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選ばれた勇者らしい。  作者: Cookie
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第三皇女

 天使の中村がカノレル雑貨店を去ったあと


周三は店の奥のリビングのテーブルで


お茶をしながらおばあさんと談笑していた。



 「本当にここで下宿を


させてもらっていいんですか?」



 「若い人にこの家に住んでもらえたら


この家も明るくなります。


遠慮なくお暮らしください。


わからない事があったら何でも訊いてください。」


向かい側に座るおばあさんが笑顔で了承した。



 「ありがとうございます。


これからお世話になります。


わからない事だらけなので


本当にご迷惑をかけると思います。


常識知らずなので


何でも気づいたことがあれば指摘してください。」


周三はおばあさんに頭を下げた。



 カノレル雑貨店はつい先ほどまでは


来店客がまったくいなかったのに


急に店に来店客が多くなった。


周三はそのことに疑問に感じた。



 「なんかすごく忙しくなってきましたね。」



 「大事なお客様が来られる可能性があるから


準備中の看板を入口のドアにかけておいたのよ。


この街は観光地だから


お土産を求める観光客の皆様が


たくさんこの店にいらしてくださるの。」


おばあさんは嬉しそうな笑顔で語った。



 「そうなんですね。


大事な客って、たぶん俺のことですよね。


なんだかお商売のお邪魔したみたいですみません。」



 「うふふ。気にしないで。


あなたは大事なお客様なんだから。」



 「奥さんのお名前は


なんと呼べばいいですか?」



「リアで結構よ。


主人の事はハウルと呼んでくださったらいいわ。」



 「俺の事はシュウって呼んでください。


さっきはコーヒーとクッキーを


何杯もおかわりしちゃってすみません。」



 「遠慮なんてしなくていいのよ。


お二人がおいしそうに


召し上がってくださるからわたしもうれしかったわ。」



 「言葉が通じるって素晴らしいですね。


さっきまでこの世界の言葉がわからなくて


不安で不安で泣きそうでしたよ。」



 「あら、だからずっと黙って


相槌ばかり打ってらしたのね。うふふ。


天使様から言葉が通じる魔法でもかけて頂いたのかしら?」



 「まぁ簡単に言えばそうです。


そういう道具をもらいました。


これで外を気ままに出歩けます。


中村には本当に感謝してます。」



 「天使様にご友人が


いらっしゃるなんてさすが勇者さまね。」



 「本当に偶然ですよ。


俺、中村が天使ってさっき初めて知ったんですよ。」



「あら、そうなのね。ふふふ。」



 店の入り口の扉が開く音がした。



 「こんにちは。


こちらに例の若者が来られたそうですね。」


50代くらいの男性が店に入ってきた。



 「あら、シュウにお客様ね。


お茶を用意しないと。」


リアは席を立ってキッチンに入った。


 奥の間に入ってきたのは正装姿の高齢の男性だった。


周三を見て男性は姿勢を正した。



 「はじめまして。こんにちは。


私は都議会議員をしてるモンテ・ヒルと申します。


勇者候補の方が来られたとの事で挨拶しに来た次第です。」


男性はテーブルの椅子を引くと


周三の向かいの席に座った。



 リアがコーヒーと焼き菓子をモンテの前に置いた。



 「奥様、ありがとうございます。」


モンテはリアに丁寧にお辞儀した。



 「勇者候補様、明日にでも議事堂に


足を運んで頂きたいのです。


議長がぜひにお会いしてお話がしたいそうです。


議長がこちらに来るのが道理ですが、


あちらでないとお話できない内容も


あるようでして、どうかご足労頂けたら幸いです。」


モンテは丁寧に説明をしてきた。



 「モンテさん、はじめまして。


私は田中周三というものです。


明日、必ず議事堂に伺います。


何時に伺ったらよろしいですか?」



 「はい、議事堂が夕方の6時に正門が


閉まりますのでそれまでにお越し頂けたら


議長がすぐお会いできると思います。」



 「では、そうですねぇ。


午後3時くらいはいかかでしょうか。」



 「はい。


それではそのように議長に伝えておきます。


あと、のちほど区の役人がここを訪れますので


フェンティーア都市国家の戸籍登録などの手続きを


おこなって頂きたいのですがよろしいですか?」



 「それはもちろんさせて頂きます。」



 「それでは私はこれにて失礼します。


勇者がまたこの街から誕生するなんて


とても光栄な事で私は誇りに思っております。


これからのご活躍を心からお祈り申し上げます。」


モンテはそう言って握手を求めた。



 「はい!がんばります。」


周三はモンテと握手を交わした。


頑張りますとは言ったが


周三は何を頑張るのか具体的にはわからない。






 モンテが帰ってしばらくして


すぐに30代くらいの男性が一人で店を訪れた。


周三は役人の男性にこの都市での住民登録や


諸々の手続きについての説明をされた。


役人に説明を受けながら


周三は戸籍や住民登録などの書類を書いた。



 役人は全ての書類に


目を通して不備がないかを確認した。


不備が無い事を確かめると起立した。


「これで書類の作成は全て終了しましたので


あなたはただ今からフェンティーアの都民です。


勇者様、フェンティーアへようこそ!」



 役人からそう言われて周三は感動した。


(これで晴れてこの世界の住人になれたんだ。)


勇者候補には支度金と


月給が支払われるそうでお金の心配もなくなった。



 書類作成終了後、すぐに役人は大きなカバンから


貨幣の入った布袋を支度金として周三に手渡した。


「こちらの受け取り書にサインをお願いします。


月給は毎月25日に


区役所に取りに来てください。


私は区役所にいますので


わからない事があれば私を呼んでください。


私の名前はカムア・ショッツと申します。」



 「はい。わかりました。よろしくお願いします。」


周三は役人と握手を交わした。



 「よろしくお願いします。


では私はこれで失礼します。」


そう言って役人は店を出た。



 この大陸を支配する帝国の戸籍ではなく


独立自治都市のフェンティーアの戸籍なので


「俺は帝国から見たら外国人になるのかな?」


とささやかな疑問を持った。



 リアと周三は店の二階に向かう。


周三のために用意したという


リアは2階の部屋へ案内してくれるという。


リアは部屋の扉を開けた。


10畳ほどのスペースにベットと


机とクローゼットがありシンプルで整った部屋だった。


周三は一目でその部屋を気に入った。



 「あとは下着や着替えの服なんかの


生活用品を揃えたいのですが


明日、もしもお買い物に


行くならリアさんとご一緒させてもらっていいですか?」



 「よろこんで。


いいお店を紹介しますわ。」


リアは笑顔で了承した。



 リアと周三は店の奥の間に戻るため階段を下りた。


奥の間のテーブルに人影が見えた。


テーブルの椅子に


金髪の髪をアップでまとめた女性が座っている。


周三はパっと見ただけですごい美人だとわかった。


キリリとした眉と


青い瞳のまなざしは強さがにじみ出てる。


紺色の質素なドレスに身を


つつみ清楚なたたずまいで


静かで高貴な空気を醸し出している。


この世界の常識に疎い周三が


ただものでは無いってすぐわかるほどだ。



 周三を一瞥した金髪女性は


「あなたが勇者候補か。」と問いかけてきた。



 「はい。わたくしが勇者候補です。」


周三は同い年くらいの少女に対して


自然に敬語になっていた。



 金髪の少女は椅子を立ち軽く周三に会釈した。


「はじめまして。わたしは


アルブルド帝国第三皇女ディアナといいます。


あなたにお会いしたくてここまで参りました。」



 周三は驚いた。


中村が言ってたお姫様がここにいる。


「あの~なにかわたくしに御用でしょうか?」


周三は自信なさげにディアナに問いかけた。



 「用は特にはありません。」



 (無いんか~~~い!)


周三は心の中でつっこんだ。


周三はディアナの向かい側の席に座った。



 リアがキッチンからコーヒーと焼き菓子を


運んで二人の前に置いた。


ディアナはリアに対して丁寧にお辞儀した。



 「突然、失礼とは思いましたが


私の個人的な興味でお会いしたかったのです。」


ディアナが話を始めた。



 「それはわざわざのお越しありがとうございます。」


周三は照れくさそうな笑顔で返した。



 「ところであなたはすでにお強いのですか?」


ディアナは真剣なまなざしで問いかけてきた。



「いいえ、


おそらくわたくしは普通の人より弱い方です。」


周三はキッパリと正直に答えた。


 「なんと!あなたは弱いのに


勇者候補と名乗っているのですか!」



 「はい。そうです。


でもわたくしが決めた事ではありません。


全てはおかみが決めた事なんで


わたくしに一切の責任はありません。


姫様に苦情があったとしても


わたくしに言われても困ります。


苦情はおかみに言ってください。」



 

 ディアナのあまりに真剣な表情が


周三には可愛く思えて、つい皮肉めいた口調になった。



 「あなたはもしかして


わたしを馬鹿にしているのですか!」


言い放ち席をバっと立ちあがって


テーブルに両手を手をついた。


ディアナは目に涙を少し浮かべながら怒っていた。



 (ヤバい。どうしよう。)


周三はディアナの大きな反応に焦った。


「いいえ、姫様、俺はね、


これからすごく強くなる男なんですよ。


今強かったら候補って言わないでしょ。


そこを勘違いしてるって話です。」



 周三の発言は何の根拠の無い発言なのに


ディアナの表情はパっと明るくなった。


「そうですか。それはこちらの勘違いでした。


大変、失礼しました。」


ディアナは椅子に座ると


落ち着きを取り戻した様子だった。


息を整えたディアナが口を開いた。


「わたしは幼少の頃から


勇者カンベインに憧れを抱いていました。


本当の事を言えば


わたしが勇者に選ばれたかったのです。


しかし、成長するにつれて


わたしは勇者には選ばれなかったのだと


なんとなくですが気づいてしまいました。


だからわたしは強くなって


勇者の仲間になろうと心に決めたのです。


わたしの先祖に剣士ゲルグ・アルブルドという方が


おりまして、その方は勇者の仲間となり


剣士として全大陸戦争を戦いました。


その功を認められて初代騎士皇帝となり


今の帝国を築いたのです。


わたしもその先祖になぞらえて


もしも次代の勇者が誕生の暁には


勇者の剣となろうと心に誓ったのです。」



 アツく周三に語るディアナに対する周三の


心には温度差があった。


「ありがとうございます。


その時はよろしくお願いします。」


周三は社交辞令的な軽い感じで答えを返した。



 ディアナは周三の軽い態度にムッとした。


「あなたはきっとわたしが女だからと


わたしの剣の腕を軽んじられているのですね。


いいでしょう。


わたしの剣の腕をご覧入れましょう。」


そう言って立ち上がると


姫は後ろの壁に立てかけている剣を握り締めた。




 綺麗な金細工を施された剣。


(さすが姫様の剣だな。)


周三は剣の美しさに感心したが、我に返って


「ちょっと待って!


別に姫様の剣の腕前を疑って無い!


でも、俺はまだ修行中の身やんか。


って言うか修行前やんか。


剣技を見せられても見定められへん!


俺が剣の修行を終えたら


改めて見せてもらうって事でどうですか?」


周三は慌てながらそう言った。



 「そうですか。」


残念そうにディアナは剣を元の場所に置く。


「そうですね。では、わたしの監督府の稽古場で


あなたも剣を修行するというのはいかがでしょうか?」


そうディアナは提案してきた。



 「え。俺が稽古場を使わせてもらっていいんですか?


剣とか興味があるんで


修行できるなら修行したいんですけど


帝国の人間じゃなくても


監督府とか入れるんですか?」と周三が訊ねた。



 「はい。わたしの許可があれば問題ありません。」



 「じゃぁその方向でおねがいします。」


周三はそう笑顔で答えた。



 「いつですか?」とディアナは小声で言った。



 「はい?」



 「いつから来られるのですか?」



 周三はハッと気づいた。


外国人は社交辞令を許さないというのをテレビで


言っていた事を周三は思い出した。


話をはぐらかすのは無意味ということを悟った。


「あ・・・明日は用事があるので


あさっての午前10時くらいなら。」



 「ではお待ちしています。」


ディアナはなんだか妙にうれしそうに席を立った。


ディアナは壁に吊るしていたマントを羽織り


剣を腰に納める。



 「突然、訪ねてまいってお時間をとらせてすみませんでした。


これでわたしは帰ります。」


そう言って周三とリアに会釈すると


ディアナは店の出口に体を向けた。



 「ひとりで来られたんですか?」


周三が店の出口に向かうディアナに訊ねた。



 「はい。わたしは強いですから。」


ディアナは周三に微笑みながら答えた。



 「そこまで送るよ。監督府に住んでるの?」



 「ありがとうございます。


しかし、お気遣いは無用です。


住まいですが監督府の敷地内に屋敷があります。」



 「じゃ、監督府の場所を知らないから


今からその場所を教えてくださいよ。」



 「よいですが、お時間は大丈夫ですか?」



 「遠いですか?」



 「いえ、それほどではありません。」



 「今から夕飯の支度するって


リアさんが言ってるから夕飯までに戻れば大丈夫でしょ。」



 「では一緒にまいりましょうか。」



 ディアナが了承し周三はディアナと一緒に外に出た。



 ハウルとリアが玄関まで出てきて二人を見送った。



 空は日が傾きかけていたが


まだ夕方という時間ではなく外はまだ明るい。



 (女の子を家に送るって


ちょっといい感じだな。)と周三は思いつつも


いまの周三では暴漢に襲われても


何も出来ない事を自覚していた。

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