魔王のせいで異世界に転移したらパンイチで魔王を倒すことになったドクターは恩人を喪い復讐の闇医者となる
20XX年、外科医の男が行方不明になった。だが、それは大きな騒ぎにはならなかった。
彼の存在は人智を超えた何者かの陰謀で初めから存在しないことにされたのだ。
◇
「あの光は……」
夜勤明けの休日にベッドで横になっていたら、突然光が身体全体を包んだ。
目を覚ますと私は下着一枚であった。幸い怪我はしていないが、なぜ着衣がなくなった?
気を取り直して現在地を把握しようと周囲を見渡せば丘の上だった。
「綺麗だな」
唐突にそう思った空は薄い紫で、下を見れば紐のようなものがあり、魔法の絨毯の形をした閉塞のない宇宙船で無重力を無視した宇宙空間を渡っているかのように感じる。
遥か向こうにも丘があり、月のような黄色くて大きな惑星がここと向こうを挟む城下町の中心に浮遊している。
いわゆるファンタジーな世界なのだと、この光景を見れば納得せざるを得ない。
「うわああああ!」
声高い叫び声が聞こえて、服を着ていないことも構わず声のした方へ走る。
騎士の男が黄緑髪の少年を嬲り、投げ捨てると立ち去った。
「君、大丈夫か?」
顔を避けて腕など、半袖短パンからわかる範囲では拳で殴打された打撲痕が目立つ。
出血がなく着衣もそれほど乱れていないことから刃物による傷はないと推測できる。
この場所にある植物は地球と同じ形状ではあるが、薬草には詳しくない。
使えそうな葉の目星もつけられない為、その場に咲く草花を水で濡らして患部に当ててみた。
「……お兄ちゃんが僕を助けてくれたの?」
あの草にどれほどの効果があるのかは本人にしか分からないことだが、目を開けてくれて何よりだ。
「すまないね、君が怪我をする瞬間には間に合わなかったよ」
あの騎士の格好をしていた大男はなんなのだろう。人にあるまじく惨い仕打ちをするものだ。
「君はどうしてあんな目に?」
「兵士は騎士になれないからストレスがたまってて、逆らわない平民の子供に八つ当たりをするんだ」
さりげなく訂正されてしまったようだ。騎士と兵士は何が違うのか……ファンタジーの世界というのは難しいな。
江戸時代にタイムスリップするのは既に既存だからな、元の場所に戻れたらこの世界で起きたことを本にして出そう。
□
「ありがとう……ここが僕の家だよ」
少年の住むボロボロの木造の家は、そのまま家ごと引っ越せるように台車がついているものだ。
「お兄ちゃん、助けてもらったのにこんなこと聞くの悪いんだけど」
「なんだい?」
「どうして服着てないの?」
一番大事なことを失念していた。ここは人気のない村らしく誰もこちらを見ていないので助かった。
「ただいま」
「イズキ!」
母親と思わしき中年女性が、傷ついた彼を見て驚愕している。
「またフィエールの兵士にぶたれたのね」
私が殴ったと誤解されずに済んだものの、前にもこんなことがあったというのか……と、何とかしてやりたくなる。