異界大罪 ①ジャム論争
「あ……ごめん。まただめだった……」
俺は高校受験に失敗、といっても原因は成績だけじゃない。
目覚ましが壊れて遅刻だとか、試験当日に体調不良で受けられなかったりもある。
まだ二回だがもうどこも締め切られてる。
「叔父さんはどこで育て方を間違えたんだろうな……これでは亡きユカリ姉さんに申し訳がたたない!」
大袈裟に悲観しているこの人は叔父の柴楼<しばろう>、母の弟だ。父さん母さんは俺が生まれたときに死んでしまったというのでこの人が俺を育ててくれた。
写真くらいでしか顔はしらないが、俺は父親似らしいので母にはあまり似ていない。
受験に失敗した俺は過疎が激化した村の唯一のティーンだ。
こんな村、じゃねぇや、こんな島出ていってやる!と意気込んだ結果、見知らぬ村にいた。
知り合いがいない村に一人。
そんなことは、島にプレイヤーがいないせいで協力プレイ無しのネットゲームをやりつくしたオレには無問題だぜ!!
つーわけで、村人、というより村娘よ来い。
「すみませーん」
きたか村娘エー子
突然時空が歪みオレは部屋にいた。
「お兄ちゃんいつまで寝てるの!!」
「くそっ時間切れか?」
うるせぇ妹の声に、惜しくも現実へ引き戻されてしまったぜ。
「お前のせいで村娘ナンパ出来なかったじゃねーか!」
寝起きということもありつい八つ当たりしてしまう。
「はあ?村娘なんているわけないじゃん!!ここ島だよ」
オレはたしかに村娘を見たと言ってもまったく気にせず
妹はトーストにママレードジャムを塗って食べる。
妹はオレにジャムの瓶を渡して来たがオレは拒否した。
「オレはブルーベリーがいいんだ」
闇属性みたいで格好いいから。というのは秘密だ。
「ママレードの良さがわからないなんて…まだまだ若いね」
お前は年寄りか?
「はあ?イチゴジャムでしょ!!」
叔母が紙パックのイチゴジャムをテーブルに叩きつけた。
「あらあら、リンゴジャムに決まってるじゃないの~」
伯母はリンゴジャムの瓶をイチゴジャムの瓶に積み重ねた。
「何をあらそっているんですか」
義母だ。
「貴女はパンに何を塗りですか?」
「私ですか?私は…」
義母さん、何ジャムなんだ?
「マーガリンを塗ります」
ジャムじゃねぇのか。
「私はバター!!」
島を抜け出稼ぎしていた姉がバターの箱を四方に投げ、俺達がア●リックス並みのアクロバットで避けけた。
「く……箱がかすめたわ!!」
「アンタが島を出て一年、中々腕を上げたようね!!」
「母さん達こそ、まだまだ若いわね」
「ふふ……熟女を舐めるんじゃないわ」
ヒロインのラインナップが義母やら叔母やらでいかがわしい同人誌にありがちな取り合わせだが、そういう展開がまったく期待できない。
「どうか金持ちのお嬢様が島をまるごと買い取ってリゾート化してくれますように」
「無理でしょ」
「美人な義母ってだけでも普通じゃありえないんだからね」
ガキの頃からいるから美人なのかわかんねえし。
「そんな紫郎くんにいい話があるのよ~」
父方の伯母さんが、見合い話ばりのテンションで学園のパンフレットを渡してきた。
その学園名を見て、俺達は驚いた。
「観巌伯木<みがんはくぎ>学園といったら名門じゃないか!!」
「何を隠そう私の娘もここの中等部に通うことになっているのよ」
イトコのヒビナちゃんが名門校に合格したなんて初耳だ。
「特例テストで基準値を越えられたら入学資格を貰えるんですって」
特例テストを受けにいくと他にも数名の男女がいた。
パッと見では清楚な黒髪お嬢様、金髪の不良少年。物静かそうな緑縁眼鏡君などが目立つ。
「この言語は異国の暗号です」
試験用紙が配られると銀髪の女教師が言った。
「こんな文字、普通は解読できませんが皆さん頑張ってください」
先生がそんなこと言っていいのか、とザワつく。
暗号とは言われていたが普通に読めた。あれはテストを解けないという暗示、ただのプラセボ効果のようなものじゃないか。
―――テストを終えてから数日後に通知が届く。
「合格……しかも満点らしいぞ!」
「……へーそうなんだ」
《う゛んいェどげるみ》
適当に作られたような文章を解読して満点をとれるとは思わなかった。
―――バスで学園に着くと試験のときの教師がいた。
「あ、キミね~こっちが学園、あっちが旧校舎、後は地図を見てね!」
学園は寮制ではないそうだが、遠方の生徒は離れの寮に住めるらしい。
俺は家が遠いので寮に住むことにした。
地図を頼りにさっそく荷物を運ぶため寮を探す。
だが先生のくれた手書きと思わしき地図が多分南にあるヨ、などアバウトすぎて迷った。
若いスーツ姿の女性が、窓から飛び降り、そのままこちらへ歩いてきた。
「はじめましてよね?私は学園の理事長なの」
女性は長い群青色の髪をサラリと流す。
「……理事長さんですか」
「……よろしくね紫郎くん」
彼女は手をこちらに差し出した。
「はい、はじめましてです」
「とつぜんだけど貴方って私の初恋の人に似てるのよ。だから私のことは遠慮なくジョウカと呼んで頂戴」
「そうなんですか……」
―――ベタな台詞だなあ。
理事長が去ると反対側から先生が走ってきた。
「……聞き忘れてたんだけどキミ、この女を知らない?」
紫髪の見知らぬ若い女性がうつった写真。
「いえ、知らないです」
「ああ、そうなのね。ならいいのよ……」
そういうと先生は肩を落として去った。
「ねえ知ってる~?」
登校するとクラスメイトたちがさっそく話していた。
「なにがー?」
「特例入学者の話よ~」
やはり特例入学者と通常入学者の偏見というか溝がある。
「なんでも誰も解けない異界文字のテストを解読して満点だったことから特例入学したとかで……」
「……あ、それ俺です」