手違いで刺された青年は異世界に転生し、敵国を滅ぼしたせいか神と呼ばれているそうです
「神様、この世界は薬品の規制が強すぎます。劇薬を合法的に調合し新薬を作りたいのです。
目を開けたら、誰も咎めない世界に変わっていますように……どうか俺の願いを叶えてください」
叶うはずのない願いを祈り終えて目を開ける。物語であれば次の日には法律が改正されプロジェクトのリーダーを任されることだろう。
だが、わかっていた。そんな都合のいい展開はないのだ。少なくとも俺の生きている間には起こりようがない。
「新人、もう帰るんか?」
「帰るよ。残業代出ないからな」
いつもなら仕事終わりに飲みにいくのだが、今日は行く場所があって都合が悪い。
「そっか」
「あの、太郎……昔のことだけどさ」
話すこともないのに、つい呼び止めてしまいって唐突に思い出したのは子供の頃に勇者パーティーごっこをしたことだった。
「なんだ? 勇者役のことならもう気にしてねえよ」
「今度の日曜日、あいつらの予定空いてたらコスプレ大会いかないか?」
「珍しいな、どういう風の吹き回しだ」
「大会のある日がたまたま休みだったからな」
軽い約束をして、自動ドアが開くと、前方から何か者か胸を突いた。
「……?」
「なぁ、やっぱり俺も帰る……え!?」
■■
「俺……死んだのか?」
暗転してから体感的には数分ほどで、目の前に発光体が飛び回り始めて最初から目を閉じていても頭の中が光っているかのように非常に眩しい。
「おめーさん大丈夫か?」
「女の子……?」
田舎者の少女が額に手をあて、熱を調べようとしている。
少女は自分額に手をやるのかと思いきや、何やら機材のようなものでスキャンしだした。
「どこも怪我してねえだな!」
「それは何?」
普通に考えてこういう草木のある森や林で西洋の田舎娘が小型機器を持つ風景が想像できない。
「おめーさんどこの田舎もんだ。科学領じゃ常識だべ。
さては……魔法領のスパイだな!」
魔法を使われると思っているのか、少女は怯えている。
「俺は魔法なんて使えな……」
「おーいヴェルドの女がいたぞ!」
魔法兵士のコスプレをした男がこちらに魔法の杖を向けている。
「捕まえて男王陛下に献上しよう!」
「そっちの男は殺そう!」
何だかキナ臭い雰囲気になっている。せっかく生き永らえたというのに、また。