ソウルクリスタル
ユンディー教団の軍艦ルクセンビュリュック号から
発進した輸送ヘリコプターをフェンティーア都市国家西海域で
甘根興次が捕捉して闇黒天小隊を制圧した。
ヘリコプター内の闇黒天小隊の隊長エイミーを甘根は捕えて
軍艦フェンティーアに連れて帰るのであった。
司令官室にディアナ、ミュアン、コーラント、ロアンの姿があった。
艦長からの使いで乗組員が1名入ってきた。
軍艦乗組員の男性から敵小隊隊長を甘根が
捕縛し連行したとの報告を受ける。乗組員は続けて
甘根は敵小隊長を炎国所属軍艦内で拘束しているので
後ほど軍艦フェンティーアに連行すると甘根から連絡があったと告げた。
4人は席に座ったまま黙って乗組員の報告を聞いている。
捕えた小隊長についての素性についての報告はなかった。
甘根は小隊長に目的や所属を一切質問していないのというのだ。
報告を終えた乗組員は司令官室のエレベーターに乗って退室した。
ロアンがまず口を開いた。
「なるほど。
コウジ殿下はさすがとしか言いようのない働きですね。
しかし、相手を問答無用に捕縛してくるとは。
もしも、第三大陸所属である帝国軍人が同じように捕縛したら
後々、法的にややこしい問題になっていたかもしれません。
炎国の王子であるコウジ殿下は第二大陸の住人なので
第三大陸の法律は適用されないから幸いでした。
もしも相手側の組織がフェンティーア連合軍に苦情を言ったとしても
責任者は勇者ですので勇者を相手に
喧嘩を売るような国家や団体は第三大陸には皆無でしょうけれど。
それにしても事情も聞かず捕まえてくるなんて。フフフフフ。」
おかしくてしょうがない様子でロアンから笑いがこぼれていた。
ロアンの言葉にディアナが頷き口を開く。
「そうですね。敵かどうかまだわからないですし
もし無実の罪で小隊長を拘束していたのなら気の毒ですので
すぐに事情聴取を行わないといけないと思います。」
ミュアンがディアナの言葉に口を開く。
「いや。姫様。小隊長が敵対勢力の関係者以外の可能性は無いです。
小隊長という身分について報告を受けたという事は
全員が武装していたって事でしょ。
第三大陸の武装勢力が大陸本土の西の海域に何しにくるのでしょう。
偵察の可能性は0ですが仮に偵察でも小隊規模の人数はいらないでしょ。
そう考えると、目的はこの連合国艦隊であるとうちは思います。
明確な作戦目的はまだわからないですが明確な敵意は感じるっす。」
ディアナはミュアンの意見に頷く。
「では、司令官代行のわたしが小隊長に事情聴取しよう。」
ディアナのその言葉にコーラントが慌てて口を開く。
「待ってください!それは危険ではなりませんか?
殿下が自ら事情聴取する必要は無いでしょう。
相手の目的はわかりませんが司令官が不在の今、司令官代行に
何かあれば戦況が大きく変わってしまうやもしれません。
ここはロアン卿や大天使タロウ様が適任かと思いますぞ。」
ディアナはコーラントの言葉に首を振った。
「少将。心配してくれるのはとてもうれしいが
わたしはその小隊長と直に会って話をしたいのです。
もしも、敵ならば貴重な情報を聞き出せるかもしれない。
その場に当事者である第三大陸の人間がいないのはおかしい。
第一大陸の大天使様や第五大陸のロアン様に全部お任せしては
第三大陸帝国軍を預かるわたしの立場がありません。
では、ロアン殿と大天使殿に同席してもらうというのはどうでしょう?」
ロアンが首を振って口を開いた。
「。。。殿下にご指名して頂けてうれしいですが今回は辞退いたします。
シュウはフェンティーア都市国家に一人残っている。
こちらに帰ってくる手段もありません。シュウは下宿先に帰ってるので
わたしはフェンティーア都市国家に戻ってシュウと打ち合わせをしたい。
シュウにあちらでの用が無いのなら連れて帰ってまいります。
護衛の役でありましたらコウジ殿下が適任だと思います。
もちろん理性的で論理的なタロウ様もお連れになった方がよろしいです。」
ディアナはロアンの意見に頷くと口を開く。
「わかりました。では、取り調べ室を用意しなくてはなりません。
あなた。ヴォルグ艦長に取り調べ室の準備をお願いしてきてくれますか。」
そう言って壁際に待機している見習い士官の一人に指示した。
「はは!すぐ伝えてまいります。」と見習い士官は
ディアナに敬礼すると早足でエレベーターの前に向かう。
ディアナはもう一人の見習い士官に
「あなたは大天使タロウ様を探してすぐに司令官室に来るようにと
伝えてもらえますか。おそらくもう艦内に戻っているはずです。
ロビーか要人室におられると思います。
もしどちらにもおられない時は艦尾の搬入フロアにおられるかもしれません。
天使様たちの待機場所がそちらに変わりましたから。お願いします。」
「はは!了解いたしました!」と見習い士官は敬礼すると
エレベーター前に向かって歩き出した。
ロアンはフェンティーア都市国家に向かうため司令官室を退室した。
しばらくして中村太郎がエレベーターから司令官室に入ってきた。
ディアナは席を立ちあがると
「あ。タロウ様。
見習い士官を迎えに向かわせたのですが会いませんでしたか?」と訊いた。
中村は首をひねって
「ん。会わんかったなぁ。すれ違ったのかもしれんな。
その人には気の毒な事してしまったかな。
僕、ちょっと色々と準備があってな。
結構、ウロチョロとしてたからな。」と答えた。
「そうですか。見習い士官もそのうち戻ってくるでしょう。」
「そうか。それやったらええけど。」
「コウジ王子が捕えた小隊長に事情聴取したいのですが
タロウ様もご同席して頂けませんか?」
「ええで。僕もそのつもりやったからな。
だから、これを持ってる天使を探し回っててん。」
タロウは菱形の透明なクリスタルを懐から出して見せた。
「なんですかな?それは?」とコーラントは言った。
「占いか何かですか?」とミュアンが興味津々の目で言った。
「それは何に使うのですか?」とディアナが不思議そうに言った。
「えっとこれはソウルクリスタルって言ってやな。
対象の人物の心の色を映し出すんや。
対象者の心が綺麗ならこのクリスタルは透き通った色になる。
対象者の心が濁ってたらこのクリスタルも濁ったどす黒い色になる。
嘘をついたりするとどうしても心に濁りが生じる。
元々、心が濁っているような可哀想な人だとわかりづらいのが欠点やな。
これは迷える子羊たちの懺悔を聞く時とかに使うのではなくて
異端審問会を開く時なんかに使うという残酷な道具なんやで。
大昔は魔王に属して魔術を使う悪い魔法使いが多かった時代があったらしくて
そういう人間を天使が審問して異端と判断されたら
人籍を除籍して第三大陸から第二大陸に追放してたんやて。
捕縛した隊長の取り調べを絶対にするやろうと思って部下から借りてきた。
単に僕が使ってみたかったって動機がほとんどやねんけれどええやろ?」
ディアナは頷いて口を開く。
「わかりました。特別に許可を致します。
捕虜にされた方も嘘などついていては長く拘束されても辛いでしょう。
天使様が嘘を見抜いてくだされば問題も早期に解決するはず。
人の心を他人が覗くというのは平時なら不謹慎だとは思いますが
天使様が人の心を見透かすというのは不思議な事でもありません。
ただ、コウジ殿下にもご同席して頂こうと思っているのですが
悪魔に心を覗かれるというのは人権的に問題がある気がするのですが。」
中村は頷いて口を開いた。
「まぁ、そうやけれど甘根には同席してもらわなあかんで。
だってあいつは捕虜の小隊長を帰りの道中に
部下の悪魔におやつとして与えようと思ってるみたいや。
半分冗談みたいな口調やったけれど本気かもしれん。
甘根はその女性の事がめっちゃ嫌いらしくてな。
でも、嫌いって言いながら甘根は
その小隊長とめっちゃ仲良さげに喋ってたのが不思議ではあったが。」
ディアナは顔をしかめて口を開いた。
「小隊長というのは女性の方だったのですね。
人間を悪魔のおやつにしようだなんて酷いと思います。
そんな酷い事をしようとするコウジ王子を
タロウ様は当然、御止めになられたのですよね。」
「え?なんで止めなあかんの?」
「えっ?止めないのですか?
なぜ止めないのですか?人間が悪魔に食べられてもいいのですか?」
「いやいや、無駄な殺生はあかんけれど
だからって食の文化の違いを差別はできひんやろ。」
「は?そこですか。」
「そこって重要やと僕は思うで。お姫さんも
多種族と異文化交流していく立場になろうと思ってるんやったら
そこら辺の意識を高くもっといた方がええで。」
「いまそれを言うんですか。」
「今やから言うんやけれどなぁ。まぁええわ。話を進めるけれどな。
甘根は手柄を示すためにその隊長の首はいる。でもそれ以外はいらん。
けれども捨てるのも食べ物を粗末にしてるみたいで
もったいない気がするって考えている。もちろん甘根は人間を食べない。
だから、悪魔の身内の中で食べれる人は食べてって事やねんけれど
だからって罪の無い人間を勝手に食べたらあかんやろ。
そやから罪が無いという事を証明しないとその女性は明日には排泄物や。
それはさすがに僕の心が痛む。助けてあげたい。
だから無実であるならソウルクリスタルで証明をしてお墨付きを与えるんや。
天が証明したら甘根も納得してその隊長を解放するやろ。
あいつは筋が通っていれば自分の非を素直に認める奴やから全て解決する。」
ディアナはやっと納得した顔をした。
「なるほど。タロウ様は人の命を助けるために努力をする方なのですね。
タロウ様の悪い所は無神経な言い回しをして誤解を受ける所でしょうね。」
中村はニヤッと笑うと口を開いた。
「なるほど。お姫さんは善行は外面や形式が大事だと僕に説くんやな。」
「やっぱりタロウ様は意地悪ですね。
善行はどのような形でも尊いと思います。わたしに謝罪させたいのですか?」
「いんや。聖職者っていう職業は意地悪な物言いになっていくもんやねん。
僕も気をつけるわ。すまん。すまん。で、取り調べの場所って決まってる?」
「ええ。もう用意して頂いています。」
そう言ってディアナはエレベーターの前に歩いて行く。
「そっか。それじゃ、僕たちはそっちに向かうか。
甘根が隊長を連れてきたらそっちに来るように伝えといてもらえる?」
「は~い!わかりました!」とミュアンが手を上げて答えた。
「大天使様のお話を聞いていつかお酒をご一緒したくなりました。」
髭面に微笑みを浮かべてコーラントはそう言った。
「え?少将って何か懺悔したい事でもあるん?
懺悔したいんやったら素面で教会でしてほしい。それやったら付き合うで。」
「う~む。素面では話せる内容はありませんな。ふぉふぉふぉふぉ。」
「オッケー。少将。とりあえず下ネタだというのはわかった。」
「タロウ様!エレベーター来ましたよ!さっさと行きますよ!」
「何この空気?僕がセクハラ発言したみたいな空気になってるやん!
え~!理不尽や!抗議してもいいですか?
そや、僕の心をソウルクリスタルで今から皆で見てみてみようや。」
「言い訳とかはいいですから早くエレベーターに乗ってください。」
「。。。はい。」と中村は納得できてない表情でエレベーター前まで歩いた。
ディアナは中村とエレベーターに乗り込んだ。
ディアナは3つ下のフロアに向かうボタンを押して扉を閉めた。




