治癒
周三はギヨク将軍との一騎打ちに勝利して軍艦に帰還した。
周三の騎乗するグリフォンは
軍艦フェンティーアの甲板に着艦した。
大勢の乗組員が甲板で大歓声で周三を笑顔で出迎えてくれた。
こんなに大勢の人が乗っていたんだな。と周三は思った。
艦橋の階段にまで人であふれている。
「おかえりなさい。お見事でした。さすが勇者殿ですな。
これで艦首にあるシュウ殿の拳の跡は
フェンティーア都市国家の国宝になるでしょう。
あはははは!」とヴォルグが
グリフォンに乗る周三を見上げながら
大仰な手振りで出迎えた。
ヴォルグ艦長の傍らにはコーラント少将とミュアン少佐がいた。
「勇者様。わたくしジョージ・コーラントは感激いたしました。
味方に損害を出さずに戦争に勝利いたすとは。
今回の戦争は全て勇者様おひとりで全て片付けてしまったな。
そんな伝説のような勝利に立ち会えた事はまことに光栄です。」と
コーラント少将は周三に述べた。
「勇者様!すごいです!
すんごくすんごくすごいです!」とミュアン少佐は
すごいという言葉だけで周三に気持ちを伝えた。
「みんなありがとう。俺ひとりの勝利じゃないよ。
みんなの協力があったから勝利できたんだ。」
周三はヴォルグとコーラントとミュアンにそう礼を
述べた後に大勢の乗組員たちに向かって
「みんな本当にありがとう!そしてお疲れ様でした!」と
大きな声で礼を言って大きく手を振った。
乗組員たちの大歓声が甲板にこだました。
グリフォンに乗る周三のもとにロアンが走ってきた。
「勝利おめでとうございます。お待たせしました。
すぐに命綱を外します。
ギヨク将軍は無事に人魚隊が救出しました。
ご安心ください。」とロアンが言った。
「それはよかったです。ではすぐにギヨク将軍に面会します。」と
周三はロアンに応えた。
グリフォンは甲板に体を伏せる。
ロアンが馬具に取り付けてある命綱を
周三のベルトから取り外した。
周三はロアンの肩を借りてぎこちない動きで甲板に降りた。
大勢の乗組員がひしめく甲板だったが
周三が移動するのにあわせて周囲の人が避けて道が出来た。
周三とロアンとヴォルグとコーラントとミュアンの5人は
艦橋の階段を上り扉から司令官室に入った。
「大勝利おめでとうございます。」と言って
司令官室内の見習士官が周三を出迎えた。
「ありがとうございます。あなたたちもおつかさまです。」と
周三は見習いの士官の青年2名に礼を言った。
周三とロアンの2名は医務室のあるひとつ下のフロアに向かう為に
司令官室からエレベーターに乗った。
ひとつ下の階のボタンをロアンが押した。
エレベーターが起動し下降してすぐに停止すると扉が開いた。
ロビーのフロアにも乗組員たちがいた。
「勇者様、フェンティーア都市国家を
お救いくださりありがとうございます。」と
尊敬の眼差しを周三に向けて乗組員たちが周三に声をかけてくる。
「いえ、みなさんの協力があったからですよ。
こちらこそありがとうございます。」と周三は謙虚に乗組員に応えた。
ロビーを艦尾方向に少し進むと廊下に出る。
その廊下に入ってすぐ左手に医務室の扉があった。
「いま、ここでギヨク将軍は
コウジ王子の部下の治癒魔法士が治療をおこなっています。
悪魔は人間のおこなう治療では
回復しない恐れがありましたので
コウジ王子の治癒魔法士にギヨク将軍の治療を
お願いしようと思い、コウジ王子の船に使いを出しました。」
とロアンが説明した。
「ありがとうございます。
俺はそこまでは頭がまわらなかったです。」と
周三はロアンの気転に感謝した。
人魚に救助されたギヨク将軍を
ロアンが艦尾のクレーンに指示を出して海から引き上げたのである。
ロアンが医務室のドアをノックしたら中から
白衣を着た中年女性の看護婦がドアを開けた。
医務室の中から薬品の匂いが漂ってきた。。
周三とロアンは医務室に入ると診察するフロアがあり
奥に3台のベットが設置されているのが見えた。
ベットとベットの間はパーテーションで仕切られていた。
一番奥のベットに数人の人影があるのが見えた。
ロアンと周三は看護婦に「こちらです。」と
誘導されてそのベットに向かった。
パーテーションの間から赤いローブを着た悪魔2名が
上半身裸のギヨク将軍に治癒魔法を施しているのが見えた。
「容態はどうですか?」と周三がギヨクを治療中の
赤いローブの悪魔の一人に声をかけると
「少し回復が遅いですね。
患者は栄養失調で元々、衰弱してたのかもしれません。」と
赤いローブを着た悪魔が周三に応えた。
周三がギヨク将軍を見ると
海に落下して濡れたせいで体に羽毛が張り付いて
体のラインが浮き彫りになっていた。
羽毛のラインでふっくらしているように見えていたギヨク将軍は
実は肋骨が浮き出てガリガリで骨だけのような体をしていた。
これにはさすがに周三は驚いた。
「栄養失調とはどういう事でしょうか。」と
周三はロアンに向かって言うと
「わかりませんが敵の船には鳥や魚の食べカスが
甲板に転がっていました。
あれは兵が暇を見つけてその場で捕まえたものでしょう。
それしか甲板に転がっていなかったという事は
食料はほとんど積まれていなかったのではないでしょうか。」と
ロアンは自分の意見を述べた。
「食料をろくに船に積まないで敵軍は遠い敵の海域まで
死ぬために航海してきたのですか。」と周三は気を落とした。
周三は少し落ち込んだ表情で
「コパンさんたちは無事に帰国できるでしょうか?」と
ロアンに質問した。
「おそらくは大丈夫だと思います。
ここまで来るのに敵は無理を押しての強行軍でしたでしょう。
だから食料の調達は二の次だったのかもしれません。
しかし帰りは食料調達を優先するはずです。
悪魔は狩りが得意です。
魚や鳥を捕らえる事は容易でしょう。
帰りはウィザードを自由に使えますから
狩りはより効率的におこなえるのではないでしょうか。」と
ロアンは自分の考えを述べた。
「なるほど。それを聞いて安心しました。
このあいだ俺とロアンさんが敵の軍船に乗り込んだ時に
軍船の廊下でギヨク将軍と接触したときに
結構、物音を立てましたよね。それなのに
廊下や階段で寝ていた兵士が誰も起きなかった。
俺は兵士たちが熟睡してるのかと思っていましたが
疲弊していたのでしょうね。」と周三は述べた。
「そうかもしれません。
補給を受けられない遠征軍に食料物資を積み込まないなんて
影の国は国力が豊かでは無い可能性は高いと思います。
豊かでは無い国が遠い異国に遠征をしてくるなんていうのも
とても不思議な事です。」とロアンは首をひねった。
「そうですよね。」と周三もロアンの意見に同意した。
周三は赤いローブを着た悪魔に向かって
「あなたたちはウィザードですか?」と訊ねた。
すると赤いローブを着た悪魔は
「わたくしたちは魔神の神官職です。
ビショップと呼ばれております。」と赤いローブの悪魔が応えた。
「じゃあ魔界の神様に仕えているんですね。」と周三が言うと
「はい。おっしゃるとおりです。」とビショップは応えた。
周三は魔眼を発動させてビショップの治癒魔法を読み取った。
周三は心の中で魔法の特性を整理する。
なるほど。自然治癒力を加速させる式だけれど
悪魔には魔力で魔法陣を発動させた方が効果が高いみたいだ。
この式は治癒力の加速度を
上げるほどに消費する魔力が異常に高まる。
あまりに治癒加速度を上げると魔力が尽きてしまうわけやな。
俺には魔眼内に魔力の備蓄があるからそれを使ってみよか。と
周三は思い立つと
痩せ細った体で横たわっているギヨクのベットの横に立った。
周三は指を虚空に走らせ魔力を使って魔法陣を構築して
ギヨクの将軍の額の上で発動させた。
炎の国のビショップ2人が周三の鮮やかな魔法の手並みに驚嘆した。
周三はビショップの自然治癒加速度の千倍の加速度で構築していた。
周三の魔法を受けたギヨクはみるみる外傷が完治していく。
ギヨクはパチクリと目を開けた。
「ん。。。。鉄貫衝檄覇!!!!。んあ?なんだここは。
ここはどこなんだ。え?なに?あ!!!勇者様!!!」と
ギヨクは意識をはっきりと取り戻した。
しかしギヨクは体の反応は鈍い。
エービンスがギヨクに初撃で与えた脳へのダメージは回復はしたが
体のダメージへの回復処置はおこなっていまい。
ギヨクが暴れること防ぐために周三は気をまわしたのである。
「ギヨク将軍。おはようございます。」と周三はギヨクに声をかけた。
おはようございます。




