横を走っていた敵船がいきなり爆ぜたからだ。


「(あの距離で一撃ッ!?それにこの威力!)」


またしても敵船が爆ぜる。

イザベルはその砲の装填速度にも驚いた。一射目からそこまで時間がたっていない。


ドーン・・・ドーン・・・ドーン・・・


砲声が響くごとに追いつめていた側にいた海賊たちの船はその身を爆ぜさせる。もはや驚愕を通り越し、恐怖の感情がでてきた。


「せ、せ、船団長・・・・あれは・・一体・・・」


それはこちらが聞きたい。誰か知っている者がいれば教えてくれ。


「分からないけど、敵でないことを祈りましょう」


神様、信じてないけどこの時だけは私たちの方に微笑んでほしい。


やがて砲声は止み、あたりには敵船の残骸と静寂のみがその場を支配していた。


その時、ザザッという耳障りな音が巨大な灰色の船から聞こえてきた。


『あーあーそちらの船の皆様、お怪我はありませんか?怪我をしている方がおられましたら白い布を甲板で振って下さい』


これが、イグルシュト王国海軍とのファーストコンタクトだった。
















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