対策会議(前編)
ユンディー教団の軍艦ルクセンビュリュック号から発進した輸送ヘリが
フェンティーア連合国艦隊に近づく。
謎の飛行隊がフェンティーア連合国艦隊に
近づいているかもしれないという周三からの伝言を
グリフォンから報告を受けたロアンは
艦内の諸将を集めて対策を話し合う。
輸送ヘリは刻一刻とフェンティーア連合国艦隊に接近しつつあった。
グリフォンは軍艦フェンティーアに旗艦した。
ロアンはグリフォンから東の海域の状況やこれまでの
いきさつについての報告を受けた。
ロアンはすぐに第一艦橋に戻りヴォルグ艦長に報告した。
ヴォルグ艦長は軍艦内に滞在する各諸将に
艦橋の付け根にある司令室に招集するように要請する連絡した。
司令官室のテーブルには
ディアナ、ロアン、コーラント、ミュアン、甘根の5名が集まった。
その他の諸将ものちほど祝勝会に出席するために
軍艦フェンティーアに乗り込んでくるはずである。
しかし、諸将が揃ってから会議していたのでは後手に回る可能性が高い。
コーラント少将は警戒態勢を各艦に手旗信号で連絡するよう指示した。
しかし、西に向かった飛行体はまだフェンティーア連合国艦隊に
攻撃をしかけてくるのかがわからない段階である。
飛行戦力であるヴァルキリー隊は周三とギヨクの一騎打ちのあとに
第五大陸に向けて帰還の途についてしまった。
我が軍の飛行戦力は補給艦の搭乗している天使隊しかいない状態。
だが、天使隊は人間との敵対行動を禁止されている。
天使隊を哨戒飛行させるのは問題の火種になる可能性があった。
司令室に集まったディアナ、ロアン、コーラント、ミュアン、甘根は
今からこの対応について話し合うことにした。
周三に代理司令官として任命されたディアナが口を開いた。
「ではこれから飛行体について対応を話し合いたいと思う。
帝国領内においてユンディー教団は自由な行動を許されている。
暗黒騎士についても国に所属する兵士ではない。
暗黒騎士はユンディー教徒というだけのただの傭兵にすぎない。
飛行体が暗黒騎士の乗った飛行艇であるのか?
それとも竜などの飛行生命体の可能性も0ではないだろう。
可能性が一番高いのは単なる偵察飛行だと
わたしは考えるが皆さんの意見を伺いたい。」
「はい!」とミュアンが手を挙げて口を開いた。
「姫様の言う通り敵の偵察の可能性は
高いですがうちは偵察ではないと思ってます。
そんで、竜ではある可能性も低いです!
ハインベルト公国の竜騎士は我が帝国所属の
最強の飛行戦力なんですもん。
だからユンディー教の手先にはならん!です。
ユンディー教団の指示に従うとは考えにくいっす。
竜騎士にユンディー教徒はいません。
。。。絶対にユンディー教徒が竜騎士にいないと断言はできんっす。
でもね。だって、ユンディー教団の教えは神の奇跡に依存せぬ世界です。
天使、悪魔、妖精、竜、魔法や魔導器具なんかを
第三大陸から排除して第三大陸を科学技術オンリーで
発展させていこうってほざいておられます。
そんなことを言ってもユンディー教団は矛盾だらけ。
神を崇拝するのに人間以外の存在を認めない。
非科学的な事も認めないなんて矛盾だらけで
ツッコミどころが満載な組織ですが古代からなので
バカらしくて誰もがつっこんだら負けって感じで気にしてない。
第四大陸の竜は人間の指示に従わないでしょうし
第四大陸の竜ならフェンティーア都市国家本土を狙った方がいい。
カンベインの呪いがあったって竜には効かん!やっちまえ!ってね。
でも、うちは暗黒騎士の飛行艇だと思っちゃってます。
なぜって偵察する意味なんてあんまりないだよね。
海軍艦隊が進軍しているなら意味があるけれど
撤退してるのに偵察って何?って話。
意味があるとすればこちらを攪乱して足止めとか爆撃とかかなぁ。」
コーラントが控えめに手を挙げて口を開いた。
「うぉっほん。ミュアン少佐の意見にわしも賛同する。
ユンディー教団の軍艦からというなら暗黒騎士なら
化石燃料が動力源の飛空艇でしょうな。
ユンディー教団の軍艦は巨大なものだと飛行艇を数機搭載できる。
これは愚痴になるが帝国は魔導動力の飛空艇をあまり戦力に用いない。
理由は高価だからというだけではなくメンテナンスできる人材が少ない。
魔導機械は魔法士の中で魔導技師を志す人間はごく少数だそうだ。
魔法の才能があるという選ばれた人間の中のほんの一握りでしかない。
魔導整備士はとても高給取りですからなぁ。
引く手あまたである魔導整備士はスケジュールを押さえるのも難しい。
もしも飛空艇を軍事に利用すれば必要な人数は計り知れない。
軍艦の魔導エンジンや魔導砲は軍港のドックで定期的に
一括メンテナンスすればいいが
飛行艇は一回の飛行ごとのメンテナンスになるからのう。
前線基地や各艦に魔導整備士を置くなんていうのは現実的に無理じゃな。
事実上は魔導飛行艇の導入は不可能だと帝国軍上層部は考えておる。
帝国軍が飛空艇をあまり所持しておらぬのを
敵も知ってるだろうが攻撃するのに飛空艇がたった1機というのは少ない。
爆弾による艦への爆撃任務だと考えると納得はいくが
それならこの旗艦への爆撃というのが確率が高いとわしは考えるが
一機で搭載できる爆弾などしれている。
艦の上空に接近すれば魔導機関砲と魔導砲の弾幕で撃墜できる。
魔導砲の利点は有効射程距離の圧倒的な長さと
風力や空気圧の影響で弾道が逸れたりする事がない。
特に過剰に警戒せずとも撃墜できるとわしは考えております。
可能性は低いものとしては敵の決死隊による艦への侵入ですが
暗黒騎士は神の奇跡がつかえぬので
マナの技法も使えず一般的な人間の身体能力しかないですからな。
総勢が数人なんていう小隊規模で軍艦に侵入するとすれば
そもそも艦への潜入自体が困難であり
侵入してもすぐに敵を制圧できるはず。
帝国が不死身兵士と異名し恐れる『闇黒天』が
我が軍にちょっかいをかけに来とるとすれば怖いが
闇黒天は数が少なく貴重な戦力ですからな。
あまりに無謀な事はさせんと思うがのう。」
ミュアンが口を開いた。
「今回の作戦は大規模な戦力を投入しているので
闇黒天が配備されていることも十分考えられるっしょ。」
甘根は手も挙げず口を開いた。
「ねぇ。教団がどうって宗教か何かなんか?真祖が黒幕ちゃうんけ?
なんで宗教の人らが攻めてきとるん?海賊って話はどこ行ったん?」
ロアンが口を開く。
「それはおそらくはユンディー教団が真祖と繋がっているのでしょう。
海賊も真祖と繋がっていたし、影の国も真祖と繋がっていたと思います。
このあたりの事情は帝国軍人の方々の方が詳しいと思います。
東の海賊艦隊は撤退行動を取っているとシュウから報告がありました。
東の海賊艦隊とこの連合軍との対決の可能性もあります。
我が軍の全戦力を引き付けて殲滅するのが影国の役目でしたから
こちらの戦力に対して強行偵察という可能性も捨てきれません。
こちらの戦力がそれほどでもなければ海賊艦隊を
我が艦隊にぶつけてくる可能性もあります。」
ミュアンが口を開く。
「ロアン卿。偵察の可能性はほぼ無いっす!
海賊艦隊が撤退した理由はおそらく勇者様の存在を知ったからですよ。
撤退した時点で勇者様を恐れているとわかります。
フェンティーア連合国艦隊を恐れているのではなく勇者個人を恐れた。
それなのにフェンティーア連合軍艦隊を偵察する意味があるかなぁ。
偵察するなら勇者様個人をストーキングすると思います!」
「なるほど。そうですね。海賊艦隊をぶつけるなら
最初から撤退などしないですね。
時間のロスは軍事行動では致命的ですから。」と
ロアンはミュアンの意見に納得を示した。
甘根は口を開く。
「その宗教って悪い奴らなんけ?だったらみんなで教団をやっつけようや。」
ディアナが口を開いた。
「コウジ王子。それは難しいことです。
第三大陸で最も信者が多い教団はユンディー教団です。
正式な教団名は『新天主教団』といいますが
太古の昔に第一大陸と第三大陸を作ったという創造神は
13人の司徒のひとりであるユンディーに殺害された。
ユンディーは神の力を手に入れて独立し
この世界を飛び出して別に新しい世界を作ったとされます。
その神話が本当ならもうこの第三大陸に創造神はいない事になります。
新天守教団とは別に『聖天主教団』というのがあります。
聖天主教団は天使との関わりを大切にして
天使を支え信頼関係を構築することを重要視しています。
天使を神の代行者として信仰しながら真の神の復活を待つ教団。
この神というのは殺害されたとされる神であり
ユンディーの事をさしているのではありません。
聖天主教団の崇拝する神に名前はありません。
本来いたとされる神には名前が無かったからです。
この聖天主教団は帝国の国教であり
新天主教団の次に信徒が多い教団です。
新天主教団は神の力を手に入れたユンディーこそ神の後継者であり
この世界の神の後継者として
この世界にユンディーが再び降臨するという考え方です。
2つの宗教の団体名は似ていますが性質は完全に異なる。
もしも、ユンディー教団を弾圧すれば人間同士の世界戦争に発展します。
その戦争に勝つ力はもう帝国にはないかもしれないのです。」
甘根はガッカリした様子で
「宗教の話はようわからんかったけれどや。
帝国にはもう正義を守る力がないってどういう事なん?」と質問した。
ディアナは表情を曇らせながら
「こんなことはわたしが言う立場ではありませんが
帝国はもう腐敗していています。
ユンディー教団と敵対すれば長い内戦に突入して帝国は瓦解してしまいます。
ユンディー教団はもうすでに帝国は眼中になく
カンベインという絶対的な存在の象徴であるフェンティーア都市国家を
標的にしているのだと今回の件で思いました。」と説明した。
ロアンは心配そうな顔をしながら
「カンベインの影響力を取り除けばユンディー教団は第三大陸を支配できると
考えているということですか。それは甘い考えです。
第三大陸には神はいないかもしれませんが第五大陸には神が存在します。
第二大陸にも神は存在すると言われており第四大陸にも神はいる可能性がある。
もしも、カンベインに対する敵対行為を行えばユンディー教団の信徒は
カンベインを支持していた全ての神々を敵に回す事になるでしょう。
ユンディー教団は本当にユンディーを降臨させなければ大変な事になる。
この第三大陸に神がいなくなって長い年月が経った事で
神が人間の思想によって歪められて心の中に描いた架空の神を信仰している。
この世界には実際に神が存在するという事を実感できていないのです。
そして、真祖という悪魔が影でユンディー教団を操ってるとすれば大変な事です。
今回の戦争はまだ始まりなのかもしれません。」と言った。
甘根が口を開く。
「すいません。難しい話はよくわからないんやけれど
話を戻すとその飛行体を空から見つけたらええんけ?
それやったらわしが飛べるから見てきたろけ?」
コーラントが口を開く。
「それでは王子は敵の攻撃をうけまするぞ。
炎国軍の総大将が自ら危険な任務をすることはないでしょう。」
甘根は笑顔を浮かべた。
「わしの軍には堕天使もおるから偵察に行かせてもええんやけれど
俺の力試しをしたいねん。絶対に負けへん自信がある。
せっかく戦争に来たのに男として伝説を残さずに終われへんやろ?」
ロアンが口を開く。
「王子。王子は魔界の炎を顕現させておられましたね。
イフラートしか使えないと言われる魔界の業火を
ご自身も操れるという事ですか?」
「使える。ロアンさんはよう知ってはるね。」
「わかりました。だから外での戦闘がしたいのですね。
魔界の業火は何もかも焼き尽くす恐れがありますからね。
魔界の業火に人間が勝てるとは思えません。
むしろ腕試しされてもよろしいかと思います。」
コーラントは感心しながら
「それはそれほどの力なのですかな?」と訊ねた。
ロアンが口を開く。
「神とカンベイン以外になら無敵の力です。」
コーラントが目を丸くして
「ほう。ほう。ほう。それは。それは。」と驚きの表情をした。
ディアナはうまくリアクションを取れず戸惑いの様子だった。
「マジか!そんなのもう魔王っすね!」と
ミュアンは心の中の言葉が口からこぼれていた。
ふいにエレベーターが開くと中村太郎が降りてきた。
「なんかあったんか?第一艦橋に行ったら
艦長に司令室で会議してるって聞いたから降りてきたんやけれど。」
ディアナが口を開いた。
「大天使様、東から一機の飛行体が接近しているようで
その対策についてここにいる皆で話し合っておりました。」
「そっか。ほな僕も話し合いに混ぜてもらおうかな。」
ディアナは「ぜひ。」と言って座席に座るように中村に勧めた。
対策会議に中村太郎が加わることになった。




