風呂
周三は食堂でギヨク将軍と食事に行こうと
思っていたが医務室に帰ってきたロアンから
戦勝ムードに水を差す行為だと指摘され周三は納得する。
ロアンの提案で第二艦橋の周三の部屋で
ギヨク将軍と食事をする事にした。
周三は中央ロビーのエレベーターに
乗り込むと2つ上の階のボタンを押した。
扉が閉まりエレベーターが起動し上昇すると
すぐに止まり扉が開いた。
ギヨクが上半身裸でソファーに腰掛けていた。
エレベーター近くで立っていたロアンが周三に
「では、わたしは第一艦橋に向かいます。
食事の用意については艦長に伝えておきます。」
「すみません。よろしくお願いします。」
ロアンは会釈して周三が降りたエレベーターに入れ違いで乗り込んだ。
「ロアンさん何から何までありがとうございます。」
「お気になさらず。」とロアンは返事してエレベーターの扉が閉まった。
左側のソファーにギヨクが座っていたので
右側のソファーに周三は腰掛けた。
テーブルの上に昼食に用意されたプレートが置かれていた。
ミートパイと牛肉と野菜の炒め物にフライドポテトにサラダにシチュー。
周三の昼食に用意されていたものだった。
「まずはこれを召し上がってください。」と
そのプレートをギヨクに勧めた。
「いいのですか。」とギヨクは遠慮がちに言った。
「ええ。これから料理がどんどん届きます。
まずはギヨク将軍に体力をつけてもらわないと。」と周三は言った。
「では、遠慮なく。」とギヨクは手で料理を掴むと
ムシャムシャと食べ始めた。
周三は給水ポットから水をグラスに注ぐとギヨクの前に置いた。
ギヨクはそのグラスの水を一気に飲み干した。
すぐにプレートに載った料理は無くなった。
「ギヨク将軍とこうして平和な時間を過ごせるとは
思っていませんでした。」と周三が微笑みながら言った。
「ふふ。それはわしもです。この戦いでどちらかがこの世から
いなくなってるものと思っておりましたからな。」とギヨクが返事した。
「羽毛がベタついてますね。どうですか。お風呂に入りませんか?」と
周三がギヨクに訊ねると
「風呂?水浴びのようなものですか?」と問い返してきたので
「そう。お湯浴びです。」と笑顔で応えた。
「はぁ。この船はそのようなことができるのですか。」と
ギヨクはイマイチ想像ができていない様子だった。
ギヨクはフロアの内装を見渡しながら
「なんとも豪勢な部屋であろう。
わしはこの船に度肝を抜かれておるのです。
このような巨大な船が存在しておるとは。
わしは世界を知らなすぎる。」と感嘆の声を漏らした。
「この戦いが始まるまで俺もそうでした。
こんなすごい軍艦があるなんて想像してませんでした。
では、お湯をためてきます。」と言って周三はバスルームに向かった。
バスルームに入った周三はバスタブに湯をためるために
お湯の出る蛇口をひねった。
周三はバスルームを出てソファーに戻ると
「お湯が溜まるまでしばらくおまちください。」とギヨクに言った。
「湯を発生させる装置があるのか。」とギヨクが感心した。
「いえ、そのエネルギー源は魔石なんですよ。」と周三が説明すると
「魔術師がお湯を沸かしておるわけですか。」とギヨクが納得した。
「ええ。機械が魔術を使うんです。」と周三が付け加えると
「???それはどういうことでしょ。」と疑問を返した。
「俺も詳しい仕組みはわからないです。」と笑顔で応えた。
「ほう。第三大陸には不思議な文化が発達しておるようですな。
カエデ殿の船は油を使って熱を発生させる装置を積んでおったが。
魔法を発生させる機械が存在するとはのう。」と
ギヨクは疑問の答えが出ないまま納得した。
「ギヨク将軍の船は水はどうなさってたんですか?」と
周三が問いかけると
「高位の魔術師が海水を分解し水と塩を作っておりました。」と答えた。
「そんな高等技術を使える魔術師を
将軍指揮下の各軍船に100人以上いたとすれば
この作戦で死なすなんてもったいなくないですか?」と周三が言った。
「うむ。魔術師は貴重だ。すぐに育つものではありませんからな。
この作戦は我が国の一世一代の大花火になるはずでしたが
不発に終った。しかし魔術師は失わなかった。
勇者様にわが国はある意味では救われたのかもしれませんな。
もう我が国はこの作戦は使わないでしょう。
魔術形成に膨大な魔石量を使用し貴重な魔術師を損失覚悟で
投入したのにこの作戦で戦果が挙げられなかった。
魔術師も軍船も失わずに済んだ事は我が国には不幸中の幸いです。
勇者様への敵意を煽ったとしても我が国では盛り上がらないでしょうな。
はははは。」とギヨクは苦笑いした。
「ふふふふ。敵意を持たれるというのは俺は好きではないので
それはうれしいですね。」と周三は微笑んだ。
周三はギヨクに目を合わせると
「食料はあまり積み込まなかったのですか?」と質問した。
「ふむ。食料は適当量は積んでおったのですが
兵士の苛酷な肉体労働に報いるために
最初、食料を多めに支給したら食料が底をついて不足しましたな。
船を止めて漁などすれば対応も出来たのですが
なるべく早く炎国の前線付近から遠ざかる必要があった。
炎国は前線以外は兵などほとんどいませんからな。
そのせいで兵は飢えさせてしまった。
それにしても第三大陸の料理というものを初めて口にしましたが
とても美味い。涙が出そうになりもうした。」とギヨクが言った。
「喜んでもらえてよかった。ではこちらへどうぞ。
たぶんお湯がたまったと思います。」と周三は立ち上がる。
ギヨクに起立を促してバスルームに案内した。
周三はタオルを棚から取ってギヨクに渡した。
「これで体を拭いてくださいね。
翼が無ければこのバスローブを着てもらうのですが無理ですよね。」
「いや、翼は背中でかなり小さく折りたためます。
おそらく着れるとは思いまする。
一応、挑戦はしてみましょう。」とギヨクは笑顔で応えた。
「では、服を脱いで裸になってこのバスタブに浸かってください。」
ギヨクはズボンを脱いで全裸になると
「はぁ。」と返事すると恐る恐る足先をバスタブにつけた。
「うむ。これは良い。」と言うと全身を湯に浸した。
周三は気をつかって湯をぬるめにしていた。
ギヨクは顔や頭を両手で湯をすくってはゴシゴシとこすった。
「気持ちがいい。生き返るようだ。
この文化は取り入れたいのう。」とギヨクは満足げであった。
「ぜひ、新しい国を建国したら取り入れてください。」
周三はギヨクに言うとバスルームを出て扉を閉めた。
擦りガラスの扉越しに周三はギヨクに話しかける。
「影の国は切羽詰まってるんですか?」と周三は訊ねた。
ギヨクはうつむいた。しばらくして声が聞こえてきた。
「ずっと苦しい状況ですな。
炎の国の軍は強い。
押し返すチカラは無くてのう。ずっと防戦一方ですわ。
大規模魔法は強力ですがそれで敵軍を押し返したとしても
イフラート王が出てくれば戦況は簡単に逆転させられるでしょう。
イフラートとはそれほどに強力な力を持った王なのです。
かつての第二大陸にはイフラート王にも
対抗できる力のある国が存在しました。
影の国にいる将軍たちよりも遥かに強い悪魔たちが治める国。
隣の北東の国家は雹という名の国なのですが
500年前のカンベインがイフラートを引き連れての北伐で
雹の国の軍はカンベインたちとは一戦も交えずに
イチ早くカンベインに恭順を示して国民全部を大きな氷山内に封印した。
雹は国土も全て氷で閉ざしてしまった。
もう雹の国は国家というよりも墓場と言えるかもしれませんな。
雹の国の王の名はリヴァイアといい
第二大陸の72家の貴族とともに氷山に今も眠っております。
わしらはカンベインの第二大陸北伐で大損害をこうむり
ルシカル王が率いる我が軍はただただ北へ逃れました。
それが影の国の始まりです。
その第二北伐でカンベインとイフラートは
ある程度、北まで攻めると南に引き上げていきました。
わしらは第二大陸の北の隅に押し込められて
第二大陸で浮いた存在になってしまった。
滅びるべきときに滅べなかった国と言えるかもしれませんな。
ただ生きるために毎日を過ごし死ぬために戦いに赴くような生活。
ルシカル王が恐れているのはただひとつ。カンベインの帰還。
それまでにこの状況を打開するために全力を尽くしておられます。
ルシカル王は神に近い男と呼ばれるほどに強く勇敢な堕天使ですが
ルシカル王はカンベインの戦いぶりを見て己の死を覚悟したといいます。
ルシカル王は初めて逃げるだけの戦術しか取れなかった。
勇者様にこんなことを言うのもなんですが我らは必死なのです。
勇者様がネヴェシス姫を解放してくださり源の国の復活にともなれば
わしらの未来にネヴェシス姫は光を与えてくれるはず。
もっと早くに勇者シュウ様が現れてくださればよかったのだが。」と
ギヨクは口を濁した。
「いやいや、誰かではなくギヨク将軍が未来を変えてください。
その為にネヴェシス姫と頑張ったらいいじゃないですか。」と
周三は扉越しに優しい口調で言った。
「かたじけない。」とギヨクは言うとギヨクは
湯を両手ですくって顔をバシャバシャと何度も洗った。
おはようございます。




