第一艦橋
飛行偵察から帰還した周三は第二艦橋の自室で
疲れて眠ってしまった。起床した周三はお風呂に入ったのちに
着替えの下着ついての相談に第一艦橋に向かうのだった。
周三は自室にあるエレベーターに乗り1階上のボタンを押した。
エレベーターが起動して扉が開くと
30人ほどの乗組員がそれぞれの持ち場で忙しく作業をしていた。
日がだいぶ昇って窓から日光が入ってフロアが明るい。
周三は、やっぱり偵察から帰還した次の日の朝やな。と思った。
艦橋内の左右に階段があり上るとそこには艦長専用といえるフロアがある。
その中央には横にとても長い大きな机と
その机の真ん中あたりに大きな椅子がありその大きな椅子が艦長席だ。
机がやたらと大きいのは大きな海図や世界地図を
広げて話し合いや指示をするためだろう。
周三は階段を上ると艦長専用フロアに
艦長のヴォルグが机に肘をついて椅子に座っている。
大きな椅子の左右に椅子が置かれている。
そこには周三から見て左の席にミュアン少佐。
右の席にロアンが座っていた。
ヴォルグ、ロアン、ミュアンの3人は
どうやら机に大きな地図を広げて何かを話し合っていたようだ。
3人は周三に気付いて話をやめて周三に注目した。
ヴォルグが嬉しそうに「これは勇者殿!お目覚めか!」と
大きな手振りをしてから席を立つと周三に近づいてきた。
ヴォルグからは香水のいい匂いが漂ってきた。
乗組員の一人が気を使ってロアンの席の隣に椅子を置いた。
その席に周三は腰掛けた。
「おはようございます!」とミュアンが笑顔で元気良く挨拶してきた。
「おはよう。ミュアン少佐。ミュアン少佐と会うと
なんか元気になる。」と周三は笑顔で言った。
「うちって癒し系なんですか!そうなんですか!
うちが癒し系だなんて知りませんでした!新しい自分、発見です!」
「うん。癒し系のカテゴリーには入るかもしれないですね。」
「やったー!!!わたし、勇者様のおかかえヒーラーとして頑張る!」
「そう。ありがとうございます。別に頑張らなくても大丈夫ですよ。」
「はい!がんばります!」
「おはようシュウ。お疲れは取れましたか?」とロアンは
微笑みながら周三に気遣いの言葉をかけた。
「ロアンさんおはようございます。昨日は何かとご迷惑をおかけしました。」
「そんなことないです。迷惑なんて全然かかっていませんよ。
むしろ、わたしが偵察をお願いした事でご迷惑をかけたと思っています。
偵察だけではなく大魔法を解除されて本当にすごいご活躍でしたね。
シュウは連合軍の全滅の危機を救ったんですよ。」
「それもロアンさんがいてくれたおかげです。
自分一人ではなにもできないって俺はわかってますから。」
「シュウは本当に謙虚な方ですね。その謙虚さは美徳だと思います。」
「あはは。今だけかもしれませんよ。
もし、俺が天狗になって横暴で横柄な性格になったら教えてくださいね。
すぐに直しますから。勇者って周りの人がイエスマンばかりになって
孤立しそうだからボッチにならないように努力します。」
「はい。でも、それがわかっているシュウはきっと初心を忘れないですよ。」
「あはは。そうありたいですね。
あ、そうだ。ここに来た理由を忘れるとこだった。ヴォルグさん。」
「はい。勇者殿、オレに何かご用命がございますか?」
「ええ。困った事があります。
俺、実は着替えの下着を下宿先から
持ってくるのを忘れちゃって。何とかなりません?」
「ほう。そうですか。それは一大事ですなぁ。
では、手の開いてる者に命じて勇者殿の部屋にご用意させます。どうかご安心を。」
ヴォルグは近くにいた忙しそうにしている乗組員の男性に目配せした。
すると、その乗組員はビクリと動きを止めると
大きな声で「了解しました!」と言って気をつけの姿勢をした。
その後にその乗組員は全力で走って階段を下りていった。
俺の下着を用意するために乗組員が作業を中断させてまで
大急ぎで走って行ったので、すごく申し訳ないな。と周三は思った。
「これは海路についての話し合いかなにかですか?」と周三は
地図を指差してヴォルグに訊く。
「はいそうです。ロアン殿が敵のいる方向を教えてくれるので
作戦行動などを色々とミュアン少佐殿と打ち合わせをしておりました。
でもあれでしょ。この戦いは勇者殿が
敵の総大将と一対一で戦って瞬時に勝って終わるんでしょ。
なら、今、ここで打ち合わせてる作戦はあくまで保険という事ですな。
あはははは!それにしても聞きましたぞ!
勇者殿は敵の奥の手である大魔法を解除されたそうですな。
なんとも痛快ではありませんか。
偵察ついでに大魔法を解除して
また、そのついでに敵の提督と交渉までしたとは恐れ入ります。
勇者殿は我々の予測を遥かに超えた行動力を発揮されている。
オレはただただ驚くばかりです。」とヴォルグはご機嫌な様子だ。
ミュアンは周三を見つめてうっとりしている。
「いえ、全てロアンさんのおかげですよ。俺なんか大した事ないです。」と
周三は飛行偵察の事を思い出すとげんなりするので軽く話を流そうとした。
「あはははははは!敵軍のど真ん中に二人で突入して大魔法を解除するのが
大した事が無いと!まったく勇者殿のチカラは計り知れませんな!
あはははははは!」とヴォルグの大きな笑い声が艦橋に響いた。
「ヴォルグさん。
敵水軍との遭遇時の直接戦闘の作戦は一応は立てておいてください。
俺は敵の水軍と遭遇するまでの間は
色々と一騎打ちの特訓をしようと思ってはいますが
一騎打ちの本番で敵のギヨク将軍に俺は勝てる見込みが無いと
俺自身が判断した場合は一騎打ちはギヨク将軍をお断りして
艦隊での総力戦によって敵を排除するつもりです。」と周三が淡々と言う。
「勇者様ってとってもリアリストなんですね!」と
ミュアンがうっとりした笑顔で言った。
「まあね。俺は総司令官だから
みんなの命への責任というものがあるからね。
無理な背伸びはしないよ。
俺はみんなを守れるチカラも無いくせに
自分の理想をみんなに押し付けるほどエゴイストでもないからね。
俺が出来る範囲の事に全力を尽くすだけさ。」
「勇者としてのプライドよりも
うちらの命を優先してくれるんですね!勇者様ってすっごく素敵です!
うちは感動しました!」とミュアンは目を潤ませながら言った。
周三がもしも一騎打ちに負けてもギヨク将軍とは
味方全員の命を保障すると言っていた。
しかし周三の命だけは取るともギヨク将軍は言っていた。
だから一騎打ちは周三の命のみが危ないのだ。
周三の言う敵軍船団と味方連合軍との総力戦という提案は
周三が一騎打ちでギヨク将軍に負けるリスクが高い場合は
一騎打ちをギヨク将軍に一方的に断ってから
この戦争を通常の集団戦闘に切り替える事で
死のリスクをみんなでシェアしましょう。という意味になる。
確かに勇者としてのプライドを捨てている台詞であり
ミュアンの今言った、勇者としてのプライドよりも命を優先している。と
言うのは誰の命を優先してるかといえば周三自身の命であろう。
しかし周三は勇者という名のただの中学生なのである。
ここで臆病風に吹かれても仕方は無い。
むしろ飛行偵察の時に追い詰められて敵船に突入して
大魔法を解除した事がそもそも周三にとっては奇跡的な選択だった。
その選択をした理由もその選択をしなければ自分の命が危ういからだ。
自分が生きるために命を懸けた。それによって多くの命は救われた。
その事で自分が味方からどれだけ大きな評価を受けているか。
それによってどれだけ大きな信頼を得ているかなどは
周三にとってはどうでもよいことだった。
だが、この偵察での功績によって周三の思いとは
裏腹に味方の勇者への信頼と評価はとても高いものになっていた。
「一騎打ちで勝っても敵の悪魔全員の命を助けるなんて勇者殿は
物好きですなぁ。フェンティーアの全国民を殺そうとしてるやも
しれんやつらですぞ。」とヴォルグが言う。
「まぁ、あっちがこちらを皆殺しにしようとしてるからって
こちらもあちらを皆殺しにしなきゃいけないわけではないでしょう。
大魔法がある場合はそれを防ぐ手段として
敵を殲滅しなきゃいけなかったわけですが
いまは敵に大魔法という切り札が無くなったわけですから
こちらの方が戦局は圧倒的に有利です。
それで敵を皆殺しにしたら単なる弱い者いじめになっちゃいます。
それにこちらが敵を皆殺しにしようとしたら
敵も死に物狂いで抵抗してくるだろうし
それだとこちらの犠牲も大きくなるから
こちらには良いことなんて何もありません。
別に敵と艦隊での戦闘をしないで帰っても
敵を撤退さえしてくれたらこの問題は解決するわけですから
誰からも文句は言われないでしょ。」と周三が言うと
「勇者様ってその歳で考え方が大人すぎます!」とミュアンが言い。
「勇者殿は感情論では動かぬ立派な大将ですな。」とヴォルグは褒め。
「シュウの考えは本当に素晴らしい。」とロアンは感想を述べた。
「いえ、ロアンさん。それも俺が一騎打ちで勝てばの話です。
ギヨク将軍が一騎打ちは武術限定での勝負でと言ってきたんですが
武術ってどの程度の範囲の事を指しているか俺には検討もつきません。
ギヨク将軍が、カンベインの仲間の剣士は
1撃で数千の悪魔を倒したと言っていました。
そんなチカラを武術だと言うのであれば
俺に勝ち目なんて最初からありません。
ギヨク将軍がそんなチカラを持っていたら本当に怖いです。
なんていうかこの世界の武術の基準がわからないので
それが知りたいです。」と周三は困った顔をロアンに向けた。
「ほう。なるほど。その剣士というのは俺の先祖ゲルグでしょうな。
確かに強さは凄まじかったようで一騎当千万と言われたほどです。」と
ヴォルグは嬉しそうに語った。
「普通はすごく強すぎる武将でも一騎当千でしょ。
その1万倍の強さっていうのが意味がわからないです。」
「シュウ、現在はそのような強さを
持つ存在はほとんどいないでしょう。」とロアンが言った。
それを聞いて周三は驚いた顔をした。
「え!?今はそんな強さの種族はいないのですか?」と
周三はロアンに聞き返した。
「シュウ、安心してください。
ギヨク将軍が言っていた500年前の
カンベインとその仲間3人のチカラはその4人限定のチカラです。
もしも1人で1000万人を殺せる存在が多かったとしたら
この世界の大半の種族は絶滅してしまうでしょう。」
「ですね。そんな人が沢山いたら迷惑ですよね。」と周三は返した。
ロアンは頷くと真剣な顔つきで
「しかし500年前はこの世界から
天使も悪魔も妖精も竜も人間も全ての種族を根絶やしに
出来る程の強さを持った人間が確かに4人も存在しました。
それは全大陸戦争の当時にカンベインが作った4つの武器が
強さの秘密です。秘密と言っても公式の記録にも
きちんとその武器の存在が記載されていますが
その武器というのは持ち主に
無限のチカラを与えるという伝説のある賢者の石を
動力源にした武器なのです。
武器のそれぞれの名前は
カンベインの拳甲、ウルドの杖、ゲルグの剣、バルキンの槍というのですが
この4つの武器は所有者のチカラを超人的に高めるのです。」
「え!?そんな危険な武器があるんですか!?」と周三は怖がった。
「ええ。でもこの4つの武器は今は4つとも
どこにあるかがわからずその行方が不明です。
何よりもその武器は持ち主が決まっていてその持ち主以外は使えない。
だから、現存していたとしてもただの古い武器にすぎません。
でも、この戦艦フェンティーアなら1隻で1000万の敵を
もしかしたら倒せるかもしれませんね。」とロアンは笑った。
「確かにこの戦艦ならできるかもしれないです。」と周三も共感して笑った。
「この戦艦は敵にしてみればズルい戦力です!」とミュアンがドヤ顔した。
「オレって武器の性能ではすでに偉大なご先祖さまに
肩を並べておったんですな。あはははははは!」とヴォルグが豪快に笑った。
「シュウが恐れているほどの反則的な強さを持つ存在が
いないわけではありませんが滅多に遭遇はしないと思います。
第五大陸の古竜はたしかに恐ろしく強いと言われていますが
火山の火口で深い眠りについているといいます。
悪魔で最強のイフラートは味方ですし
第五大陸はフェンティーアの同盟国ですので敵対勢力ではありません。
勇者と敵対する勢力はほぼカンベインが一掃してると思いますよ。」
「いや、ロアン殿、そうとも言えないぞ。
魔導士クラスの魔術師は恐ろしく強いと言われてるし
暗黒騎士の戦場での強さはものすごいらしいぞ。」とヴォルグが言った。
「魔導士は確かにとても強いと思います。
ですが魔導士は全世界に数えるほどしかいません。
暗黒騎士が魔導士に匹敵するほど強いというのはわたしは初耳です。
500年前は暗黒騎士の存在などは聞いたこともありません。
200年くらい前に初めて暗黒騎士の噂が出始めて少し話題になりましたね。
わたしは最近まで暗黒騎士はユンディーを
崇拝する信者としか認識していませんでした。
わたしは長く戦場を離れていましたから
知識が古くなっていたのでしょうね。」とロアンは言った。
「え!?暗黒騎士って敵の軍船に乗ってましたよ。」と周三が困惑した。
ミュアンはそれを聞いてとても狼狽した様子で
「敵軍に暗黒騎士がいたんですか!?闇黒天は乗ってましたか?」と訊いた。
「それはわかりませんが軍の監視役の暗黒騎士が
一番偉そうにしていたのですがその人は闇黒天では無かったので
たぶん乗っていないと思います。」と周三が答えた。
ミュアンはホッとした表情を見せた。
「そうですか。闇黒天が乗っていなければなんとかなります。」
「暗黒騎士の強さって特殊なんだよねぇ。
なんて説明したらいいかうまく言えないが地味で堅実というか。
帝国軍と海賊の海戦してる近くを偶然通ってさぁ。
帝国軍に交じっていた暗黒騎士が乗っている艦を見たことあるのさ。
その艦の戦いぶりを望遠鏡で見たらその艦はすげぇ泥臭い戦い方をしてた。
でも、めちゃくちゃ強いってのはオレでもわかったぜ。」と
ヴォルグの説明はとても抽象的な表現だった。
「でも、なんで暗黒騎士が乗っているってわかるんですか?」と周三が訊いた。
ヴォルグはフッと笑うと
「艦が帝国の船よりも豪華だったんだよ。
帝国の旗艦が軍船なのに先陣で戦ってるのが小型艦っておかしいでしょ。
あとは装備の種類だな。特に火器が充実していたね。
両サイドには機関銃、主砲は一門。エンジンはおそらくは石油を使ってるな。
石油エンジンは魔導エンジンに比べたら馬力は無いだろうけれど
魔導技術は魔術師しか扱えない技術なんだよねぇ。
だからこの軍艦もメンテナンスは魔法学園都市のドッグに預けるんだ。
でも、化石燃料を使うエンジンってのは理屈さえわかっていれば誰でも扱える。
オレ、あの艦ほしいわ。エンジンとかいじりたい。
どこで売ってるのかを知り合いにかたっぱしから聞いてまわってるんだが
知人に暗黒騎士をしている人を紹介してもらった事もあるが
小型艦について訊いても教えてくれないんだわ。
オレ、小型艦が個人的にめちゃくちゃ欲しいので勇者様、
小型艦の情報を小耳にはさんだらヴォルグにご一報ください。」
「ええ。わかりました。その時はヴォルグさんに教えます。
でも敵の軍船団に小型艦は無かった気がします。
詳しく見たわけじゃないので確信は持てないですけれど。」
「そりゃ残念。乗ってる人に訊くのが一番わかりますからね。
オレは物の流通に関わってる仕事をしているが
あんな艦や武器はオレらは一度も扱ったことがねぇ。
世界一の貿易商社カノレルがどこで流通しているのかが
わからないっていう得体の知れない兵器を
お堅い帝国軍が採用して配備してるわけがないからさぁ。
あの兵器はオレたちとまったく違う文化と技術で作られたと思った。
ってことはさ。オレたちとは違う神を信仰してる人間って推測に自然と
いきついちまうよな。あとは傭兵っていえば暗黒騎士って答えになる。」
「ヴォルグさんはさすが商人ですね。洞察力がありますね。」
「そうですか。その話を聞いて思ったのは
暗黒騎士は兵器の技術開発を独自におこなってきているんですね。
そんな莫大な予算がどこから出ているのでしょうね。」と
ロアンが考え込んだ。
ヴォルグがその疑問に反応した。
「ロアン殿、答えは簡単。暗黒騎士には金持ちが多いのですよ。
暗黒騎士は商魂たくましいというか。なんというか。
暗黒騎士は副業で別の仕事をしてる人間が多いらしい。
暗黒騎士をする時間を確保しながら生活費も稼がないといけない。
そういう暮らしを暗黒騎士たちはずっとしてきたから
当然、暗黒騎士が割が悪い分、割のいい仕事をしたがりますよね。
そんな人間が多ければその中から経済的成功者も多々でてくる。
暗黒騎士は財閥を持ってるくらいの金持ちが集まってるのさ。
暗黒騎士の大半がやってる商売は高利貸しだけれどね。
そうやって稼いだお金をかき集めて開発費に回してるんでしょうな。
むしろ副業を本職にした方がいいのにねぇ。」
「なるほど。個人の資産を集めて
武器を作ってるという事ですか。」とロアンは納得した。
「暗黒騎士の強さというのは
武器の火力が強いということでしょうか。」と周三が言った。
ミュアンが突然に手を挙げた。
「暗黒騎士の強さについてはうちが説明できまーす!」
ヴォルグは手を鳴らした。
「おお。なるほど。そうか。暗黒騎士は主な活動は傭兵。
それなら帝国軍は雇った事もあるだろうし詳しいだろうな。」
周三はミュアンの会議での説明ベタを知ってるがゆえに
質問するのには少し躊躇したが知っておきたい気持ちもある。
「暗黒騎士ってどう強いんですか?」と周三は訊いた。
「はい!つおいです!
暗黒騎士の強さの秘密は暗黒物質です!」
「暗黒物質?それってどういう物質なの?」
「暗黒物質は空の向こうの宇宙にあるんですって。
創造神ユディーはその物質に注目したんだって。
で、ですね。その物質は在るはずなのに無いの。」
「???あるはずなのに無い?それって禅問答ですか?」
「いいえ、違います。えっとですね。
暗黒物質はそこにあるはずなのに
曖昧でその存在を計測とか認識とか触る事もできないんです。
幽霊みたいな物質なのです。」
「ふ~ん。で、それがどう強さにつながるの?」
「この世界は神の思念による奇跡でできているらしいのですが
その奇跡を打ち消すんです。」
「え?なんで奇跡を打ち消すことができるの?」
「魔法学園都市のウルドの論文を引用するとですね。
神が作りし5大陸世界はこの宇宙空間の一部を歪めて
無理やりに作った不安定なオアシスなのだそうです。
だから、神が物質として認識している物質は
神のオアシス内でも神の管理下で物質の事象を歪める事ができます。
でも、この暗黒物質は神が理解できていない物質なんです。
だから、この物質はこの世界にあってはならない物質なの。
だって神もこの物質の事象の歪める事が出来ないからです。
暗黒物質に神の思念の影響が強い生物が触れると
神の認識外の物質に神の管理システムが処理できずに不具合を起こします。
神によって歪められたチカラが解除されてしまい、その生物は崩壊します。
第三大陸内の人間などの生き物は神からの影響である奇跡的なチカラで
体を構築していない有機生命体なので暗黒物質の影響がほぼありません。
でもですね。第三大陸の生命力の象徴であるマナは
神の思念の影響があるチカラなので暗黒物質でマナは機能不全を起こします。
魔法を使わない人はマナが無くなろうと死にはしません。
マナは確かに第三大陸の生物の生命力の象徴ですけれど
それは精霊のような存在であって
直接的に生物の生命とは関わってはいないのです。
でも、魔術師のようにマナに依存している人間は体調を壊すかもですね。
だから、えっとですね。簡単に言うとですね。
対高次元生命体兵器が暗黒物質でそれを使うのが暗黒騎士なんです。
天使も悪魔も竜も妖精も暗黒物質に抗うチカラがないんです。」
「じゃあ、人間には強くはないの?」
「いいえ、人間にも強いですよ。
武術にマナを応用して威力を強めてる人間では強い人ですから
そのマナを阻害されれば人間離れした強さを発揮できません。
暗黒騎士が崇拝するユディーは現実を司る神でもあるので
自然の摂理を歪めるような不自然なチカラに頼らない思想が
根底にあるような感じが暗黒騎士の動向の端々に
見受けられます。例えば、物理攻撃最強!みたいな感じですね。
現実的に裏付けがあるものを尊重する傾向があるようですね。
創造神ユディーは自分が創った箱庭である五大陸でしか
通用しない規格よりも
全宇宙で共通する規格に合わせたいのだろうと
魔法学園ウルドは論文に書いてます。
だから、暗黒騎士は物理的な兵器開発がかなり進んでいて
暗黒騎士の武器は魔導技術に頼らないで進化しています。
機関銃や大砲や爆弾など物理的火力が主な戦力なのですよ。
実弾は暗黒物質でコーティングされたものを使っていますので
魔術師が魔法で防ぐ事はできません。
この実弾で受けた傷は魔法では治しにくいです。
暗黒騎士は個人の武勇はそれほどでもないです。
暗黒物質のせいで暗黒騎士本人もマナが使えないからです。
でも、武器の独自の先進性と圧倒的な実弾の火力と
機能的な戦術運用で兵隊としては超一流といえます。
暗黒騎士をどれだけ雇えるかが戦略を左右するという事で
帝国士官学校の軍事学科では詳しく習います。」
「へぇ~。暗黒騎士というのは世界最強の傭兵って事なんですね。
でも、暗黒騎士のカエデさんは軍監としての仕事だけって言ってたから
戦闘には積極的に参戦はしてこないと思います。」
「それは作戦を立てる上で重要な情報です!
さすが勇者様、交渉の片手間に
諜報までこなしてらっしゃるなんてすごすぎてヤバいです!
うちは。うちは勇者様の後ろに後光がテカッてみえてます!
暗黒騎士の兵器があるのか無いのかで作戦が大きく変わっちゃうです。
暗黒騎士はそれくらいの戦力なのですよ。」
「魔法に頼らないのに火力がすごい軍隊なんですね。
だったら帝国もそれを真似た武器を作ったら強くなるんじゃないですか。」
ミュアンは考え込んだ顔をした。
「勇者様のおっしゃる事はわかりますが
暗黒物質の扱い方が謎なのです。
暗黒物質にはONとOFFがあるみたいで暗黒騎士の兵器を鹵獲しても
暗黒騎士以外が使用したら暗黒物質の持つ効果を得られないんです。」
「でも、機関銃とか大砲は
暗黒物質に関係なく有効な兵器では無いのですか?」
「いいえ、暗黒物質が機能しているから物理的な武器が有効なのです。
魔術師が干渉できてしまえば火薬武器は諸刃の剣になっちゃいます。
大砲や爆弾などは魔術師に火の魔術で
暴発させられる可能性が高くて危なくて使えないです。
銃弾の弾幕は敵に反射障壁魔法を使える高位の魔術師が
いればやはり諸刃の剣となって自分に返ってきます。
物理を歪める事ができるのが魔法ですので
物理攻撃はあまり意味が無いのです。
だから、帝国は火薬武器を開発して量産するコストに
見合ったメリットがあるとは感じていないです。
もしも、暗黒騎士が国を侵略するために攻めてきたり
宗教的なテロリストになったりすれば
暗黒騎士には実弾兵器が有効なので
開発と量産配備がすすむかもしれませんね。
そういうことにでもならない限りは
暗黒騎士を雇った方がコストパフォーマンスが高いってわけです。
魔術師と暗黒騎士のどちらも雇って軍に配備するのが最善ですが
今回は急だったので帝国軍はそのどちらも雇えませんでした。
魔術師も暗黒騎士も事前にスケジュールを
押さえて契約をしておかないといけないんです。」
「なるほど。ミュアンさんの説明はよくわかりました。
この世界の奇跡を用いたインフレ気味な火力を
暗黒物質で無効化してから泥臭い火器で
泥仕合をしかけてくる兵隊が暗黒騎士というわけですね。」
「勇者様その通りです!テストなら花丸つけちゃいます!」
「あはは。まぁとりあえずこの戦いは
暗黒騎士は警戒しなくても大丈夫そうですね。
暗黒騎士とはできれば戦いたくはありません。
だって、機関銃や爆弾を使う人なんて怖いですから。
今は目の前に迫る一騎打ちの対策を万全にするために
ギヨク将軍の強さの尺度がわかる情報がほしいですね。」
ロアンが考えた様子で口を開いた。
「そうですね。まずは悪魔がどのような技を使うか?
どのように強いのか?など知りたいですよね。
悪魔の武術についての具体的な情報はわたしも詳しくはありません。
それなら下の階の悪魔軍に用意された要人室に
コウジ殿下がお一人でおられます。
コウジ殿下はフェンティーア号がいたく気に入ったらしく
部下の将にご自身の隊を全て任せて
敵との戦闘まではこのフェンティーア号で待機するそうなので
悪魔の強さについてはコウジ殿下に
ゆっくりとご相談なさってはいかがですか?」と周三に提案した。
「ロアンさんの言う通りだと思います。
朝ごはんを食べたらコウジのところへ相談に行きます。
では、みなさんのちほどまた来ます。」と周三は席を立った。
ロアンとヴォルグとミュアンに手を振りながら階段を下りた。
こんばんは。




