一点の曇りなし
周三と甘根とシエルとミュアンの4人で
軍艦内の食堂で食事をしていた。
周三はミュアンから帝国の実情の一部を軽く訊いた。
しかしミュアンからは詳しい話を聞く事はできなかったが
帝国内では戦闘紛争があるような雰囲気は感じとれた。
ミュアンが第三大陸には素敵な場所が
たくさんあるという話をきっかけにして
みんなでレジャーに行こうという話しで盛り上がった。
周三は席を立つと明日の一騎打ちの最終調整のために
一人で第二艦橋の自分の部屋に戻るのだった。
周三は食堂から艦首方向へ歩いて中央のエレベーターに乗った。
4つ上の階のボタンを押して第二艦橋に向かう。
エレベーターが停止して第二艦橋に到着すると
周三は部屋の中央まで歩いてソファーに寝転んだ。
周三はお腹がいっぱいになったので
とりあえず寝転がりたかったのだ。
周三は明日の戦いはどのような展開になるのかが
いまいちイメージができていなかった。
周三は周囲にはあまり不安を見せず強がってはいたが
まだ明日の戦いについては悩んでいたのだ。
周三は寝転がって天井を見上げながら頭の中を整理してみた。
それにしてもヴォルグ艦長ってなんで制服を着てないんやろ。
金ぴかのアクセサリーをいっぱいつけてさ。
ダボダボのシルクの派手な色の衣装を着てる。
マハラジャか石油王かってな格好じゃないか。
なのに乗組員の服装はしっかり整っている。
カノレル海洋貿易会社はオーナー企業やから
ヴォルグ艦長が好きな格好していても許されるんやろな。
もしも、パブリック企業やったらたぶん無理やろな。
まぁ、ヴォルグさんの服装について考えるより大事な事がある。
俺はまだ敵の軍船団の目的が全然わかってない事に気付いてん。
ギヨク将軍と交渉しても結局は敵の思惑が見えんかったなぁ。
ギヨク将軍が勇者に対してトラウマがあるとか言って
取り乱したけど今思い出してみるとちょっと大げさやったな。
結局はほぼギヨク将軍の思い出話に付き合っただけやないか。
500年も前のトラウマなのに
心の傷がまったく癒えていないというのは無理があるんちゃう?
いや、でもカンベインの虐待はそう簡単に癒えないかもなぁ。
ギヨク将軍は勇者に対して
自分をコントロールできなくなるくらいのトラウマが
あるみたいなリアクションをしていたけれど
それならなんでギヨク将軍は勇者である俺と一騎打ちできるんや?
トラウマによって自分の実力を十分に発揮出来ないなら
一騎打ちという形にこだわらなくてもよかったんちゃう?
それやのに一騎打ちを少しでも
有利な条件でしたいギヨク将軍の気持ちが
痛々しいほどに伝わってきた。
胡散臭いのがまるわかりやから最初は断ったけれど
結局はギヨク将軍がわざと負けるって言ってきたから
なんとなく承諾してしまった。
俺はギヨク将軍の交渉術に負けたのではない。
自分自身の眠気に負けただけや。眠気で判断能力が低下してたな。
ずっと俺は、早く帰って寝たい。としか思ってなかったもん。
あの時、ギヨク将軍が切腹してくれてたら話が一番早かったよなぁ。
別にギヨク将軍に死んでほしいなんて思ってはいないけれど
その方が話が早かったなぁ。とは思うだけや。
でも、なんか引っかかるなぁ。自害しようとしたギヨク将軍が
なんで切腹の提案の時はごねたんやろう?
まぁ正気の時と正気ではなかった時の心境の違いはあるやろけど
何かを俺は見落としてる気がする。
話を早く済ませて解決したらあかん理由があるのか?
そう考えると別動隊の存在というのも真実味を帯びるよなぁ。
別動隊のためのおとりとかそういう理由で時間稼ぎしたいのかな。
それはまだ別動隊の情報が入っていない段階では深読みしすぎか。
それにしてもギヨク将軍の態度はなんだか余裕があったよなぁ。
俺が弱いって事は別に他人を見抜く目が
優れていなくてもわかるやろうけどな。
ギヨク将軍が最初、テンパッっていきなり自害しようとした時は
確か俺らがギヨク将軍の自害を
止めに入るタイミングは結構遅かったで。
それやのに剣を首に当ててゆっくりと浅く剣を引いて
死なない程度の傷を自分の首につけてた。
俺を揺さぶって反応を見たのか?と今では思えてくるな。
武人であるギヨク将軍が本気で死ぬ気なら
もっと深い傷になっていてもおかしくないやろう。
なのに傷が浅くてすぐに血が止まっていた。
そもそもギヨク将軍のトラウマってカンベインに対してであって
勇者という職業に対してのものでは無いやろ。
もしギヨク将軍が俺を倒した所で
フェンティーアには10万の天使軍がおるんやで。
もはやギヨク将軍には切り札の戦略級魔法が
無いんやからフェンティーアを攻めても
ギヨク将軍たちには確実な死しか待ってない。
戦果も挙げられない可能性が高いのに
なぜギヨク将軍は前に進もうとするんだ?
今回の戦争はもしかして物事がそう単純じゃないのか。
しかし情報が無い以上は具体的な対策が立てれない。
ふむぅ。答えが出ないな。でも、ギヨク将軍には勝てる自信はある。
でも、勝っていいのか?と俺の心にひっかかるのはなんでや?
影の国とこじれるのはまずいからか。
影の国とこじれるのは第三大陸にとっては大きな負担になる。
まず影の国と戦うと言っても第三大陸からの距離が遠すぎる。
海路で影の国に向かったとしても
第二大陸に上陸したら人間は第二大陸特有の瘴気で健康を害する。
食料も瘴気で腐ってくるから
第二大陸に上陸した第三大陸軍は食糧の補給が出来ない状態になる。
でも甘根はイシュエル半島には食料があるって言ってたよな。
炎の国は第三大陸から食料を買ってるから
貿易港があるイシュエル半島には食料があるのは理解できる。
でも食料は瘴気で腐るやろ。
食料を保存する技術が何かあるのか。
それは今はよくわからんが食料を運ぶ方法はもしかしたらあるのかな。
人間は第二大陸で食料の現地調達はできない。
人間は悪魔を食べれないからや。
そんな不利な状況でどうやって戦うんや?
人間の軍は本土近くで防衛戦するしか選択肢が無いやん。
影の国から大規模な魔法を船でせっせと地道に送ってきたら
さすがに俺の気の休まる日がなくなってしまう。
影の国に人間の使者を送れないのだから
停戦や同盟の交渉も出来ない。
だから敵国に倒されるか敵国を倒さないと戦争は終らない。
敵は俺と言う人間の本質を理解出来ていないな。
俺は他人を殺したくないという気持ちの前に
自分の手を汚したくないという気持ちがとても強い男なのだ。
そういう人間を敵に回すとかなり邪魔臭いという現実を
影の国の軍隊に身をもって教えてやろうか。
別に悪魔が悪で人間が善という話で言ってるんじゃない。
悪魔にもいい奴がいるし人間にも悪い奴がおる。
カンベインのように善と悪を
他人ではなく自分で決めるタイプもいる。
俺は俺が信じるジャスティスを貫くだけや。
迷わずに俺の信じる道を行こう。行けば答えはわかるのだから。
ふふふ。俺の頭がクリアになってきた。
敵に参ったを言わせて穏便に
戦争を終えるなんていう甘さが俺の中から消えたわ。
ギヨク将軍め、俺のいた世界のことわざに
士別れて三日なれば刮目して相待すべし。というのがある。
日々鍛錬する人は3日も経つと見違える程成長している。
という意味のことわざや。俺はこのことわざを
とある歴史漫画の中の台詞で知ったのだが
こっちの世界ではそんなことわざは存在しないのかな。
ギヨク将軍にはその言葉の意味を体で知ってもらうとするか。
明日の俺の勝利の決め台詞はこのことわざでいく。
この世界に俺の言葉として刻もうではないか。
天井を見上げる周三の目にはもはや迷いが無くなっていた。
こんばんは。




