提案
周三は軍艦フェンティーアの医務室で炎の国の悪魔神官たちが
人魚に救出されたギヨク将軍を治療していた。
しかし、栄養失調でギヨクは衰弱が激しく治療は難航していた。
周三は魔眼を発動して
悪魔神官の治癒魔法を複写した。
周三は治癒魔法陣をさらに強力な構築式に
変換して膨大な魔力を使ってギヨクの脳を治療した。
するとギヨク将軍の意識が戻ったのであった。
「わしは生きておるのか。」とギヨクは自分が生きている事に
いまひとつ実感がなかったが意識がはっきりとしているために
周りの状況を見て徐々に認識を深めていった。
ギヨクの目にはビショップ2名、白衣の男性医師1名、
白衣の女性1名、それと勇者と
エレメントマスターロアンの計6名が
この場にいる事を目視で認識した。
ギヨクは体を動かそうと思うがうまく力が入らない。
ギヨクはその理由について疲れと衰弱による倦怠感な気がした。
寝心地の良いベットで寝た事も疲れが一気に出た大きな原因だろう。
ビショップ2名が体に治癒魔法をかけ続けている。
その治癒魔法で体の調子が
少しずつ上がってくる感覚もギヨクは感じていた。
周三はギヨクに笑顔を向けると
「ギヨク将軍は生きてますよ。勝負は俺の勝ちです。
一瞬で負けても恨まないって前に将軍が言ってましたよね。
だから俺の恨まないでくださいね。」とギヨクに言った。
「そうか。やはり意識を失ったのは勇者様の攻撃によるものか。
一瞬、顔に強烈な衝撃を感じたあと目の前が真っ暗になった。
その後の記憶がまったく無い。
わしの体が濡れいてるおるのは
結局、わしは海に落ちたのか。
我ながら情けないのう。ははは。」とギヨクは力無く笑った。
「コパンさんは影の国の水軍を連れて帰国の途につきました。」と
周三がギヨクに説明すると
ギヨクは取り乱す様子も無く天井を見上げて
「左様か。みな無事に帰国できたらいいがのう。」と言った。
ビショップの一名が周三の横に来ると
「勇者様、ギヨク殿は体が命には別状が無いほどには
回復しましたが完全回復まで
このまま治療を続けますか?」と小声で確認してきた。
ビショップもギヨクが暴れる可能性を心配しているのだろう。
「ありがとうございます。もう大丈夫です。
もし容態が急変するような事があっても俺が回復させますんで
コウジの軍船に戻って頂いて問題はありません。
わざわざご足労頂き申し訳ありませんでした。」と
周三が礼を言うと
「いえいえ、勇者様にお礼の言葉を頂けるなど恐縮です。
お役に立てたのならよかった。ではこれにて。」と
ビショップは周三に応えて
ビショップ2名はロアンに伴われて医務室を出て行った。
医師と看護婦に周三は申し訳なさげに
「あのう。お医者さんと看護婦さんも
少しだけ席を外してもらっていいですか?」と言うと
初老の男性医師が頷いて
「わかりました。わたしどもはロビーで待機しておりますので
用事が済みましたら一声かけてください。」と応えた。
医師は周三の横で周三の耳元で小声で
「とても言いにくいのですが
この医務室に将軍が残られるのでしたら
将軍が暴れだした場合に
わたくしと看護婦だけでは対処できません。
どなたかそれに対応できる方を
派遣して頂きたいのですが。」と言った。
「大丈夫です。用事が済めば俺がギヨク将軍を
連れて医務室を出ますからご安心ください。」と周三が応えた。
医師はホっとした表情を見せたあとに
「わかりました。
ではわたくしどもはロビーにてお待ち申し上げております。」と言って
医師は看護婦を連れて医務室を出た。
医務室で周三とギヨクは2人きりになった。
「勇者様はわしの命を助けてどうなさるおつもりですかな。」と
ベットに横たわるギヨクが訊ねてきた。
「別にどうもしませんよ。影の国に帰られるのもいいでしょう。
もし自国に帰られるのでしたら
炎国の軍船で影国の国境近くまでギヨク将軍を
お送りする事になるでしょう。
ただ、ギヨク将軍にはある提案が俺にあるんです。
その提案を聞いて頂く前に
いくつかギヨク将軍には俺の質問に
答えて頂きたいのですがよろしいですか?」
「よいでしょう。わしは一騎打ちに負けた瞬間から
勇者様の所有物ですからな。
もはや影の国の将軍ではありませぬ。
わしにわかることにはお答えしよう。」
「ありがとうございます。ではギヨク将軍。
ギヨク将軍の軍の目的は第三大陸フェンティーア都市国家に
打撃を与えることだったのでしょうか?」と周三が質問した。
「うむ。目的地は第三大陸の西の端の国家だ。
その西の端の国はたしかにフェンティーア都市国家という国。
フェンティーア都市国家に
多大な打撃を与える目的は任務の項目にはあった。
だがそれは、出来るようならば。というほどの優先度でしかない。
フェンティーア都市国家という国に打撃を与える事は
任務の最優先事項では無かったのです。」
「え!?では質問しますが目的とはなんだったのですか?」と
周三が驚きながら続けて質問すると
「ふむ。それはわしらに気づいた敵軍を引き付ける役。
わしらの軍船を敵軍が包囲し殲滅するにはそれなりの戦力が必要。
それだけの戦力に攻撃されれば
わしの軍は大規模魔法陣を維持できずに大魔法が発動するじゃろ。
敵軍は大打撃を与えられわしらも全滅する。
しかし、わしらを攻撃する権利は他大陸には無い。
国交が無いのだから攻撃するのも自由だが
攻撃後の処理に際して取り決めが無い以上は
こちらがそちらに報復戦争をしてきても文句は言えないでしょう。
この任務の目的は人間や天使にわしが殺されることじゃな。
勇者様がわしを殺していれば任務は達成されておったのに
勇者様はなんと勘の良いのだろうか。
このあいだ、あなた様と会談した折に勇者様は
味方にも敵にも一人の犠牲も出さずにと言ったのですからな。
思えば大魔法も勇者様が解除した。
はははは。わしは最初から勇者様に勝てるわけが無かったのか。」と
ギヨク将軍は笑いを浮かべた。
「ギヨク将軍が人間や天使に殺される。というのは
影の国が用意した大魔法が発動したのが
原因で将軍が死亡しても成り立つのでしょうか?」
「うむ。それは成り立ちますな。
我らの国内ではこの戦争は建前上は
炎の国の本拠地に奇襲する。という名目になっております。
ゆえにわしどもは炎国の領海を航行しておった。
第二大陸の軍は海からの敵の警戒などしないというのが常識でな。
貴重な軍船を使ってまで海を経由して
敵の領地に侵入し奇襲をする意味などほとんど無い。
第二大陸は土地には価値が無い。
戦略上の拠点を構築する資材が無いので土地を占領する意味も無い。
だから悪魔は戦争にはあまり小細工も使わない。
敵がそこにいれば戦うという単純なものだ。
だから普通は領海に軍船団が通っていたとしても気にはしない。
見かけた敵が軍船に勝てそうだと思えば襲ってくるかもしれんが
前線以外の場所にはまず軍と呼べるほどの兵がおらぬ。
海岸などは悪魔の影を見かけぬことの方が多い。
地上戦よりも海上戦闘は面倒なので
こちらを見つけても無視する可能性も高いと思っていた。
しかも影の軍には危険な魔法があるという事を
一度、炎の国には見せ付けておる。
むやみには攻撃はしかけてこないものとも踏んでおった。
この任務で一番恐れておったのは炎の国が
攻撃してくることだけのはずだったのだが
まさか次代の勇者が存在しておるとは知りませんでした。
まったく大誤算もいいところだ。
しかし勇者にわしが討ち取られても任務の達成にはなると思い
一騎打ちを申し込んだわけですがわしは欲が出てしまい勝つつもりでいた。
一騎打ちに負けてわしが討ち取られてしまえば
任務は一応は達成できると思ってかなり気楽であったのが
わしの油断につながったのかもしれませんな。ふふふ。ははははは。
まぁ、話を戻すと第二大陸は
敵が領内に上陸したところで奪うものなどはなく
不毛な大地が広がっておるだけ。
前線で正面から戦った方が利益がある。
案の定わしらはここまで無傷でこられた。
炎の国はわしらを攻撃してはこなかった。
勇者様がおらず、この作戦がもし成功していれば
第三大陸とは敵対関係では無いのに理不尽に攻撃を
仕掛けてきた人間や天使に対して
大魔法で反撃して打撃を与えたが味方は全滅した。とルシカル王は
自国民に大々的に宣伝するはず。
天使と人間に打撃を与えて任務に成功すれば
わしの一族の名声も上がる。
影の国は事実や理屈を
多少は歪めてでも国民にそう解釈させるでしょう。
この任務は本国が求める結末を作るのが任務でした。
その結末はわしの軍が天使や人間に殺される事だった。
なぜ、この時期にわしの軍の死が必要なのかは
今、なぜ国民に天使や人間への憎悪を煽る意味があるのか。
ルシカル王のお考えはわしには詳しくまではわからぬ。」と
ギヨク将軍が答えた。
周三はそれを聞いて驚きそして青ざめた。
そして周三は悩んだ。
ルシカルが国力も無いのにまるで焦っているかのように
第三大陸に強行遠征軍を組織し
大規模魔法で天使や人間を道連れにして
自軍をも全滅させて第三大陸との争いの火種が欲しい理由は何だ?
第三大陸で何かが起ころうとしてるんか?
俺は第三大陸の情報を知らなすぎて想像しても何の可能性も見えてこない。
俺はまた戦争に巻き込まれるなんてまっぴらごめんや。
とりあえずルシカルの動きをまず牽制して止めておきたい。
それが俺の今の課題やな。と周三は思った。
「そうですか。ルシカルの真意は計りかねますね。
それでギヨク将軍に対して俺から提案なのですが
ギヨク将軍は別の主君に仕えることはできますか?」
「わしに勇者様の家臣になれとおっしゃておるのですか?
敵に降って主君を変えるなど我が一族の名を貶める行為。
お気持ちはうれしいが謹んでお断り申す。
もし勇者様が無理強いをなさるのなら
わしは自決せねばなりますまい。」とギヨクは語気を強めて言った。
「いや。無理強いなんてしないですよ。
決めるのはギヨク将軍の自由って最初に言ったでしょ。
あと、俺はギヨク将軍に家来になれなんて誘ってません。
俺は家来を持つ身分じゃないんです。
国の血税からお給料を頂いている俺はただの公務員ですからね。
ギヨク将軍には俺の家来じゃなくて
ネヴェシス姫の家来になりませんか?というお誘いをしてます。」
それを聞いたギヨクは硬直して梟顔の両目がまん丸になっていた。
「は?はて?勇者様?それはどういうことでしょう。
ネヴェシス殿下はフェンティーアで捕虜になってりゅはず。
捕虜にどうして家来が必要なにょでしょうか?」と
ギヨクは周三に動揺の為か少し台詞を噛みながら説明を求めた。
「それはですね。俺が炎の国の王子に頼んで
炎の国の領内でネヴェシスを女王にした小国を
建国したいという提案をしたんやけども
王子からはあっさり承諾がもらえたんです。」
「へ?国を作るのですか?へ?なんで?」と
ギヨクは少し混乱している様子だ。
「ええ。俺はネヴェシス姫を
ひとりぼっちの女王様にするのは忍びないと思ったんです。
ギヨク将軍ってネヴェシス姫のお父さんである魔王ゼネシスの
近衛兵団の出身って前に言ってたじゃないですか。
それじゃあ、ネヴェシス姫の側近には
ギヨク将軍が適任かなと俺が勝手に思っただけです。
ギヨク将軍は没落した魔王の娘の家来なんてお断りですよね。
わかりました。では他をあたります。」
「ごほん。」とギヨクはわざとらしく咳払いした。
「ははは。勇者様は世情にお詳しくないとみえる。
わしはルシカル王の部下ではありますが家臣ではない。
主君はゼネシス陛下であります。主君の姫君のお側で奉公するのは
主君を変えるという事にはなりますまい。
ネヴェシス姫を解放してくださって小さな国まで
持たせてくれるとは勇者様はなんとお心の広いことか。
わしはいま、勇者という存在を初めて尊敬の眼差しで見てるのが
わかりますか?」とギヨクはまん丸な両目を周三に向けた。
「はぁ。尊敬してくれてるんですか。う~ん。
なんていうかギヨク将軍の目が丸すぎて感情がわかりにくいっす。
ギヨク将軍の感情を読み取れなくてごめんなさい。」
「いんや、気にせず結構!
わしは勇者様の期待に応えて
ネヴェシス様にお仕えいたしましょう。
なんともめでたい!あはははは!」とギヨクは力強く笑った。
「それはよかったですね。
あとひとつ質問なのですがギヨク将軍ってお兄さんがいるそうですね。
お兄さんは別働軍で攻めてきてたりしますか?」
「いや。兄は我が一族の棟梁なので
ただ死ぬだけというような任務には赴きません。
一族の棟梁というのは一族の看板ですからな。
将軍という肩書きであっても
一族が棟梁を戦闘の前線には出させませぬ。
命の危険のある命令を棟梁が受けた場合は
一族の中から適当な者が選ばれる。
今回の任務は初めからわしが王から任命されておりました。
勇者様が言う別働軍という案は軍議では出ていたようですが
結局は軍船の数が足りなかったせいでその案は通らなかった。
だから別働軍なんて来ぬはずですが。
作戦の全容は王にしかわからぬとしかわしからは言えません。」
「なるほど。それを聞いてとりあえずは安心しました。
ありがとうございます。では、移動しましょうか。」
周三は右手の人差し指に魔力を集めて魔法陣を描いた。
そして構築した治癒魔法をギヨクの体の上で発動させた。
するとギヨクは体の調子が完全に復調し
ギヨクの体調は絶好調になった。
ギヨクはベットから上体を起こして自分の首や肩をまわした。
「なんとすごいおチカラなのか!勇者様かたじけない。」と
言うとギヨクは感激した様子で周三の左手を両手で握ってきた。
周三の内心はおっさんに手を握られても
まったく嬉しくはなかったが作り笑顔で対応した。
「はい。はい。さて、ギヨク将軍。
一緒にお昼ご飯を食べに行きましょうか。」と周三は誘った。
「おお!めしですか!それは嬉しいですが敵将のわしが
ご一緒してもよろしいのでしょうか?」とギヨクは不安げに訊いた。
「戦争が終ったんだからもう敵ではないじゃないですか。
さぁ食堂に行きましょ。その前に服が要りそうですね。」と
ごく自然な感じで当たり前のように周三が言うと
ギヨクは目から涙を流しながら無言の笑顔を周三に向けていた。
おはようございます。




