リリアン
周三は真祖指揮下の別動隊が存在するのではと憶測した。
別動隊の存在を確かめるべく軍艦フェンティーアから
周三はグリフォンで飛び立つと単独で偵察するべく
フェンティーア都市国家に急いで向かうのであった。
東のフェンティーア都市国家に近づくにつれて
青空には多少の雲が浮かんでいるのが見えた。
「ん。そう言えば海って広いよな。」と周三はつぶやいた。
偵察するにもこの世界に土地勘の無い周三には
どのあたりの海域を重点的に調べればいいのかが見当もつかない。
「一旦、フェンティーアの議事堂に寄って議長に相談するか。
いや、でも、フェンティーア市民に俺が見つかるとちょっとした騒ぎになるか。
早く戦勝報告はしておきたいのだけれどもしも東から脅威が
近づいてきてるならぬか喜びさせてしまう結果になるか。」
周三はグリフォンで東に飛行しながら見切り発車しちゃったかもと心配になった。
「勇者様。少しいいですか。」と周三の頭の中で
魔眼エービンスが話しかけてきた。
「エービンス。どうしたんだい?」と思考内で周三が応えた。
魔眼である精霊エービンスと意思の疎通ができるようにはなったが
用がある時以外はエービンスには周三は眠っていてもらうようにしている。
理由は疲れるからだ。エービンスの意識を起動させると
魔眼によってエービンスは周三と視神経で繋がっているので
周三の意識領域を連動して思考力を浪費して無駄に精神力が削がれる。
しかし、緊急の連絡などはしてくれと周三はエービンスに伝えていた。
「北東から大きな魔力が近づいてきます。
敵であれば相当な強敵ですのでお気をつけください。」
エービンスはそう周三に報告してきた。
「マジかよ!」と周三は思考内で困惑した。
「マジであります。」とエービンスは律儀に返した。
「困ったなぁ。戦いとか避けたいんだけれどなぁ。
あ。そういえばこの前はいい働きをしてくれて感謝。」と周三は
一騎打ちでのエービンスの活躍に思考内で謝辞を述べた。
「もったいないお言葉。
素晴らしい肉体をお与えくださりわたしは強くなれました。
こちらこそお礼を申し上げまする。」
「いやいや。エービンスにはこれからもいい働きを期待してるよ。
もし、あちらから来るのが敵だったらよろしくね。」
周三は戦闘はエービンス頼りにしていくと暗に伝えた。
「エービンス。あちらさんはこちらに気付いているのかい?」
周三はエービンスに思考内で確認をした。
「おそらくは気付いていないでしょう。
わたくしどもは魔力もマナも発しておりませんから
探知するのは難しいはずでございます。」
「気付いていないとすると連合軍に攻撃をしかけるのかもしれないね。
それでは困るのでエービンスは覚醒モードで霊体化しておいて。
待機モードで火の玉状に体を維持して省エネしておいてね。
マナを消費するのは疲れないけれど霊体を肉体の形に創造して
具現化するのは疲れると実感したからね。
敵では無い事を祈るよ。魔眼発動!」
そう周三は心の中で言うと敵を発動した魔眼で魔力を探知した。
「おいおい。この魔力量って人間じゃないだろ。
アルフレッド。未確認飛行物体が北東方面から西に向かっている。
捕捉したのでそちらにまず向かう事にする。
戦闘になるかもしれないのでそのつもりで。」とグリフォンに伝えた。
「わかりもうした。それにしても大変ですな。
あちらにもこちらにも敵が出てしまってはシュウも
休む暇がありませぬな。」とグリフォンが言った。
「ああ。そうかも。カエデさんもそんな事言ってたよね。
勇者は強くても体は一つって。対策は考えないといけないな。」と
周三は困った顔をしたがとりあえず目の前の問題に向き合う事にした。
グリフォンを北東に向けて飛行していると
小さな影を周三は魔眼による遠視により目視で確認した。
「よし。飛行速度を落としながらあの飛行物体に近づいて。」
周三はその飛行物体に近づくにつれてある事に気付き始める。
「ん。う~ん。あれってあくまで多分やけれど人間だと思うで。」
「人間でありましたか。敵でなくてよかった。」とグリフォンが言った。
「そやな。まだ敵かもしれんから警戒は解かずに近づいて行こう。
人間が西の海域に向かうなら高確率で俺に関係する用事やろうからな。」
「わかりもうした。」
「まさかなぁ。マジで目にすると思わんかったわぁ。
トンガリ帽子にマント姿の箒に乗った魔法使いなんてものを
本当に目撃することになるとは。
魔法使いだとしたら魔法学園都市の関係者かなぁ。」
周三はそんな憶測を口にしながら箒に乗った人物に近づく。
あちらも気付いた様子でこちらに方向を向けて飛んでくる。
周三はこちらに敵対心が無いのをアピールするために
箒で飛行する人物に手を大きく振った。
箒に乗った人物もこちらに気づくと大きく手を振り返してきた。
魔法使いらしい人物は腕を左右にめちゃくちゃ激しく振っていた。
その人物は薄い水色の長い髪が日光を反射してきらめいていた。
「女の子かな。だったら魔女っ子か。」と周三はつぶやく。
箒に乗った小柄な少女はグリフォンと並んで東に向かい飛行すると
「どーも!どーも!グリフォンに乗ってるからロアンかと思ったら
見知らぬ少年ではないか!びっくり!え!?
あんた。アルフじゃん(笑)
おひさ。で、上に乗ってるあんたはどこの誰?あたいはリリアン。」
その魔女はドールフェイスの白人の美少女だった。
「俺は田中周三。勇者させてもらってます。よろしく。
あなたはアルフレッドと知り合いなんですね。」
「タナカね。アルフは知り合いの知り合いって感じの関係だよねぇ。」
アルフレッドは知り合いと言われてもピンとこない様子を見せた。
「我はおぬしに対する記憶が無い。覚えておらずすまぬ。」
「いいよ。いいよ。そのうち思い出すでしょ。
それはそうとタナカって勇者なのね。びっくり!
それであたいは勇者に用事があって軍艦に向かってたんだわ。
すれ違いになってたら無駄に往復とかしちゃうとこだった。
あたいを見つけてありがとう。それで用事についてだけれど。
ちょっと話できる?するなって言われてもするけどねぇ。」
「いいっすよ。用事って何ですか?」と周三は応えた。
「話が早くていいねぇ。えっとさぁ。
東からすごく沢山の軍艦がフェンティーア都市国家に向かってるんだわ。
でさ。フェンティーア都市国家の議長のとこに行って話をしたら
戦争責任者は勇者ですのでそちらでお話ししてください。だってさ。
お前が国家元首だろ!ってつっこみ入れたよ。まったく。
それであたいは勇者様にお伺いを立てるべく参上いたしましたとさ。」
「それはお手数おかけして申し訳ありません。」と周三は謝罪した。
「いいよ。いいよ。お役所仕事なんてそんなもんだし。
でさ。あたいは魔法学園都市の軍の責任者ってわけでして。
あたいらの国の領海を軍艦が、のほほんと移動してるのがムカつくからさぁ。
そいつらあたいらみんなやっつけちゃっていい?って話をしにきたわけ。
学園長がさぁ。帝国ではなく、フェンティーア都市国家に
お伺いを立ててこいなんて言うもんだから意味わかんなかったけれど
勇者がいたのね。知らなかった。学園長は知ってたのか。ふむふむ。
で、タナカの意見はどんな感じなのかあたいに教えておくれよ。」
アルフレッドが目を見開いた。
「おぬし、もしやリヴィーなのか?
話し方が我が旧知のリヴィーと似ておる。」とアルフレッドが言った。
「アルフってば、昔のあだ名で呼ばないでよ。今はリリアンよ。
リリーって呼んでくれたらいいからね。昔馴染みだからね。」
「アルフが思い出してよかったですね。
リリーさん、俺もシュウって呼んでくれたらうれしい。」
「シュウね。りょうかいっす。あたいもリリーでいいよ。
勇者に敬称付けて呼ばれてたらどこの大物だ?って話になるもんね。」
「はぁ。なるほど。ではリリーの質問に答えます。
質問の答えはNOでお願いします。
やっつけるかどうかはまず交渉してから決めましょうよ。」
「シュウって平和主義の偽善者なの?オッケー。そういう人なのね。
まぁ、あたいはやっつけようがやっつけまいがいいけれどね。
じゃあさぁ。シュウがあいつらをやっつけるんなら
死体でも生きたままでもいいから人間を捕えたら譲ってくれない?」
「なんでですか?」と周三はリリアンに訊ねた。
「あたいの国って研究機関じゃん。だから検体がほしいのよ。
一応、犯罪者とかは各国から譲ってもらってるんだけれどさぁ。
大量に消費してるからストックがためておきたいんだよね。
相応のお礼はするからさ。どうかな?」
「えっと。はい。約束までは出来ませんがもしも戦闘になって
引き取り手が無いご遺体や捕虜についてはお引渡ししましょう。
でも、現金のやり取りをしてしまうと世間体がよろしくないので
貸しという形でいずれ何かしらの形で恩返しをして頂くというのは
どうでしょうか。」と周三は提案した。
「おいおい!シュウってば偽善者ではなかったわ(笑)
リアリストのシュウさん。ではそれでよろしくです。交渉成立!」
そう言ってリリアンは手を出して周三に握手を求めた。
「では、よろしくおねがいします。
あと、俺は魔法学園に入学予定なので
入学した暁には色々と教えてもらえたらうれしいんですが
リリーは学生ってわけではないんですよね?」と周三は訊ねた。
「うん。リリアンは大魔導師だから教員ってことになるのかな。」
「え!?教師ですか!それじゃ色々と聞きたい事があるんですが
もうお国に帰られますよね。待ってもらったりできないですか?」
「無理っぽい。あたいって忙しいからねぇ。
でも、シュウは戦争に勝つ予定なんだよね。
だったらたぶん戦勝の式典とかあるんじゃないかな。
その時は学園長も来賓で呼ばれるだろうからその時に学園長に聞けば?」
「そうですか。では、そうします。
それでは検体については誰に言えば良いのでしょう?」
「議長に言ってくれたら連絡網でこっちに連絡が回ってくるから
その時はあたいが引き取りにいくよ。その時は相談にも乗ってあげれるね。」
「どうしよっかなぁ。とりあえずその艦隊に行ってみます。
どの当たりに敵の艦隊はいますか?」
「敵はだいぶ第二大陸の領海から南下してきてさ。
あたいらの国の海域に侵入しながらフェンティーア都市国家に向かってる。
フェンティーア都市国家の真ん中を突っ切って
フェンティーーアの北の海岸沿いに東に行けばきっと敵とぶつかるよ。」
「助かりました!偵察しようにもどうしようかって悩んでたんで。」
「そっか。それはよかった。でも一人でとか怖くないの?
敵の艦隊までついて行ってあげてもいいけれどどうする?
シュウはリリアンお姉さんに甘えちゃうタイプかな?」
「いや、俺も勇者の端くれなんで一人で行ってきます。
アルフレッドがいるので心強いです。」
「ほう。男の子だねぇ。頑張ってきなよ。
じゃ、ご褒美にお姉さんがこの鈴をあげよう。
どうしても無理って思ったら鳴らしてくれたら
リリアンお姉さんを一回だけ召喚できるよ。」
「マジで!ありがとうございます。」
周三は礼を言うとリリアンから紐のついた小さな鈴を受け取った。
「シュウと今度会う時は先生と生徒の禁断の関係かしらねぇ。
検体の件は期待して待ってるからねぇ!
アルフも勇者を助けてあげなよ。じゃまったね~!バッハハーイ!」
そう言ってリリアンは猛スピードで東の空に消えて行った。
「アルフレッド。あの人って人間なのかな。魔力量がハンパないよ。
アルフレッドもかなりのスピードで飛んでくれているのに一瞬で見えなくなった。」
「さぁ。どうですかな。リリーとは
それほど親しくもありませんのでわかりませぬ。」
アルフレッドは困惑した表情をしていた。
「ああ。敵の別動隊ってマジで存在してたのかぁ。気が重い。
じゃあこのまま直進して敵艦隊の旗艦に潜入しちゃおうかな。
怖いけれどまぁ奥の手もあるし大丈夫と信じるわ。じゃレッツゴー!」
周三は気の無い言葉で自分を奮い立たせながら東に向かって飛行するのだった。
お久しぶりです。




