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転生


 場所はエリトリア王国 王都エリトリア


 王国騎士団訓練所で入団したばかりの新人女騎士見習いが集まり、先輩女騎士指導による訓練が行われようとしていた。


「訓練を開始します。この訓練も今日を含めてちょうど10日になります。明日以降は、この訓練も含めた次の段階に進むことになります。皆さん気合いを入れなさい!それでは、始め!!」





「「「「「くっ、ころせ!」」」」」





「アリア!目は相手を見るのではなく、地面を見るように目をそむけ、顔を赤らめなさい!皆さんもう一度です。始め!!」






「「「「「くっ、ころせ!」」」」」





「はい。皆さんいい感じですよ。座り方は女の子座りまたは乙女座り以外はダメですからね。」




 この訓練を受けている中に、エリトリア王国辺境に領地を持つフレール騎士爵家アレス・フレール5女 エリス・フレール(15歳)がいた。


 くっころさんの訓練とか、マジありえない。にも関わらず喜んでやってしまう自分が怖い・・・


 彼女は転生者であり、転生する前はこことは違う世界、日本人であり、そして男性だった。


 名前は司馬進しばすすむ死亡した時の年齢は23歳。


 何の因果かわからないが、進はセガールと呼ばれる世界のエリトリア王国でエリス・フレールとして転生していた。


 エリスにはどうしても叶えたい夢がある。


 そのためには騎士団に入団し、正騎士になる必要があった。


 夢のためエリスは、今日も騎士団の訓練とは思えない訓練を前世からこの世界に至った事を思い浮かべながら続けていた。





 現実逃避し回想中……





 2016年2月 神奈川県横浜市に、大学卒業し某大手小売業入社ほやほやの司馬進(23歳)はいた。


 いまだに慣れない販売業務をこなし、疲労困憊で自宅に向かっていたら、危険ドラッグで精神がおかしくなっていた男が運転する車が暴走。自分と同じように帰宅途中の人たちを何人も弾きながら突っ込んできた。


 進は何の反応もすることが出来ずに、そのまま車にひかれ即死。


 グチャグチャになった進の肉体から魂が分離、魂は5分ほど進の身体を見下ろす形で留まっていたが、諦めがついたのか現世とあの世の境目の三途の川へと魂が導かるように向かって行く。




 ここが有名な三途の川か・・・




 しかし、あまりにも呆気なく死んじまったな。取りあえず、あそこに集まっている人たちの所に行くか。


 あっさりと自分の死を受け入れ、三途の川の船着場と思われる所に10人近くが集まっていたので、進は其処に向かうことにした。


 数分後・・・


「よくも殺したな!」


「私の人生返してよ!」


「女房と子供の所に返せ!」


 船着場に着くと、1人の若い男に対して残りの人たちが罵声を浴びせていた。


 話の流れを聞いていると、どうもこの若い男が危険ドラッグでラリって車を運転していたらしい。若い男もどんな形かわからないが死亡し此処にいる。


 周りの人たちは若い男の車にひかれ死んだ人たちで、自分もその1人になる。


 う~ん。この光景はなかなかシュールだな。殺した相手に殺された人たちが詰め寄るなんて普通ないもんな。


 進も若い男に対して怒りや憎悪があったが、先に糾弾していた人たちを見ていたら急に醒めてしまい、一歩引いた形で黙っていた。自分は草食系男子なのだ。


「皆さんお待たせしました。今から渡し舟にてアチラ側に渡って貰います。私は皆さんをアチラ側に案内する者です。自己紹介したいのですが、皆さんには聞き取れない発音なので、ただの船頭と呼んで下さい。」


 いつの間に来たのか、船着場には10人程度が乗れる渡し舟があり、今現在の修羅場の空気を読まず声をかけてきた。


 顔がモザイクでもされているように全くわからない。体形もローブのせいか男なのか女なのかも体形がわからない。声も中性的というか判断出来ない。


「なぁ、私は死んだのか?現在たまたま仮死状態でここにいて、自分の身体に戻る事はないのか?」


 家族がいる事で罵声をあげていた40代くらいのメタボ気味の男性が船頭に問いかけていた。



「此処にいる皆さんがそうなのですが、完全に死亡したことで此処にいます。例外は有りません。」


 夢も希望もない言葉を告げる船頭だな。いや、死んでるのだから夢や希望はあるわけないか。


 船頭の言葉に諦めの溜め息やすすり泣きが聞こえてくる。進も溜め息しか出なかった。


 23年生きて交際経験0、童貞で死亡。キスは小学校に入る前位に親とやっただけ。


 それも親父だった。


 彼女が欲しかった……風俗店で初体験ぐらいしておくべきだったよ。そもそもそんな風俗店に行く勇気はないが性欲は人並みにあるのだ。


「さあ皆さん。時間もおしてますので、渡し舟に乗船してください。ちなみに乗船拒否はできません。そのような素振りを見せた場合は、自動的に地獄に直行となります。」


 船頭は感情がないのか、機械的とも感じる話し方だ。


 真っ先に事故を起こした若い男が渡し舟に乗り込んだのを境に、残りの人たちも重い足取りながら次々に乗り込み、最後に進が乗船した。


「では皆さん。出発します。向かう岸に着きましたら、船着場すぐ目の前に建物があります。その建物の中で今後の説明がされますので、ご了承しておいて下さい。私には建物の中であるだろう説明をする権限はありませんので、お答えする事は出来ません。質問は無用に願います。」


 船頭は渡し舟の操船しながら話をしていく。


 しかし三途の川は幅広いな……間違いなく一キロ以上の幅はある。向こう岸にある建物の中で説明とか閻魔様でもいるのかね?


 くだらない事を考えていた進だったが、三途の川を半分ほど渡りきったあたりで、今まで大人しかった若い男が突然暴れ出した。


「どうせ俺は地獄に決まってる。俺だけ地獄なんてイヤだ!お前たちも道連れだ!」


 若い男は力強く渡し舟を左右に揺らし始め、だんだん揺れが大きくなっていく。


「ふざけんな!地獄には1人で行け!」


「や、やめて~。」


「せ、船頭!な、何とかしてくれ。」


 自分も含めて何とかしたくても、揺れが酷くなる一方で船縁に捕まり耐えることしか出来ず、更に揺れが酷くなり、とうとう転覆してしまった。


「船頭!助けてくれ!」


 進は空中に浮いている船頭に助けを求めるが、


「私の仕事は渡し舟に乗船させ、向こう岸に案内する事です。救助は仕事に含まれていません。逆に仕事の妨害された私が知ったことではありません。私は次の方々を迎えに行きますので、皆さん各自で何とか向こう岸に行く努力をされてください。では私はこれにて失礼いたします。」


「ま、待て行くな!」


「あっはははははははははははははははははははは!」


 船頭は、転覆した渡し舟にしがみついていた進たちに言い放つと、渡し舟と共に消えてしまった。進たちはしがみついていた渡し舟がなくなり、川の流れに翻弄されながら下流に流されていく。


 様々な罵声、悲鳴をあげているが、若い男だけは狂ったように笑い続けていた。


 流されていくうちに10人いた人たちは、ある人は向こう岸へ、ある人は戻るように反対側の岸へと泳ぎ始め、だんだんとバラけ始め声も聞こえなくなっていった。


 流れがだんだん急になっていくな。向こう岸に行きたくても泳ぎは得意じゃないし、そもそも500m以上なんて泳げるわけないし、どうしよ……


 流れに身を任せるようにしていた進だったが、だんだん流れが急になっていくにしたがって焦り始める。


 ヤ、ヤバい。もしかして、下流に滝でもあるんじゃないか?


 進の焦りは現実のものとなり、下流に滝があるのを示すかのように、川の流れが見えない途切れた場所に近づいていく。


 このまま滝底に打ち付けられたら絶対に死ぬよな。あれ?俺もう死んでんじゃん。どうなんだろ?


 またまたくだらない事を考えていた進だったが、そのまま滝底に落ちていく。


 だが進の予想とは違い三途の川の下流の滝には、滝底はなかった。ただただ下に向かい落ちていくだけだった。


 そしていつの間にいたのか、その様子を滝の上空で浮遊していた船頭が眺めていた。


「向こう岸に渡る事もなく、次元の狭間へですか……渡し舟を転覆させた若い男は、私の仕事妨害の罪、複数殺人の罪で無限地獄に強制転移されましたが、残りの方々全員が次元の狭間へとは不憫ですね。神々の権能さえ及ばない場所ですからね……運が無かったと諦めて貰いましょう。実際、次元の狭間がどうなってるかは神々ですら知り得ない場所ですからね、どうなることやら。さて、次の方々を迎えに行きますか。」


 船頭は次の仕事に取りかかり、今後、進たちのことを思い出すことは永久に無かった。




 進がいる場所は次元の狭間、神々ですら入り込んだら脱出不可能と言われ、次元の狭間の先には何があるのか神々ですら知らない場所。


 そして、次元の狭間に入り込むことは、地球の神々が定めた森羅万象、輪廻から外れる事を意味する。


 進は何時間、何日間それとも何ヶ月なのか時間を認識出来ないほど、いつ終わるかわからない落下が続いていた。


 これ何処まで落下が続けば終わりがあるんだ?周りをみると所々に光ってる場所があるけど、何なんだろう?


 死んでるおかげか、空腹も渇きもないが精神は疲弊していく一方だった。睡眠欲もないので拷問と同じだ。


 しかし、それにも終わりが見えてきた。


 このまま落下していくと、下に見える光にぶつかるな。もうどうにでもなれ。もう疲れたよ……


 ほどなくして光のある場所に進は飛び込むように光の中に入り込む。


 そこは落下を続けていた次元の狭間の中で何回もみた光は、それぞれ全てが異なる世界への通り道。


 そして進が飛び込んだ異世界は、数多くある異世界の一つである剣と魔法が主流のセガールと呼ばれる世界。


 進の魂は、何かに吸い寄せられるように、エリトリア王国辺境の貧乏貴族、フレール騎士爵家、フレール騎士爵夫人リリア・フレールの子宮に吸い込まれていった。


 ん?生きてる?いやいやいや、しっかり死んでたじゃん!


 光にのみこまれてからの記憶がないな。周りは暗いし、狭いし、動けないしで、どうなったんだ?


 つかイタいイタいイタいイタいイタい!


 全身を圧迫する痛みを感じ、声を出そうするが、なぜか声が出ない。痛みだけが増していく。


 痛みが延々と続くが、終わりに近づいてきた。頭から痛みが収まってきたからだ。逆に光が眩しく目をあけていられない。


 や、やっと痛みが引いてきた。しかし今度は何だよ!眩しくて目があけられないし。


 うぉ、なんだ!誰かに持ち上げられてる?喰われるのか?鬼か?オレは鬼に喰われるのか?


 そんな悲惨な終わり方の悪事なんてしてないぞ!せめてもの抵抗ぐらいしてやる。




「俺を喰っても美味しくないですよ。」




 一気にへたれる進だったが、実際に発した言葉は、


「おぎゃー、おぎゃー、おぎゃー!」


と赤ちゃん言葉だった。


 えっ?えっ?どういうこと?


「おぎゃー、おぎゃー、おぎゃー!」


 進は質問したかったが、やっぱり赤ちゃん言葉だった。


 進がアレス・フレール騎士爵5女エリス・フレールとして誕生した瞬間。




 そして話は冒頭に戻る。

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